2021.12.23
エリートに「突然休職する人」が意外にも多い理由|適応できるからこそ逆にストレスを自覚できない
コロナ禍で前兆なく休職するエリート社員の特徴とは?(写真:ilixe48/PIXTA)
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経済協力開発機構(OECD)の調査で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、日本国内でうつ病・うつ状態の人の割合が2倍以上に増加したことが明らかになりました。
そうした状況において、隠れストレス負債アプリ「ストレススキャン」「ANBAI」を提供するDUMSCOの調査によれば、ビジネスパーソンの約20%が、自身の高ストレスに無自覚なため、前兆なく休職するリスクが高い「隠れストレス負債者」であることがわかりました。
さらにその約63%は、年収800万円を超える役職者で、いわゆるエリート社員と世間一般から認識されているような方々です。なぜエリート社員たちは自身のストレスを自覚することができず、ある日突然休職するのか。隠れストレス負債の原因や彼らの特徴を解説していきましょう
人が無自覚のストレスを抱えやすい根本理由
まず、そもそもストレスとは何かということを少し説明します。もともと物理学の用語で、ストレス学の祖と言われるハンス・セリエが、物体に力が加えられたときに、ゆがみが生じるのと同じ現象が、人や動物にも起こるということを発見しました。
セリエによれば、ストレスとは「ストレス刺激(ストレッサー)」と「ストレス反応」の相互作用のことを意味します。つまり、ストレッサーという「力」を受けて、ストレス反応という「ゆがみ」が生じるわけです。
一般的に「ストレス」といえば「イヤな仕事」「イヤな上司」などを想像する方が多いかもしれませんが、それは「ストレッサー」という、あくまでもストレスの一側面であり、そのストレッサーという刺激を受けて私たちの身体や心に生じたさまざまな反応(ストレス反応)のほうにも目を向ける必要があるのです。
とくにストレス反応として真っ先に生じやすいのは、心ではなく身体の反応です。私たちのクリニックには頭痛外来が併設されていますが、その半数くらいはストレスの指標でもかなり高い点数が出ています。朝の頭痛を訴える人の3割程度が「うつ状態」を呈していたという欧州の調査もあり、頭痛とストレスというのはとても深く関わっています。頭痛以外にも、吐き気やめまい・耳鳴り、手のしびれ、じんましんなどの皮膚の異常、便通や睡眠の異常など、ありとあらゆる身体の症状がストレスによって生じます。
一方で、人間は自分の疲れやストレスを頭で考えて判断しようとし、頭で考えていることと身体が感じていることには乖離が生じます。
例えば、「やりがいのある」はずの仕事に行く途中、電車の中でなぜか吐き気やめまいが出てしまう、といったケースがありますが、それは、ストレスが限界を超えて身体のほうが先にSOSを出しているわけです。しかし、身体に症状が出ているからといって、「自分メンタルやられているかも?」と疑うのはなかなか難しいことだと思います。
こうした乖離が、人がストレスを自覚しづらい理由の1つです。
そうした方によくみられる傾向としては、自分の都合よりも周りを優先して、環境からの要求や他者からの期待に完璧に近い形で従おうとする、「過剰適応」があると思います。こうした傾向をもつ人は、無理して期待に応えようとしてくれるため職場では重宝され、パフォーマンスや評価も高くなりやすいといえます。その一方で、会社や部下など、他者のケアばかりをしていて、自らの疲労のケアを後回しにしがちです。
そうした「優等生タイプ」の方が、前日まで普通に仕事をしていたのに、ある日突然職場に来られなくなってしまうというケースは決して珍しくありません。
脊髄反射的な「大丈夫です」
“隠れストレス負債者の95%が「大丈夫です」が口癖で、79%が断るのが苦手であることが明らかになった”とありますが、こうした方は「他人に心配させたくない」「スキを見せられない」という気持ちが強く、自分が万全の状態でないことを周囲に隠すことに非常に長けています。まさに「演技派」と言ってもいいくらいで、こうした人たちの「大丈夫です(困ってませんよ)」という嘘を見抜くのは至難の業です。
「大丈夫?」と聞くと、反射的に「大丈夫です!」と返答してくるのが目に見えているので、「眠れている?」「食欲は落ちてない?」というように体調面のことを聞いてみると、本当のことを言ってくれる可能性が少しだけ上がると思います。
また、メールやワークスペースでのチャットが連日深夜まで続いていたり、テキストに誤字が増えていたりすると、負荷がかかりすぎて作業能率が低下しているサインかもしれません。
