2022.01.18
健康志向の人も知らない「無添加だし」の深刻盲点|よく感じる「もわっとした後味」の正体は?
「無添加だし」のうま味成分に隠されていること(写真:kai/PIXTA)
食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、新聞、雑誌、テレビにも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ『食品の裏側』を2005年に上梓した安部司氏。70万部を突破する大ベストセラーとなり、中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、いまもなおロングセラーになっている。
その安部氏が、『食品の裏側』を発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、この度『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』を上梓した。15年のあいだに書きためた膨大なレシピノートの中から、たった5つの「魔法の調味料」さえ作れば、簡単に時短に作れるレシピを厳選した1冊だ。
同書は発売後、たちまち6刷5万部のベストセラーとなり、各メディアで取り上げられるなど、話題となっている。
「『ABEMA Prime』チャンネルAbema/news」にも出演した安部氏が「無添加だしの落とし穴」について解説する。
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意識の高い人ほど
『食品の裏側』がありがたいことに大ベストセラーとなったことで、私は添加物の見本を持って全国を講演で回ることになりました。
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講演会にいらっしゃるのは「食の安全性」に関心を寄せてくださる方々ですが、なかでもいちばん多かったのは子どもを持つお母さんでした。
多くの方が『食品の裏側』を読んで食生活を見直し、できるだけ添加物を避け、手作りをしようと努力なさっておられました。
ところがその意識の高い方々から頻繁に聞かれるのが下記の発言です。
「うちでは添加物を避けるために『無添加のだしの素』を使っています」
添加物を避け、安全性の高いだしを選んでいるということなのでしょうが、私に言わせれば「この2つ」は大差ありません。
市販のだしの素をざっくり分けると以下の2種類があります。
・うまみ調味料(アミノ酸等)入りのもの
・無添加のもの
「無添加だしの素」を使うという方は「無添加のだしの素」を、「(うま味調味料入りの)だしの素」よりも「安全性が高く、よりいいもの」と思っているのでしょう。確かに「無添加のだしの素」はなんとなく安全性が高そうだし、値段も高めです。
ではなぜこの2つが「大差ない」のでしょうか。これを紐解くにはまず「だしの素の味の組成」をご理解いただく必要があります。
「日本人の舌を壊す『黄金トリオ』の超ヤバい正体」で述べたことですが、カップ麺、スナック菓子、冷凍食品などの加工食品のうま味のベースは「3点セット」で構成されています。
「日本人の舌を壊す『黄金トリオ』の超ヤバい正体」 ※外部サイトに遷移します
3点セットとは下記の3つです。
(1)食塩(精製塩)
(2)うま味調味料(化学調味料)
(3)たんぱく加水分解物
このうち「(1)食塩」と「(2)うま味調味料(化学調味料)」は説明しなくてもおわかりだと思います。
「③たんぱく加水分解物」とは、肉や大豆などのたんぱく質を分解して作り出すアミノ酸のこと。多くは「塩酸」を使って分解します。
たんぱく加水分解物は添加物ではありませんが、これこそが日本人の好む「うま味の素」なのです。
この3点セットさえ入れれば味が決まり、みんなが「おいしい」と思うものが、いとも簡単に作れるのです。
日本人の舌を壊す「黄金トリオ」
私はこれを味の「黄金トリオ」と呼んでいます。そしてこの「黄金トリオ」こそが「日本の食文化を崩壊させる危険性」をはらんでいるというのが私の主張するところです。
なぜならばそれは大量の「塩分」「油分」が入っていてもそれと気づかず、おいしく食べきったり、飲み干してしまえるからです。
「日本人の体を壊す『隠れ糖質』とりすぎの深刻盲点」「日本人の体を壊す『隠れ油分』とりすぎの深刻盲点」で指摘したことですが、これこそが「食品添加物やエキス類が為せるワザ」なのです。
添加物やエキス類には、「毒性」以上に、そこにこそ大きな問題があると私は思います。
「日本人の体を壊す『隠れ糖質』とりすぎの深刻盲点」「日本人の体を壊す『隠れ油分』とりすぎの深刻盲点」 ※外部サイトに遷移します
ここで「無添加のだしの素」に話を戻しましょう。
「無添加だし」のカラクリ
「無添加」とは「何をもって無添加か」というと、「(2)うま味調味料(化学調味料)」をはじめとした食品添加物を添加していないから「無添加」というのです。
でも何のことはない、多くの場合、「無添加だし」は「うま味調味料」の代わりに「酵母エキス」で置き換えただけです。
「(1)食塩」と「(3)たんぱく加水分解物」はそのままか、あるいは「(3)たんぱく加水分解物」を別のエキスなどで代用している場合もあります。
では 「酵母エキス」とは何でしょうか。
「酵母エキス」は、酵母から抽出されるうま味の素で、「ビール酵母」やうま味専用の「トルラ酵母」が利用されます。「トルラ酵母」は専用の培地で培養され、うま味の主成分は「核酸」(イノシン酸など)ですが、培養技術によって「グルタミン酸」も作り出し「トルラ酵母」に含まれるようになりました。その結果、より「うま味」が強く出るようになったのです。
