2021.07.14
成城石井「ピスタチオスプレッド」激売れの舞台裏|発売1年経っても売れ続けている理由はどこに
成城石井で昨年4月に発売されて以降、売れ続けているイタリア製のピスタチオスプレッド(写真右)と、今年5月下旬に発売されてこれまでに16万個を売り上げるヒットとなっている自社製のピスタチオプリン(写真左)。巷ではピスタチオを使った食品がじわじわと増えている(撮影:梅谷 秀司)
ピスタチオを使ったスイーツが、最近増えている。近所のコンビニを回ったところ、セブン‐イレブンでは、森永乳業のピノのピスタチオ味やプライベート・ブランドのクッキーが並ぶ。ファミリーマートではプリンが、ローソンではなんとロッテのアイスクリームコーン、井村屋のケーキアイス、シューアイス、と3種類もアイスがあった。
こうした中、昨年ごろから爆売れしているのが、成城石井のイタリア製「スタチオスプレッド」だ。2020年4月に発売されたスプレッドは971円と安価ではないにもかかわらず売れ続けており、2021年前半も同社のレトルト食品や調味料といったドライ加工品部門で6000品目中1位を獲得。「ドライ加工品では異例」というほどの大ヒットとなっている。
「パンに塗る」以外の使い方があった!
当初、同社は「パンに塗る」といった”普通”の使い方を想定していたが、SNSではユーザーがドリンクや和菓子を作ったり、アイスクリームに載せたりとさまざまなレシピを紹介。テレビや女性誌などでも紹介されているほか、「奥さまが買ってきて冷蔵庫に入れていたら、旦那さんがハマってしまって、実は1週間で1ビンなくなってしまう、というお客さまもいます」(バイヤーの坪井元課長)。
インスタグラムで「ピスタチオスプレッド」で検索すると、さまざまな投稿が出てくる
同社の「ピスタチオ旋風」はこれで終わらない。ポリコムのスプレッド人気や他社製品登場を受け、5月24日に自社製造の「成城石井自家製ピスタチオプリン」も323円で発売。こちらもデザート部門第1位、発売1カ月間で約16万個を売るヒット商品となった。
実はピスタチオの扱いは容易ではない。「ピスタチオのペーストを多くし過ぎるとプリンが固まらず、中まできれいに焼けないのですが、分量を限界まで増やし、しっかりピスタチオの味が楽しめるようにしました」と坪井課長は話す。
スプレッドにも越えるべきハードルがあった。坪井課長は「以前から海外の展示会で、ピスタチオの加工食品は非常に魅力的だと思っていたのですが、これまではほぼ扱っていませんでした」と話す。ピスタチオなどのナッツ類は、アフラトキシンという自然由来のカビ毒がつくことがある。日本の食品衛生法では、輸入時の検査で規制値を超えると流通ができなくなるため、取り扱いが難しい食品なのだという。
そんな折、ピスタチオスプレッドを、製造元のイタリア企業ポリコムからすすめられたのは、2019年5月に開催されたイタリアの食品展示会。買い付けには成城石井の原昭彦社長自身が、バイヤーの育成を兼ねて出かけていた。「社長はナッツが大好きですし、お客さまの支持が高いカテゴリーということもあり、ナッツ製品を積極的に探してはいました」(坪井課長)。
ポリコム自体もナッツ製品を長年扱ってきた実績があった。そこで日本の第三者機関にも検査を依頼し、お墨つきを得てから輸入に踏み切った。ポリコムにも原料および製造後にも、ロットごとに検査をしてから出荷してもらっている。
臨機応変に対応し、輸入が実現できたのは、成城石井が東京ヨーロッパ貿易という輸入子会社を傘下に持ち、商社を介さずに直接輸入できる強みを持っていたからだ。
1000円を切る価格にこだわった
大ヒットにつながった要因はいくつかある。1つは、すでに2018年ごろからスイーツの世界ではピスタチオブームが広がっていたことが挙げられる。ディーン&デルーカのピスタチオクリームが売れ、昨年8月には東京駅構内にピスタチオスイーツ専門店ができていた。
