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2021.12.24

人手不足だけど「50代は削減」日本企業のジレンマ|コロナからのV字回復のネックになってきた


人手不足が深刻になりつつある今、50代以上の人材の配置転換がカギになる(写真:kouta/PIXTA)

人手不足が深刻になりつつある今、50代以上の人材の配置転換がカギになる(写真:kouta/PIXTA)

コロナ感染者数の減少で会社の業績が回復基調になったという会社もちらほら聞くようになりました。ところが、いいことばかりではありません。人手不足で業務に支障が出ている会社が増えているようです。

たとえば、来店客が増えてきた飲食店ではシフトに入るスタッフがいない。製造業でもラインの稼働を増やしたいけど人員が足りない。正社員が不足する会社も4割を超える状況になってきました。

正社員が不足する会社も4割を超える ※外部サイトに遷移します

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アメリカでも人手不足で宅配ピザの価格が大幅にアップ、1ドルショップが初の値上げに踏み切るなど、物価上昇に影響が出始めています。日本もひとごとではなく、深刻な問題が起き始めているようです。

例えば、北関東の製造業の社長に聞いた話です。大手メーカーの生産体制が国内回帰して、注文が急増。ところが工場の技能職が足りず、新規採用を始めてから半年が経過したが1名も採用できないとのこと。このままでは来年度以降はメーカーの注文を断ることになるかもしれないが、1回断ると次の仕事に影響する……。そんな不安を語ってくれました。

コロナからのV字回復に「人手不足」が大きな問題として立ちふさがりそうな気配が漂っています。

採用基準を緩和してみるも…

打開するための妙案はないのか。まず思いつくのが「採用基準の緩和」です。

ある食品加工会社では、欲しい人材は20代若手で、40歳を超えると採用基準外と、応募があっても実質採用ゼロと考えているとのことでした。こんな会社は多そうですが、少子化が進み、若手人材の希少性が高まり、年齢幅の狭いこうした採用基準では応募を増やすのは難しいものがあります。年齢不問で選考すれば、何名か採用できそうです。

ただ、職場では年齢別のヒエラルキーが存在しており、40歳を超えた人材は若手と同じ仕事はさせられない。あるいは採用したが、うまくいかなかったなど、ネガティブに反応する会社が大半です。

ならば、ほかに代案はあるでしょうか? 新規採用するのではなく、社内の人材を配置転換して不足を補うことはできないでしょうか。

どこの会社でも人材は全社まんべんなく人手不足というわけではなく、余剰な人を抱える部署や年代層が存在しているもの。その典型が50代超の人材かもしれません。

ところが、人手不足の中、50代以降の人材に早期退職を行う会社が増えています。東京商工リサーチの調査によると2021年の上場企業の早期・希望退職者募集人数が10月31日までに72社、1万4505人。前年に続いて高水準が続いています。

最近はフジテレビが創業以来初で希望退職を行うことが話題になりましたが、もはや50代社員が多い会社では当たり前のように行われるようになりました。しかも早期退職を募集しながら、人手不足だからと同時に若手の新規採用を意欲的に行うことに抵抗感もなくなっています。

20年前なら雇用調整は最後の手段でした。新規採用はストップして、コスト削減などやるべき手を尽くした後でないと、リストラは社内でも納得が得られないと考えられていました。大きな時代の変化を感じます。

先日、お会いした中堅製造業でも、新卒採用の強化と50歳以上の早期退職を同時に実施。アフターコロナの成長戦略の一環であると人事部長が話してくれました。

東京商工リサーチの調査 ※外部サイトに遷移します

多くの企業で早期退職が勧められている理由

人手不足にもかかわらず、どうして50代超の社員に対して早期退職を勧める企業は増えているのか?

