2021.12.27
冬も好調なハーゲンダッツが限定品を連投する訳|「今だけ」を楽しみたい消費者は多い
秋冬の期間限定品をミニカップや片手で食べられるアイスクリームで訴求する(写真:ハーゲンダッツ ジャパン)
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繁華街を歩けば12月らしいイルミネーションとなった。以前の師走の盛り上がり感はないが、外食店の予約も戻りつつある。
コロナ禍が続き、「飲食の景色」は様変わりした。通勤しない在宅勤務が浸透した結果、出勤時のランチ外出や、仕事仲間や取引先との夜の会食が激減したのはご存じのとおりだ。それが復活してきたが、この2年で増えた自宅での飲食=内食を楽しむ人も多いだろう。
在宅の息抜きで選ばれる食品にアイスクリームがある。最需要期は7月と8月だが、長年にわたり12月に最も売れるブランドが「ハーゲンダッツ」(ハーゲンダッツ ジャパン)だ。
定番品以外に、春夏と秋冬に期間限定品(以下、限定品)を発売しており、「今度はどんなフレーバーが出るのか?」を楽しみにしている人も多い。
なぜ限定品を積極的に投入するのか。ブランドの責任者に聞きながら消費者心理を考えた。
繁華街ではにぎわいも戻ってきた(筆者撮影)
「ミニカップ」「限定品」が売れるのは日本市場だけ
「グローバルで事業を展開するハーゲンダッツの中で、日本は特殊な市場です。ミニカップが売れることと期間限定品が人気だからです。海外はパイントと呼ばれる473mlの大容量が主流で、新商品もパイントで発売されるケースが多いと聞きます」
ハーゲンダッツ ジャパンの黒岩俊介さん(マーケティング本部マネジャー)はこう話す。
2020年度の同社売上高は約480億円。今年度は11月時点で「対前年比110%」と伸びた。特に限定品が好調なのが大きいという。
現在発売中の秋冬向け限定品は次のとおりだ。商品を投入したねらいも教えてもらった。
(1) ミニカップ「リッチマロン」
(2) ミニカップ「林檎のカラメリゼ」
(3) クリスピーサンド「抹茶のフォンダンショコラ」
(4) バー「ザッハトルテ」
「リッチマロンは、濃厚なマロンの味わいとラム酒の芳醇な香りを楽しめます。栗は、当社にとって秋のヒット素材。これまでも味を工夫して発売しましたが今回も好調です。
一方、リンゴは秋を代表するフルーツですが、あまり積極的に取り上げてきませんでした。それをカラメリゼ(※)にしたことでスイーツらしさが表現できたと思います」(同)
※カラメリゼ:砂糖をカラメル状に煮詰めた液にフルーツを絡めながら煮ること。
ちなみにブランドの秋の定番素材は「栗・芋・カボチャ」だという。12月7日にはセブン-イレブン限定で「ジャポネ 和栗のモンブラン」も発売された。
ミニカップ「リッチマロン」と「林檎のカラメリゼ」(写真:ハーゲンダッツ ジャパン)
発売20周年で選んだのは「抹茶×フォンダンショコラ」
2001年に日本で開発されたクリスピーサンドは、現在は欧州やアジアでも展開されるようになった。その発売20周年の秋冬版に「抹茶×フォンダンショコラ」が選ばれた。
「あずきと組み合わせて和風に振るなど、抹茶はさまざまな味にできますが、今回は強い素材同士を組み合わせました。2017年と2019年の限定品で濃厚なチョコレートソースが出てくる『フォンダンショコラ』を発売したことがあります。その今年版で選びました」
クリスピーサンドの持ち味は「アイスクリーム、パリパリのコーティング、サクサクのウエハースの三位一体」だ。女性消費者からは「おいしいけど、もう少し食べたい(量が少なめ)」という声も聞いた。
予想以上に好調だったのが、バーアイスクリームの「ザッハトルテ」だ。
「少し苦戦すると思っていましたが、お客さまのザッハトルテへの期待度は大きかったようです。外出がままならない中でのぜいたく気分も、需要を後押ししたと感じています」
ザッハトルテの本場・オーストリア政府観光局が「これはザッハトルテでないけどおいしい」とツイートしてくれた。「ザッハトルテの再現ではなく“バーで表現”なので、ありがたい反響でした」と黒岩さんは振り返る。
こうした考えで商品開発を行うが、過去にはこんな限定品も出してきた。
マーケティング本部マネジャーの黒岩俊介さん(筆者撮影)
「ほうじ茶ラテ」は成功、「チャイ」は失敗だった
「これまでの限定品ミニカップで印象深いものが2つあります。ひとつは2017年4月、同年10月発売の『ほうじ茶ラテ』、もうひとつは2005年2月に発売した『チャイ』です。
ほうじ茶ラテは今では人気ドリンクですが、4年前はまだ浸透していませんでした。実は発売前の事前調査でも消費者の評価は高くなかったのですが、発売したら大ヒット。タイミングもよかったです。2019年5月にも限定品として発売しました。
一方のチャイは、スパイス系を使った味でテレビCMでも訴求。まだチャイへの認知度も低く、一定の売れ行きはあったのですが、消費者の評価は低かった。当時は、お客さまがハーゲンダッツに期待する味ではなく、とんがりすぎたと反省しています」
こうした限定品も定番品も、現在は全国各地の小売店で気軽に買えるが、その昔はまったく違う戦略をとっていた。