もう1つは、従来製品に比べてリーズナブルなことだ。実は成城石井は、過去にもピスタチオスプレッドを扱ったことがあった。しかし、ボトルサイズは今回のものより二回りも小さいのに2000円ぐらいと高価だったことから、あまり売れずに販売を終了していた。
価格が高めになりがちなのは、「ピーナッツペーストやアーモンドミルクといったほかのナッツの加工品と比べ、市場に出回る量があまりにも少ないため、割高になっている」と坪井課長は話す。
坪井課長は今回、「1000円を超えた価格設定でもおかしくないという議論になったのですが、ギリギリのラインで設定しました。それは、ピスタチオ商品を定着させる基礎を、このスプレッドで作りたかったからです」と話す。ピスタチオスプレッドは賞味期限が製造から1年と、通常の輸入ジャムに比べて短いこともあり、価格を抑えることで商品の回転数を上げたい、という思惑もあった。
価格を抑えられたのには、前述の通り、自社で直接輸入していることにもよる。「自社で商社機能を持っていることにより、中間マージンを省いたり、スピーディに対応することができ、お値打ち価格に設定することができる」と、バイヤーの坪井課長は説明する。
思い切った価格設定は、大ヒットにつながった。発売と同時にスプレッドの噂は広がり、予想の1.7倍売れる好調な滑り出しとなった。そこへテレビで紹介されて、人気が爆発。1人1個の販売制限をかけたが、発売1カ月で欠品する事態に。すぐに追加のオーダーをかけたものの、2カ月間店頭に並ばない状態になるほどだった。
坪井課長は、ピスタチオスプレッドの魅力について、「味と色です。香ばしくて濃厚で、香りが独特でクセになる」と説明する。「売り場でイチゴやブルーベリー、アプリコットなどのジャムと一緒に並べたときに、緑色がないので目立つ」。
目新しい食品を求める人が増えている
確かにピスタチオには、個性的な香りと味、色がある。今までなかったタイプの食品だからこそ、今回ヒットしたのだろう。「ナッツの女王」と言われるピスタチオは、地中海沿岸の砂漠が原産地。やがてヨーロッパにも広がったが、アラブ系、アルメニア系、トルコ系の人々だけに愛される期間が長かった。日本でも、以前はあまり知られていなかった。
緑色が特徴的な「ナッツの女王」ピスタチオは、健康的という観点から世界でも需要が増えている(写真:horiy/PIXTA)
成城石井のピスタチオスプレッドには、品質が安定しているイラン産のピスタチオが使われている。現在でもピスタチオのイランのシェアは世界一だ。栄養価も高く、食物繊維、ビタミンB1、カリウム、鉄、銅などが多い。
最近、スパイスカレーやジョージア料理のシュクメルリ、中東調味料のハリッサなど、クセの強い味が、次々と流行している。現地で体験してきた人や日本の外国料理店などで世界各地の味に親しむ人が増え、目新しい味を求める好奇心旺盛な人が増えている。もはや、日本人はシンプルな味に飽きたらず、よりスパイシーな味も好むようになっているのである。
また、緑色は日本人が長く親しんできた食品の色であり、近年流行する食にも多い。最近存在感を増している抹茶味のスイーツはもちろん、2016年頃が流行のピークでその後定着したパクチーも緑。3年前に人気が爆発したチョコミントのミントカラーも、緑のバリエーションの1つ。スモーキーなピスタチオカラーは、新鮮かつ親しみやすい新しい緑色の食品として受け入れられているのではないだろうか。
成城石井では、新しいピスタチオ加工食品を探し、導入したいと意欲的である。チョコミントがそうだったように、ピスタチオもやがて定着し、数ある緑色のフレーバーの1つになっていくのだろう。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:成城石井「ピスタチオスプレッド」激売れの舞台裏|東洋経済オンライン