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2021.11.15

「自分の手柄を人に譲る」人がトクする決定的理由|人生100年時代は善人が報われる「透明化社会」


マネジメントはいわゆる「上司」ではなく、「支えること」が主体となってきています(写真:IYO/PIXTA)

マネジメントはいわゆる「上司」ではなく、「支えること」が主体となってきています(写真:IYO/PIXTA)

シリーズ累計50万部のベストセラー『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の最新版『LIFE SHIFT 2(ライフ・シフト2) 100年時代の行動戦略』がついに発売された。

『ライフ・シフト2』では、100年時代を生きる日本人の不安に応えるアドバイスだけでなく、政府、企業、教育機関がなすべきことを取り上げ、社会全体で100年時代にどう向き合うかを指摘している。

本書を「日本人の成熟」を促すきっかけになりうる書と語る作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏に話を聞いた。その後編をお届けする。

『LIFE SHIFT 2(ライフ・シフト2) 100年時代の行動戦略』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

AIは産業革命以来の大インパクトを持つ

『ライフ・シフト2』からは、AIが極度に進化した未来がどうなるのかが、ある程度見えてきていると感じられました。

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あまり知られていませんが、産業革命は第4次まであります。第1次は18世紀イギリスにおける、蒸気機関車や紡績などが発明された時代。

第2次はガソリンエンジンや、電気、水道、無線などができた、いちばん重要な時代。1870年からのわずか10年間で、20世紀から21世紀の生活を支える技術のほとんどが作り出されました。

第3次は情報革命。そして、第4次がAIやデータによる革命の時代です。この第4次産業革命は、第2次と同じぐらいのインパクトがあるだろうと言われています。

19世紀の終わりに電気やガソリンエンジンが発明された際、当時の人は、「明るくなったね」「馬車よりも速くなったね」というぐらいのイメージしか持てませんでした。

しかし、その後、電気があることによってパソコンやスマホが生まれたり、エンジンによってモータリゼーションが生じ、郊外に住んで都心に通ったり、という生活スタイルの変化まで起きました。19世紀の人には、そんなライフスタイルは到底想像できなかったでしょう。

AIによる自動運転技術も、いまは「自動運転になると、運転席がなくなるよね」という程度の想像です。これがいずれ社会にどこまでの変化をもたらすかは、まだわかりません。

スティーブ・ジョブズがiPhoneを発表したときも、せいぜい「パソコンが小さくなったもの」という程度にしか考えられず、まさか片時もスマホを手放せず、スマホがないと生活できない世界が来るとまでは思いませんでした。しかし、イノベーションとは、そういうものなのです。

そう考えると、AI、自動運転、ドローンといった技術が、100年前の第2次産業革命と同じぐらい大きなインパクトを社会にもたらすのは、間違いないでしょう。

生産性が上がると給料が下がるジレンマ

このインパクトは、雇用にも激甚な変化をもたらすはずです。そこから生じるショックでハードランディングとならないようにすることが、大きな課題となるでしょう。

『ライフ・シフト2』のなかに、AI技術やロボット工学が進化すると、タイムギャップが起きるという話がありました。18世紀イギリスで産業革命が起きた際、生産性は上がったのに、給料が上がらない時間が長く続いたと言います。なぜかというと、一瞬、既存の仕事が消滅するからです。

1950年代にも、コンテナ革命という出来事がありました。人間の労働力に頼っていた貨物船への荷物の運び込みが、コンテナの登場によって機械的になった。これで港湾労働者の仕事は一気になくなり、大変な騒ぎになりました。生産性は上がったけれど、同時に雇用がなくなり、給料が減る。こういったギャップはどんな時代でも生じうるのです。

しかしコンテナ革命から70年たったいま、港湾労働の仕事がなくなったと文句を言う人はもういません。同じく、産業革命で仕事を失ったと言う人もいまはいません。時間がたてば新しい仕事が生まれて、解決されるからです。

