2021.05.17
「家庭の野菜炒め」べちゃっと仕上がる根本原因|火加減は最初から最後まで「ほぼ弱火」で大丈夫
簡単そうで難しい野菜炒めをうまく作るには(写真:オクケン /PIXTA)
野菜炒めも、トンカツも、ハンバーグも、冷たいフライパンから弱火で作ったほうがおいしくなる――。『家庭の鶏肉「ジューシーに焼き上げる」簡単ワザ』に続いて、科学的な根拠に基づいた調理方法を教える料理研究家・水島弘史氏の書籍『読むだけで腕があがる料理の新法則』より一部抜粋・再構成してお届けします。
『家庭の鶏肉「ジューシーに焼き上げる」簡単ワザ』 ※外部サイトに遷移します
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ゆっくりと火を通す、という調理法は肉に限りません。野菜でも同様です。野菜の加熱調理といえばまずは野菜炒めですが、これは「強火で手早く歯ごたえを残して仕上げる」のが鉄則と言われてきました。けれど、これは中華料理のプロが中華鍋を使って作る場合の手法です。
中華料理は単純な強火調理、高温調理ではありません。炎が高く上がる強い火力を持つコンロと、独特な形状の中華鍋、さらにその鍋をあやつって振り食材をあおる腕力と技術があって初めて「強火で高速」が実現できるのです。
家庭のコンロ、普通のフライパンで一般の方が野菜炒めを作るのであれば、肉と同様、弱火での調理をすすめます。この方法を最初にご紹介したときは、かなり非常識に見えたようですが、まったく理屈に反するものではありません。
最初に手順をご紹介します。一番単純な塩だけの味つけの例です(しょう油も加えたい場合は塩の量を減らしてください)。
冷めても、温め直しても水っぽくならない弱火野菜炒め
材料
●ニンジン、もやし、キャベツ、ピーマンなど好みの野菜……400g
●塩……2g ●しょう油……1g ●酒……8g ●サラダオイル……10g
●ごま油……5g
作り方
(1)大きさをそろえてすべて細切りにする。
(2)切った野菜をすべて冷たいフライパンに山盛りに入れる。
(3)野菜全体にサラダオイルをかけて混ぜる。
(4)フライパンを弱火にかけて加熱を始める。
(5)ときどき菜ばしで野菜の上下を入れ替えながら、弱火のまま約8分加熱する(入れ替えるのは数回でじゅうぶん)。
(6)塩と酒を加えて弱火のまま2分程度加熱し、最後に火を中火に上げてからしょう油、ごま油を加え、約20秒炒めて完成。
加熱する時間はフライパンいっぱいの野菜で、だいたい8~10分ほどでしょう。食べてみて一番固いものが好みの食感になった段階で火を止めてください。
ゆっくり加熱すれば、もやしとニンジンを同時に入れても、ニンジンにほどよく火が通るころになっても、もやしやキャベツが焦げたりヘナヘナになったりはしません。どうしてもニンジンをよりやわらかくしたい場合は、あらかじめ下ゆでしておいてもいいでしょう。
このレシピの肝は「冷たいフライパンに切った野菜を全部入れてしまう」「最初から最後までほぼ弱火」という点です。こんな作り方をして、野菜がベチャベチャにならないのか、と思うでしょうが、ぜんぜんなりませんので、一度ウソだと思ってお試しください。
家庭の野菜炒めのよくある失敗
野菜、つまり植物も、肉と同じように細胞からできています。そして細胞は細胞壁で覆われてその中の液胞中に水分が保持されている。
水分をできるだけ外に出さずに仕上げる調理法として、もっとも「有効」なのは、生で食べることなのですが、炒めて食べたいという場合に「どこを目指すか」が問題になります。加熱すれば、どうやっても肉も野菜も細胞が50度前後で変性を始め、水分は失われていきます。
肉と野菜で違うのは、肉の場合は筋肉部分が固くなるのですが、筋肉を持たない植物の場合は水分を失うと、ほとんど形がなくなってしまうということです。塩をふると浸透圧でみるみる野菜の水分が外に出てきて本体はヘナヘナにやわらかくなります。
野菜を加熱する場合も同じように水分が失われ、それにともなってやわらかくなり、崩れていく。これが「歯ごたえがなくなっていく」ということです。
