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2021.10.22

「働かないおじさん」に共通するたった1つの特徴|「4つの段階」で求められる周囲のサポート方法


本人が好き好んで「働かないおじさん」と呼ばれる状態になっているケースはほぼありません(写真:metamorworks/PIXTA)

本人が好き好んで「働かないおじさん」と呼ばれる状態になっているケースはほぼありません(写真:metamorworks/PIXTA)

「45歳定年制」の議論でもやり玉にあがった「働かないおじさん」。
そんな「働かないおじさん」の姿も、時代によって変化していると語るのは、さまざまな業界で約2000人の中高年キャリア開発を手がけたミドルシニア活性化コンサルタントの難波猛氏。近年の「働かないおじさん」には共通する「ある特徴」があるとのことです。難波氏が9月に上梓した『「働かないおじさん問題」のトリセツ』より一部抜粋、再構成し、お届けします。

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「働かないおじさん」を悪者にしても問題は解決しない

Q.近年、社会問題になっている「働かないおじさん」と聞いて、次のうちどの人を思い浮かべるでしょうか。

(1) 一日中、新聞やスマホばかり眺めて仕事をしない人
(2) 営業に行く振りをして、社用車で居眠りをしている人
(3) PCやコピー機が使えず、部下にやってもらう人
(4) 真面目でコツコツ働く人

みなさん、はじめまして。ミドルシニア活性化コンサルタントの難波猛と申します。さて、冒頭で出した設問、みなさんはどの答えを選んだでしょうか。

実際に相談が多いのは、(4)です。

「そんなはずないでしょ。どうして真面目でコツコツ働いているのに『働かないおじさん』と呼ばれなければいけないの?」

そう思う方もいるかもしれません。

みなさんが想像したり、メディアで描かれてきた「働かないおじさん」は冒頭の(1)~(3)のような人かもしれません。今時、そんな人は絶無とは言いませんが、ほとんどいません。露骨に仕事の手を抜く人が、のんびり生き残れるほど今の企業を取り巻く環境は甘くないからです。実は、現在働かないおじさんと呼ばれてしまう人の多くが「真面目でコツコツ働く人」です。

実際に企業の現場でコンサルティングや研修を行っているとよく分かるのですが、本人が好き好んで「働かないおじさん」と呼ばれる状態になっているケースはほぼありません。

気付かない間に、または薄々気が付きながら上手く対応できず、周囲や上司の期待とギャップが生じてしまっている場合がほとんどです。(実際は、「会社に言われた通り、真面目にコツコツ頑張ってきた」善良な人が、こういう状況になってしまうケースも多いです)

「働かないおじさん」に関する記事やネットの論調を見ていると、「高い給料をもらっていながら、成果が出せない(出そうとしない)本人が悪い」「今まで放置してきて、急に手のひらを返した会社が悪い」「その状況に対して何も言わない(言えない)上司や人事が悪い」など、社内での犯人捜しや、責任の所在の追求のみにフォーカスした議論が多い気がしています。

しかし、現在の「働かないおじさん問題」は、従来の「サボリーマン」「本人が悪い」という認識では捉え切れません。

中高年は20代の1.7倍の成果が求められる

ではなぜ、「真面目でコツコツ働く人」が「働かないおじさん」になってしまうのか。

「働かないおじさん」を「ローパフォーマー」と表現することがあります。

「ローパフォーマー」は、「期待された成果が発揮できない人材」を指します。しかし、実は「働かないおじさん」の能力や成果自体が若手社員と比べて低いわけではありません。業務能力や成果だけを単純比較すれば、ベテラン社員のほうが、入社数年の若手社員よりも高いことが多いです。
にもかかわらず、業務能力も成果も低い状態の新入社員はポテンシャル人材として期待され、ある程度の能力と成果はあるはずのミドルシニア社員がローパフォーマーとして扱われてしまうのは、両者に対する会社や周囲の「期待・役割」が違うからです。

日本では多くの企業が年功序列的な賃金制度や経験による能力向上を前提とした職能資格制度を採用しており、処遇(賃金や職位)は勤続年数とほぼ比例して上がっていくケースが多いでしょう。

しかも、一度上がった賃金が大幅に下げられることは、よほどのことがない限りありません。

その結果、中高年層は若手に比べると、かなり高い賃金や職位をもらうことになります。そうなると当然、成果に対する期待値も高くなり、その期待に応えられなくなることで「働かないおじさん」のレッテルを貼られてしまうのです。

国税庁の「民間給与実態統計調査(令和元年分)」によると、25~29歳の男性平均給与は403万円、55~59歳の男性平均給与は686万円。つまり1・7倍の差があります。

単純に言えば、ミドルシニアには20代社員の1・7倍の成果が期待されます。

ギャップが生じ始めた際に、早い段階で「本人がギャップに気付ける機会」「本人と上司がギャップを埋めるために話し合う面談」「ギャップを調整する仕組み(制度)」を用意することが人事として必要になります。

