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2021.12.27

「ふるさと納税で保護猫を救う」斬新なカラクリ|猫の殺処分ゼロを目指す「ネコリパ」の取り組み


自走型保護猫カフェ、ネコリパブリックは2022年2月22日までに日本の猫殺処分ゼロを達成すべく、活動を続けてきた。写真のお茶の水店のほか直営店を大阪、岐阜で運営。さらにフレンドリーシップ店3店舗、共同運営店1店舗で、約1200匹の猫を保護している(撮影:今井康一)

自走型保護猫カフェ、ネコリパブリックは2022年2月22日までに日本の猫殺処分ゼロを達成すべく、活動を続けてきた。写真のお茶の水店のほか直営店を大阪、岐阜で運営。さらにフレンドリーシップ店3店舗、共同運営店1店舗で、約1200匹の猫を保護している(撮影:今井康一)

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2022年は「猫イヤー」だそうだ。

「自走型保護猫カフェ」を運営するネコリパブリックにとっても、2022年は特別な年である。2014年に設立、2022年2月22日までに日本の猫の殺処分ゼロを目指し、保護猫カフェ、イベント開催、ブランド設立や猫関連商品の物販など、多方面に活動してきた。これまでに譲渡した実績は店舗を通じて1300匹以上、コラボ譲渡会も含めると2000匹以上だ。

ネコリパほかあまたの保護猫活動団体の活動もあって、今はTNR(野良猫を捕獲、避妊去勢手術を施して解放する)などの活動や、「保護猫を家族に迎えよう」という選択肢についても広く知られるようになっている。地域猫活動を支援する自治体も増えてきた。

殺処分数も減少し続けており、現在のところ2万7000匹あまり(対象期間2019年4月1日〜2020年3月31日/環境省データより)。

緊急事態宣言で大きな打撃を受けた

しかしコロナで譲渡会などのイベントが開催されにくくなり、保護猫活動にも影響が出てきている。活動団体で抱えている保護猫にかかるコストがかさみ、クラウドファンディング等で支援金を募るところも増えているようだ。

ネコリパでも1回目の緊急事態宣言期間には大きな打撃を受けたようだ。代表取締役の河瀨麻花氏によると、まず同社が運営する保護猫カフェ(東京、大阪、岐阜の直営店3店舗)について休業を余儀なくされた。店の売り上げは入ってこないが、猫の世話をするスタッフの人件費、光熱費などランニングコストは変わらずかかるため、「あと何カ月もつか」というところまで追い込まれたそうだ。

ネコリパブリック代表取締役の河瀨麻花氏。「保護猫活動はボランティアだけでは限界がある」と、猫課題をビジネスで解決するため2014年に起業。保護猫の存在を広め、ブランド化するという当初の目的はほぼ達成されてきており、現在はさらに次の課題に意欲的に取り組んでいる(撮影:今井康一)

ネコリパブリック代表取締役の河瀨麻花氏。「保護猫活動はボランティアだけでは限界がある」と、猫課題をビジネスで解決するため2014年に起業。保護猫の存在を広め、ブランド化するという当初の目的はほぼ達成されてきており、現在はさらに次の課題に意欲的に取り組んでいる(撮影:今井康一)

もちろん、物販と並んで同社の大きな収益源であるイベントにも影響があった。2020年2月には「ネコ市ネコ座in神戸」を開催予定だったが、無期延期になってしまったそうだ。

「これはまずいと、突破口を探してできることは何でもやりました。まず行ったのが、ホームページで月々900円からのサポーターを募ること。お礼としてYouTubeで猫の様子の動画を見ていただけるサービスも始めました。その次に、オンラインの物販に力を入れました。とくにマスクが不足していたので、猫型のマスクを作って販売したところ、大ヒット。同じく大ヒットしたマスクケースも合わせて、何カ月かやっていける売り上げを得ることができました」(河瀨氏)

