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2021.10.13

病を抱える人の「コロナ不安」を鎮める3ステップ|気を紛らわせる、今に集中する、などが大事


がん患者さんが抱えるコロナ不安の対処法について、精神腫瘍医が解説します(写真:kei.channel/PIXTA)

がん患者さんが抱えるコロナ不安の対処法について、精神腫瘍医が解説します(写真:kei.channel/PIXTA)

病気になる。しかも、それががんのような重い病気だったとしたら――。病気や治療に対する不安な気持ちや、うつうつとしたやりきれなさを抱える、そんながん患者に寄り添ってくれるのが、精神腫瘍医という存在です。

これまで4000人を超えるがん患者や家族と向き合ってきたがんと心の専門家が、“病気やがんと向き合う心の作り方”を教えます。今回は「がん患者と新型コロナウイルス感染症」がテーマです。

最近、診察室に来る患者さんが異口同音に唱えるのが「新型コロナへの不安」です。不安とは「不確実な脅威に直面した場合に惹起される感情」と定義され、がんも、コロナも「こうすれば大丈夫」という答えはありません。

子ども二人を育てる肺がん女性の不安

水戸部ゆう子さん(47歳、SNSユーザー名)も、大きな不安を抱えた患者さんでした。記事に役立ててほしいと、コロナ禍での不安を手紙に託してくれました。

水戸部さんは小学生と中学生の子どもがいる主婦で、進行した肺がんと診断を受けてから3年が経っています。幸いにも抗がん剤治療が功を奏して、病気の進行は抑えられており、進歩したがん治療の恩恵を受けていることを実感されていました。

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ところが、コロナ禍になって「気持ちが落ち込む日も増えた」そうです。以前から「抗がん治療が効かなくなってがんが進行したらどうしよう」という不安をお持ちでしたが、コロナ禍はその不安をはるかに増幅させていたのです。

特に大きな影響を受けたのは、昨年春、がんの罹患経験がある女優が亡くなったニュースでした。

「自分のようながん患者がコロナに罹患したら、命取りになるのではないか」という懸念が頭の隅にいつもあり、また、「コロナに罹患したら抗がん剤治療を中断しなければならないのではないか、せっかく自分に合った治療法が見つかったのに、それができない間にがんはまた息を吹き返すのではないか」という心配も重なっていました。

感染しないようになるべく外出を控え、感染には気を使っているものの、通院などのために出かけなければならない用事もあります。

報道で感染者数の増加が日々報じられると、目に見えないコロナはそこかしこに潜んでいるように思えてならず、人込みのなかでは命の危険さえ感じたそうです。

「マスクをしていない人や、大きな声で話している人はまさに脅威で、その場からなるべく離れるようにしています」と水戸部さん。さらに、「夫にはもっと高い意識を持って感染対策をしてほしい。学校の感染対策もどこまでできているかわからない」と、苦しい毎日を送っていることが、こちらにも伝わってきました。

水戸部さんもそうですが、がん患者さんはコロナ禍で特に大きなストレスを抱えています。それは大きく、「コロナに対するリスク」「がん治療への影響」「面会できない」「自分の通っている病院が医療崩壊しないか」などに大別されます。

コロナに対するがんのリスクとは?

コロナに対するリスクでは、日本臨床腫瘍学会のウエブサイトに科学的なデータがまとめられています。それによると、がん患者はコロナに罹患しやすい可能性があり、また重症化して死亡する割合も、基礎疾患がない人に比べると5倍以上といわれています。

コロナ禍では、同じ呼吸器の病気である肺がんや、免疫力に影響する血液がんの患者さんは特に脅威を感じやすく、診療時には「私らがん患者にとって、コロナは本当に怖いですよ」という声をたびたび聞きます。

実際、コロナにかかると体に負担がかかるがん治療は基本的に中断せざるをえません。そのため、「抗がん剤を中断している間にがんが勢いを吹き返さないか」「手術を待っている間にがんが進まないか」といった焦りを覚える患者さんも、少なくないと思われます。

入院中に家族に会えないのも、患者さんにとっては大きなストレスでしょう。

現在、院内でのクラスター発生を防止するために、多くの病院では面会が制限されています。とくに終末期の患者さんの場合、人生の最後にいちばん大切な人と十分な時間を過ごせないわけですから、ご本人や家族のやるせなさはどれほどのものでしょう。

病院としても、オンラインで家族とつながれるようにWi-Fiを導入するなどの対策を講じていますが、やはりそれだけでは十分ではありません。

自分が治療を受けている病院にコロナ病床が開設される場合、「病院でコロナに感染しないか」という不安を抱く人もいるかもしれません。コロナ病床はきちんと感染管理が行われ、感染が広がることはありませんが、私が勤務する病院でも、コロナ病床が開設された際は、患者さんからは不安の声が聞かれました。