コンビニのアイス売り場でも、ハーゲンダッツは定番だ(筆者撮影)
「直営店」で培ったプレミアムイメージ
アメリカ発祥のハーゲンダッツが、日本に上陸して東京・青山に1号店を開いたのは1984年。今から37年前だ。地下鉄外苑前駅に近く、青山通り(国道246号線)に面した1号店は、オープン当初から若者を中心に店外までお客が並び、「行列文化」の象徴でもあった。
1984年にオープンした1号店は、少し特別感のある店だった(写真:ハーゲンダッツ ジャパン)
1980年代から90年代前半までのハーゲンダッツは、「ショップ」と呼ばれた直営店の販売が主体だった。以前の記事で書いたが、筆者が最初に同社を取材したのは17年前の2004年。国内店舗数は66店で、総売り上げに占めるショップの売上比率は6%にすぎなかったが、重要な戦略に位置づけられていた。ショップ事業は2013年まで続いた。
「当時は直営店で体験として楽しんでいただくことも重視していました。ある時期まで『ハーゲンダッツのファンづくり』には不可欠な存在だったのです」(黒岩さん)
つまり、わざわざ買いに行く商品だった。発売時から高級アイスクリームとして人気だったが、1号店の青山に象徴されるように、場所の特別感もプレミアムイメージを後押しした。
販売先が全国の小売店となった現在は、商品開発も一定の汎用性が求められる。狭い地域で親しまれる味よりも、人気フレーバーを創意工夫して味わいを高める戦略だ。
青山の直営店には女性客が多く訪れた(写真:ハーゲンダッツ ジャパン)
売り上げの主力は定番品の「神8」
こうした限定品で訴求しつつ、ハーゲンダッツには8つの「定番ミニカップ」がある。その中には2019年に定番に昇格したラムレーズンもある。アイドルグループに例えれば“神8”のような存在で、以下の8商品が安定して売れるため、さまざまな限定品で訴求できる。
(1)バニラ、(2)ストロベリー、 (3)グリーンティー 、(4)クッキー&クリーム、 (5)マカデミアナッツ、 (6)クリスプチップチョコレート、(7)リッチミルク、(8)ラムレーズンの8商品で、売れ行きトップ3は長年(1)~(3)で変わらない。
定番品のトップ3は「バニラ」「ストロベリー」「グリーンティー」の順だ(写真:ハーゲンダッツ ジャパン)
今回、若い世代の声も聞いたので、その一部も紹介しよう。
「よく食べるのはクッキー&クリーム。小学生の頃からお気に入りです」(20代女性)
「印象に残っているフレーバーはラムレーズン! 香りに驚きでした」(別の20代女性)
「クッキー&クリーム派ですが、フォンダンショコラも印象的」(30代男性)
「時々食べるのはグリーンティー。華もちシリーズも食べました」(20代男性)
また、「あなたにとってのハーゲンダッツを人物に例えると?」と聞いたところ、
気取った部分も親しみやすさもある、というニュアンスのことを答えてくれた人もいた。
ところで筆者も含めて、日本人が「限定品に弱い」理由は何だろうか。
「期間限定以外に、エリア限定や数量限定品もありますよね。どんどん新しい商品が出てきて、今しか買えない。限定品を買うことにモチベーションを感じるのではないでしょうか」
黒岩さんの指摘には納得するが、この説明で思い出したのは「チラシ文化」だ。紙のチラシ以外にネットのクーポンでも「限定品」がよく目玉商品となる。
その昔、仕事相手から「これからはチラシ訴求の時代ではない」という意見を聞いたことがある。当時は外資系の大手小売業が次々に上陸した時代だったが、今でもチラシが健在なのは、それに情報を得て「掘り出し物を探す」感覚なのではないだろうか。
そして限定品を手に入れた場合には「達成感」が強いように感じる。
量販店はクリスマス、コンビニは正月に最も売れる
最後に、日本上陸以来ずっと「12月に最も売れる」理由も聞いてみた。
「もともと日常購入ではないプレミアムアイスなので、1年が終わる12月にごほうび需要として選ばれてきました。今年頑張った自分へのごほうびもあれば、会社員はボーナスが入るなど購買意欲が高まる時期でもあります。年末年始の人が集まる機会での利用や、コンビニで買うアイスクリームのぜいたく品として選んでいただける、と感じます」
くわしく最需要期を聞くと「量販店はクリスマスぐらいがピークで、コンビニは正月がピーク。コンビニは自宅の冷蔵庫代わりという意識なのでは」という答えだった。
この2年は、外食が減って自宅で食べる内食が中心となり、持ち帰りや配達の中食も増えた。200~300円程度で買えるプレミアムアイスは、生ケーキよりも値頃感がある。
最初に緊急事態宣言が発出された2020年4月は大苦戦したハーゲンダッツも、同年5月以降は若い世代から支持が戻り始めたという。コロナ禍でも12月にプレミアムアイスクリームを楽しむ風潮は、日本社会としての息抜きなのかもしれない。
クリスマスのイルミネーションが各地でみられる時期となった(2020年、筆者撮影)
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提供元:冬も好調なハーゲンダッツが限定品を連投する訳|東洋経済オンライン