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2021.08.03

「東京五輪レジェンド4人」メダルよりも凄い名言|体操・内村、ソフト・上野らのコメントから学ぶ


長く競技人生を送ってきたレジェンドたちのコメント力にビジネスパーソンが学べることとは?(写真:丸山康平/アフロ、ロイター/アフロ、東京スポーツ/アフロ、YUTAKA/アフロスポーツ)

長く競技人生を送ってきたレジェンドたちのコメント力にビジネスパーソンが学べることとは?(写真:丸山康平/アフロ、ロイター/アフロ、東京スポーツ/アフロ、YUTAKA/アフロスポーツ)

朝から夜まで各局が東京オリンピックの競技中継を放送し、メダルラッシュに沸く日々が続いています。

毎日、男女どちらかが金メダルを獲得している柔道を筆頭に、13年越しのオリンピック連覇を果たしたソフトボール、絶対王者・中国に勝って初代王者となった卓球混合ダブルスなど、さまざまな競技での盛り上がりが見られますが、「今大会を象徴している」と言われているのが新世代の躍動。

金メダル最年少記録を更新したスケートボード女子ストリートの西矢椛さん(13歳)と、銅メダルの中山楓奈さん(16歳)、体操男子団体総合で銀メダル、個人総合で金メダルの橋本大輝さん(19歳)、競泳男子200メートルバタフライで銀メダルの本多灯さん(19歳)、ソフトボールで金メダルの後藤希友さん(20歳)、サーフィン女子で銅メダルの都筑有夢路さん(20歳)、卓球女子シングルスで銅メダル、混合ダブルスで金メダルの伊藤美誠さん(20歳)、柔道女子52キロ級で金メダルの阿部詩さん(21歳)と、若きメダリストが次々に誕生しています。

しかし、若きメダリストたちにはない魅力であふれ、印象深いのは、競技終了後に語るレジェンドたちのコメント。体操男子の内村航平さん(32歳)、ソフトボールの上野由岐子さん(39歳)、ウエイトリフティング女子の三宅宏実さん(35歳)、カヌー・スラローム男子カナディアンシングルの羽根田卓也さん(34歳)……レジェンドたちのコメントから、ビジネスパーソンにも参考になる強さの秘訣をひも解いていきます。

トップでも「報われない努力もある」

体操男子の内村航平さんは、24日の種目別鉄棒に出場したものの、まさかの落下があって予選敗退。しかも落下したのは、高難度の離れ技を立て続けに成功させたあとのつなぎ技であることがショッキングでした。

内村さんはこれまで3度のオリンピックで計7つのメダルを獲得してきましたが、今大会は種目別の鉄棒に絞っての出場。まさに「選択と集中」の戦略で金メダルのみに照準を合わせていましたが、「決勝にすら残れない」という惨敗を喫してしまったのです。

内村さんは競技終了後のインタビューで、「代表落ちてから、またはい上がってきて、また今日こうやって落とされたんで、『報われない努力もあるんだ』って思ったし、『努力の仕方が間違っていたんだろうな』とも思うし。でも、『あらためて体操は面白いな』と思いましたけどね、失敗してなお。『人生においてこういうことも大切なんだろうな』って凄く思います」とコメント。

過去3度のオリンピックで7つのメダルを獲得してきた内村航平さん(写真:丸山康平/アフロ)

過去3度のオリンピックで7つのメダルを獲得してきた内村航平さん(写真:丸山康平/アフロ)

自ら「報われない努力もある」と語れるのは、ここまでの努力に自信があることの証でしょう。それをインタビュアーなどの他人に言わせてねぎらわれるのではなく、自ら語ったことにトップとしての自負を感じさせられました。その上で、「だから体操は面白い」「人生にはこういう失敗も大切」と続けることで、「自分の失敗を通して気づきを得てもらえたら」というメッセージを感じさせたのです。

さらに内村さんは、「代表が決まってから強い気持ちでやってきたつもりでしたけど、ホントに“つもり”だったのかなっていう……」「変にすっきりはしてますけど。でも、これまで準備してきたものを出せなかったのは本当に『悔しい』しかないです」と語りました。

競技終了直後であり、話しながら気持ちの整理をしている様子がわかるのではないでしょうか。自分の感覚を「“つもり”だったのでは?」と疑ってみたり、「話にならないほどの失敗ですっきりしている」と自虐的になったり、隠しきれない悔しさを率直に明かしたり。「今後の参考にしてほしい」と、まるで自分をサンプルとして後輩たちに差し出しているようなコメントに、キャプテンとしての責任がにじんでいたのです。

