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2021.12.22

「老後2000万円あれば安心」信じる人の意外な盲点|「人と人の繋がり」見れば経済の本質がつかめる


「いくら貯めたら老後は安泰か」という議論自体が、そもそも本質を見失っているといいます(画像:mimi@TOKYO/PIXTA)

「いくら貯めたら老後は安泰か」という議論自体が、そもそも本質を見失っているといいます(画像:mimi@TOKYO/PIXTA)

2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が発表した「老後20~30年間で約1300万円~2000万円が不足する」という試算を機に、にわかに燃え上がった「老後2000万円問題」。改めて資産運用を始めた読者も多いかもしれません。

しかしゴールドマン・サックス証券で長年トレーダーとして活躍し、『お金のむこうに人がいる』を上梓した田内学氏は、こう指摘します。

「いくら貯めれば安心かという議論は、問題の本質を見失っている」

どういうことか、解説してもらいました。

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お金だけでなく「人と人の繋がり」を見よう

数年前に老後資金2000万円問題が取り沙汰されてから、日本中で投資への関心が一気に高まりました。

書店に行くと、お金の増やし方の本が溢れています。株、FX、暗号資産、NISA、不動産、NFTなどなど。老後の生活に備えて頑張って投資をして、十分なお金を貯めれば、問題は解決しそうです。

ところが、みんなが十分なお金を貯めれば安心して暮らせるかというと、実はそうではありません。次のクイズを考えてみてください。

Q. みんなが日曜日に休もうとしています。そのための準備としてふさわしくないのは次のうちどれでしょうか?

A:平日のうちに勉強して、宿題を終わらせる。
B:平日のうちに働いて、家事を終わらせる。
C:平日のうちに働いて、使うお金を貯める。

(書籍『お金のむこうに人がいる』より)

これは、お金にとらわれている人ほど悩んでしまう問題です。この中に、明らかにふさわしくない選択肢が含まれています。どれだかわかるでしょうか?

正解は……「C:平日のうちに働いて、使うお金を貯める」です。

お金ばかり見て生きていると、「日曜日に休むためには、平日のうちにお金を貯めておけばいいじゃないか」と思ってしまいますが、「みんな」が日曜日に休むわけですから、お金を使うことができません。

見落としがちですが、働く人がいないと、お金は力を失ってしまいます。お金が力を発揮できるのは、働く人がいるからなのです。お金だけを見るのではなく、人と人の繋がりにも注目すると経済の本質がよく見えてきます。

実は、私たちが不安に思っている年金問題も同じです。先程の問題の「日曜日」を老後に置き換えると、問題はこうなります。

「みんなが老後に休もうとしています。そのための準備としてふさわしくないのは次のうちどれでしょうか?」

もちろん、すべての人が同時に老後を迎えたりはしませんが、少子化によって、働く人が相対的に減っていくのは確かです。ところが、年金問題といえば、どうやってお金を増やせばいいのかという話ばかり。

「老後を迎えるまでに2000万円蓄えないといけない」「いやいや、4000万円ないと安心できない」……年金問題はお金の問題だと考えがちです。

お金がいくらあっても「働く人」が増えるわけではない

この年金の話題になるとよく見かけるのが、「何人の現役世代が、高齢者を支えるか」という話です。

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現役世代の人口は減り続ける一方で、高齢者は増え続けています。1970年には8.5人で1人の高齢者を支えていたのが、2020年には1.9人にまで減りました。このままでは、2050年には1.3人で1人を支えることになってしまいます。

この話は、年金保険料や税金が増えてしまう理由の説明に使われます。相対的に働く人が減ると、年金保険料を増やすか、税金を年金の支給に回す必要が出てきます。

1人ひとりに注目するなら、もちろんお金は重要です。現役世代にとっては、支払うべき年金保険料が増えれば、日々の生活が苦しくなりますし、高齢者にとっては、受け取る年金が減ってしまえば、やはり生活は苦しくなります。

ところが、先ほどのクイズのように、お金が力を持つのは働く人がいるからです。お金をどんなに増やしたところで、2050年になると1.3人の現役世代が働いて1人の老人を支えるという事実には変わりはありません。

たとえば、2050年において、十分な年金や預金がないと、高齢者の生活は苦しくなります。このとき、現役世代から集める年金保険料を増やせば、問題は解決しますが、現役世代の生活はもちろん苦しくなります。