同社のオリジナル商品は普段使いしやすいスタイリッシュなタイプで人気が高い。マスクは20種類ほどをデザインした。とくに拠点を置いている岐阜には縫製工場が多く、マスクを生産するうえで有利だった。

このように、ブランディング力、発信力は同社の大きな強みだ。それを示す例としてもう1つ、企業と連携した支援事業「ハッピーネコサイクル」についても紹介しよう。同事業への協賛企業に対してはホームページやSNS等で情報発信するほか、その企業の商品をネコリパが企画した、コラボ商品を販売するケースも多い。

お茶の水店には猫グッズの物販コーナーもある。スタイリッシュでセンスのよい商品展開もまた、ネコリパの強みだ(撮影:今井康一)

お茶の水店には猫グッズの物販コーナーもある。スタイリッシュでセンスのよい商品展開もまた、ネコリパの強みだ(撮影:今井康一)

その中でも猫好きの間で注目されているのが、和歌山のネットショップ「チキンナカタ」とのコラボレーションによる「猫と、こたつと、思い出みかん。」。みかん1箱(5628円)を購入すると、ちょうど猫が1匹入れるほどの大きさの段ボール製こたつ組み立てキットがおまけについてくる。猫が入っている様子の写真がSNS上に多数アップされたことが話題を呼んだ。品質がよいのにブランド名がついていないだけでなかなか売れないみかんを、ネコリパがチキンナカタと一緒に考え、猫好きの心をつかむ商品として付加価値をつけた。

以上、ブランディングと発信力を物販やオンラインストア、企業連携で発揮し、コロナを乗り切ってきたネコリパブリック。

保護猫の譲渡機会が失われた

一方の課題が、カフェの休業、譲渡会の中止などで、保護猫の譲渡機会が失われたことだ。保護猫団体の中には、猫のためのスペースがなく、「預りボランティア」といって、猫を預かってくれる人を複数人募集し、譲渡されるまでの猫の居場所を確保しているところもある。そうした団体では、引き取った猫の行き場がなく困っていたそうだ。

「一般的に子猫が生まれるのは春夏頃と言われていますが、今は温暖化で季節を問わず生まれるんです。だから猫のレスキューは1年中あります。そして秋や冬に生まれた子猫はすぐに死んでしまったりするので、レスキューが急がれるんですね」と河瀨氏は、現代ならではの野良猫保護の大変さについても言及する。

お茶の水店にはりんご猫(同社の造語で、HIVウイルスを保持している猫。人のエイズ差別撲滅がREDとされていることにヒントを得た)専用の個室も。エイズのイメージから譲渡がなかなか進まないが、実際には発症率は低く、天寿を全うする猫がほとんど(撮影:今井康一)

お茶の水店にはりんご猫(同社の造語で、HIVウイルスを保持している猫。人のエイズ差別撲滅がREDとされていることにヒントを得た)専用の個室も。エイズのイメージから譲渡がなかなか進まないが、実際には発症率は低く、天寿を全うする猫がほとんど(撮影:今井康一)

同社の場合は猫カフェという猫の居場所があることが幸いしたようだ。ホームページで里親を募り、予約制で猫カフェに来てもらうことで猫との出会いの場をつくった。また、バスで行っている移動式譲渡会も、バスに入室できる人数を制限し、密にならない工夫をしながら開催していたという。

上記のように、緊急事態の最中から現在に至るまで、持てるリソースすべてを使って“ネコダスケ”に邁進してきたネコリパブリック。

ただ、残念ながら2月22日までに日本の猫の殺処分ゼロの達成は難しいようだ。しかし、同社の拠点の1つ、岐阜県岐阜市ではほぼゴールに近い状態に到達できているという。岐阜市の保健所に持ち込まれた猫はすべて引き出しており、持ち込まれた理由を追跡調査し、課題のある環境を見極めて、ネコリパでサポートに入ることを検討しているそうだ。