「同じ業務を続けていると飽きてやる気が下がる」

「高くなる期待を上回る成果を発揮し続けないと、ローパフォーマー化する」

こうした問題を解決するために、ご紹介したいのが、「WILL・MUST・CAN」のフレームワークです。

「WILL・MUST・CAN」のフレームワークについては、人事やキャリア開発に関わっている方ならご存知の場合も多いでしょう。少し詳しい方なら「もっと斬新で格好良いフレームは無いのか?」「デジタルでロジカルなアセスメントの方が便利」などと思われるかもしれません。

ただ、実際のコンサルティング現場で、「こうした当たり前のことを、上司も部下も驚くほど考えていないし、話し合えていない」「シンプルで分かりやすい方が、日々のコミュニケーションで共通言語化しやすい」「真剣に、この3つの充実に向けて取り組むと、かなり効果が出る」と痛感しています。

WILLは「やりたいこと」や「ありたい姿」など、本人の意思や欲求や価値観を意味します。

MUSTは「やるべきこと」や「周囲からの期待」など、周囲からの期待役割やニーズを指します。

CANは「できること」や「得意なこと」など、本人の能力、スキル、強みです。

「働かないおじさん」は何かがズレている

キャリア研修やカウンセリングでは、本人にこれら3つをそれぞれ円として図示してもらい、その円の重なり方や大きさによって、仕事に対するやる気・期待・能力といった「自分の状態」を把握してもらいます。

WILL・MUST・CANが大きくかつ重なっている人は、ハイパフォーマーとして活躍している場合が多いです。

本人が仕事にやりがいを感じていて、その仕事が周囲から期待されており、実際それを遂行する能力もあるという、理想的な状態です。

WILL・MUST・CANが大きくかつ重なっている人は、ハイパフォーマーとして活躍している場合が多いです(図版:アスコム)

WILL・MUST・CANが大きくかつ重なっている人は、ハイパフォーマーとして活躍している場合が多いです(図版:アスコム)

一方、ローパフォーマーはWILL・MUST・CANのいずれかが「小さい」、または「離れている」など、ズレが生じた状態になっていることが多いです。

このようなギャップが生じる原因は、本人側に問題がある場合もあれば会社側にある場合もあります。「成果が出ないのは、本人の責任だ」などと上司が一方的に決めつけると、建設的な問題解決に繋がりません。

問題を解決するためには、上司(または人事)から「お互いに改善できることがあるかもしれない。一緒に考えよう」と謙虚かつ真剣に対話する姿勢が大切です。その上で「何がギャップなのか」「ギャップをどう解消するか」「どのような状態になりたい か」について、本人と上司で共有しながら検討し、人事が両者を支援する三者の連携 が、ローパフォーマーを減らすことに繋がります。

WILL・MUST・CANのズレの修正は「働かないおじさん」本人にとって「予期せぬ変化」や「望まない変化」となるケースが多いようです。

一般的に、「能力の低い人ほど、自分の能力や状態を客観的に認知・修正する能力も低いため、自分を過大評価してギャップが大きくなる」という「ダニング=クルーガー効果」も働きます。

そのため、上司のフィードバックに対して、「成果が出ていない人ほど反発しやすい」「変化に抵抗感を示しやすい」という状況になりがちです。

ただし、こうした反発は、あくまで「人として自然な反応」です。

相手の状態や心理への理解に努めながら話し合いを尽くすことで、やがて「働かないおじさん」たちも、姿勢を変化させることが多くあります。

具体的には「否定」「抵抗」「探求」「決意」という4つのフェーズを経て、最終的には変化を受け入れ、行動が変わっていくとされています。

各フェーズにおける本人の状態と、上司や周囲のサポート方法を紹介していきましょう。

4つのフェーズにおける本人の状態

●否定フェーズ

●否定フェーズ
「予期せぬ変化」「望まぬ変化」をいきなり受容する人も中にはいますが、それは非常にまれなケースで、多くの人は「自分には関係ない(根拠なき楽観)」や「たいした変化は起こらない(過小評価)」と思いがちです。

こうした心理状態が、最初の心理状態「否定」です。

例えば、自社の決算情報や社長の動画メッセージで「会社の状況は厳しい」「当社には変化が必要だ」という情報を見ても「自分の仕事や状況はとりあえず明日も変わらない」「うちの会社(自分)は大丈夫」と根拠なく思い込んでしまう人は意外と多いです。

これは、「自分だけは大丈夫だ」と思いたい(思い込む)、「正常性バイアス(または現状維持バイアス)」という心理が働くためです。

否定フェーズで本人が行うことは、「情報収集」です。

「周りで何が起きているのか」「今後どういう状況になるのか」「変化しないと、どんなリスクがあるのか」「変化すると、どんなチャンスがあるのか」について、不都合な事実も含めてキチンと正しい情報を集めて向き合うことです。

上司の側から言えば、「厳しいことでも、キチンと情報を伝える」ことが必要です。

●抵抗フェーズ

最初は「自分には関係ない」という否定フェーズだった人も、正しい情報を収集することで「自分の置かれた状況を考えれば、今後は自分から変化していかないと厳しい」という現実だけは受け入れるようになります。
しかし、この段階ではまだ「頭では理解できるが、感情的に納得できない」という抵抗感を抱くケースが多いです。

