メニュー閉じる

リンククロス シル

リンククロス シルロゴ

2022.02.04

「あの人は私に悪意がある」と考えすぎる人の盲点|感情的な論理で、ありもしない意図を見いだしがち


目の前の現象にまったく意図がない場合も少なくありません(写真:mits/PIXTA)

目の前の現象にまったく意図がない場合も少なくありません(写真:mits/PIXTA)

「ハンロンのかみそり」という思考法があります。不必要に「他者の悪意」を想定してしまう人間の思考の癖を防ぐ考え方で、「正しい可能性が最も高い説明は、最も『意図』が絡まないもの」と古今東西の知識人たちの思考を発信するシェーン・パリッシュ氏は話します。偏見にとらわれない思考のコツとは?

*本稿は『知の巨人たちの「考え方」を一冊で、一度に、一気に学びきる グレートメンタルモデル』を一部抜粋・再編集してお届けします。

『知の巨人たちの「考え方」を一冊で、一度に、一気に学びきる グレートメンタルモデル』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

前々回:目の前の問題しか見えない人と先を読む人の大差(1月18日配信) ※外部サイトに遷移します

前 回:仕事のできない人は「単純に考える」ができてない(1月25日配信) ※外部サイトに遷移します

「車の割り込み=悪意」は割に合わない

「ハンロンのかみそり」とは、相手の行為が単なる「間違い」で説明できるのであれば、必要以上に悪意を想定してはいけないという考え方です。複雑な現実世界でこの考え方を取り入れれば、相手を必要以上に疑ったり、固定観念に縛られたりするのを避け、ある現象における別の「第3の可能性」に気づけるようになります。

例えば、あなたが運転する車の前に他の車が割り込んできたとき、あなたはどう感じるでしょうか? 車の割り込みが悪意によるものと考えれば、あなたは同時に「割り込んだドライバーは大きなリスクを冒している」と想定していることになります。

その割り込みは本当に悪意に満ちた行為?(写真:yasu/PIXTA)

その割り込みは本当に悪意に満ちた行為?(写真:yasu/PIXTA)

故意にあなたの邪魔をするためには、かなり高度な技術が必要です。まずあなたの存在に気づき、あなたの車の速度を読み、進行方向を考慮し、あなたにブレーキを踏ませるのにぴったりのタイミングで割り込み、それでいて事故を起こさないようにする。果たして、邪魔することが目的の相手がここまで計算するでしょうか?

より単純でより可能性の高い説明は、「相手があなたに気づいていなかった」というものです。ただのミスであり、何も意図はなかったという解釈が最も真実の確率が高い。それなのに、なぜ私たちは「故意に割り込んだ」とつい想定してしまうのでしょうか?

なぜ私たちの脳は、理屈に反する関連づけをしてしまうのか?

心理学者のダニエル・カーネマンらの「リンダ問題」は、私たちの認知機能の問題点を示す優れた例です。

「リンダは31歳の独身女性。外交的な性格で非常に聡明だ。専攻は哲学だった。学生時代には差別や社会正義の問題に強い関心を持っていた。反核デモに参加したこともある」

【次のうち、可能性が高いのはどちらか?】

(1)リンダは銀行の窓口係である
(2)リンダは銀行の窓口係で、フェミニスト運動の活動家でもある

「飛躍した結論」が出やすい状況

回答者の大半は(2)を選びました。リンダの説明の表現は、彼女がフェミニストであることを示唆しています。そして選択肢は、銀行の窓口係か、フェミニストの銀行窓口係に限られている。したがって、回答者の大半は自然と彼女がフェミニストかつ窓口係だと結論づけました。統計学的には条件が1つのほうが、条件が複数あるよりも真実の可能性が高いにもかかわらずです。

言い換えれば、すべてのフェミニストの銀行窓口係は例外なく窓口係ですが、すべての銀行窓口係がフェミニストであるとは限りません。

こうしてカーネマンらは、私たちの認知機能にある種のエラーが存在することを明らかにしました。「合説の誤謬(ごびゅう)」と呼ばれる、一般的な状況より特殊な状況のほうを確からしいと判断するエラーです。人間はメッセージ性の強い情報が入ってくるとそれに大きく影響され、単純な論理にさえ反する判断を下してしまうのです。

