2022.02.07
韓国「キンパ」が日本でこんなにも浸透したワケ|今年は「キンパの恵方巻」も人気の予感
サムギョプサル専門店「ベジテジや」が発売した恵方巻キンパ。肉とサンチュを入れ、たくあん、卵などキンパ定番の材料が入って880円(税込み)(撮影:梅谷 秀司)
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40代後半、IT会社勤務の中山亜子さんは今年、キンパで恵方巻を作ることにした。去年、娘たちに「うちは恵方巻を作らないの?」と言われたからだ。しかし、日本の太巻きは、かんぴょうやシイタケを戻してから煮るなど手間がかかる。ひな祭りのちらしずしは作ってきたが、太巻きは作ったこともなかった。「味がぼんやりしているので、子どもは食べてもテンションが上がらないかもしれない」と、中山さんは話す。
代わりにキンパを選んだのは、中学1年生の長女が1年ほど前からK-POPにハマり、好きなアイドルが気に入っているからと、韓国の袋めんなどを欲しがるからだ。以前無印食品の冷凍キンパを買って家族で食べたら、おいしかったこともある。
中山さんは、「キンパは味噌が入っているなど、味付けが濃くて子ども好み。ナムルも肉も入っていてボリュームもあるので、子どもの体にもいいと思う。以前もコストコの人気味付き肉のプルコギビーフで、なんちゃってキンパにしたら喜ばれた」と話す。
各地でキンパ専門店も増えている
2010年代の終わり頃から、チーズタッカルビ、チーズドックなどの若者のトレンド料理から、ソルロンタン、サムゲタン、スンドゥブチゲなどの定番料理まで、さまざまな韓国料理が流行っている。
ベジテジやのキンパは長さ20cmある。(撮影:梅谷 秀司)
キンパについては、2016年頃にナチュラルローソンで、2018年にローソンや無印良品で発売が始まるなどして人気が高まっていた。無印食品では品切れになる、と話題を集めるほどだ。近年は専門店が各地に増え、ほかのコンビニでも販売されるなどしたからか流行が加速している。
クックパッドの食の検索データサービス「たべみる」によると、キンパのキーワードで検索する数は2016年以降上昇を始め、次第に加速して2020年に大きく伸びた。2021年には2015年の5.9倍にまでなっている。恵方巻との組み合わせは2010年以降検索されているが、大きく伸びたのはコロナ禍だ。
キンパと恵方巻を組み合わせた検索は、2018年に比べ2021年は約2.7倍、キンパと節分の組み合わせはコロナ禍で急上昇し、約15.7倍にもなっている。流行が加速したところで、節分にキンパを作る傾向が一気に高まったと言える。
今年、恵方巻としてのキンパを推すのは、京都を拠点に各地で展開するサムギョプサル専門店「ベジテジや」。2006年に1号店を開業し、2021年にはリニューアルも含めて8店舗開業、12店舗に増えた、今勢いがあるチェーン店で、台湾にも進出している。「韓国料理店も増えたので、その中で埋もれないようにサムギョプサル専門店としてアピールしたい」と、運営会社ゴリップ広報の金栄鶴(キム・ヨンハ)氏は話す。
京都発のベジテジやは、東京では下北沢(写真)や学芸大学など、あえて新大久保ではないところに店舗を出している(撮影:梅谷 秀司)
以前から同ブランドでは、さまざまな仕掛けをしてきた。昨年は薄切りの生の豚肉を花のように巻いたサムギョプサルカーネーションを母の日に、始めたばかりのインターネット通販で販売する。すぐにテレビで紹介されたこともあり、1日200セットも売れる人気に。メニューも頻繁に変え、ハーブ入りや、韓国でもポピュラーなワインに漬けたもの、カルボナーラ、スペイン風など、さまざまに味を変えたサムギョプサルを開発する。
テイクアウトやデリバリーでキンパが人気に
