2021.09.27
目先の誘惑に弱い人が意識するといい3つの視点|今の10万円より将来の10万1000円を選べる?
人は必ずしも合理的に行動するとはかぎりません(写真:freeangle/PIXTA)
「時間割引率が低い選択をすれば、将来大きなリターンとなって戻ってくる」。そう話すのは、経済評論家の勝間和代氏です。時間割引率とは、いったい何か。それを低くすることでどういったメリットがあるのか。新著『勝間式生き方の知見―お金と幸せを同時に手に入れる55の方法』を上梓した勝間氏が解説します。
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「時間割引率」が低いと将来の利益につながる
あなたは、今10万円をもらうのと、1年後に10万1000円をもらうのと、どっちがいいですか?
そう聞かれたとき、多くの人が「今の10万円」を選ぶ傾向にあります。これは、私たちには今すぐ手に入る報酬を、先々に手に入る報酬よりも高く評価する心理作用が働くためです。本当は、今の10万円より、1年後の10万1000円のほうが1%上乗せされて、手にする報酬は増えます。それなのに、1年という時間を考えるとプラス1000円の価値が低下して、今10万円のほうがいいと考えてしまうのです。
この「今の10万円」を選ぶことを時間割引率が高いと言います。割引率が高いから手元に残るものが少なく、将来の利益につながりません。逆に、「1年後の10万1000円」を選ぶことを時間割引率が低いと言います。割引率が低いから手元に残るものが多く、低ければ低いほど、お金が貯まります。ギャンブルにはまったり、消費者金融で借金をしたりなど、将来の自分を苦しめる行動もしません。
お金だけではなく、健康面でも時間割引率が低い選択をすると、健康寿命の延長につながります。例えば、喫煙や飲酒は体に悪いからしない。足腰や心肺機能を鍛えるためによく歩いて、駅ではエスカレーターやエレベーターを使わないで階段を使うなど。これが、時間割引率が高くなると、体に悪いとわかっていながら、今の多幸感を選んで喫煙や飲酒をしたり、今楽をしたくて車やエスカレーターを使ったりしてしまいます。
私たちは加齢に伴い、さまざまな体力的な能力が衰えていきますが、その衰えは、時間割引率が低い選択を持続することで補うことができるわけです。いわば、目の前の選択は、将来への投資。その投資がいずれ花開いて、大きなリターンになって戻ってくることをイメージすると、時間割引率が低い選択をしやすくなると思います。
仕事の選び方に関しては、今いる業界が斜陽だということに気づいたら、早期に転職先を探して脱出することが、時間割引率が低い行動です。しかし、多くの人がギリギリまでい続けて、どうにも立ち行かなくなったときに初めて転職先を探す、という時間割引率が高い行動をするので出遅れるわけです。それまでに築いたキャリアや地位にしがみつき、なんとか活躍し続けようとすると、しっぺ返しが5年後、10年後に必ずやってきます。
私は、近年のさまざまな社会的な実験で、意志の力は有限でアテにならないことがわかったのは、大きな発見の一つだと思っています。時間割引率を低くするにも、自分の意志をまったく信用しないか、あるいは意志の力を使うにしても最小限にすることが重要です。
時間割引率を下げるためには、目の前の誘惑から逃れる必要がありますが、そのときいちいち意志の力を使っていると心が疲弊します。そしてたいていは途中で意志の力が途切れて、誘惑に負けてしまいます。そうならずに時間割引率を下げるには、環境を整えることがポイントです。
有名な「マシュマロ実験」の後日談
マシュマロ実験という、時間割引率が低い心の状態=自制心に関するアメリカの有名な心理実験があります。これは4歳の子どもにマシュマロを1個与えて、15分間食べるのを我慢したら、もう1個与えられる、という実験で、約200人の子どもを対象に行ったところ、3分の1の子が我慢できました。そして、その3分の1の子たちは十数年後も自制心を持続していて、周囲より優秀な成績を収めていることがわかりました。
という結果ですが、実はこの実験には後日談がありまして、対象を変えて再実験したところ、そんなきれいな結果は得られなかったのです。なぜかと言いますと、最初の実験はスタンフォード大学の付属の保育施設に通う、とても恵まれた家庭の子どもだけを対象にしていて、彼らの自制心を左右する要因は、彼ら自身の性格よりも、家庭の経済的な余裕や、親の時間や気持ちの余裕のほうが大きかったからです。
