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2021.05.10

健康被害ないけど気になる「スマホのカビ」生態|画面ではなくカバーと本体の隙間に発生する


スマートフォンにもカビは発生します(写真:Daniel Krason/PIXTA)

スマートフォンにもカビは発生します(写真:Daniel Krason/PIXTA)

少しでも水分のたまったところがあれば出現するカビ。実はスマートフォンにも生息域を広げています。その生態についてカビの専門家である浜田信夫氏が解説します。

※本稿は浜田氏の近著『カビの取扱説明書』を一部抜粋・再構成したものです。

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春や冬でもカビは発生する

カビといえば梅雨と結び付けて考える人が大半だろう。たしかにカビは水分がないと死んでしまうので、その考えは間違いではない。とはいえ、今や日本は梅雨だけではなく、秋には台風や大雨の被害が相次いでおり、秋もカビ被害が多く報告される季節になっている。では、春や冬は安心かと聞かれれば、まったくそんなことはない。

カビはスキあらば、どこにでも顔を出す。意外な場所に生えることも多い。その理由はカビの胞子が数ミクロンと、非常に小さいからである。少しでも水分の溜まった所があれば、胞子はどこからともなく侵入して、いつの間にか大きくなって私たちを驚かす。

2010年代になって、スマートフォン(スマホ)が私たちの生活に新たに登場して君臨している。この文明の利器にも、カビは生息域を拡げようとしている。

頻繁に指で触れるスマホの画面は、トイレの便座以上の細菌が付着していることがあると細菌学者はいう。しかし、カビ汚染があるのはこの部分ではない。スマホの本体に傷が付かないように、その裏側にとりつけたプラスチックのカバーの方だ。このカバーと本体との間でカビは発生する。本体とカバーの隙間は狭く、汗などの水分が溜まると抜けにくいからだ。

また、カビの栄養源になるホコリや汚れが内部に徐々に蓄積するから、使用年数とともにカビが増える。機種によってはカバーを外しにくいものもある。掃除をしないまま使っていると、カバーの内側はカビの巣窟(そうくつ)になりかねない。

今日の若者の多くは、寝るとき以外は手に握りしめるか、胸やズボンのポケットに入れている。ほかには何も持たず、スマホだけで街を闊歩(かっぽ)する人もよく見かける。中には、浴室にまで持ち込む猛者(もさ)までいる。ヒトは体全体から多量に発汗するため、スマホも濡れやすい。

このような使い方をするスマホのカバーは要注意だ。カバーを取ってしまえばいいのだが、落としたときに壊れないためと、汚れ防止にカバーは手放せないようだ。

スマホのカビは見ることができる

多くの人々はスマホのカビは見えないと思っているが、これは誤りである。スマホのカビはよく見える。コクショクコウボやクロカビ(=クロカワカビ)などの黒いカビが多く、目立つ。小さな蜘蛛(くも)の巣のように生えていて汚れの塊も見える。肉眼で確認できなくても、10倍のルーペで見れば間違えることはない。

スマホカバーには、カメラ用などいくつかの穴が開いているが、穴の周りを取り囲むように、カバーの表面に直接生えていることもある。穴の部分から水分が侵入するので、水源を囲むようにカビが生えるのだろう。

さらに繊維埃のようなものが、カバーの湾曲した部分に溜まっているのをよく見かける。細い繊維の上に網状の菌糸の塊が見える。ホコリが水を蓄えてカビの温床になっているのだ。カビは、繊維に付着した汚れや汗の成分を栄養にしている。定着すると、カバーの成分であるプラスチックなども栄養にする。

スマホに生えるカビにも季節変動がある。夏より冬の方が多い。スマホは少し発熱しているから、冬でも暖かい。スマホを握りしめていたら温度はさらに上がるため、カビの繁殖には好適なのだ。一方、夏は、カバーの内部が暑くなりすぎて、カビはバテて減ってしまう。今の季節は元気だったカビがだんだんへたってくる時季といえる。お餅のカビと同様に、スマホのカビは冬の風物詩といえる。

2014年の春、私はスマホカバーのカビについての調査を行った。すると1台のスマホカバーで、最高56万個のカビの胞子が検出された。このカビ数は栄養が少ない環境にしては多く、同じ面積のフローリングのカビ数(最高4.7万個)の約10倍、浴室の壁(最高450万個)の約10分の1であった。