今回の恵方巻も、サムギョプサル専門店としてアピールする企画の1つ。通常は牛肉入りで、858円(税込み)で販売しているが、恵方巻用はサムギョプサルの豚肉とサンチュを入れ、たくあん、卵などキンパ定番の材料が入って880円(同)。1月20日から31日に店頭や電話で予約したものを、2月3日に店頭で受け取る仕組みだ。同ブランドのウェブサイトや店頭のポスター、インスタグラムやフェイスブック、会員制の公式ラインアプリなどで告知し、主に来店客から注文が入っている。
ベジテジやの恵方巻キンパのポスター(編集部撮影
セントラルキッチンのある京都には在日コリアンが多いこともあり、韓国食材が手に入りやすい。味付けは韓国出身者が担当するなど、本場を知る製造スタッフがいることも、同社の強みである。
ベジテジやでキンパを推すのは、コロナ禍でテイクアウトやデリバリー事業を始めたところ、緊急事態宣言などで来店が制限される中でも、中食がキンパを中心に非常によく売れた結果、新店舗を含めたブランドの売り上げが100%以上伸びたからだ。
2021年12月25日には、お台場でフードコート専門店の「ソルロンタンとキンパとサムギョプサル ベジテジや」を開業。「韓国では、スープが主役でおかずが少しつく食事があるなど、汁もおかずもたっぷり入ったスープのウエイトが大きく種類も多い。そこでスープ・キンパまたは丼をそれぞれ4種類から選べる、韓定食セットなどを販売しています。同店の注文の7割がキンパで、1日200食売れる好調さです」と金氏は言う。
人気の理由を、「各国で渡航規制があるので、韓国ロスになっている人も多いからではないでしょうか」と、推測する金氏。2月には汐留でも弁当などのテイクアウト専門店を開く予定で、ほかにも韓国やきとりのタッコチを日本風にアレンジして売り出す、食材のアレンジ法を発信するなど、次々と仕掛けを打ち続けている。
20年間で徐々にブームが定着していった
韓国料理が日本で本格的に紹介され、人気が出てきたのは、2000年代初頭の第1次韓流ブームの頃。それから20年経つ間に、新大久保や鶴橋などのコリアンタウンにファンが押し寄せることが繰り返され、韓国へ旅行するリピーターも多くなった。
ブームが盛り上がるたびに、韓国料理ファンは増えてきたと言えるだろう。現地へ行けない今、韓国ロスの人々を中心に、手近で楽しめる韓国文化として、以前以上に食に手を伸ばす人たちが多くなったかもしれない。
キンパは、もともと植民地時代に伝わった日本ののり巻きが原型。酢飯の酢が抜けて具材が入れ替わり、韓国料理として発展していった。そうしたどこか懐かしい味であること、辛いものが苦手な人でも食べられるマイルド味であることなどが重なり、人気を得たのだろう。ここ数年、さまざまな具材を包んだおにぎりも流行しており、改めてのりを巻いたご飯料理が注目されていると言える。
ベジテジやでは写真の恵方巻きだけでなく、通常の牛肉を使ったキンパも人気だという(撮影:梅谷 秀司)
唐辛子を多用すること、肉料理の厚みがあることを除けば、韓国と日本の食は隣国同士どこか相通じるものがある。もちろん、そこには支配被支配の歴史も含まれてはいるのだが。そうした負の遺産も含めて、新しいものへと発展し、おいしいと思えば相手の国のものでも人気になる包容力が食の魅力でもある。金氏によると、日本のやきとりが韓国で人気だと言う。こうした文化交流は庶民レベルで、両国の人々の心を近づける。
そして、冒頭に紹介した中山さんのように、日本ののり巻きは作らないがキンパなら作る、という人もいる。日本ののり巻きは家庭料理として衰退しつつあったが、キンパのブームが発展していけば、改めて見直されるかもしれない。
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提供元:韓国「キンパ」が日本でこんなにも浸透したワケ|東洋経済オンライン