そして目下、注力しているのが岐阜県飛騨市の新たな支援事業を活用した、「SAVE THE CAT HIDA」である。

ふるさと納税サイトの「SAVE THE CAT HIDA」の掲載画面。ネコリパと地元企業のコラボによる魅力的な返礼品が並ぶ(画像:ふるさとチョイス公式サイトより)

ふるさと納税サイトの「SAVE THE CAT HIDA」の掲載画面。ネコリパと地元企業のコラボによる魅力的な返礼品が並ぶ(画像:ふるさとチョイス公式サイトより)

同プロジェクトは、飛騨市のふるさと納税により資金調達をし、猫のことを含む、地域課題を解決していこうというもの。ふるなびやふるさとチョイスといったふるさと納税サイトから飛騨市の返礼品を選び、税の使用目的として「日本一の猫助け事業を飛騨市から!」を選ぶことにより支援できる。

返礼品として、ネコリパとコラボしたかわいらしいデザインの飛騨の物産など、猫好き心をくすぐるものが並ぶ。

注目されるのは、飛騨市が新たに制定した「飛騨市ふるさと納税活用ソーシャルビジネス支援事業」を活用したプロジェクトである点だ。ふるさと納税をソーシャルビジネスに活用する全国で初めての例となる。

ネコリパは2021年の事業者として申請し、ソーシャルビジネスとしての継続性や、これまでの同社の実績、取り組みが地域課題解決に活用できることが評価され、認定されたそうだ。資金調達の目標金額を5億円に設定し、2022年4月より、5年計画で飛騨市のさまざまな地域課題と猫課題を解決していく。

市もトクをする、猫も助けられる、地域の人も助かる

計画されている事業の例を挙げると、まずは地域猫の状況を把握する「猫勢調査」を行う。地域にいる猫を把握し、多頭飼育崩壊などを防止するためだ。TNTA(捕獲→避妊去勢手術→人に慣らす→譲渡)活動についても、移動型の不妊手術専門病院を活用し第1段階で着手していく。

そのほか、保護猫預りと見守りサービスをドッキングした「高齢者ネコシェアリング」もユニークだ。こちらは、保護猫の預りをしてくれる高齢者の自宅をネコリパが定期的に訪問し、家事・買い物代行も行いつつ、高齢者・猫ともに見守って孤立化を防ぐというもの。

ペット葬儀や火葬、墓地、ペットロスケアセンターの事業も包括されており、ペットを飼っている人なら誰もが小さな痛みとともに頭の片隅に置いている、“最後”もケアする。

また、「空き家活用」「猫による街おこし」「猫デザインの産業振興」など、まさに日本全国の地域地域がみな抱えているであろう課題を、猫を切り口に解決していこう、というプロジェクトになっているのだ。

「行政と手を結び合っての保護猫活動」という意味でも、今回のプロジェクトは画期的である。一般的に行われている、活動団体や活動家が行政に訴え、助成金を得る、条例を変えるなどの成果を引き出すといったやり方に比べて、よりスピーディーに進んでいく可能性がある。

プロジェクトではふるさと納税が飛騨市に入るほか、返礼品やネコリパの保護猫活動の取り組みで飛騨市の事業者も潤う仕組みがつくられている。つまり飛騨市もトクをする、猫も助けられる、地域の人も助かる、という三方良しの取り組みというところが評価され、行政との連携が成立しているわけだ。

「飛騨市のソーシャルビジネスとふるさと納税を組み合わせた制度はほかの自治体からも注目されており、今後取り入れるところも出てくるでしょう。そして今回のネコリパのプロジェクトは同じモデルを全国の各地域に活用できるため、順繰りにほかの自治体に採用していただくことで、全国の殺処分数を減らしていけると考えています」(河瀨氏)

猫を救うことが、人の課題解決になる。つまり、猫は人を助けるのだ。人と猫がwin-winで暮らせる、そんな理想的な社会が、ネコリパにより実現するかもしれない。

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提供元:「ふるさと納税で保護猫を救う」斬新なカラクリ|東洋経済オンライン

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