2021.07.01
溶けにくい「出前クリームソーダ」意外な開発秘話|冷凍庫から出して30分経っても液状化しない
ロッテリアではアフターコロナに向け、イートインとテイクアウト・デリバリーの両輪で商品力アップを狙う。写真は原宿竹下通りイースト店(筆者撮影)
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もはや当たり前の食事スタイルとして定着したテイクアウト、デリバリー。自宅でレストランの味を楽しめるのは便利で楽だが、やはり、「熱い物は熱いうちに、冷たいものは冷たいうちに」というおいしさの大原則をこれらの形態で守るのは物理的に不可能である。
しかし、それを当たり前とせず、可能な限りおいしさを追求する試みを行っている飲食店もあるようだ。
「出前クリームソーダ」とは?
ロッテリアでは4月22日より、デリバリー用のフロートドリンク「出前クリームソーダ」を出前館の東京対象16店舗において販売開始。6月下旬までの期間限定としていたが、予想以上の反響を受け、7月1日以降も店舗を75店舗に拡大し、9月下旬まで期間を延長して販売する。
4月22日より発売した「出前クリームソーダ」。軽減税率8%税込価格550円(筆者撮影)
クリームソーダと言えば、氷をたくさん入れた炭酸飲料の上にアイスクリームやソフトクリームをのせた飲み物。アイスクリームは非常に溶けやすいため、クーラーボックスなどを使って運んでも形状を保てない。一般的に商品輸送には、マイナス20〜30度に庫内を保てる、専用の冷凍車が使われている。
それほど温度に敏感な食品を出前にするのは不可能に思える。しかしロッテリアでは「溶けにくいアイス」を採用することでこの問題をクリアした。
「溶けにくいアイス」とは何か? そしてなぜ、そこまでしてクリームソーダを出前することにこだわったのだろうか。
ロッテが業務用として3月1日に発売した「とけにくいアイス ゆったりバニラ」。ゼラチンを使用し、時間が経っても型崩れしにくい。学校や高齢者施設、飲食店への展開を予定している(写真:ロッテ)
ロッテリア広報担当は次のように説明する。
「当社では毎年の夏、メロンソーダにアイスをのせたクリームソーダをご提供してきました。2021年の夏も新しいクリームソーダを何かご提供できないか、そしてコロナ禍でも、デリバリーやテイクアウトで楽しんで頂けるものを開発できないか、と考えていたときに『とけにくいアイス ゆったりバニラ』との奇蹟の出会いがありました」(ロッテリア、マーケティング部広報・宣伝チームリーダーの小島啓太氏)
「とけにくいアイス ゆったりバニラ」とは、同グループに属するロッテが業務用として2021年3月1日に開発した商品だ。安定剤としてゼラチンを使用しており、冷凍庫から出してしばらく置いても、液状化しにくい構造となっている。
スプーンですくえないぐらいの硬さ
本当だろうか。試食してみた。
最初に一口、ソーダの清涼感を楽しんでから、アイスにスプーンを入れる。スプーンでほとんどすくえないぐらいの硬さだ。ほんの少ししか口に入れられないため、味はまだわからない。
30分ほど置いてまた挑戦した。実際にデリバリーしてもらった場合は、ちょうどこのぐらいの時間が経った頃に食べ始めることが多いだろう。形状がほとんど変わっておらず、外見からは溶けているように見えない。しかしスプーンを立てると、ふわっとした感触に変わっており、中までスプーンを入れることができた。バニラアイスのミルキーな味が口に広がる。溶けてソーダに混ざったところを味わうのはお約束の楽しみ方だ。
ただ普通のクリームソーダで味わうような、最初口にひんやりとした感じが広がり、食べるにつれ頭がキーンとなるような感触はない。歯にもしみない、やさしい食感のクリームソーダといったところだろうか。
またクリームソーダでは、溶けたアイスが飲み物の氷と癒着してブロックアイスのようになり、最後まで食べられなくなってしまうことがよくあるが、この商品ではそういった事態は起こらなさそうだ。
この「とけにくいアイス」の開発背景をロッテに聞いたところ、開発の出発点となったのが高齢者施設からの要望だそうだ。
「高齢者施設の利用者様の中には、食事に時間がかかったり、介助を要する方もいます。また施設としても、限られた時間で多くの利用者に配膳しなければならないため、時間経過で変化しやすい食べ物は提供しにくい。そのためデザートやおやつと言えば、プリンやゼリーのような溶けない食品が選ばれ、アイスは不向きと考えられてきました。
