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2022.02.07

交通事故死の4倍!「住宅内の事故死」深刻な実態|年1万3000人も死亡、2021年のコロナ死に匹敵


古い住宅は断熱性能が低く、とくに高齢者がヒートショックで亡くなるケースが多い。中でも浴室がその発症現場となっていることが多い(筆者撮影)

古い住宅は断熱性能が低く、とくに高齢者がヒートショックで亡くなるケースが多い。中でも浴室がその発症現場となっていることが多い(筆者撮影)

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住まいは人の暮らしの中心となる最も重要な場所であり、だからこそ本来は安全・安心なものであるべきだ。しかし、現実には安全・安心への対策が十分でないために、命を落とす出来事が発生するなど、数多くの危険が潜む残念な状況がある。

本稿では、各種数字を比較しながらその危険性について明らかにするとともに、なぜ住宅に危険があるのか、事故が減らないのはなぜなのか、さらに現在、対策としてどのような取り組みが行われようとしているのかについて紹介する。頻出のテーマではあるが、寒い時期にヒートショックが増えることから改めて記事化する。

交通事故死は減少傾向

本稿において重視したいのは「住宅(家庭)内の不慮の事故」による死亡者数であるが、残念ながら2020年については厚生労働省の「人口動態統計」による詳細な数字は、本稿作成時にはまだ公表されていない。そこで、明らかにされている2019年のデータを紹介しておくと1万3800人となっていた。この数字はここ数年高止まりしている。

一方、交通事故での死亡者数は3215人(2019年)。住宅内の死亡者数は交通事故と比べ4倍超になっている。また、2020年の交通事故による死亡者数は2839人で、統計を開始して以来、最少で、初めて3000人を下回ったという。これは、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛が強く影響したものだと考えられる。

交通事故による死亡者は年々減少している(筆者撮影)

交通事故による死亡者は年々減少している(筆者撮影)

参考までに、2020年に日本国内で新型コロナ感染により死亡した人の数は、交通事故による死者数より多い3459人(厚生労働省オープンデータ)となっている。さらに、2021年のコロナ感染による死亡者数は約1万5000人(同)となり、2019年の住宅内の事故死亡者数はそれに匹敵するものとなる。

これらから住宅内での事故死者数の多さと、住まいに数多くの危険が潜んでいることを、何となくイメージでき、問題の深刻さを理解していただけると思う。

では、住宅内における死亡事故の要因はどうなっているのだろうか。それを理解しておくことで、なぜ住宅内の事故死が多いのかを理解する一助になる。

2019年の住宅内の不慮の事故死者数1万3800人の内訳は、多い順に「溺死及び溺水」(5673人)、「窒息」(3187人)、「転倒・転落・墜落」(2394人)となっている。

このうち「溺死及び溺水」の要因の1つに「ヒートショック」がある。これは暖かな空間から寒い空間に移動した際、急激な温度変化により血圧が乱高下し脳内出血や大動脈解、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こすことをいう。

断熱性の低い住宅の場合、冬期には脱衣所が氷点下近くになることがある。お風呂のお湯との温度差は40℃くらいで、この大きな温度差がヒートショックを招き、浴槽内で意識を失ったりして溺死するというのが発生要因の1つだ。

住まいの断熱性能には窓が重要な役割を担う。画像は断熱性能が高い窓(左)とそうでない窓を可視化したもの(筆者撮影)

住まいの断熱性能には窓が重要な役割を担う。画像は断熱性能が高い窓(左)とそうでない窓を可視化したもの(筆者撮影)

余談だが、この手のテーマはすでに何度もメディアを賑わせており、読者の方々も目にされたことがあるだろう。

とくに今のような寒さが厳しい時期にヒートショックが多くなることから、ハウスメーカーやリフォーム事業者もこの時期に「おうちの断熱性能を高めませんか」などという提案を強化するし、メディアにもそれに関連する話題が増えるわけだ。つまり、決して目新しい話題ではない。

全体の30%を占める無断熱住宅

裏を返せば、それだけ日本には断熱性能が低い住宅が数多く存在するということで問題の深刻さを表している。国土交通省によると、日本にある住宅(約5000万戸)のうち、「無断熱」住宅が約1500万戸(30%)を占めるという。

そのほとんどが1985年以前の住宅、つまり築40年以上経過したものであり、当然ながら冬期の室内は非常に寒くなる。そこで暮らす多くの人たちが高齢者であると推察され、ヒートショックによる体の異変にさらされる可能性があるわけだ。

40年以上が経過した住宅では、「転倒・転落」の危険性も高い。同じフロア内でも段差があり、階段が急なことが多く、足腰が衰え、骨が弱くなったお年寄りの場合、わずかな段差でつまずき大けがになることがある。ましてや階段から転げ落ちたら命を落とすことにつながる。

さて、住宅内の事故死者数が多い理由に、事故を防止するためのソリューションが導入される機会が非常に少ないことがあると、筆者は考えている。それを理解していただくためには、住宅と自動車の比較がわかりやすいだろう。

交通事故での死亡者数は年々減少しており、2021年は2636人と過去最少になった。減少の理由はさまざまあるが、その要因の1つに次々に導入される安全装置や機能の恩恵を受けやすいということがあるだろう。

自動車検査登録情報協会によると、日本における乗用車の平均使用年数が13.87年、平均車齢(新車登録してからの経過年数)が8.84年(いずれも2021年)としている。一方、住宅の場合は正確な統計はないが、平均耐用年数は一般的に30年程度とされている。