家庭での野菜炒めのよくある失敗は「ニンジンに火が通るころに、もやしが焦げる」「キャベツがフライパンに張り付いて焦げる」「手早く作ったつもりでもシャキッとした歯ごたえが残らない」「手早く作りすぎて全体に生っぽい」「全体的にべちゃっとする」などです。
冷たいフライパンからの弱火加熱だと、たしかに強火よりもずっと時間はかかります。けれど、これらの失敗はほぼ避けることができます。
時間がかかるのが欠点と思うでしょうが、弱火で放置しておくだけなので、つきっきりでフライパンに目を光らせている必要がないため、その間にほかに1品作る、洗い物をしてしまう、というマルチタスクが簡単にできますから、その意味では「時短」になるとも言えます。
「べちゃっとした野菜炒め」を回避するには
腕力のない人が中華鍋をコンロに置いたままで炒め物をすると、非常に焦げやすくなります。「強火では焦げてしまうから」と、中途半端な中火で時間をかけて炒め続けていると、どんどん野菜の水分が出て、べちゃっとした野菜炒めになってしまいます。
野菜の歯ごたえをなるべく残して加熱する方法として考えられるのはふたつだけ。高温を使い短時間で仕上げるか、低温で長時間かけて仕上げるかの、どちらかです。
前者は中華料理店の野菜炒め、後者は今おすすめした方法です。仕上がりの食感には違いがあり、前者は歯ごたえがより強く、後者は歯ごたえの点ではやや劣ります。しかし、野菜の旨味は後者のほうがより感じられます。
これは「どちらが優れているか」というよりも、好みの差ということになるでしょう。ただしここでいう強火の野菜炒めは、プロが中華鍋をあおりながら作った場合を想定しています。当然ですが正しい方法で作れば、強火でも弱火でもおいしく作れるということ。
では同じフライパンで、火加減だけを変えて比較してみましょう。同じ材料、同じフライパンを使って「弱火野菜炒め」と「強火野菜炒め」を作ってみました。強火野菜炒めのほうは、この本の担当編集者の女性に「いつも家でやっているように作ってください」と頼んで作ってもらったものです。
強火野菜炒めと弱火野菜炒めの比較
A 油をひいて熱したフライパンに野菜を入れ、強火でなるべく短時間で炒めた場合
B 冷たいフライパンに野菜を入れて油を回しかけ、弱火で炒めたもの
できあがり直後と、30分後に比較すると、かなりの違いがはっきりと見た目にもわかります。
まず、強火炒めのほうは、明らかに「かさ」が減っています。つまりかなりの水分が出てしまっているようで、完成直後からすでにお皿の底に水分がたまっていました。
もうひとつ目立ったのは、野菜の色です。今回はキャベツを入れたのですが、葉の緑色はすっかり失われています。また、フライパンに張り付いてしまったキャベツはやはりあちこち焦げてしまっていました。
歯ごたえについては、キャベツの固い部分は「ガリッ」という食感が残る(ちょっと残りすぎ)のですが、もやしは炒める前よりずいぶん細くなってしまいました。
さらに30分ほどそのまま置いておくと、水分がさらに出てきてかなりベチャベチャになってしまいます。
栄養素も保持しやすい
弱火炒めのほうは、ニンジンやキャベツの固い部分には歯ごたえが残っているものの、キャベツの葉は炒める前よりも緑が鮮やかになり焦げている部分は見あたりません。30分おいても、ほとんどお皿に水分は出てきませんでした。
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食べ比べてみると、できあがり直後は強火炒めのほうも、「まずい」というほどではないのですが、やはり水っぽく、野菜の味よりも焦げた味を感じます。
時間をおいてからの違いのほうが歴然としており、弱火炒めは水が出てこないので前日に作ってお弁当に入れてもまったく問題がありません。温め直しにも非常に向いている作り方だといえます。
また水分流出が少ないということは栄養素も保持しやすいということでもあり、さらに食材周辺に流失する水分が少ないため雑菌が繁殖しにくく、冷蔵庫保存にも向いています。
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提供元:「家庭の野菜炒め」べちゃっと仕上がる根本原因|東洋経済オンライン