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2021.07.28

グーグル銀行がコンビニ銀行を脅かしかねない訳|新たな金融サービス「Plex」とは一体何者なのか


グーグルの新たな一手は思わぬところへ波及するかもしれない(左写真:David Paul Morris/Bloomberg、右写真撮影:大澤誠)

グーグルの新たな一手は思わぬところへ波及するかもしれない(左写真:David Paul Morris/Bloomberg、右写真撮影:大澤誠)

グーグルが「Plex」と呼ぶ新しい金融サービスを開始した。いずれ日本でも導入されるだろう。これは、「組み込み型金融」と呼ばれるもので、銀行APIを通じてグーグルと既存銀行が共同作業を行う。

そこで得られるマネーの取引データを用いて信用スコアリングを行えば、送金・決済コストをゼロにすることが可能だろう。それは、銀行ATMに壊滅的な打撃を与える可能性がある。

昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第48回。

グーグルが新しい銀行サービスPlexを開始

しばらく前から、「シリコンバレーの大手IT企業が銀行業に進出する」と言われてきた。

最近、そのように見える動きが活発化している。

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※この連載の一覧はこちら ※外部サイトに遷移します

2020年11月、グーグルがPlexと呼ぶ新しい金融サービスを発表した。アメリカでは、2021年から正式導入された。

普通・当座預金の口座開設、デビットカードの発行、グーグルPay決済、個人間の送金、利用データ分析に基づくサービスなどが、1つのアプリで利用できる。

家計管理のパーソナル・ファイナンシャル・マネジメント(PFM)機能が付属しており、スマートフォンで撮影した領収書やGmailに送られたレシートを自動的に読み込み、カテゴリー別に家計簿にまとめてくれる。さらに、10万超の飲食店でアプリ経由の注文ができる。3万超のガソリンスタンドで給油が可能だ。毎月の口座手数料などはかからない。

日本では、スマートフォン決済の「pring」をグーグルが買収することが話題になっている。いずれ日本でも同種のサービスを提供するのだろう。

以上のことを表面的に見ると、確かに、IT巨大企業が、銀行業務に参入している。

では、これは、銀行業にとっての「黒船来航」なのだろうか?

実は、そうではない。

なぜなら、これはIT企業が独自で提供するサービスではなく、金融機関との共同作業だからだ。

グーグルPlexの場合、シティグループなど11の銀行が提携している。そして、銀行業務を担当する。

この仕組みの核になっているが、「オープンバンキングを知らない人に伝えたい基本」(2021年7月11日)で説明した銀行APIだ。これを通じてPlexは銀行口座にアクセスし、そのデータを利用する。

これは、組み込み型金融(または「埋め込み型金融」、エンベデッドファイナンス)と呼ばれるものだ。

「オープンバンキングを知らない人に伝えたい基本」(2021年7月11日) ※外部サイトに遷移します

グーグルと銀行は、お互いに自分が強いサービスを提供している。

銀行は、銀行業の免許を持っている。そのため、グーグルは、銀行の業務免許を持たないで金融サービスを提供できる。

他方で、グーグルは、非常に広い顧客との接点がある。全世界に数十億人という顧客を持っている。だから、金融機関から見れば、顧客を大幅に広げることができる。

支店を通じてではなく、グーグルを通じて銀行サービスを提供することになる。これは、銀行が銀行機能を外部の業者に提供するバンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)の一形態であると考えることができる。

「銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」

これは、ビル・ゲイツが1994年に言ったとされる有名な言葉だ。

BaaSでは、外から見る限り、銀行以外の主体によって銀行サービスが提供されるわけだ。ビル・ゲイツの予言が実現しつつあると言える。

以上を考えると、本稿の最初で「大手IT企業が銀行業に参入」と言ったのは、正確でないことがわかる。正確に言うと、「IT企業が銀行のライセンスを持たなくても、持ったのと同じようなことになる」ということである。

したがって、グーグルが日本でPlexを提供する場合には、銀行ライセンスを持った銀行と組む必要がある。どこを選ぶかが、今後の大きな課題となるだろう。

アップルやフェイスブック、アマゾンの動きは?

