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2021.10.26

ラーメン好きな人も知らない「味の地域性」の深奥|名店の追随だけでなく転勤者の文化もあった


東京都内にも、とんこつラーメンを出す店は多い(筆者撮影)

東京都内にも、とんこつラーメンを出す店は多い(筆者撮影)

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朝夕は肌寒く、ラーメンが食べたくなる季節が近づいてきた。好みの味は人それぞれだが、今回はラーメンの味覚を「地域文化」の視点でみていきたい。

コロナ以前、札幌取材の際に現地を歩いて気になる光景があった。せっかくなのでご当地ラーメンを食べようと思ったが、以前よりも味噌ベースの店が減り、とんこつベースの店が増えたと感じたのだ。お気に入りの味噌ラーメン店(道内資本)が閉店した時もあった。

札幌市は人口約200万人、ラーメンの聖地で各地の味も集まるが、とんこつベースといえば九州発祥だ。どんな理由でこうなったのだろうか。専門家の意見を踏まえて考えた。

実は札幌ラーメンは、とんこつベース

まずは「とんこつ味が札幌で存在感を高めているのではないか?」を聞いてみた。

「札幌で存在感を高めたとはいえません。実は、もともと札幌はとんこつラーメンの文化です。ご当地の味噌味やしょうゆ味もベースはとんこつが多い。味噌やしょうゆがブレンドされるので、ラーメンの種類では味噌ラーメンやしょうゆラーメンとなるのです」

ラーメン評論家としても活動する大崎裕史さん(ラーメンデータバンク会長、日本ラーメン協会副理事長)はこう話す。「出汁の基本はとんこつ、とり、煮干し」だという。

さらに「大きく分けて、東日本は煮干しのしょうゆベースで、ちぢれ麺も多い。一方、西日本はとんこつベースで、特に九州は圧倒的にそうです」と語る。九州の中でも大分県は鶏肉文化だが「ラーメンに関してはとんこつベースで他県と変わりません」(同)。

東京・浅草「馬賊」のラーメン(2019年、筆者撮影)

東京・浅草「馬賊」のラーメン(2019年、筆者撮影)

東西の境目は「ラーメンに関してはバラバラ」だとか。なお、うどんの汁は境目が比較的明確で、カップ麺の「どん兵衛」(日清食品)の汁は、関ヶ原で東西に分かれると聞く。

ちなみに日本3大ラーメンは「札幌ラーメン・博多ラーメン・喜多方ラーメン」が定説だ。喜多方が入ったのは、日本で最初に「ご当地ラーメン」と名付けて注目が高まったのもある。当地の基本はしょうゆ味のとんこつベース、煮干しをブレンドする店も目立つ。

インターネットで検索すると「博多ラーメン、札幌」という情報も多く出てくるが、その逆の「札幌ラーメン、博多」は少ない。だが後述するが、かつては札幌ラーメンが各地に浸透した時代があった。

ご存じのように、ラーメンの味は地域によって多種多様。味付けには味噌汁文化やそば・うどん文化の影響もあった。味の由来を追求すると、次の区分になるようだ。

(1) ご当地由来(人気店追随)型

「各地域には元祖と呼ばれる店があり、それを模倣する形で店が増えて地域文化となっていきました。ただ、ご当地ラーメンには10年や20年の歴史が必要です」(大崎さん)

最も有名なのは、やはりとんこつラーメンだ。ラーメン通には知られた話だが、発祥地は博多(福岡県福岡市)ではなく同じ県の久留米市だ。「南京千両」(1937年創業)が元祖で、その後に屋台発祥の「三九」の味が評判となり広まったと言われる。

それがなぜ、一般イメージではとんこつラーメン=博多になったのか。

「情報発信力の差が大きいでしょう。福岡市は県庁所在地で現在の人口は約150万人。昭和時代に九州の玄関口・博多駅が東京・大阪と新幹線でつながり、平成初期に開業した地下鉄福岡空港駅から博多駅までの交通の便もよい。人口も30万人規模で博多からも距離がある久留米市とは段違いの発信力だったのです」

九州一の大都会・福岡市の市街地(2019年、筆者撮影)

九州一の大都会・福岡市の市街地(2019年、筆者撮影)

また、福島県の喜多方ラーメンの元祖は「源来軒」(1927年創業)で、その後「満古登(まこと)食堂」「坂内(ばんない)食堂」の味が広まった。人口規模に比べて喜多方市のラーメン店数は非常に多い。

喜多方の人気店「あじ庵食堂」外観と「ラーメン」(写真:大崎裕史氏提供)

喜多方の人気店「あじ庵食堂」外観と「ラーメン」(写真:大崎裕史氏提供)

昭和最強チェーンは「町中華」として健在

(2) チェーン店由来型

チェーン店由来の文化もあった。現在の二大チェーンとして名前が挙がる「幸楽苑」(本社・福島県郡山市)、「日高屋」(埼玉県さいたま市)は店舗数が400店規模だ。700店以上の店舗数がある「餃子の王将」(京都府京都市)は定食のイメージも強い。