『ライフ・シフト2』には、40歳のトラック運転手の例があります。自動運転が普及すれば、運転手の仕事はなくなりますが、その先、自動運転のシステム全体をコントロールすることなど、新しい仕事が生まれるでしょう。

ただ、運転手の仕事を失った当の本人が、その新たに生まれる仕事に就けるかどうかはわからない。ここにギャップがあります。

19世紀や、コンテナ革命の時代とは違って、いまは一世代の長さが長いということも考えなければなりません。以前は、働く期間は一生で30年でしたが、いまは50年です。世代交代も遅く、雇用に対するショックの影響は長く大きくなると予想されます。なるべくインパクトを小さくするように考えていかなければならないでしょう。

AIの時代に生き残る3つの能力

テクノロジーが急速に発展すると、古い知識はすぐに役に立たなくなります。ウェブだけで見ても、10年前の「Flash」という動画フォーマットは、いまでは使われていません。つまり「Flash」の技術者はもう役に立たないわけです。

車もそうです。すべてがEVになれば、それまでエンジンを作ってきた技術者はどうなるのかという話になります。年長者の価値をどう生かすのかという問題にもなるでしょう。

僕自身の著作業で考えてみると、知識を持っているだけでは、もはや価値はなくなった。確かにそう思います。検索すればなんでも出てきますから。ただ、持ちうる知識をどう結び付け、概念化するかという能力は、簡単に身につくものではありません。そこに価値はあるかなと思っています。

一方、人間の能力は創造性だけではありません。『人工知能と経済の未来』(文春新書)などを書かれた駒澤大学経済学部の井上智洋さんは、AI時代に人間に残る能力は、「CMH」――クリエーティビティー、マネジメント、ホスピタリティーだと述べています。

クリエーティビティーとは、文化や芸術などですね。マネジメントは、単に稟議してハンコを押すというものではなく、いかに人間関係を円滑に回していくかに気を遣うことです。

かつては、上から目線の管理職と言われていましたが、最近の組織形態では、いわゆる「上司」ではなく、「支えること」がマネジメントだと言われるようになってきました。そのような発想でみんなが気持ちよく働けるようにするという仕事は、なくならない。

そして、ホスピタリティーとは、どんなにロボットが進化して介護ロボットなどができたとしても、おばあちゃんを優しくさすってあげて、声を掛けてあげるというような、介護士さんのやっている役割はどうしても必要だということです。

どんなにファストフード店が無人化されて、店員がロボットになったとしても、近所のカフェで、顔見知りの店員さんとちょっと会話を交わしたいという感覚は、なくならないでしょう。

AIが人間性を前景化させる

日立製作所の矢野和男さんが著した『データの見えざる手』(草思社)という本があります。日立製作所の社員に 人と人との接触や身体の動きを計測できる身分証型のウェアラブルデバイスぶら下げてもらい、何年間にもわたって、オフィス内で誰がどのように行動しているかを解析するという実験を行ったものです。

このなかで、あるチームの業績が上がった時、なぜ上がったかを分析した内容が興味深いものでした。

普通であれば、そのチームの製品力が高かったとか、営業力が強かったということになりがちです。しかし、ここで指摘されたのは、ある女性の存在でした。

その女性は事務職でしたが、たくさんの人と会って、長時間コミュニケーションをとっていました。その女性がいたことでチーム全体がまとまり、士気が上がり、結果、いい仕事につながって業績が上がったということが、AIによって浮かび上がったのです。

それまで見えなかった存在が、重要な役割を果たしていることがわかるようになってきた。そうなると、縁の下の力持ちや、人の心を支えてくれている人たちの価値も上がってくるでしょうし、それが、普通の人たちに求められる仕事にもなってゆくでしょう。まさに新旧の『ライフ・シフト』に書かれている無形資産や、人間的スキルです。

「AIは人間性を奪う」というステレオタイプの意見がありますが、僕は、人間性が必要のない部分をAIがカバーすることによって、人間性そのものがより前景化するのではないかと考えています。