では、こうした不安に圧倒されないようにするには、どうしたらいいでしょうか。

私はがん患者さんからコロナ禍のさまざまな不安を相談されますが、その際には、「正確な情報を得る」「解消できる不安とできない不安に分ける」「不安と付き合う」という3ステップが大切だとお伝えしています。

正確な情報を得て「正しく恐れる」

(1)正確な情報を得る

コロナ禍が始まったころ、「正しく恐れる」というキーワードがありましたが、当時はコロナのことがよくわかっていないこともあって、私たちは暗闇にいるような感覚があり、何か起きるたびに世の中全体が右往左往していました。実は、こうした不安の原因となるのは「不確実な脅威」で、この不確実な部分を減らすことができれば、不安も小さくなります。

どうすれば不確実な部分を減らせるか。それはまさに「正しく恐れる」ことであり、正確な情報を得ることにほかなりません。

今、インターネット上には根拠のない情報があふれ、ワイドショーなどのテレビ番組も、視聴者へのインパクトを優先し、不安をあおる側面があります。最も信頼できるのは1次情報(解釈なしの統計データ)ですが、専門的な知識がないと理解が難しいかもしれません。その場合は、国や学術団体などの公益性が高いと考えられる組織の情報発信に目を通すとよいでしょう。

(2)解消できる不安とできない不安に分ける

情報を十分に得たとしても、不安が完全に去ったわけではありません。次に大事なのは、「その問題が対処可能なものかどうか」を明らかにすることです。

例えば、「コロナへの感染のリスクがあるものの、放射線治療が必要なので、主治医と相談して通院することになった」としましょう。この場合、患者さんにできる対策は、手洗いやマスク着用、可能な範囲で込み合わない時間に通院するなどですが、それでも「コロナに感染しない」という保証はありません。

どう頑張っても不安をゼロにはできないわけですが、この場合、「この不安はこれ以上解消できないな。このまま付き合っていくしかないな」という具合に、いい意味で諦め、後述する「不安と付き合う」対応に向かったほうがよいのです。

(3)不安と付き合う

解消できない不安を無理に解消しようとすると、不安が増幅しやすいといいます。そもそも不安は心が作り出すもので、それに呑み込まれなければ害をなすものではありません。「ああ、またいつもの不安が出てきたな。心の中にいてよいよ」と思っていれば、比較的おとなしくしていることも多いものなのです。

ですから、コロナが不安でも、「コロナのことを考えないようにしよう」とするのはあまりおすすめしません。「考えないようにする」ほどコロナのことを考えてしまい、余計不安になるからです。

ではどうしたらいいかというと、比較的手軽に取り組める方法があります。認知行動療法という科学的に有効性が示されたカウンセリング法の1つで、「行動を変えることで、不安を小さくする」という方法です。

例えば、友達とおしゃべりしているときは気が紛れて不安にならないけれど、インターネットやワイドショーを見ていると不安が強まるという人は多いでしょう。

不安の程度は行動によって変化し、1日のなかでも高くなったり低くなったりしています。自分が不安になりやすい行動を減らし、そうではない行動を意識的に増やすことによって、過ごしやすくなるのです。

次も認知行動療法の1つなのですが、瞑想にルーツがあるマインドフルネスで、「今ここ」に心を集中させることも有効です。

将来のことを考えるから不安になり、過去のことを考えるから後悔や落ち込みにつながります。そうではなくて、今、目の前にある食事、自然の美しさ、仕事、大切な人に十分に注意を払い、向き合う姿勢を意識することも、不安な時代を生き抜くための知恵といえるでしょう。

がん患者の家族、友人に大切なことは…

家族、友人、職場関係者にがん患者さんがいて、何か力になりたいと思っている人も少なくないでしょう。そういうときに大切なのは、患者さんの気持ちを理解しようすることです。

私もコロナ禍が始まったころ、漠然と「がん患者さんにとってこの感染症は、大変な意味を持つだろう」ということは想像していましたが、冒頭の水戸部さんら多くの患者さんに話を聞いて、「ああ、それは本当に不安だな」と具体的に理解できたように思います。

そのうえで協力できることは何か考えるとよいのではないでしょうか。

私の場合は、来院が必要なければ電話診療をすすめていますが、同居家族や会う機会が多い友人に対しては感染予防を徹底する、リスクが高い場所に行かなくてもよいように代行してあげるなど、できることはあります。

私は以前、ある患者さんから、「毎日、病室の窓から見える場所に家族が来て、手を振ってくれる。とてもうれしい」という話を聞きました。もちろん、誰もがそのような行動ができるわけではありませんが、大切な人に対して、「気にかけている」というメッセージを伝えることは、大事なことです。

入院中に面会ができないことは、本人だけでなく、家族や友人にとってもつらいこと。こういうときこそ「あなたのことを想っています」というメッセージを伝えたらどうでしょうか。

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提供元:病を抱える人の「コロナ不安」を鎮める3ステップ|東洋経済オンライン

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