私たちは入手可能な情報に基づいて飛躍した結論を出し、自分がすでに信じていることに近ければ、無関係な情報もひとまとめに関連づけてしまいます。

自分たちの目の前の現象について、私たちはそこに何らかの意図があると考えがちです。しかし、それはまったく意図的でない可能性のほうが高い。

とりわけ、好ましくない状況の原因を考えるとき、強い感情的な反応に伴って脳は機能不全を起こすことがわかっています。それを修正するツールとして、ハンロンのかみそりが有効です。この思考ツールを用いた結果、人類を滅亡の危機から救った史実からもその有用性がわかります。

「前提」と「周り」から離れる

1962年10月27日、ヴァシリ・アルヒポフというソ連の人物が、悪意の存在を前提としないことで世界を破滅の危機から救いました。

当時は核ミサイル配備をめぐるキューバ危機が頂点に達し、米ソ間の緊張が高まっていた時代。アメリカの駆逐艦とソ連の潜水艦はキューバ沖の海域で対立を続けていました。そしてついに、アメリカはソ連に対して演習用爆雷を投下してソ連潜水艦を強制的に浮上させると通告。

しかし、この情報はソ連軍司令部から潜水艦隊にうまく伝わらず、前線の潜水艦はアメリカの計画を知りませんでした。

アルヒポフはソ連潜水艦B-59の将校。B−59は核兵器を搭載しています。頭上で爆雷が炸裂し始めたとき、潜水艦内のソ連将兵は最悪の事態を想定しました。戦争が始まったと思ったB−59の艦長は、核弾頭を搭載した魚雷のスイッチに手を掛けます。

しかし、核魚雷の発射には乗艦する3人の上級将校全員の同意が必要で、アルヒポフは発射に同意しませんでした。彼は敵に攻撃の意図があると考えず、浮上してソ連政府に連絡すべきだと冷静に主張したのです。

私たちが思うほど真の悪人は多くない

潜水艦の周りで起きる爆発は敵の攻撃かもしれませんでしたが、アルヒポフはそう考えて行動すれば数十億人の命を危険に晒すことになると認識していました。むしろ、相手の過ちや無知が原因だろうという前提で軍事行動に出ない決定を下すほうがはるかにいいと判断したのです。

40年後に当時の記録が機密解除され、世界がどれほど核戦争に近づいていたかが明らかになって、アルヒポフの決断が世界を窮地から救ったことが知れ渡りました。

記事画像

『知の巨人たちの「考え方」を一冊で、一度に、一気に学びきる グレートメンタルモデル』(サンマーク出版) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

「ハンロンのかみそり」という思考法が伝えようとしているのは、行動の背後に存在しうるすべての動機のうち、行動を起こすためのエネルギーが最も少なくてすむもの(無知や怠惰など)は、積極的な悪意を要する動機よりも発生する可能性が高いということです。

つまるところ、ハンロンのかみそりは私たちが思うほど真の悪人は多くないことを示しています。誰もが同じ人間である以上、すべての人間は間違いを犯し、ときには怠惰になり、間違った思考にはまり、浅い動機の元に行動を起こしてしまいます。

固定観念と思考過剰を避けるためにも、「私たちはつい感情的に論理を組み立ててしまう」こと、「ありもしない意図を見出してしまう」こと、そして「ハンロンのかみそり」を思い出してほしいと思います。

記事画像

【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

仕事のできない人は「単純に考える」ができてない

目の前の問題しか見えない人と先を読む人の大差

「話がつまらない人」と面白い人の決定的な差

提供元:「あの人は私に悪意がある」と考えすぎる人の盲点|東洋経済オンライン

おすすめコンテンツ

関連記事

“秋うつ”にご注意!予防法を徹底解説

“秋うつ”にご注意!予防法を徹底解説

急激な温度差によるストレス「夏うつ」に注意|休むだけでは「心身のリセット」はできない

急激な温度差によるストレス「夏うつ」に注意|休むだけでは「心身のリセット」はできない

「メンタルを病む60代」「余裕ある60代」の決定差|人間関係に悩む中高年を救う空海の教えとは

「メンタルを病む60代」「余裕ある60代」の決定差|人間関係に悩む中高年を救う空海の教えとは

「電車で化粧」に小さなストレスを感じる人の特徴|「何となく疲れる」人の背景にある"かくれ繊細"

「電車で化粧」に小さなストレスを感じる人の特徴|「何となく疲れる」人の背景にある"かくれ繊細"

戻る