即効性の高い言葉で後輩を発奮させた

内村さんの後輩に向けたコメントは、まだまだ続きます。「代表選考をともに戦った米倉(英信さん)に土下座して謝りたいですね。本当にそんな気持ちです」と自分を責めつつ、出場できずに悔しい思いをした後輩を慮りました。

また、ミスの原因を尋ねられたときも、「試合は練習でやってきたことしか出ないんで。でも『練習でミスしたことない』ってところを踏まえると、『もうちょっと努力できたんじゃないかな』とも思ったり。でもミスしたことがないところでミスしたんで、『逆に面白いな』とも思っています」と語りました。これも「後輩が同じ失敗をしないように」という気づかいが感じられるコメントです。

内村さんは最後に、「僕はもう主役じゃないんで。団体の4人と決勝に残っている亀山(耕平さん)が主役ですね。オリンピックは今まで僕は2連覇していますけど、やっぱり過去のことだし、彼らたちが超えていかないといかないところだと思うんで、それを『今日(団体予選1位通過で)見させてもらった』って感じですね。凄いよかったです」と後輩を思うコメントで締めくくりました。

自分の実績をきっぱり「過去のこと」と明言できるビジネスパーソンはどれだけいるでしょうか。内村さんはそこにしがみつくのではなく、「自分を超えてほしい」と即効性の高いフレーズで言い切ることで、後輩たちの発奮を促していました。

実際に内村さんの結果を見て、コメントを聞いた後輩たちは、「航平さんほどの選手が努力を重ねたにもかかわらず、ショッキングな結末を迎えることがある」「オリンピックは何が起きるかわからない」と実感させられ、全員が気を引き締めたそうです。

さらに内村さんからエースの座を引き継いだ橋本大輝さんは、「僕が金メダルを取って、航平さんの首にかけたい。最高にいちばんきれいな色を、最高にいちばん似合う人に。そう思っています」と頼もしいコメントを語っていました。体操の日本代表チームに限らずこういう関係性の築ける組織は、全体のパフォーマンスを大きく下げることはないのです。

上野由岐子が語るメンタルの重要性

次にソフトボールのレジェンド・上野由岐子さんは試合後に、どんな思いで決勝に挑んだかを聞かれて、「これが“自分が背負っているもの”だと思っていましたし、このマウンドに立つために13年間いろいろな思いをしてここまで来られたと思います。そういう意味では『投げられなくなるまで絶対投げてやる』という思いで先発マウンドに立ちました」と語りました。

これは「『“自分が背負っているもの”=日本代表を金メダルに導くことを成し遂げたい』という強い気持ちがあったから13年間やってこられた」という素直な思いによるものでしょう。言い換えると、「どんなにスキルがあっても、それを生かすメンタルを強化しておかなければ生かせない」ということであり、「スキルばかりを磨こうとする人は成功を収められない」というビジネスパーソンにも通じる意味があるのです。

ただソフトボールは次回のオリンピックから再び競技から除外されることが決定しています。だからこそ上野さんは今回の金メダルについて、「13年という年月を経て『最後まで諦めなければ夢はかなう』ということを、たくさんの方々に伝えられたと思います。ソフトボールはまた次回からなくなってしまいますが、『また諦めることなく前に進んでいけたら』と思っています」とコメントしました。

ソフトボール日本代表を13年越しの金メダルに導いた上野由岐子さん(写真:ロイター/アフロ)

ソフトボール日本代表を13年越しの金メダルに導いた上野由岐子さん(写真:ロイター/アフロ)

自分がどういう形でソフトボールや日本代表チームに関わっていくのかは、まだわからないながらも、「とにかくあきらめない」「前に進むことをやめない」というファイティングポーズを崩していないのです。後輩の選手たちはもちろん、全世界のソフトボール選手や子どもたちにとって、何と頼もしい言葉でしょうか。やはりトップは、時に理屈や実現性などを無視した力強いメッセージが求められているのです。

終わった瞬間から何かがスタート

ウエイトリフティング女子49キロ級の三宅宏実さんは、まさかの「記録なし」で終わり、3大会連続のメダル獲得はならず。また、今大会で引退することを明かしていたため、競技終了後のコメントが注目を集めました。