明らかにオーバーワークの状態でも、労務負荷を軽減したり休職したりすることを嫌う傾向がみられます。ストレスチェックでの点数が高いので休職を打診しても、「それだけは勘弁を」と言われることが少なくありません。
自らの立場や居場所を保全したいという感覚が強く、自分が「できないこと」を周囲に知られることを恐れる傾向があるためだと考えられます。これには日本人特有の「恥を基調とする文化」も関連しているでしょう。「周りと横並びでありたい」「悪目立ちしたくない」という気持ちが強く、適切なタイミングでの相談や負荷軽減措置を遅らせ、結果として「朝、急に起き上がれなくなって」不本意な形で休職に入り、結局長引いてしまうというケースがあります。
休んだ先の生活の様子が想像できないため、一歩踏み出しにくいということもあるでしょう。「休む」という判断は非常に勇気が必要なものです。こうした恥やおそれの感覚に配慮し、休職のシステムや保障についての情報提供や、「居場所がなくなるわけではない」というメッセージを伝えるなど、先の見えない恐怖を緩和させるようはたらきかけることで、適切なタイミングで「休む」という選択をしてもらいやすくなるでしょう。
「適応力」が高すぎる
適応力があるというのは、とても重要な能力です。それができる人は相手の表情や言動から場のニーズを敏感に察知し、自らのとるべき行動を選択できる能力に長けています。振られた仕事を「なんでもやります!」と意欲的に取り組んでくれる人は、組織の中で非常に高い評価を得るでしょう。
しかし、「適応力がありすぎることは危険である」というのは、強調したいです。自分にフィットしていないものに対しても適応しようとし続けると、人間というのは必ず体調が悪くなるようにできています。でも、それをミスマッチのせいではなく、自分の努力不足だと勘違いして、いろんな症状を黙殺してしまい、傷が深くなるのです。
現代において、他者に適応しつづけることだけでは幸せになることは難しいと考えています。
他者に適応することをやり続けると、自分のことを深く知ることが難しくなります。
より良きキャリアを追求していくためには、自分が職業人として何を重要視するか、どういうことにやり甲斐や心地よさを感じるかを知ることは、とても重要です。
それは自分固有の「周波数」を知るようなものです。無理して「合わせよう」としなくても、自分の持っている波長と合う環境を探すことができれば、自然と「共鳴」して良いパフォーマンスが出せるものです。
ミスマッチを経験することで、自分の中の「ハズレ」「キライ」「不快」がわかる。それがわかると、その反対にある「アタリ」の感覚も際立つのです。それは「失敗」ではありません。
休職=悪ではない
そもそも、休職はディスアドバンテージではありません。そこに「肯定的な側面」があることを強調したいのです。
とくに若い人に対しては、「『休職』『退職』『転職』の3つはできるだけ早いうちに経験しておいたほうがいいですよ」という話を積極的にしています。時代の変化が激しく、企業の寿命が短くなる中で、ひとつのところで定年まで勤め上げられる人はほとんどいません。われわれはキャリアのどこかで、必ず自分が望まない形での「路線変更」を強いられる運命にあります。ミスマッチはほぼ100%、どこかのタイミングで起こるのです。
そこで、「一度立ち止まり(休職)」「合わないことを認め(退職)」「軌道修正する(転職)」という経験を積んでおくことは、職業人生の中での大きなアドバンテージになりえます。むしろ、そうしたことをまったく経験せずに歳を重ね、ある日突然強制的に軌道修正を強いられたとしたら、選択肢の面でも心理的な面としても、より追いつめられた状況になりかねません。早めに経験しておいたほうが、キャリアを長期的に安定させることにもつながるのではないでしょうか。
私の知るかぎりでも、休職をきっかけに、自分にとって本当に大切なものがわかったり、人間関係や仕事のやり方が大きく変わったりして幸福度が上がっている方は多いです。
そうした方の「いやあ、休んでみないとわからないことがあるんですね」「この休職を経験しておいて本当によかった」という言葉を聞くたびに、一度立ち止まって自らを顧みることの重要さに気付かされます。
とくに、いつも周りの人の要求を満たすのに一生懸命な過剰適応タイプの人は、周囲のニーズから切り離された「休職」という環境になってはじめて、自分が何によって満たされ、何を大切にすべきかを考えられるのかもしれません。
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提供元:エリートに「突然休職する人」が意外にも多い理由|東洋経済オンライン