昭和時代には最強チェーンがあり、各地のラーメン文化に大きな影響を与えた。

「どさん子ラーメン」だ。最盛期には1157店(記録に残る店舗数値)もあったという。一般に外食チェーン店が1000店を超えると全国各地で目にするので、かなりの存在感だ。

「どさん子ラーメン」は現在も残り、町中華として親しまれているが運営会社が変わっており、ここでは往時の店の横顔を紹介したい。

「当時、まだ全国的にはなじみが薄かった味噌ラーメンを各地に紹介した立役者です。人気にあやかり『どさん娘』や『どさん子大将』と名づけた別のチェーン店もあり、それらを含めると2000店規模に達したのではないでしょうか」(大崎さん)

今でも観光地として大人気の北海道だが、昭和40年代、50年代には一大旅行ブームがあった。例えば、当地名物の木彫りの熊や三角ペナントをお土産に買う人も多かった。それとともに札幌の味噌ラーメンやとんこつベースの味も伝わっていった。

「実は、創業者の青池保さんは東京の人。独自の工夫でコーンやバターを乗せたラーメンを開発したと聞きます。それを逆に道内のラーメン店が導入した事例も目立ちました」(同)

君津市や小平市で「九州ラーメン」が浸透した時代

これ以外に「文化移植系」ともいえる現象があった。昭和時代、大企業の工場新設により、多くの人が移住して郷土文化が根づいた事例だ。

「代表的なのは新日鐵(当時)の製鉄所がある千葉県君津市とブリヂストンの工場の東京都小平市です。特に君津は2万人規模の従業員やその家族が八幡製鉄所(福岡県)から移住。その人たちが好む味を提供する形で、周辺に九州のとんこつラーメン店が開店していき、リトル九州ともいえる文化が生まれました。

ただ、私も君津に取材に行きましたが、今はその熱気はありません」(同)

運営企業の工場再編により生産拠点・技術拠点の位置づけが変わり、いわゆる工場文化の色合いも薄れた。

とはいえ、郷里の味への思いは、大人になっても変わらないのかもしれない。

袋麺の例でいえば「うまかっちゃん」(ハウス食品)は九州で圧倒的なシェアを持ち、九州各県の限定味も出している。この味を支持する出身者は多い。以前、大分県から愛知県に転勤した40代の男性会社員(福岡県出身)は「愛知では、あまり『うまかっちゃん』が売られていないので定期的に実家から送ってもらっています」とも話していた。

インターネットが基本インフラとなり、情報交流が活発になると、新たな潮流も生まれた。

「東京の人気店で修業した人がUターンやIターンをして開業したり、異業種から来た人が情報収集と研鑽を経て開業したり、繁盛する店の性格も変わってきました」(同)

かつてのように特定のチェーン店が「ご当地の味」を打ち出す例は少なくなった。各地にチェーン展開する「喜多方ラーメン坂内」のような人気店もあるが、総じて特徴を持った個人店が支持される傾向にある。

ラーメンの商品開発にも携わる大崎さんは、こんな本音も明かす。

「昔は、東西で味の好みがはっきり分かれ、強い煮干しベースの味を試作品で提案した時は、西日本の人からの拒否反応が強かったです。でも今は、そうした味も『おいしいかどうか』で受け入れられるようになってきました」

情報発信の拠点として「新横浜ラーメン博物館」(1994年開業)や、各地の商業施設内の「ラーメン街道」のような存在も大きいだろう。前者は「利尻らーめん味楽」(北海道・利尻島)や「熊本ラーメン こむらさき」(熊本県熊本市)といった人気店も集めている。

利尻らーめん味楽の「スパイシー焼き醤油らーめん」(写真:大崎裕史氏提供)

利尻らーめん味楽の「スパイシー焼き醤油らーめん」(写真:大崎裕史氏提供)

福岡空港内には「ラーメン滑走路」があり、人気店も出店する(2019年、筆者撮影)

福岡空港内には「ラーメン滑走路」があり、人気店も出店する(2019年、筆者撮影)

アフターコロナで、消費者意識はどう変わるか

外食産業も大打撃を受けたコロナ禍で「ラーメンを食べる」という消費者意識はどう変わっていくのだろうか。大崎さんはこんな見通しを立てる。

「その時の気分と出したい金額で選ぶのではないでしょうか。例えば200円程度なら近所のコンビニで名店カップ麺を買う。外出して店に食べに行き、800~1000円程度支払う。部屋から出たくない時は1600円ぐらい支払ってデリバリーで届けてもらうなど、選択肢も増えました。

2021年はラーメンのデリバリー市場も拡大しました。調理後の配達までに麺が伸びるという欠点を解消するために製麺メーカーも改良商品を開発するなど工夫しています」

かつて大手企業の経営者に「外食に求めるものは何か」を聞いたところ、「自宅の食事では出せない味と雰囲気でしょう」との答えだった。コロナ禍によって消費者の渇望感が今後どう変わっていくか。ラーメンの地域性と向き合いながら、そんなことも考えた。

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提供元:ラーメン好きな人も知らない「味の地域性」の深奥|東洋経済オンライン

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