高齢者全員が2000万円貯めたら「みんな幸せ」なのか

では、もしも、すべての高齢者が年金以外に十分な預金(2000万円)を蓄えることに成功したとするとどうでしょうか? このとき、現役世代も高齢者も十分なお金がありそうです。

ですが、お金が増えたところで全体として生産されるモノやサービス総量は変わらず、不足しています。物価は高くなり、現役世代も高齢者も少しずつ我慢することになります。もしくは、高齢者たちも働かないといけなくなっています。

つまり、社会全体を考えたとき、お金によってできるのは、「困る人」を変えることだけ。お金は全体の問題を解決するには無力なのです。

イス取りゲームを連想するといいかもしれません。これからイスの数がどんどん減っていきます。イスの数が減れば、「安泰な老後」というイスの価格は高くなります。周りの人がお金を増やせば増やすほど、さらにイスの価格は高くなります。

根本的に解決するには、イスを増やさないといけません。イスが増えないことには、2000万円貯めても、4000万円貯めても、イスを買える保証はどこにもありません。

このイスが示すものは、将来の生産力です。よほど生産効率が上がらない限りは、子どもを増やすしかありません。

1970年頃、1人の老人は8.5人に支えられていました。十分な年金を受給できてラッキーだったように思えます。

しかし、彼らにはお金の流れでは見えない負担もありました。それは子育てです。「1人の子どもを何人の現役世代が支えるか」という視点で見ると、まったく違う現実が見えてくるのです。

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1970年に老後を迎えた人たちが子育てをしていた1940年、1人の現役世代が1人の子どもを育てていました。このころは、社会全体で協力して子どもを育てていたのです。

それが今では、1人の子どもを3人の現役世代が支えている計算になります。現役世代それぞれの負担は、3分の1まで減っているのです。

今、少子化の話題になると必ずと言っていいほど、子どもを「産む」話から議論が始まります。戦後は3人を超えていた出生率が、今では1.3人まで下がっているという話です。

これは不思議な話ではないでしょうか?

年金問題においては、「1人の高齢者を○人で支えている」という話になるのに、「1人の子どもを○人で支えている」という話にはならないのです。高齢者の生活は社会全体で支えるのが当たり前になっているのに、子育てについては、社会全体で助け合うという発想はなくなっています。

「親の負担」だけがどんどん増えている

この子育ての負担に関して誤解してほしくないのは、減っているのは社会の負担であって、親の負担ではないということです。親の負担はむしろ増えています。

安心して子どもを外で遊ばせられなくなりましたし、小さい子どもを連れて出かけると周囲の目は厳しいものがあります。

また、「子どもがうるさい」という理由で公園の使用制限があったり、「土地の経済価値が下がる」という理由で子育て支援施設の建設が反対されることもあります。

昔のように近くの親戚や地域社会に見守られながら、安心して子育てができる環境ではありません。子育ての負担は親の肩にずしりとのしかかっています。

さらには、こんな話もよく聞きます。「年金保険料を確保するためには、GDPを増やさなければいけない。そのためには女性の労働参加率を高める必要がある」という話です。

もちろん、女性が社会で働ける選択肢を増やすことは重要です。しかし、家の中で育児をしている女性がまるで労働に参加していないような物言いはどうかと思ってしまいます。

国全体のイス取りゲームを続けないためには、社会全体で協力して子育ての支援をしたり、子育てしやすい環境を作ることが不可欠です。また、少人数でも生産力が維持できるように、生産効率を上げることも必要です。

「人と人の繋がり」は経済の本質をあぶり出す

経済の話は難しい専門用語とともにお金を中心に語られることが多くあります。そうして語られる経済は難しくて冷たいものです。

ですが、ここまで話してきたように、人を中心に経済を語ると、経済は優しく易しいものに変わります。そして、その本質が見えてきます。

『お金のむこうに人がいる』というタイトルの本を書きましたが、道徳の話をしたいわけではありません。そもそも、資本主義ど真ん中の世界で働いていた僕が道徳を語る資格はありませんから。

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お金とはいったい何なのか。

政府の借金は大丈夫なのか。

投資は何のためにするのか。

どうすれば安心した老後を暮らせるのか。

これらを考えるとき、お金によって人と人がどのように繋がっているかという視点を取り入れるだけで、経済の見え方はガラッと変わり、その本質が見えてきます。

資本主義経済は限界に来ているという話はよく聞きますが、資本主義を問い直すだけでなく、人を中心に経済を考え直すときが来ているのではないでしょうか。

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提供元:「老後2000万円あれば安心」信じる人の意外な盲点|東洋経済オンライン

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