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2021.03.22

鉄道車両「定員オーバー」してもなぜOKなのか|乗客1人当たりの重さは何キロを想定している?


山手線E235系の車内。鉄道車両の定員はどのように決まっているのだろうか(撮影:風間仁一郎)

山手線E235系の車内。鉄道車両の定員はどのように決まっているのだろうか(撮影:風間仁一郎)

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満員のときも空いているときもある鉄道。「混雑率」が話題になることからもわかる通り、鉄道車両にも「定員」がある。

山手線の場合は、11両編成で計1724人が定員だ。立っている人と座っている人とを合わせてこの人数となる。ラッシュ時はおよそ150%の乗車率となるので、単純にいえば2586人が乗車している計算だ。

劇場や映画館などは、消防法によって会場の定員が定められている。それ以上の人を入れることは、法的に許されない。しかし鉄道の場合、乗車人数が定員を大きく上回るのは当たり前になっている。鉄道の定員は何が違うのか、そしてなぜ定員以上乗っても大丈夫なのだろうか。

鉄道の定員は「サービス定員」

鉄道車両の定員について、日本民営鉄道協会のホームページにある「鉄道豆知識」は、座席数を算定した「座席定員」、通常の運行に支障のない定員数を示した「サービス定員」、さらに車両の構造または運転上、それ以上乗っては危険だという定員数を示す「保安定員」があるとしている。

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そして、航空機や船舶は「保安定員」だが、鉄道車両は「サービス定員」を定員としているという。つまり、鉄道の定員はそれ以上乗ったら危険という人数ではないのだ。

同ページによると、定員は車両の床面積によって決まり、普通鉄道構造規則では座席は幅400mm以上、奥行400mm以上、立ち席は1人当たり0.14平方メートルと定められており、座席定員は座席と立ち席の合計の3分の1以上あることが必要だという。ただ、同規則は現在は廃止され、ほかの規則と統合して「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」となっており、これらの記述は見当たらない。

では、ほかに定員についての基準はないかと見てみると、JIS規格のE7103「鉄道車両-旅客車-車体設計通則」に、座席定員は「腰掛幅を乗客1人当たりの占める長さで除したときの整数値」で、とくに協定がない場合の1人当たりの長さ(幅)は430mm、立席定員は同様に0.3平方メートルとする、とある。いずれにせよ、定員は座席数と床面積によって決まるわけだ。

定員以上乗っても安全には問題のない鉄道だが、多くの人が乗れば列車は確実に重くなる。乗客の「重さ」はどのように考えているのだろうか。

車両の連結面に取り付けられたプレート。「定員144人」の表示が見える(編集部撮影)

車両の連結面に取り付けられたプレート。「定員144人」の表示が見える(編集部撮影)

電車の運転席を覗き込んだ経験のある人ならば、近年の運転台には車両の状況を運転士に示す画面が表示されていることに気付いている人も多いのではないだろうか。その中には乗車人数なども表示されている。

エレベーターに乗ると、総重量や定員などが表示されており、人数が定員に満たなくても総重量が一定の値を超えていたら、ブザーが鳴るという経験をした人も多いはずだ。それと同じような考えで、鉄道車両も荷重がどれだけかかるかによって人数を計算している。

1人当たりの重さは「55kg」

だが、世の中にはさまざまな体重の人がいる。2017年の「国民健康・栄養調査」によると、男性の平均は61.9kg、女性の平均は50.6kgである。なお筆者の体重は92.6㎏だ(身長は175cm)。参考までに、大相撲春場所での横綱・白鵬の体重は158kg、関取最軽量力士の炎鵬は98kg、最重量の逸ノ城は200㎏だ。

そんな中で、乗車人数をどうやって計算するのか、と疑問に思う人も多いだろう。

最近の電車は運転台に車両のさまざまな情報を表示するモニターを設置している。乗車人数や乗車率などを表示している車両も多い(編集部撮影)

最近の電車は運転台に車両のさまざまな情報を表示するモニターを設置している。乗車人数や乗車率などを表示している車両も多い(編集部撮影)