特にミドルシニア社員の場合、「自分の先輩たちは良かったのに」「長年頑張ってきたのに梯子を外された」「よりによって、なぜ私が?」といった不公平感や、「総論は分かるが、今更変化できるわけがない」「今更、変化や新しいスキルの習得は面倒だし不安」と諦めを感じたりするケースも多いようです。

「なぜ私が?」と納得できない状態。これが「抵抗フェーズ」の姿です。
例えば、「会社の言っていることは理解できた。しかし、5年前に引退した先輩は普通にリタイヤして悠々自適に暮らしている。自分の代からいきなり手のひらを返されるなら、単にタイミングによる運次第ではないか! 納得いかない!」といった反応などは、抵抗フェーズの様相と言えます。

上司がやりがちな失敗が「説得」

このフェーズでは自分に突きつけられた不都合な事実について、自分の行動の結果だとは考えません。「こんなことになってしまったのは環境や他者のせいであり、自分は被害者だ」といった他責的な考え方になるのが一般的です。

部下がこのような反応を示したとき、上司がやりがちな失敗が「説得」です。「あなただけではなく、みんな同じだ」「失敗をおそれるのは分かるが、やってみなければ始まらない」「そんなことを言っても、決まったことだから仕方ないだろう」といったセリフが上司の口から飛び出しがちです。

しかし多くの場合、このような説得は相手が抵抗フェーズにいる場合は無駄です。

「変わりたくない」「周囲が悪い」「なんで自分が?」といった心理状態にある人は、「説得されたくない」「納得したくない」ので説得は困難です。

理屈や上司権限で説得し、仮に「わかりました」と言わせることができたとしても、本心から納得していないYESには意味がありません。

抵抗フェーズにおいて本人が行うことは「気持ちの吐き出し」と「言語化」です。

「納得いかない感情」「納得できない理由」「今後への不安」「上司への不満」「会社への恨みつらみ」、何でも構わないので、出し切るまで吐き出しましょう。その際には、単に頭でグルグル考えるのではなく、「書き出す」「人に話す」等のアウトプットが重要です。

抵抗フェーズで上司がやるべきことは、「説得」ではなく「傾聴」です。
じっくりと時間をかけて本人の言い分に傾聴(耳と心を傾けて聴く、と書きます)しましょう。その際、相手の不安な気持ちや抵抗感を途中で遮ることなく全部吐き出させ、一度は受容してあげる。これが重要です。

●探求フェーズ

探求フェーズに入ると、「他人の責任にして不満ばかり言っても仕方がない」という思いを経て、「やはり自分でなんとかしないといけない」という前向きな心境になってきます。このような「過去や他人」ではなく「未来や自分」に向かう心境の変化が、行動変容が始まるきっかけになります。

探求フェーズで本人が行うことは、「ワクワクする計画」です。

「自分はこんなふうになりたい」「こういう状態を目指したい」「こうなれたら嬉しい」という、自分の願望を具現化して、達成に向けた計画を考えることです。

探求フェーズで上司が行うことは、「一緒に考える」「支援」です。

プランの実現に向けて、本人の相談を受けて上司がアドバイスするのは構いません。しかし、プラン自体は本人に考えさせる必要があります。他人から押し付けられた計画は、自分事として本気になりにくいので、多少粗くても本人が本気で考えた計画を基に、必要な部分を支援する姿勢が有効です。

「承認欲求」を仕組化・習慣化することが重要

●決意フェーズ

否定・抵抗・探求というフェーズを自分で乗り越えると、変わることが楽しく感じられ、変わることへの抵抗感がなくなります。

変化を自分事として受容し、自身も行動変容していくのが「決意」フェーズです。

この段階では、「外部の情報」「自分の内心」「未来のありたい姿」を統合したうえで納得して自らの意思で内発的に変化するので、叱責や強制によって起きた外発的な変化に比べて実現性と継続性が高くなります。

アメリカの有名な心理学者であるアブラハム・マズローによると、人間の欲求は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つの階層に分かれるとされています。

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『「働かないおじさん問題」のトリセツ』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

「決意」のフェーズでは、上記のうち「承認欲求」「自己実現欲求」をうまく仕組み化・習慣化することが重要です。

「承認欲求」とは、誰かに認められたい、褒められたいという欲求です。
人は社会的動物なので、他人から注目や称賛を受けると、快楽ホルモンであるドーパミンが分泌され、心地よさを感じます。

決意フェーズでは、探求フェーズにおいて立案した計画を実行に移していくことになりますが、「やってみたら難しかった」「目先の仕事に追われていつの間にか計画も忘れてしまった」など、いわゆる「三日坊主」になる可能性があります。

「三日坊主」を防いで行動を習慣化するために、「褒めてもらう」「注目してもらう」仕組みを、本人と上司が合意の上でつくると有効です。

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提供元:「働かないおじさん」に共通するたった1つの特徴|東洋経済オンライン

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