涙の理由を聞かれた三宅さんは、「いろんな葛藤があるんですけど、最後の5度目の(オリンピック)チャレンジで失格しちゃったんですけど、本当に今日の舞台まで多くの人たちに励ましていただいて、無事に立つことができて……」とコメント。真っ先に周囲の人々への感謝を語ったところに誠実な人柄が表れていました。

さらに、「『少し自分の気持ちの弱さが出ちゃったな』というのがあったんですけど、でも『最後まで自分なりに一生懸命ベストを尽くせた』と思うので、この大会で無事に舞台に立てたということに、本当にうれしい気持ちでいっぱいです」とコメント。悔しさと反省をにじませながらも、それを上回る達成感をストレートな言葉で語ったのです。

日本のウエイトリフティング界を引っ張ってきた三宅宏美さんは今大会で引退へ(写真:東京スポーツ/アフロ)

日本のウエイトリフティング界を引っ張ってきた三宅宏美さんは今大会で引退へ(写真:東京スポーツ/アフロ)

今後のことについて聞かれた三宅さんは、「今のところは『ちょっとゆっくりしたいな』と思っているんですけど、本当にひとまずいったん。『次のことは何かしら終わった瞬間からスタートしている』と思っているので、『次の道へ走りたいな』と思います」と哲学的なフレーズで締めくくりました。

21年間もの競技人生に幕を閉じたばかりのタイミングで、「終わったのではなく、すでに何かがスタートしている」と語れたのは、「これだけ頑張ってきた私なら何かを見つけられるはず」という確信があるからでしょうか。

三宅さんは5度の五輪出場で、銀メダルと銅メダルを獲得したほどのレジェンドでありながら、メジャー競技ではないがゆえの難しさに悩まされ、ケガなども含めて苦しかったことも多い競技人生だったようです。最近でも、「コロナ禍で練習場が使えなくなる中、自宅のリビングで練習を続けてきた」という苦境を乗り越えてきたレジェンドの言葉だけに、何かを終えようとしている人にとっての心強いメッセージとなっていました。

カヌー・スラローム男子カナディアンシングルの羽根田卓也さんは、決勝で10位に終わり、前大会に続くメダル獲得はなりませんでした。

負けたことの意味や価値を見いだす

羽根田さんは、「東京オリンピックが決まってから、本当に自分のすべてを費やして今日という日を迎えることができました。決勝まで進んでここまでチャレンジできたのは選手としてこの上ない幸せだと思うんで、まずはこの舞台に挑戦できたことに感謝したいと思っています」と涙ぐみながら語りました。

さらに、「応援してもらっている以上は、『弱音を吐くなんて許されない』と思っていました」「みんなから求められていることを自分の生き様を通して、この日にすべてをぶつけられるように過ごしてきました」と感情の高ぶるままに話し続けたのです。羽根田さんは決して狙っていないのでしょうが、知名度も実績もある第一人者が感情をあらわにしたことで、見る人々を感動させたことは間違いありません。

また、羽根田さんは10位に終わったことであらためてメダル獲得した前大会の価値を再確認できたことも明かしています。ただ「負けておしまい」ではなく、「負けたことの意味や価値を見いだす」ことの大切さを教えてくれたのではないでしょうか。

競技のパイオニアであり、3大会連続決勝進出という結果も出しましたが、羽根田さんの競技に取り組む姿勢は、それ以上に素晴らしいものだったのかもしれません。

3大会連続でカヌー・スラローム男子カナディアンシングル決勝に出場した羽根田卓也さん(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

3大会連続でカヌー・スラローム男子カナディアンシングル決勝に出場した羽根田卓也さん(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

五輪王者が勝っても泣かない理由

今回は4人のレジェンドにスポットを当てましたが、若い世代のコメントにも目を引くものがありました。なかでも最後にぜひ紹介しておきたいのが、体操男子個人総合で金メダルに輝いた橋本大輝さんのコメント。

19歳の橋本さんは金メダルを決めたあと、「ここで涙を流してしまうと、今の状態に満足していることになってしまう」「チャンピオンは(勝っても)涙を流さず、常に前だけを見ているもの」と語り、涙を見せず堂々とした振る舞いを見せていました。その“チャンピオン”とはレジェンド・内村航平さんのことであり、偉大な先輩を超える個人総合3連覇を狙っているということなのでしょう。

レジェンドと新世代の選手がこれほどの姿勢で臨んでいるわけですから、東京オリンピックから、まだまだ学びのある名言が飛び出しそうです。

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提供元:「東京五輪レジェンド4人」メダルよりも凄い名言|東洋経済オンライン

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