2021.02.15
コロナ自宅療養者が不安で不安で仕方ない必然|保健所が対応しきれないなら医師の出番だ
自宅療養を強いられている人の不安を和らげるにはどうすれば?(写真:mits/PIXTA)
年明けからの感染爆発により、新型コロナウイルス感染症で自宅療養者が急増。厚生労働省によれば1月16日時点でその数は一時3万人を超えた。2月9日現在も東京都では3000人近くのコロナ患者が自宅で過ごしている。
新型コロナウイルス感染症は急変して自宅で亡くなってしまうケースもあるだけに、自宅療養や自宅待機をしている人は、家で不安な時間を過ごすことになる。
自宅療養者に対する支援は十分?
「今のシステムは、こうした人たちに対するフォローアップが十分にできていないように思える。自宅で療養している人たちに何らかの症状が出たときに、すぐに相談できるシステム、つまり医療機関の“救急外来”に相当するものを備えないと」
こう訴えるのは、内科医でわだ内科クリニック院長の和田眞紀夫さんだ。
同クリニックは昨年夏から発熱外来でコロナ疑いの患者を診ている。あわせて東京都から認定されたPCR検査(行政検査)の実施医療機関として、保健所や、検査を実施していない近隣の医療機関からの検査オーダーを受けている。
こうした中で見えてきたのが、冒頭の発言にある自宅療養問題だ。きっかけとなったのが1カ月ほど前にあった出来事だという。
「1月中旬のこと。1人の女性が当院を受診されました」と和田さんは振り返る。
女性は38.5℃を超える発熱やせき、下痢などの症状を訴えたため、和田さんは防護服を着て診察をした後、PCR検査を実施。この日は解熱剤と下痢止めなどを処方したうえで、「今後の流れ」について説明し、帰宅させた。
この今後の流れというのは、「翌日にクリニックから結果を伝える電話が入ること」「陽性だった場合、保健所から連絡が入ること」「体調がよければ自宅療養となるが、何らかの理由で自宅での療養が難しければ、ホテル療養の希望を出すこと」「入院の必要があれば保健所が手はずを整えるので、その指示に従うこと」といったもので、検査を受けた人には必ず伝えている。
翌日。検査会社から送られてきた女性の検査結果は「陽性」。和田さんは陽性者が出たことを知らせる「発生届」を保健所にファックスで送付し、女性にもその旨を電話で伝えた。
「あとは保健所にお任せしよう――。そう思っていました」
と和田さん。というのも、今現在、陽性者の対応にあたるのは保健所になっており、基本的に検査を実施した医療機関が対応するものではないからだ。
だが、4日後の朝9時。女性からクリニックに助けを求める電話がかかってきた。「自宅療養をしています。呼吸が苦しい」。
女性が訴えた症状は息苦しさのほかに、39℃の発熱や胸の痛み、そして味覚と嗅覚異常だった。和田さんは応急処置として、今の症状に対応できる薬を処方し、薬局にファックスで処方箋を送付。薬局には濃厚接触者の家族に取りに行ってもらった。
このとき和田さんは女性に「なぜ保健所ではなく、クリニックに連絡をしてきたのか」と聞いてみたという。
「女性は、『保健所に何度も電話をしたが、まったくつながらない』『担当者は決まっていないし、緊急の連絡先も知らされていない』と言っていました」
それ以来、女性からは連絡が来ない。薬が効いたのかも、自宅療養で済んだのかも、入院をしたのかもわからないままだ。
保健所が手いっぱいで対応できないのであれば
わだ内科クリニックでは、昨年夏からこれまで400人以上がPCR検査を受け、64人が陽性となった。だが、その人たちがその後、どんな状況でいるかは知らされていないという。
「医療スタッフがいる病院やホテル療養ではない自宅療養者には、臨時の主治医のような人をつけるべき。それが難しければ、せめて電話がつながる緊急の専用の相談窓口、つまりホットラインを用意しておくべきです」
自宅療養中の陽性者の対応はどうなっているのか。同クリニックがある練馬区の区役所に問い合わせたところ、次のような返答が戻ってきた。
「基本的には、保健所の職員が体調変化を把握する健康調査を実施し、何かあったときはすぐに保健所に連絡してもらうようにお伝えしています。土日などは対応職員がいないので、(24時間対応の)東京都の発熱相談センターに連絡するようにお願いしています」(練馬区広報)
また、「練馬区の医師会が用意したコールセンターでも対応している」と紹介された。しかし、ホームページを見ると24時間対応ではなく、受け付けているのは平日の朝9時から夕方5時までだった。
