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2021.03.04

日本で蔓延る「孤独=悪」の風潮に問いたい問題|1人はつらくて寂しいと考える人は多いのか?


1人でいることは、はたしてよくないことなのでしょうか?(写真:Pangaea /PIXTA)

1人でいることは、はたしてよくないことなのでしょうか?(写真:Pangaea /PIXTA)

先ごろ、政府が孤独・孤立問題の対策室を内閣官房に設置するというニュースがありました。

コロナ禍での失業などにより、社会的孤立に追いやられ、誰とも接せず、誰にも頼ることができなくなってしまった人たちに救いの手を差し伸べることは大事ですが、こういう話題になるたびに「孤独は健康に悪影響」「孤独は死に至る病」などと、いたずらにその恐怖をあおる「孤独は悪」論が声量を増すことは逆に由々しき問題だと考えます。

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2018年にイギリスで孤独担当大臣が設置されたときも、当時、ベストセラーでもあった下重暁子さんの『極上の孤独』本ですら「孤独礼賛する有害な悪書」などと、善悪の二元論に仕立て、まるで中世の魔女狩りのように「孤独そのものを駆逐すべき」という言説をうちたてる論者も見かけられました。

孤独を善悪でわけることは的外れだ

孤独というものを善悪でわけること自体的外れですし、「孤独は誰にとっても絶対的な悪である」などと一方的に断ずるのはいかがなものかと思います。あまつさえ、それが高じて、未婚や非婚など「1人で生きる」人たちの生き方そのものを否定する論にまで展開すると、昨今見られる「正しさの暴力」に近い危うさを感じます。

1人でいることを寂しいと感じる人もいますが、1人でいることを快適と感じる人もいます。それどころか、同じ人間であっても、あるときは誰かと一緒にいたいと思うし、ある場面では1人になりたいと思うはずです。

独身にかぎらず既婚者でも、コロナ禍の在宅勤務などで終日家族と一緒に過ごす時間が増えたことで「たまには1人になりたい」と思った人も多いのではないでしょうか。ずっと1人がいい、ずっと誰かと一緒がいいなどという人間はほぼ存在しません。

孤独とは主観的な感情です。感情である以上、その感じ方は人によっても、時と場面によっても変わります。いろいろあって当然です。喜怒哀楽の感情のうち「喜」と「楽」しか感じない人間がいるとしたら、はたしてその人は幸せなのでしょうか?

「望んだ孤独」はいいが、「望まない孤独」は問題だ、とする声もありますが、孤独とはそもそも本人の望むと望まないとにかかわらず付き合っていかないといけないものです。

そして、実は大きな勘違いがあるのは、「1人でいるから孤独でつらいのだから、誰かと同居すれば寂しくないよね」と、1人暮らしの人を強制的にシェアハウスや集団の中に取り込もうとしてしまう考え方があることです。誰かと一緒に同居すれば解決できるような簡単な問題なのでしょうか?

孤独が悪だという言説が不安を煽るたびに、大部分の人は「孤独は苦痛なのか?」と自分自身に呪いをかけてしまっています。本来「孤独は苦にならない」と思っていた人でさえ、そう感じる自分はおかしいのか?と迷わせてしまいます。

孤独を苦痛と感じる人は少数派

実際「孤独を苦痛」と感じる人間は少数派です。私の主宰するラボで、2020年に実施した調査によれば、「孤独が苦痛」と回答する未婚男女はわずか数%であることに加え、既婚男女でさえ1割前後しかいません。

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当然ながら、既婚は未婚に比べて、「誰かと一緒の方が充実する」割合が高いのですが、同時に「1人の時間も楽しめる」割合も同程度存在します。むしろ、「孤独を楽しめる」のは、未既婚ともに男性より女性のほうが多いことの方が意外ではないでしょうか。

何も「誰とも接触せず1人で勝手に生きる」ことを推奨しているのではありません。「人は1人では生きていけない」というのはその通りです。しかし、「1人では生きていけない」ということと「誰かと一緒でなければ生きていけない」こととは別です。

むしろ、「自分の外側に誰かがいさえすれば孤独ではない」という考え方の人こそ孤独に苦しみます。

私は、ソロ社会の研究を通じて、現在「孤独学」の体系化をしています。昨年12月に上梓した『「一人で生きる」が当たり前になる社会(脳科学者中野信子さんとの共著)』でも「孤独は悪なのか?」について論じています。

とりわけ、現代の孤独の問題は、「つながり孤独」のほうが深刻になっています。「つながり孤独」とは、友達もいるし、SNS上でもたくさんの人とつながっているのに「私は孤独で、寂しい。誰も私のことなんかわかってくれない」と悩んでしまうことです。

