2021.02.18
65歳を超えても「働ける人」「働けない人」の境界|「アーリーリタイア」のためには何が必要か?
65歳を超えても働ける人の特徴とは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
「改正高年齢者雇用安定法」が4月1日から施行されます。現在同法では、定年を65歳未満に定めている事業主は、高年齢者の安定した雇用を確保するために、(1)定年制の廃止、(2)65歳までの定年の引き上げ、(3)65歳までの継続雇用制度(再雇用制度)の導入、のいずれかを実施することが義務付けられています。改正後は(2)(3)の年齢が65歳から70歳に引き上げられます。
企業は、基本的に今回の改正を歓迎していません。高齢者は体力・知力などの低下から業務の生産性が低下することが多く、70歳まで雇用し続けるのは大きな負担増になるからです。
では、働く側はどうでしょうか。定年後研究所が2019年に実施した調査によると、70歳定年または雇用延長を「歓迎する」(42.6%)、「とまどい・困惑を感じる」(38.2%)、「歓迎できない」(19.2%)と意見が分かれました。
今回は、70歳定年は働く人にどういう影響があるのか、70歳定年時代にキャリアプランやライフプランをどう考えるべきか、という点について考えてみましょう。
70歳定年への反応は人それぞれ
今回の「70歳定年」について、会社員はどう受け止めているのでしょうか。定年への関心が高い40代・50代の会社員4人にインタビューしました。
機械メーカーで営業をしている市川文広さん(仮名・40歳)は、就職氷河期の2004年に就活で大苦戦した経験を振り返り、70歳定年を「大歓迎」しています。
「就活では10社以上も書類選考で落とされ、なかなか内定を取れませんでした。私の周りには、正社員で就職できず、現在まで非正規で働いている人がいます。いまの仕事は充実していますし、またあの就活(転活)を経験したくないので、仕事と収入を失う心配をしなくてよくなるなら、ありがたいことです」
倉庫会社の経理部門で管理職をしている吉田恭平さん(仮名・54歳)は、70歳定年を「大反対。とんでもない」と批判します。
「当社では55歳で役職定年なので、来年私は平社員に降格になり、給料は今の約半分、年下の部下にあごで使われることになります。こんな屈辱的な仕打ちがさらに5年も続くというのは、ちょっと耐えられません。会社は実力主義を標榜しているのに、年齢で処遇を決めるというのはおかしくないですか」
アパレル小売店で販売員として働く伊賀啓子さん(仮名・51歳)は、70歳定年を「消極的だが歓迎」しています。
「立ち仕事がしんどくなってきましたし、会社を辞めて好きな音楽演奏に打ち込みたいという気持ちはあります。ただ、夫が病気で休職していた時期があり、老後資金の準備ができていません。あと20年働くと思うと気が重いですが、何とか生活できることを前向きに考えようと思います」
このように70歳定年の受け止めは、その人の会社・仕事や立場・経済状態などによってまちまちのようです。
3年前にある企業の研修の中で40代・50代の中間管理職と定年後の生活について話し合う機会がありました。その時は、「よくわかりません」「将来は不確か。あれこれ考えても仕方がない」「今は仕事に集中している」といった意見が目立ちました。
ところが今回インタビューした会社員は皆、定年延長が自身の生活に与える影響や何歳まで働くのかという問題を真剣に考えていました。
この3年間で、働き方改革、年金の引き下げ、必要資金2000万円問題、大手企業の早期退職募集、そして新型コロナウィルスの感染拡大と、会社員の働き方を巡る変化がありました。こうした変化を受けて会社員は、自分の働き方を見つめ直すようになったのでしょう。
「アーリーリタイア」という生き方
そして今回、何人かがアーリーリタイアに言及していました。伊賀さんは「将来もし可能なら」という願望のレベルでしたが、吉田さんは真剣に検討している様子でした。
アーリーリタイアの希望を明確に語っていたのが、金融サービス会社に勤務している松田直人さん(45歳)です。
「50歳までに引退し、田舎に移住したいと考えていて、実現に向けてライフプランを練っているところです。蓄えはそんなにありませんが、独り身なので、家庭菜園とかやってシンプルに生活をすれば大丈夫かなと」
欧米では成功した経営者や投資家が50歳前後で引退することが多く、アーリーリタイアは成功の証しだとされます。一方、日本では、定年まで、あるいは自営で生涯働き続けるケースが多く、経済的な余裕がないのに自発的に引退するというのは、極めてまれです。松田さんのような中高年が増えているとすれば、日本人の働き方は大きく変わりつつあるということでしょう。
会社員は70歳定年まで働き続けるべきでしょうか、アーリーリタイアをするべきでしょうか。それを判別する「7つのチェックポイント」があります。
1.会社の仕事が充実し、やりがいがあるか
やりがいのある仕事なら70歳まで続けたいですが、つまらない仕事なら一刻も早く退職したいところです。
2.人間関係など職場環境がよく、会社に行くのが楽しいか
職場環境がよく楽しい会社なら、70歳まで無理なく働き続けることができます。
3.体力的に70歳まで働くことができるか
加齢とともに体力が低下します。とくに体力を必要とする職種では、70歳まで働くのは苦痛です。
4.スキル・能力的に70歳まで働くことができるか
学習理解力・発想力・判断力など知力も低下します。技術の変化が早い業種・職種の場合、70歳まで働くのは困難です。
5.老後の必要資金を確保できているか、できそうか
やはり先立つものはお金。老後の必要資金を確保できていないなら、働き続ける必要があります。
6.退職してやりたいことがあるか
趣味など本格的にやりたいことがあるなら、早めに退職したいところです。ただし、副業で取り組むという選択肢もあるので、柔軟に考えるといいでしょう。
7.家族・社会とどう関わっていきたいか
会社を辞めると、家族・社会と向き合う時間が増えます。家族・社会とどういう距離感を保ちたいのかを考えておきます。
「70歳定年制」は重い課題
日本では、労働者が職種を限定せずに入社し、会社の異動命令にしたがって職種や勤務地を変えるメンバーシップ型雇用(=就社)が一般的です。会社の都合で会社員のキャリア(職業経歴)が変わるので、会社員はたいてい「キャリアについてあれこれ悩んでも仕方ない」とキャリアを会社任せにしています。
この会社任せの状況が今、大きく変わろうとしています。転職があらゆる世代で一般的になり、会社員は自分のキャリアが不本意なら簡単にリセットできるようになりました。
今回の70歳定年で、高齢者の働き方が多様化します。さらに将来、メンバーシップ型雇用から欧米で一般的なジョブ型雇用(=就職)に変われば、会社は社員のキャリアの面倒を見る理由がなくなります。いかにキャリアプラン、ライフプランを主体的に考えるか。70歳定年は、日本の会社員に重い課題を突き付けているのです。
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提供元:65歳を超えても「働ける人」「働けない人」の境界|東洋経済オンライン