JR東日本によると、これは前出のJIS E7103「鉄道車両-旅客車-車体設計通則」で定められており、「定員質量は、乗客が乗車したときの乗客だけの質量とし、乗客1人当たりの質量は55kgとする」となっているという。運転台に表示される乗車人数などは人数を数えているのではなく、客室にかかる荷重を検知し、55kgという数字で割って算出しているわけだ。同時に、設計もこの重さを基準としているということになる。

55kgというのは、前出の男性と女性の平均体重を合わせた平均よりもちょっと軽い。筆者のように重い人が乗る場合や、あるいは多くの人が厚着をする冬の場合、人数が多めに算出される傾向があると考えられる。また、「長距離運行の特急車両などでは、乗客1人当たりの質量を60kgとする場合がある」としている。

定員160人の車両なら、1人当たり55kgであれば乗車率100%で8.8トンだ。もし乗車率200%なら17.6トンになる。55kgは目安の重さなので、さらに重い(または軽い)可能性もある。鉄道車両はこれだけ乗せる重量が変わっても安全面で問題ないように造られているわけだ。

だが、運転には影響が及ばないのだろうか。

基本的に、鉄道車両は荷重が増えたり減ったりしても、ブレーキ力などが一定になるよう調整される仕組みになっている。だが、乗車人数が多い・少ない、つまり総重量によって運転の仕方はやはり変わるという。

JR東日本によると、乗車人数は列車の加速・減速に影響を及ぼすため、運転士はこれらの影響に考慮した運転を行っているとのことだ。ラッシュ時は気を遣うことだろう。また、鉄道関係者によると、乗客の多い路線はレールがすり減るのも早いという。

新幹線は「座席定員」

一方、新幹線などの着席を前提とした列車は、座席数をもとにした「座席定員」が定員となっている。現在の東海道新幹線16両編成の座席定員は1323席。2021年7月1日に施行される省令改正で車いすスペースを広げるため、1319席となる。

JR東海N700S(確認試験車)の車内。東海道新幹線を走る列車はすべて座席定員1323席に統一されている(撮影:尾形文繁)

JR東海N700S(確認試験車)の車内。東海道新幹線を走る列車はすべて座席定員1323席に統一されている(撮影:尾形文繁)

JR東海によると、座席定員数は乗車可能な最大人数を示すものではないという。実際、自由席に立ち席で乗車する人は当然ながら座席定員に含まれないので、実際にはもっと多くの人を運ぶことが可能である。

また、JR東海によると、東海道新幹線の車両についてはとくに1人当たりの重量の規定はないという。ただ、乗客の荷重も含めて、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」に基づき、安全・安定走行の確保や、軌道などの構造物に影響がないように設計しているとのことだ。

省令の第65条「車両は、軌道及び構造物に対して、当該軌道及び構造物の負担力より大きい影響を与えないものでなければならない」とあり、当然ながらこの基準は満たす必要がある。とすると、先述の55kgや60kgという想定に準拠していると考えるのが妥当だろう。

新幹線の場合、混み合う場合でも通勤列車ほど定員を大きく上回ることはあまりない。最近は新幹線による荷物輸送の実証実験もJR東日本などにより行われているものの、運んでいるものは生鮮品の魚や果物、スイーツなど重くないものだ。

定員を上回る人数が乗っているのが当たり前で、それでも何の問題もなく走っている鉄道。だが、そこにも当然ながら設計のための前提条件がある。1人当たりの座席の幅や立席の面積はもちろん、1人当たりの体重も想定して造られているのだ。

秒単位のダイヤやミリ単位の線路の幅、誤差十数センチ程度できっちり停まる駅の停車位置など、鉄道はさまざまなものが厳格に規定されているというイメージが強いだろう。乗客1人当たりの体重まで想定しているとは、興味深いのではないだろうか。

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提供元:鉄道車両「定員オーバー」してもなぜOKなのか|東洋経済オンライン

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