2021.11.02
「めんつゆばかり使うレシピ」に潜む3大深刻問題|「3つのカラクリ」知って使っていますか?
安くて手軽に使える市販のめんつゆ。しかし、なぜ安くて手軽なのか。その理由をご存じですか(写真:Xeno/PIXTA)
この記事の画像を見る(3枚) ※外部サイトに遷移します
食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、新聞、雑誌、テレビにも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ『食品の裏側』を2005年に上梓した安部司氏。70万部を突破する大ベストセラーとなり、中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、いまもなおロングセラーになっている。
その安部氏が、『食品の裏側』を発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、このたび『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』を上梓した。15年の間に書きためた膨大なレシピノートの中から、たった5つの「魔法の調味料」さえ作れば、簡単に時短に作れるレシピを厳選した1冊だ。
同書は発売後、たちまち5刷を突破し、各メディアで取り上げられるなど、話題となっている。
「『ABEMA Prime』チャンネルAbema /news」(9月8日放送)にも出演した安部氏が「『めんつゆばかり使うレシピ』に潜む3大深刻問題」について語る。
『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
15年経っても「日本の崩壊」が進んでいる
私たちが日々食べる食品に「どれだけの食品添加物が使われているか」、そして「それがいかに日本の食文化を侵食しているか」について訴えた『食品の裏側』が70万部のベストセラーになって15年。
『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
各地で講演会をするたびに何百回、何千回と聞かれた「では何を食べればいいのですか?」という質問にお答えする形で生まれたのが、「安部ごはん」です。
おかげさまで発売2カ月足らずで5刷となり、各メディアで取り上げられるなど好評価をいただき、心からありがたく思っています
「安部ごはん」で私が訴えたかったことは、「『手作りの和食』を見直してほしい」という、ただそのひとつのことです。
ただし、「手作りの和食を」といっても、昔ながらの「手間のかかる作り方」では、誰も振り向いてくれません。
そこで私が15年かけて考案したのが「5つの魔法の調味料」です。どの家庭にもある調味料を使って、5つの「合わせ調味料」さえ作っておけば、「時短」「手間なし」で、「誰でも失敗せずに」「プロ並みの味」が出せるというものです。それが広くみなさんに受け入れられたのは本当にうれしい限りです。
じつは、世にあふれる多くの「時短」レシピ本、料理家のレシピによく登場するものの、「安部ごはん」には一切出てこないものがあります。それは「めんつゆ」です。
「安部ごはん」では、市販の「めんつゆ」を使ったレシピは載せていません。そのほか、「だしの素」「顆粒の洋風だし」も使っていません。
「便利な食品」には「マジック」が隠されている
これらの調味料は、確かに便利です。パッパッと振り入れれば、それなりの味が決まって手間なしです。
とくに「めんつゆ」は、「麺のつゆ」の範疇を大きく超えて、煮物、炒め物、どんぶり物、お好み焼き、和風パスタと万能調味料のように使われています。
しかし、「いくら時短で手軽」だからといって、何でもかんでも「めんつゆ」を多用するレシピが溢れるこの風潮に、私は異を唱えたいのです。
というのも、長年、加工食品を開発してきた「食品のプロ」の立場から見ると、「めんつゆ」の「便利さ」の裏側には、「3つのカラクリ」が潜んでいるからです。「便利さ」にだけフォーカスするのではなく、その「裏側」と、そこに潜む「深刻な問題」も知ったうえで使ってほしいのです。
【カラクリ→問題1】「簡単・便利」→化学物質も同時に体内に摂取
たとえば煮物なら、「だしを取って、しょうゆ、みりん、酒、砂糖などの調味料を適宜加えて……」という作業が必要です。ところが「めんつゆ」なら、あれこれ使わなくても、「これ1本」で済みます。
「うちは健康志向で和食を自宅でよく作っています」という人はよくいますが、そうした人のなかには、よく話を聞くと「味を調えるのは、すべてめんつゆで決まりで、しょうゆはほとんど減りません」という人もいました。
もちろん無添加の「めんつゆ」も一部には売られていますが、「安くて便利」という理由で使う「めんつゆ」の中には、「調味料(アミノ酸等)」「酸味料」「甘味料」「たんぱく加水分解物」、その他各種の「〇〇エキス」などが添加されているものが少なくありません。
「めんつゆ」1本を使うことで、これらの添加物や化学物質も一緒に体内に取り込んでしまうのです。もちろん「添加物や化学物質なんて全然、気にならない」という人もいるでしょうが、「健康志向で、和食を自宅でよく作っている」という人も、その「盲点」に気づいているのでしょうか。
ちなみに(昔ながらの作り方の)しょうゆやみりん、酒、砂糖を使えば、添加物などの化学物質を摂取することはありません。
「めんつゆ」を使えば、たしかに、それだけでピタリと味が決まります。「しょうゆを入れすぎた」「甘すぎた」ということもありません。
しかしその「おいしさ」はどこから来ているのでしょうか。
【カラクリ→問題2】「オイシイ」→「素材の味」「繊細な味」がわからなくなる
「めんつゆ」に使われている「うま味調味料」や「〇〇エキス」は「人工的に作られたうま味」であって、「昆布」や「かつおぶし」などの「天然のうま味」とは違います。「人工のうま味」は食べたとたんに「あっ、おいしい」と思う、濃厚で強い味です。
私は、「人工のうま味」を「オイシイ」とカタカナで記し、「昆布」や「かつおぶし」などの「天然のうま味」である「おいしい」と区別しています。
こういう「オイシイ」ものばかり食べて、その味を舌が覚えてしまうと、「素材の味」「天然の味」「淡泊で繊細な味」がおいしいと思えなくなってしまいます。
もちろん、これも「知って」食べるのは自由ともいえますが、とくに味覚がこれから育っていく子どもには、そういう「オイシイ」ものばかり食べさせて、舌を麻痺させてほしくないと私は強く思っています。
めんつゆの「しょうゆ」その正体は?