総透明化社会では「与える人」が得をする

こういった時代に試されるのは、利他精神でしょう。善意を人にあげるということです。

昔は、上司が部下の手柄を横取りして出世するということがありましたが、ネットの時代になると、誰が奪ったか、誰が与えたかという情報が流れやすくなります。すると与える側、善人のほうが得をする社会になりつつあるとも言えるのです。

人間社会は透明化しつつあります。いままでは、自分には見えないところで何が起きようともまったくあずかり知りませんという世界でした。でもいまは、社内だろうが社外だろうが、フェイスブックを見れば、誰がどこで何をしているか、誰と誰が知り合いかまでが見える時代です。

こうした総透明化社会は、良いことをした人が最後に報われる、逆に言えば、人間の価値を究極に問われる社会でもあるでしょう。

アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバーは、『負債論』(以文社)で、物々交換の時代は、単なる互酬経済で、物を贈り合うだけの社会だったと書いています。物を贈り合うのに、「大根を10本上げるから、代わりに肉を1キロくれ」というような清算は必ずしもしなかった。清算はしないけれど、いつか何らかの形で返してくれると期待する。そして、等価にはしない。

つまり、清算してしまうとそこで関係が終わってしまいますが、つねに返し過ぎたり、返し足りなかったりすることによって、人間関係が続いていくという世界です。

僕は3拠点生活をしていますが、そのうちの一つ、福井の漁村にいるときは、そのことを考えています。野菜や魚をくれて、無償で善意を与えてくれる人がとても多いのです。そうなると、「あの時いただいたからお返ししなきゃ」ということになります。だから、もしなにかを頼まれたら「いいですよ」と返事をします。

そういうことの連続が、人間関係がころがっていく大事な要因になっていくのではないでしょうか。これは損得ではなく、人間の知恵ですね。

隠すのではなく、開いて与える

企業も、知識やスキルを内側に隠すのではなく、学べるようにオープンにして「与えていく」と考えてはどうでしょうか。

知識は、検索すれば得られるものです。一方それを身につけるのは、もう一段上の段階でもあります。あるプログラム言語について、ネットを利用して習得するのと、それを使って製品を作れるというのはまた別のことです。実際にその職に就いて、仕事としてやらなければ学べないこともある。

たとえば「上手な文章の書き方」は、知識としてはネットを検索すればいくらでも出てきます。でも、その知識があればすぐに素晴らしい文章を書けるのかというと、そうではありません。やはり、ひたすらたくさん書くしかありません。つまり、どうやったら上手に書けるのか、という知識を隠す必要はないのです。

日本の会社は、つねに閉ざして隠すという文化が強いと思います。しかし、それはあまり意味がなくなってきています。「一歩会社の外に出たら、隠さなければならない」という感覚ではなく、むしろ開くことによってリターンがある、という発想を持つ必要があります。

人事で言えば、辞めていく人を排除するのではなく、また一緒に仕事することもあるよね、という感覚もあっていいでしょう。

僕は、お金があることよりも、技能やスキルがある、また仲間がいることのほうが大事だと思っています。もちろん、体を壊すといった事態に備えて、蓄えがあるほうが安心だとは思いますが。

ただ、最近はやっている、経済的に自立したうえでの早期リタイア、いわゆる「FIRE」には賛成していません。僕が見るかぎり、資本収入だけを重視して生きている人は孤独で、楽しそうではないですよ。人間には承認欲求がありますから、人から承認されないと、幸せにはなれないんです。

FIREを目指してお金稼ぎをするより、良い仲間を作り、普通に楽しく暮らして、自分の技量や能力にプライドを持ち、80歳、90歳まで長く働き続けるほうが、ずっと幸せではないかと思っています。

(構成:泉美木蘭)

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提供元:「自分の手柄を人に譲る」人がトクする決定的理由|東洋経済オンライン

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