新しい仕事への適応力の問題もありますが、モデル賃金の設定で報酬が高止まりしていることが要因の1つとなっているように思えます。

モデル賃金とは、標準的に昇給や昇進をした人の報酬パターンを想定して算出する賃金のことです。ライフステージを勘案して20代では安く、家庭をもち、教育費用などがかさむ40代で急激に上昇するように設計します。その延長で50代の報酬は高く固定されているので、会社の負担が大きくなります。

それでも企業に財力がある時代は、若い時代の安い報酬の代償と考えられてきました。ところが、今多くの会社にその代償を支払う余裕がなくなりました。株主も、年齢と報酬が高い社員のリストラをすべきと提案をするようになりました。

先日、仕事で関わった半導体のメーカーでは外資系のアクティビストから人材流動化に向けた株主提案が2年続き、その対応で50代以上の早期退職を行うことを決めました。短期的には総人件費が下がり、収益改善に大きく貢献したようです。ただ、知見のある社員が減少したことで現場ではミスも増えて、生産性も下がってしまったようです。

同じように早期退職後に人手不足の状況がさらに悪化するケースが増えています。なかには早期退職の応募者が予定数を大きく上回り、新たに中途採用で即戦力の採用を開始。ところが採用はうまくいかず、現場が大混乱となっている会社もあるようです。ただ50代を削減すればいいかというと、そう話は単純ではないのです。

人材の配置転換で人手不足を解消する方法

では、在籍する50代以上の人材を配置転換して、人手不足の解消に貢献する方法を考えてみましょう。雇用調整を行わずに、貴重な戦力として、活躍の可能性を考えてみるのです。

まずは、問題となるモデル賃金を廃して、能力や成果に応じた報酬テーブルでリセットするのです。

一時的には賃金が下がっても頑張れば上がっていく制度にすることで、50代の配置転換はしやすくなります。当然のことながら役職定年のような一律で役割を外し、報酬を下げる仕組みも廃するべきでしょう。

役職定年制とは、ある一定の年齢に達した社員が、課長・部長などの役職から退く制度のこと。1986年に「60歳定年」が企業の努力義務になり、1994年には60歳未満の定年が禁止されました。一方で人件費の抑制や組織の若返りなどを図るために50代半ばで部長などの役職を降りることを制度化したもの。その後は大幅に報酬を下げて、定年までの残りの期間を勤務するという設計と考えられてきました。

配置転換を加速させるため、一定のタイミングで能力や意欲を再確認する「アセスメント」なども加えて、公平に働ける機会を提供することで配置転換による活躍機会を増やすことも必要です。

アセスメントとは、客観的視点で人材の能力を評価することです。「職場の仕事に対して何ができるのか?」インタビューや上司評価なども加えて、配置転換できる職場を探すのです。

現在でも再就職支援を行う会社では新たな仕事探しのために行うことが増えていますが、社内での配置転換に活用してみることで、機会を広げることができると考えます。

人手不足が慢性化している製造業で50代超の人材にアセスメントを行い、配置転換を実施。新規採用での人材確保が厳しい状況を補う手法として効果をあげるケースも出ています。

中途社員が社内風土になれるのに苦労するようなリスクも回避できますし、職場環境が変わることで、前の部署では評価が低かった人材が意欲的に成果を出すケースも出てきているとのこと。

新たな仕事への支援態勢が必要

ただし、配置転換に関して否定的に受け止める人もいます。50代になって初めての仕事に配属される不安が大きい人もいます。そこで、新たな仕事に対して意欲的に取り組めるような支援態勢として、オンボーディング(教育・育成プログラム)の徹底も必要です。

例えば、メンター制度なども行い、しっかりと同じ船に乗っている意識を醸成する。あるいはキャリアについて、しっかりと考えていく体制を取ることで50代超の活躍をすすめ、人材不足の解消に寄与してきた会社が出てきています。

最後に、会社員は、自社の社員の働き方をどう考えているか、経営の意向、人事ポリシーをしっかりと理解しておくべきでしょう。経営方針とともに変わる可能性があります。これまで雇用調整なんて考えなかったような会社が取り組む時代です。適切に把握し、自分のこれからのキャリアにつなげていきたいものです。

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提供元:人手不足だけど「50代は削減」日本企業のジレンマ|東洋経済オンライン

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