【カラクリ→問題3】「安い」→「添加物を駆使したしょうゆ」のことも多い
「節約の達人」の節約法に「激安のめんつゆを使えば、しょうゆやみりんを使うより安上がり」というものがありました。その人は業務用の1.8リットルのめんつゆを常備しているそうです。
しかし「激安めんつゆ」はなぜ安くできるのか、考えたことがありますか?
ひとつは、原料の「しょうゆ」の違いになります。
「『和食が好きな健康志向』の人も知らない深刻盲点」でも述べたことですが、「昔ながらのしょうゆ」は、「大豆、小麦、塩」を原料として、これに「麹」を入れて、1年以上じっくり手間と時間をかけてつくります。この過程で「しょうゆ本来のうま味」が醸し出されていきます。
しかし、「添加物を駆使したしょうゆ」は往々にして、「調味料(アミノ酸等)」や、塩酸分解で作る「アミノ酸液」などを使い、手間も時間も短縮して作られています。だから短時間で生産でき、大量生産も可能です。そのために「昔ながらの長期熟成の本物のしょうゆ」に比べて、安い価格で売ることができるのです。
「激安のめんつゆ」は、この「添加物を駆使したしょうゆ」がベースになっていることが多分にあります。
「『和食が好きな健康志向』の人も知らない深刻盲点」 ※外部サイトに遷移します
いまや人気料理家も堂々と「めんつゆ」を使ったレシピを発表する時代です。料理教室も「めんつゆ」「だしの素」を使わないと、生徒が集まらないという話も聞きます。
しかしプロの料理家が「めんつゆ」「だしの素」を使ったレシピを教えていることに、私は拭い難い違和感を覚えます。
「いくら便利で簡単だからといって、料理を教える立場にいるプロの人が、添加物や化学物質を、知らないうちに大量に摂取するようなレシピばかり勧めていいのか」
「化学物質の『オイシイの味』ばかりに慣れて、『素材の味』や『繊細な味』という本来の『おいしいの味』がわからなくなる、味覚を麻痺させかねないものばかり推奨していていいのか」
それを「知ったうえで便利だから、安いから」使う消費者のみなさんには「使う自由」がもちろんあるわけですが、少なくとも「食のプロ」を自任するような料理研究家のみなさん一人ひとりに、「それで本当にいいんですか?」と問いかけたい思いでいっぱいです。
「素材本来のおいしさ」、調理の技で引き出された「ホンモノの味」を、読者の人が知る機会を奪って、本当にいいのでしょうか、と。
「手作りめんつゆ」は驚くほど簡単にできる
「そうはいっても、めんつゆは便利だから、使いたい」という人も大勢いらっしゃると思います。もちろん、「3つのカラクリ」を知ったうえで、それでも使いたい、ということなら、私はそれ自体は否定しません。
ただ、もうひとつ、私が声を大にして言いたいのは、「別に市販のめんつゆをわざわざ買わなくても、じつは『めんつゆ』は自宅で簡単に作れますよ、しかも無添加で」ということです。
私が考案した「5つの魔法の調味料」のうち、「かえし」「みりん酒」に、「和だし」を加えれば、あっという間においしい「手作りの簡単濃縮めんつゆ」が完成します。たった15分で作ることができ、冷蔵で1カ月ほどは保存可能です。
安部氏が開発した「魔法の調味料」の「かえし」と「みりん酒」さえ用意すれば、簡単に作れる「簡単濃縮めんつゆ」(撮影:佳川奈央)
この「自宅で作れる!簡単濃縮めんつゆ」さえあれば、「市販のめんつゆ」と同じように、ざまざまな料理、具体的には「つけつゆ」「かけつゆ」はもちろん、「どんぶり物」「煮物」「煮魚」「鍋物」「おでん」と、それこそ万能に使えます。
手前味噌ではありますが、そういう「本物の手抜き」の工夫を考えるのが、「食のプロ」を自任する人の責務だと私は思うのです。
みなさんもぜひ一度作ってみてください。一度作れば、何ら面倒でないことがおわかりだと思います。なによりも「おいしさ」は格別です。
食欲の秋です。「なんでもかんでも市販のめんつゆレシピ」から卒業して、「手作りのめんつゆ」で、おいしくて安全で豊かな和食ライフをみなさんに送っていただきたいと切に願っています。
安部氏が開発した「自宅で作れる!簡単濃縮めんつゆ」さえあれば、水と合わせるだけで簡単に「そうめんつゆ」も作れる (撮影:佳川奈央)
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:「めんつゆばかり使うレシピ」に潜む3大深刻問題|東洋経済オンライン