広報担当者は「緊急性が高ければ、救急車を呼んでほしい」とも話していたが、救急車を呼ぶかどうかの判断は、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係わる自宅療養の実施に関する留意事項」にある。具体的には以下のとおりだ。
【緊急性が高い症状】
・顔色が明らかに悪い(※)
・唇が紫色になっている
・いつもと違う様子がおかしい(※)
・息が荒くなった
・急に息苦しくなった
・生活をしていて少し動くと息苦しい
・胸の痛みがある
・横になれない。座らないと息ができない
・肩で息をしている
・突然(2時間以内を目安)ゼーゼーしはじめた
・ぼんやりしている(反応が弱い)(※)
・もうろうとしている(返事がない)(※)
・脈がとぶ、脈のリズムが乱れる感じがする
(※は家族等が確認した場合)
だが、ここまでの症状ではないものの、心配な症状が出ることもある。そんなときにつながる窓口があればどんなに心強いだろう。
厚労省にも問い合わせると、「保健所で対応しています」。そこで、症状があったときに保健所と連絡がとれない、電話がつながらない状況があることを説明したところ、
「かかりつけ医にお問い合わせいただくのがいちばんよいと思います。検査を受けに行かれた先の医師、あるいは初診で診てもらった医師にご相談いただければ問題ありません」(新型コロナウイルス感染症対策推進本部戦略班)
PCR検査を受けるための3つのルート
現在、検査センターや医療機関でPCR検査を受けるルートには大きく3つある。
(1)保健所から紹介されるルート
(2) 症状がある人が飛び込みで受診するルート
(3) 近隣の検査を実施していない近隣の医療機関から紹介されるルート
(3)のルートに関しては、厚労省の担当者が言うように、もともとかかりつけ医が主治医になっているので、対応してもらえる可能性がある。問題なのは、(1)や(2)のルートだ。
この場合、PCR検査を実施している医療機関の医師が継続的に診るのは難しいと、和田さんは言う。
「例えば、当院では日常診療とは別にPCR検査をしており、毎日のように陽性者が出ています。多いときで1日20件、PCR検査をするのでそれで手いっぱいです。もし私たちのような医療機関が患者をフォローアップするようなことになれば、逆に検査数を絞らなければならないといった問題も出てきかねません」
さらに問題なのは、保健所や自治体が設立した検査センターでPCR検査を受けたケースだ。その人たちは一度も医療機関を受診せずに自宅療養に入るからだ。
保健所が逼迫しているなか、和田さんは「少なくとも自宅待機中の人に対しては、臨時の主治医をつくるべき」と言う。
「臨時の主治医は、電話診療やオンライン診療を行って、必要に応じて薬を処方したり、入院調整を行ったりできるようにします。こうした対応は、開業医や民間の医療機関が担うことになるでしょう。さまざまな理由から感染者疑いの人を診られないという医師でも、電話診療やオンライン診療であれば防護服を着ける必要もなく、感染の心配はありません。自宅待機中の人の不安も払拭されます」
そのためには、地域の医師会が音頭を取る必要があると訴える。
入院調整を誰が担うのが正解なのか
その際、「入院調整」という機能を持たせたほうがいいという。現在、入院調整をするのは、保健所の役割となっている。その問題点を、和田さんは先の女性の例を挙げつつ指摘する。
「女性が電話で症状を訴えてきたとき、本来なら肺炎を疑って胸部CTなどを撮って確認し、肺炎なら入院させる必要がありました。しかし、自宅療養中の陽性者や濃厚接触者に入院の手続きを進められるのは、基本的には保健所だけです。保健所が東京都の入院調整本部と調整して入院先を決めるからです」
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入院調整については、もともと医師がコロナ前から日常的に実施している行為であり、慣れている。だからこそ、医師でもできるようにしたほうがいいというのだ。
東京都は1月25日、「自宅療養者フォローアップセンター」を拡充し、多摩地域に限定されていた24時間対応・自宅療養者専用医療相談窓口を23区でも対応できるようにした。電話番号は保健所が電話連絡をする際に伝えられる。基本的には看護師が応対し、必要に応じて医師に連絡ができるようになっている。和田さんは言う。
「そもそもPCR検査を受けた後の対応が複雑。自宅療養中、待機中でも不安なく過ごせるような体制を整えてほしい」
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提供元:コロナ自宅療養者が不安で不安で仕方ない必然|東洋経済オンライン