ここに生えるカビは怖いものだろうか。カバーの内側のカビは外部に漏れることはほとんどないので、健康に影響があるとは考えられない、というのが、私の見解である。

環境中のカビによる主な健康被害は、胞子を大量にかつ継続的に吸い込んだ場合のアレルギー疾患だ。一時的に大量に胞子を吸い込むことは日常生活ではあるし、どれくらい吸えば健康被害が起きるかは、医学的に数値で表現することは難しいようだ。

正しい知識を持っていない医学博士は多い

スマホカバーのカビについて論文を発表したところ、あるテレビ番組でインタビューを受けた。私は「健康被害はないだろう」といつものように答えた。ところが、その番組のヘッドラインでは、健康被害がある、となっていた。私のコメントとは正反対である。

どういうことなのか? 驚きながら番組を見ていたら、私のインタビューは採用されず、ある医学博士が「スマホカバーのカビは健康被害の恐れがある」とコメントしていた。そして私の出番はなかった。「害はない」と言うより、「被害の恐れがある」としたほうが視聴率を稼げるからかもしれない。一方で、カビの健康被害について正しい知識を持っていない医学博士は多いと、私は思っている。

対策としては、カビは乾燥を嫌うので、カバーを外して洗って干すことを心がけよう。夜の間はせめて手から離して干しておきたい。

スマホのカビの研究は、新聞で紹介されたこともあり、テレビの取材依頼が何件かあったが、撮影では毎回苦労した。どこのテレビ局もカビの特集は梅雨時に放映したがる。

しかし、そのころには、スマホのカビは減少する傾向にある。先ほど述べたように、スマホのカバーのカビの季節は冬であり、梅雨ではすでに暑くなり過ぎているのだ。そのことをテレビ局に一所懸命に説明してもなかなかわかってもらえない。

また、ディレクターはなぜか、街頭に立って道行く人に、「スマホを見せてもらえませんか?」というロケの映像を撮りたがる。所有者からOKをもらうと、私が外したスマホカバーをルーペで覗く役をする。これまでにそういったロケに3回も付き合った。

とはいえ、立派にカビの生えたスマホはなかなか見つからない。梅雨時や夏の最中に、街頭で長袖の白衣を着て、汗だくになってカビを探すのは、身も心も消耗する。いい歳をしてと、情けなくなる。

実はこのスマホカバーのカビ調査は、私の研究生活において最も楽な調査の1つだった。

大学の講義が終わった後、学生に、「これからスマホのカビを調べたい。協力してもよいと思っている人は、私のところに持って来てください」とお願いする。協力してくれる学生に並んでもらい、調査用のふき取りキットを使って、カバーの裏側のカビを次々に採取していく。ベルトコンベアーのように、貴重なサンプルが向こうから来てくれるのだ。15分ばかりの間に、50余りのサンプルが集まったこともある。

多くの学生が素直にボランティアに協力してくれたのには、もちろん秘訣(ひけつ)がある。協力してくれれば、試験の採点にボランティア加算をすることを少々匂わせたのである。

カビを培養して気づいた異変

そんなある日、カビが生えているスマホカバーが持ち込まれたので、さっそくカビの部分を培地に移植して培養を始めた。3日ほど経ってからカビの成長を観察した。

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『カビの取り扱い説明書』(KADOKAWA) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

そのとき、ある異変に気付いた。生えているカビのコロニーの上で何か小さいものが動いている。それも1匹だけでなく、あちこちのコロニーに群がっていた。ルーペで覗き込むと、いずれもカビを餌にするケナガコナダニだった。

カバーの内側にダニが侵入するのだろうか? 私は不思議に思った。そこで、スマホの持ち主に、使用状況について聞いてみることにした。持ち主は1歳の赤ちゃんの母親だった。彼女が言うには、娘がいつもスマホで遊んでいる。そして、食べ物カスのついた手で触ったり、スマホをしゃぶったりしているという。

湿った栄養分が供給されれば、カビ汚染だけでなくダニ汚染も起きることを知ったのである。

記事画像

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提供元:健康被害ないけど気になる「スマホのカビ」生態|東洋経済オンライン

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