もし、マシュマロをもらえないような家庭環境で育っていたら、1個もらった段階で食べてしまうのが自然で賢明な選択になります。親がいつも約束を守らないタイプだったら、子どもは食べるのを我慢したら2個あげる、と言われても信じなくて当然です。約束を守ってもらえなかった経験から、1個もらったらすぐに食べることを選ぶのです。
つまり、時間割引率を下げたくても、環境がそれを許してくれない場合がある、ということです。環境を変えない限り、時間割引率はそう簡単に低くできないからこそ、どういう環境であれば、時間割引率が下がるか、という整備が重要なのです。
世の中はありとあらゆる誘惑であふれています。中毒性があるものといえばタバコ、お酒、お菓子、ネット、ゲームなどなど。やめたいものは、自宅に置かないようにしましょう。意志の力を使わなくても自分の時間割引率を下がる環境を整えて、意志の力を使わずとも、自然にすべての時間割引率が下がるように設計していくわけです。
私は健康のために、砂糖や砂糖を含むお菓子などを食べないシュガーフリーと、コーヒーや緑茶などのカフェインをとらないカフェインフリーを実践しています。どうやって実践し続けられているかというと、家にカフェインも砂糖も置かないようにしていることが最大の要因です。
代わりに果物やサツマイモ、お気に入りのノンカフェインのハーブティーを常備しています。
時間割引率を下げざるをえない環境に慣れる
もっとも、私も友達と会うときなどは、ケーキを食べたりミルクティーを飲んだりして、その時間を最大限に楽しみます。週1回なら、スイーツやカフェインを取っても、体調や体型に影響が出ないことを確認済みですし、ストイックになりすぎてリバウンドしたら本末転倒なので、自分へのご褒美として許可しています。
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大事なのはバランスで、現在の幸せをある程度享受しながら、将来の幸せにも投資できる状態を保つことです。その効果的な方法として、まず家を時間割引率が下がらざるをえない環境に整え、その状態がデフォルトになるように自分を慣れさせていくと、無理なく続けられると思います。
生まれつき、時間割引率が低い人は一人もいません。スタートラインはみんな一緒で、お腹が空いたら泣く、眠くても泣く、おしめが濡れても泣く、という今の欲望を満たすことしか考えられない状態でした。
時間割引率を下げるのは欲望や本能との闘いだからたやすくなく、環境の力を借りるなどの工夫が必要なのです。
加えて、次の3つを念頭に置いておくのがお勧めです。
(1)時間割引率が最も高いとき=欲望や本能に最も負けやすいのは今この瞬間
目の前においしそうなご飯やお菓子を出されたら、誰だってつい手が伸びます。目の前に出されて見た瞬間に、欲望が暴走するのです。そうなったら食べるのを拒否するのはほぼ不可能です。
ただそこで、人というのは目の前の誘惑に逆らえないことを知っていると、スパークに翻弄されちゃダメだぞ、というふうに自分にブレーキをかけることができ、冷静さを取り戻して回避しやすくなります。
(2)一度時間割引率を下げて「報酬」を得ると、その報酬がまたほしくて持続できる
例えば、運動習慣を身につけるとき。最初はサボりがちでも、徐々に体重や体脂肪が減るとうれしくなって、やる気が出ます。周囲の人から「痩せたんじゃない?」「スリムになったね」と褒められたら、ますますやる気になって、運動するのが好きになるものです。
そのうれしさや褒め言葉が報酬で、報酬を得る喜びやメリットを一度体験すると、また欲しくなるため進んで運動したくなるわけです。
(3)できるだけ余裕を持つ
時間割引率が高い選択をしがちな人はつねに時間がない、お金がないなど、あらゆる余裕がない可能性が高い傾向があります。それでは、将来の報酬をイメージできなくて当然です。まずは改善しやすいことから見直して、少しずつ余裕を増やしていってください。
500円玉貯金をする、15分前行動をする、毎食野菜を食べるなどの小さな改善で十分で、その積み重ねが自信になってより大きな改善行動につながります。そして、先々のことを考える余裕が生まれて、自然と時間割引率が低い行動を取るようになるのです。
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提供元:目先の誘惑に弱い人が意識するといい3つの視点|東洋経済オンライン