埋め込み型金融サービスは、シリコンバレーの巨大IT企業によって、すでに行われている。グーグルの進出は、遅いとも言える。

アップルは、2014年にアメリカの銀行であるグリーン・ドットと提携してApple Payを開始した。2019年にはゴールドマン・サックスと提携して新型クレジットカードApple Cardの提供を開始した。

フェイスブックは、2019年11月に、「フェイスブックペイ」を開始した(これはディエムとは別の事業だ)。

アマゾンは、2020年6月に、ゴールドマン・サックスと提携して、アマゾンに出店する販売事業者に融資枠を設定するプログラムを開始した。

仮にグーグルが日本で銀行振り込みのサービスを提供するとして、その料金がいくらになるかは、もちろん、まだわからない。

ただ、それをゼロにすることは不可能ではない。

なぜなら、マネーのデータを用いて収益をあげることができるからだ。

グーグルはPlexを発表した際の声明で「第三者へのデータ販売、ターゲティング広告のためにユーザーの取引履歴を共有したりすることはありません」と表明している。

しかし、「ビッグデータとして利用しない」とは言っていない。

マネーのデータを用いると、信用スコアリングを行うことができる。それを用いて融資事業を行えば、膨大な収入をあげることができる。

これは、中国の電子マネー、アリペイがすでに確立しているビジネスモデルだ。

そこからの莫大な収入があるので、顧客に手数料を求めなくても済む。仮にゼロにしなくても、従来の手数料よりは大幅に下げることが可能だろう。

個人情報保護との関係はどうか。匿名あるいは仮名情報とすれば、ビッグデータとしての利用は可能と思われる。

グーグルはデータに貪欲

これまでグーグルは、貪欲にデータを求めてきた。

グーグル傘下のサイドウォーク・ラボが2017年に発表した、トロントのウォーターフロント地区再開発プロジェクトが、その典型例だ。

あらゆるデータをサイドウォークが集め、そのデータを活用して、都市を運用することを計画した。個人情報は、もちろん厳格に保護される。公共の場で収集したデータは、匿名化して、個人を特定できないようにする。第三者へのデータの販売は絶対に行わない。

もっとも、このプロジェクトは、2020年5月に断念を余儀なくされた。「カナダはグーグルの実験マウスではない」とか、「監視資本主義の植民地化実験用」だなどと、データの利用について不安に思う人が、増えてきたからだ。

しかし、サードパーティークッキーの廃止など、これまでのビッグデータビジネスが行き詰まりをみせているいま、新しいビッグデータ源の開発はグーグルにとって喫緊の課題であるに違いない。そのグーグルが、金融サービスに参入しながらそのデータを活用しないことなど、およそ考えられないことだ。

このような形態の金融サービスが現れると、既存の銀行には多大な影響を与えるはずだ。

とくに問題なのは、ATMを使った振り替えだ。

口座振り替えの手数料がかなり高い中で、料金がゼロ、あるいは非常に低い送金・決済が可能になる。しかも、スマートフォンの操作だけでできるので、銀行窓口やATMの所在地まで出向く必要もない。だから、ATMの利用者は激減するだろう。

コンビニ銀行には大きな影響

既存の銀行にとっても大きな影響があるが、とくに問題となるのは、ATMの送金手数料を収入源としてきた銀行だ。セブン銀行やローソン銀行、イオン銀行などがそれにあたる。

セブン銀行は、2001年に設立された。そして、従来の日本の銀行の基本的なビジネスモデルである「預貸金利鞘モデル」とは異なるビジネスモデルを確立した。店舗にあるATMの手数料を基本的な収入源としたのである。

このビジネスモデルは成功し、高い収益率を上げた。そして、低金利により伝統的な銀行のビジネスモデルであった「預貸金利鞘モデル」が、金利の低下で破綻しつつある中で、銀行の新しいビジネスモデルとして成長が期待されてきた。

そして、実際に、これらの銀行は成長した。経常利益を見ると、前述の銀行はすべて黒字である。セブン銀行は地銀トップ5に入る水準であり、ほかも地銀中位行に匹敵するレベルの利益水準を確保している。

ところが、最近になってこのビジネスモデルの環境が大きく変化している。

数年前から、手数料収入の伸びが鈍化しているのだ。

そして今後は、上述のような巨大な競争相手に直面することになる。グーグルPlexのようなサービスが広く使われるようになると、ATMを使う人は極めて少なくなってしまうかもしれない。ATM収入に依存する銀行が生き残るのは至難の業となりかねない。

グーグルPlexの影響はあまりに大きい。

アメリカのバイデン大統領は、7月9日、大企業による寡占の弊害を正すための大統領令に署名した。その中には、「大手IT企業による消費者金融参入の影響の調査」も含まれている。アメリカでは今後、Plexのようなサービスは規制されるのかもしれない。

しかしそれは同時に、消費者が利用料の安い金融サービスを利用できなくなることを意味する。

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提供元:グーグル銀行がコンビニ銀行を脅かしかねない訳|東洋経済オンライン

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