しかし一方で、デザートとして食べたいものとして、アイスを挙げる入居者様が多かった。そして、提供する側としても、のどに詰まりにくく、栄養価も高いアイスを提供したい、という思いがあったようです。こうした状況を受けて、溶けにくいという特徴を備えたアイスの開発に挑戦することとなりました」(ロッテ、コーポレートコミュニケーション部広報課の吉政伸吾氏)
高齢者施設以外にも業務用チャネルでの市場を開拓するため、まずロッテリアに話を持ちかけたということのようだ。
そしてロッテリア側でも、コロナ禍で拡大してきた新しい販売チャネルであるデリバリーの開拓のため、同社初の取り組みとして注目し、すぐに採用が決まったらしい。
なぜクリームソーダにこだわったのか
ロッテリアが特別にデリバリー対応を考えるほどクリームソーダにこだわったのは、近年のクリームソーダ人気が理由。
ロッテリアの夏の“鉄板”、クリームソーダ。イートインの場合390円(写真:ロッテリア)
「飲食チェーンというものは、気温の変化に応じて提供ドリンクの展開を考えていきます。もっとも高い温度帯の商品がアイスクリームや炭酸飲料なのですが、それらが合わさったクリームソーダは『鉄板』なんです」(小島氏)
クリームソーダには、老若男女を問わず惹きつける、普遍的な魅力があるのだという。昔ながらの喫茶店で提供される飲み物のため、年配の客層には郷愁を呼び起こす。また“昭和レトロ”は今、若い世代で人気が高い。
1つには、鮮やかな色合いやキッチュなデザインが写真映えすることが大きな理由となっている。
また、当時を経験していないはずの年代にも、なんとなく温かさ、懐かしさというものを感じさせるらしい。
メロンソーダの緑色にトッピングしたさくらんぼの赤と、反対色で構成されているため非常に印象的であり、かつ昭和レトロ感を醸し出す。
「また、なぜかこの緑色のメロンソーダはあまり市販されていないようなので、喫茶店などでしか見られないし、食べられないという希少性もあるように感じます」(小島氏)
今は新型コロナウイルスの影響で遠出も制限されている。こうした昭和レトロ感あふれるアイテムの写真を撮ってSNSにアップすることで、タイムスリップしたような非日常性を得られるのかもしれない。
出前クリームソーダは冒頭にも述べたように、想定以上の反響を得ることができ、販売好調店舗では当初目標の2.5〜3倍の売れ行きとなったそうだ。また提供範囲が限定されていたため、それ以外の地域からの問い合わせも多く寄せられた。
どのような客層からの注文が多かったのだろうか。
「出前館を利用する客層は30〜40代がメインで、あとは20代。単身者が多いと聞いています。ですので、出前クリームソーダをお求め頂いた客層もそう変わらないと考えています。デリバリーの食事を1人で食べていても、写真をSNSにアップすれば、他者と『つながる』ことができる。そんな楽しみ方が一般的になっているようです」(小島氏)
デリバリーが定着すると予想
しかし同社がデリバリー用のクリームソーダを開発した理由は、ユーザーニーズのためだけではない。ファストフードチェーンのビジネスモデルでは、例えばハンバーガー単品を販売したのでは利益が出ない。ハンバーガー、ポテト、ドリンクの3点セットで注文してもらうことが重要なのだ。
しかしテイクアウトやデリバリーではどうしても、ドリンクの注文比率が低下するのだという。デリバリーにおいても、希少性、付加価値ともに高いドリンクを展開することが至上命題だったのだ。
というのも、同社では今のイートインとテイクアウト・デリバリーが併存する状況が常態になると考えているためだ。ワクチン接種の普及などにより感染状況が改善してからも、新しい様式としてデリバリーが定着すると考えており、テイクアウトやデリバリーにさらに注力していく。
その1つが、「時間が経っても味が落ちないメニューの研究開発」だ。今回の出前クリームソーダはその第1号なのである。
室温25度の環境に置いた場合の変化。30分経つと形状にややゆるみが見られ、スプーンが入るぐらいのやわらかさに(画像:ロッテ)
ファストフードは提供スピードが勝負なだけに、冷めると味が落ちる度合いが他の料理に比べて大きいと言える。その常識を覆すのが同社の目標だ。
同時に、アフターコロナで消費がイートインに戻ったときのために、イートインのメニューにも競争力の高い商品を展開していくという。「できたてこそがおいしい」、あるいは「ライブ感」「体験型」といったことがキーワードになるだろう。
多くの飲食店ではまだ打撃から逃れることができていないが、テイクアウト、デリバリーに強い業態ではコロナ禍も好調だった。今、アフターコロナ社会に向けて各社、水面下での競争が始まっているようだ。
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提供元:溶けにくい「出前クリームソーダ」意外な開発秘話|東洋経済オンライン