こうした状態は、自分の外側の状態にだけ依存する性質によるものです。友達がいれば寂しくない、つねに恋人といれば寂しくない、大勢の集団の中にいれば寂しくない。

そう考えてしまうと、かえって友達や恋人や集団を主観的に確認できなければ寂しいのだという理屈づけをしてしまいます。それが嫌だから、誰かと一緒にいようとする。しかし、誰かと一緒だとまた孤独の感情が目の前に現れる。こうなると抜け出せない負のスパイラルに陥ります。

なぜ誰かと一緒にいるのに孤独を感じるのでしょうか。それは、人とのつながりは必ず孤独を生むからです。「孤独は人と人との間にある」とは、哲学者三木清氏の言葉ですが、人とつながれば、その人との間に必ず生まれるもの、それが「孤独」です。

孤独は「寂しい」という感情だけではない

孤独とは主観的な感情ですが、決して「寂しい」という感情だけではありません。例えば、誰かのホームパーティーに誘われて参加した場で、他の人たちが楽しそうに談笑している会話の中に入っていけないという状況は誰しも経験があるでしょう。

そんなとき、たくさんの人たちの集団の中にいるにもかかわらず、いいようのない「孤独感」を感じてしまうはずです。実は、それは、「寂しさ」というより、自分とは違って人見知りもせず、気軽にコミュニケーションがとれる人たちへの「羨ましさ」や「妬み」、その場に溶け込めない自分自身への「ふがいなさ」であったりする場合が多いのです。

誰かとの関係性で生じたそうした負の感情を、私たちは無意識に主観のみでとらえてしまいます。そうすると、人とかかわりをもつこと、すなわち孤独の感情を無理やり可視化させられるという恐怖を感じるようになります。

学校や仕事に行けば、否応なく人と接触するわけで、そんな状況ではいつしか、目の前すべてが暗黒の孤独感情に包まれていきます。それが「つながり孤独」というものの正体です。そんな苦しむくらいなら、いっそのこと「1人で家で過ごしていたほうがマシだ」と思ってしまうと、今度は物理的な引き込もりという状態に陥ります。

孤独と上手に付き合うということは、孤独の感情をコントロールすることではありません。発生した感情は仕方ないものです。それよりも、そうした感情を客観視して内に取り込む「孤独の内在化」が大事になります。

人と接したことで生まれた孤独の感情とは、その人と接したことで生まれた「新しい自分の姿」そのものなのです。Aさんと接すれば、Aさんと接したことで生まれた自分(感情)が必ずいます。それはいわば、あなたが誰かとつながったことで生み出した「新しいあなたの赤ちゃん」なのです。

せっかく生まれてきた赤ちゃんを自分の外側に放置しているから、「つらい・寂しい」とその子は泣き叫ぶのです。外側に放置しないでください。自分の内側に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめてほしいのです。そこで生まれた孤独は、あなた自身が育てていくものなのです。

自分の感情を内在化させれば、客観的に感情を把握することができます。羨ましいとか妬ましいと思った感情もすべてあなた自身であると認識すればいいのです。

自分の中の多様性も生まれる

こうした感情の内在化は、決して難しいことではありません。多くの人が乳幼児の時点ですでに経験しているはずです。

小さい頃、母親の姿が見えなくなると泣き叫んだのは、自分の外側にいる母親に依存しきっていたからです。しかし、少し長じて、「母親はいつもすぐ近くにいて、いざとなれば助けてくれる」と信頼するようになると、その場に母親の姿がなくても安心してひとり遊びができるようになります。それが子どもの自立心の育成につながります。

これは、「1人でいること」のポジティブな面に注目したイギリスの精神科医のウィニコットが提唱した「1人でいられる能力(the capacity to be alone)」の話ですが、まさしくそれこそ、母親と自分との関係性の中で生じた感情の内在化で、自己の内面に新しい自分を生み出す力といえます。

孤独を自分の中に取り込み、自己を客観視することで、自分の中の多様性が生まれます。それはとりもなおさず、他者とのつながりが自分にとってかけがえのないものであることを意味します。

つまり、孤独を知るからこそ、そして、孤独を通して自分と向き合えるからこそ、他者を思いやれるのです。「自分が孤独だと感じたことのない人は、人を愛せない」とは瀬戸内寂聴さんの言葉ですが、まさしくその通りです。

孤独をこの世から抹消しないといけない「悪」としてとらえることは何の問題解決にもなりません。悪でもないし、敵でもない。一生付き合っていく「自分の中に生まれたあなた」そのものなのです。孤独を悪扱いして、大切に育てられない者こそ真の「ひとりぼっち」なのだといえます。

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提供元:日本で蔓延る「孤独=悪」の風潮に問いたい問題|東洋経済オンライン

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