持ち家の場合には「一生で最も高額な買い物」となるため、自動車を買い換えるほどの住み替えの機会、それによるソリューションの導入機会が少なくなるわけだ。当然ながら、住み替えが進まないのはコストの問題がシビアだからだ。

断熱リフォームで行われる二重窓の設置イメージ(筆者撮影)

断熱リフォームで行われる二重窓の設置イメージ(筆者撮影)

断熱リフォームを実施する場合は大規模な工事となり、費用は安くても数百万円になる。ましてや新築なら数千万円単位になるため、次々に住み替えをしたり新しい機能を積極的に入れることはかなり難しい。

こうした住宅ならではの事情が、住宅内での死亡者数が減らない要因の1つとなっているわけだが、住宅にもソリューションがないわけでは決してない。例えば、断熱リフォームでは低コスト、かつ短工期の仕組みもある。

ソリューションも登場しているが…

具体的には、開口部(窓など)は熱の移動が最も大きく断熱に影響が大きい箇所だが、ヒートショックが懸念される居室に限定して二重窓にするというものだ。壁を壊さずにすむなどのメリットもある。

前述した住宅内事故死の発生要因の1つである「窒息」については、例えば乳幼児がおもちゃや電池など誤飲し亡くなるというケースがある。これについても整理整頓を促す収納の工夫で、事故発生を未然に防ぐ提案を行っている住宅事業者がいる。

「転落」についても、子どもの犠牲が多い箇所。ベランダのフェンスを乗り越えることで発生することから、乗り越えにくい高さと握りにくい柵のフェンスを設置するなどで、安全性に配慮したものもある。

墜落事故防止に配慮されたベランダフェンスの事例(筆者撮影)

墜落事故防止に配慮されたベランダフェンスの事例(筆者撮影)

浴室では、子どもが目を離した隙に浴室に入り犠牲になるといった事故が発生している。これを防ぐために浴室のドアにカギを設置することが最近のユニットバスでは一般的になっている。

このほか、熱湯によるやけどや滑りやすいタイル上での転倒、打撲など、さまざまな危険が潜んでいるとされており、浴室は高齢者や乳幼児のいる世帯では安全のための配慮が求められる箇所といえそうだ。

住宅内での事故による死亡者数以上に深刻なことは、死亡には至らないものの、近い将来死亡につながる、あるいは体に深刻な後遺症が残る事故が住宅内で日常茶飯事に起こっている可能性があることだ。

近年採用されているユニットバスの事例。滑りにくい素材の床の採用や浴槽に手すりが設けられている(筆者撮影)

近年採用されているユニットバスの事例。滑りにくい素材の床の採用や浴槽に手すりが設けられている(筆者撮影)

東京消防庁がまとめた「救急搬送データからみる日常生活事故の実態(2019年)」によると、都内で救急搬送された14万4767人のうち、5割強の7万4677人が「住居等居住場所」での事故によるものだったとしている。

この資料には発生要因が明示されていないが、例えば高齢者が脳内出血や大動脈解、心筋梗塞、脳梗塞などを発症した場合、その後の生活が不自由なものになることは想像にかたくない。

廊下と部屋の間に段差がある古い住宅の様子。足腰が衰えるとわずかな段差で転び、それが大けがにつながることもある(筆者撮影)

廊下と部屋の間に段差がある古い住宅の様子。足腰が衰えるとわずかな段差で転び、それが大けがにつながることもある(筆者撮影)

住宅の安全・安心に関するソリューションは事故が発生してから導入される、つまり後手に回り対処療法的になりがちなのも問題点の1つと言えるだろう。

新築でも多い安全配慮に欠けた住宅

では、住宅内での事故・事故死者数の減少に向けた抜本的な取り組みについて、最後に簡単に紹介しておく。その1つに、国や事業者によるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)をはじめとする省エネ住宅の普及がある。

省エネ住宅がなぜ安心・安全な暮らしの実現につながるのか疑問に思われる人もいるだろうが、省エネ性能を高めるには建物の断熱性能の強化が必要。無断熱住宅をZEHなどに置き換えることで、少なくともヒートショックが多発する現状を改善できると考えているわけだ。

もう1つ、近年の大きな傾向として、とくに高齢者による住宅内事故の防止策とヒートショック改善の関係について、医療関係者がエビデンス(根拠)を示すケースが増えている状況があげられる。

「餅は餅屋」ではないが、これまで住宅は建設・建築関係、病気やケガは医療関係者(あるいは介護関係者)が問題解決策を探ってきたのだが、それでは問題の解決スピードが遅かった。それが変わりつつあるのだ。

24時間全館空調システムのイメージ。健康への貢献度は大きいが、導入費用が高額でリフォーム対応が難しいなどの問題点も残されている(筆者撮影)

24時間全館空調システムのイメージ。健康への貢献度は大きいが、導入費用が高額でリフォーム対応が難しいなどの問題点も残されている(筆者撮影)

ちなみに、解決策として推奨されているのが、「省エネ住宅+24時間全館空調システム」を導入すること。要は、高い断熱性とどの場所にいてもほぼ一定温度の住空間を実現することが重要というわけだ。

いずれにせよ、国や良心的な住宅事業者が住宅内事故・事故死が多いことに危機感を抱いているのは事実である。その一方で、例えば、急な傾斜の階段が設置されるなど、安全性への配慮に欠けた住宅を供給する事業者もいまだ存在するのは残念な現実である。

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提供元:交通事故死の4倍!「住宅内の事故死」深刻な実態|東洋経済オンライン

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