その後、数々の酵素反応によってエキスを抽出して作られるのが「酵母エキス」ですが、「酵母エキス」は「グルタミン酸ナトリウム(うま味調味料)」と「核酸系調味料」と合わせた味に非常に似ているのです。ちょっとうま味は弱いけれど、代用は可能です。
そしてポイントは、「酵母エキス」は食品添加物指定はされていないため、「食品添加物」ではないこと。ですからこれを「うま味調味料」の代わりに使えば「無添加」とうたえるというわけです。
ちなみに「酵母」というと「ビール酵母」「酵母菌」などを連想してなんだか体によさそうなイメージがあるかもしれませんが、「酵母エキス」は「酵母そのもの」とは別物です。
「酵母エキス」は最近は中国からの輸入も増えていますが、輸入が間に合わないほどの人気商品となっています。
私が16年前に出した『食品の裏側』は「無添加ブーム」を牽引したと言われますが、「酵母エキス」はまさにこの「無添加ブーム」に乗って、売り上げを伸ばしてきた感があります。
「無添加ブーム」を裏で支える立役者といったところでしょうか。
もうおわかりだと思いますが、「酵母エキス」が使われている「無添加のだしの素」も、結局は「黄金トリオ」の域を出ていないのです。そしてそこには「日本人の舌を壊す」問題は依然として存在するわけです。
「もわ〜」っとした後味が残る「酵母エキス」
「無添加のだしの素」で大きく売り上げを伸ばしたメーカーの「だしの素」を飲んだことがあります。
口に入れた一瞬は「あっ、おいしいな」と思うのですが、あとから「もわ〜」っと「酵母エキス」独特の味が襲ってきます。本当に「もわ〜」という言い方がピッタリで、後口は決していいものではありません。
それからその「無添加のだしの素」には塩も使われていました。
私はそもそも「だしの素」に塩が入るのをよしとしません。味噌汁を作るにしても煮物を作るにしても、だしの素に塩が入っていたら、塩分過多になりかねないからです。
それに、そもそも、家庭でだしを取るときに、塩など使わないはずです。なのに、なぜ市販のだしの素には、塩が入っているのか。そこに「素朴な疑問」を持ってほしいのです。
もちろんすべての「無添加のだしの素」に酵母エキスやたんぱく加水分解物が使われているわけではありません。
私の考える意味における「本物の無添加のだしの素」も市販されています。私がおすすめしているだしの素の原材料は、カツオと昆布、またはいりこなど素材そのものを粉末にしてパックにしたもの。もちろん食塩無添加です。
『食品の裏側』にも書いたことですが、別に難しいことを考えなくても、原材料表示を見て「台所にないもの」「聞いたことのないもの」が書かれていたら、それは食品添加物かそれに類するものである可能性が高いといえます。
逆に言えば、カツオや昆布など、台所にあるもの、みんなが知っているものだけが書かれていたら、それは安心して買える無添加食品であるともいえます。
私が食品加工に関わっていた45年前、「酵母エキス」「たんぱく加水分解物」はすでに使われていました。しかしそれはハムやインスタントラーメンといった「食品加工工場」における原料の1つとして使われているにすぎませんでした。
それが30年経ち、まさかごくふつうの食品の1つとして家庭に入り込んでいくとは、私も夢にも思っていませんでした。それだけみんな「黄金トリオの濃厚な味」が好きなのです。
だしを取るのはそんなに面倒なことか
しかし、だしを取るのはそんなにも面倒なことでしょうか。そんなに一生懸命に「だしの素」を買い求めなくても、家庭でだしを取ればいいだけのことではないでしょうか。
わが家では長年、カツオと昆布、いりこなどでだしをとっていますが、面倒だと思ったことなど一度もありません。
『安部ごはん』では、私が開発した超簡単な「和だし」の取り方を紹介しています。きざみ昆布とかつおぶしを中火にかけて沸騰したら火を止めて、ざるなどで濾すだけで完成、たったそれだけで「本当の無添加だし」の出来上がりです。
『安部ごはん』で紹介している「司の和だし」。「水」「きざみ昆布」「かつお節パック」だけで簡単に作れます(撮影:佳川奈央)
だしをとったあとのかつお節と昆布から、あっという間にできる「だしとりあとの時短佃煮」は、「おかか昆布おにぎり」の具材にもなり、子どもも喜びます(撮影:佳川奈央)
いりこでだしを取るときも、いりこを前日に、水を張った鍋に入れておき、翌日、火にかけ沸騰したらいりこを取り出せばいいだけです。
プロのように「弱火よりやや強めの火でじっくり煮出す」とか「沸騰直前に昆布を引き出す」などといった小難しいワザなど、家庭用には必要ありません。
『安部ごはん』で紹介している「簡単濃縮めんつゆ」。安部氏が開発した「魔法の調味料」の「かえし」と「みりん酒」さえ用意すれば、簡単に作れます(撮影:佳川奈央)
ものの10分でできるし、冷蔵庫で3日ほど持ちます。まとめて作っておけば味噌汁に煮物にすぐに使えて、とても便利です。このだしがあれば自宅で「無添加で美味しいめんつゆ」も簡単にできるから、市販品を買う必要はありません。
そしてなによりも家庭で取っただしは、本当においしいものです。飲んだ瞬間に「あっ、おいしい!」というパンチ力こそ弱いものの、やさしくて、しみじみおいしいと思える滋味があります。後味もスッと切れてスッキリさわやかです。決して「もわ〜」とはしません。
だしがしっかり取れればそれだけで和食はワンランクアップします。いつも「だしの素」を使っているという方は、ぜひ一度試してみてください。
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提供元:健康志向の人も知らない「無添加だし」の深刻盲点|東洋経済オンライン