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2020.11.27

コロナ第3波「日本に決定的に足りてない対策」|無症状者への検査と院内感染への備えは不十分


非合理的な「我慢」を国民に強いるのは合理的ではない(写真:RyanKing999/iStock)

非合理的な「我慢」を国民に強いるのは合理的ではない(写真:RyanKing999/iStock)

11月21日、菅義偉首相は新型コロナウイルス(以下、コロナ)が拡大している地域での、「Go Toキャンペーン」の運用を見直すことを表明した。遅きに失した感もあるが、時宜を得た対応だ。

冬場を迎え、全国的にコロナ感染が拡大するなか、税金を投じて人の移動を促進させるのはめちゃくちゃだ。こんなことを続けていたら、感染を拡大させるだけでなく、経済も悪化する。いま、政府がやらなければならないのは、国民に移動を自粛するように呼びかけることだ。これが世界の標準的な対応だ。米疾病対策センター(CDC)は、11月26日の感謝祭に合わせた旅行を控えるように促している。

「Go Toキャンペーン」は、日本のコロナ対策を象徴する存在だ。エビデンスに基づく、合理的な対応がなされていない。本稿では、この点について論じたい。

日本のコロナ対策は科学的か?

11月11日、イギリスの『エコノミスト』誌は「政府のコロナ対策は科学的ですか」という記事を掲載した。この記事では、世界各国の約2万5000人の研究者に対して、24カ国を対象に、政府のコロナ対策が、どの程度科学的かを聞いた研究が紹介されていた。この記事を読めば世界が日本のコロナ対策を、どう評価しているかがわかる。

この研究では、最も科学的と評価された国はニュージーランド、次いで中国だった。70%以上が「科学的」と回答している。一方、最も「非科学的」なのはアメリカ、次いでブラジル、イギリスと続く。

アメリカについて「科学的」と回答した研究者は約20%で、約70%が「非科学的」と回答している。日本に対しては約40%が「科学的」、25%が「非科学的」と回答している。日本は24カ国中17位、アジア5カ国中最低で、日本のコロナ対策の評価は低い。

この評価は日本のコロナ対策の実情を反映している。日本のメディアはあまり報じないが、日本は死者数、経済的ダメージともに大きい。下記の表は東アジア4カ国の人口10万人当たり死者数、GDPの前年同期比を示したものだ。直近の7~9月期の場合、死者数は0.5人、GDPはマイナス5.8%だ。いずれも東アジアで最低である。

(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

7~9月期は、コロナが猛威を振るった欧州の多くの国より、経済ダメージは大きくなっている。10月28日現在、7~9月期の経済統計が公開されていないロシア・ポーランドを除く、人口3000万人以上の欧州5カ国で、日本より経済ダメージが大きいのはイギリスとスペインだけだ。ドイツに関しては、死者数も日本と変わりない。

日本のコロナ対策費の総額は約234兆円で、GDPの42%だ。これは主要先進7カ国で最高だ。ドイツとイタリアは30%台、イギリス、フランス、カナダが20%台、アメリカが15%台だ。日本のコロナ対策の費用対効果は極めて悪い。

日本の検査体制はこのままでいいのか

何が問題か。主要なコロナ対策は、マスク、ソーシャル・ディスタンス、検査だ。

日本がマスク着用、ソーシャル・ディスタンスの点で優等生であることは改めて言うまでもない。問題は検査だ。厚労省の方針で、PCR検査数は、先進国最低のレベルに抑え込まれている。私は、この方針を貫けば第3波でさらに大きな被害を生じると考えている。

それは、第3波では、若年の無症状感染者の占める割合が高まっているからだ。彼らが職場や家庭、さらに「Go Toキャンペーン」などを介して、感染を拡大させている。

このことは世界も注目している。11月12日、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは「新型コロナの症状観察、無症状感染者をほぼすべて見落とし=研究」という記事を掲載した。

この記事は、11月11日、アメリカの医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』オンライン版に掲載されたアメリカ海軍医学研究センターの臨床研究を紹介したものだ。

この研究の対象は、1848人の海兵隊員の新兵だ。彼らは、サウスカロライナ州のシタデル軍事大学に移動し、訓練を開始するにあたり、14日間の隔離下に置かれた。その際、到着後2日以内に1回、7日目、14日目に1回ずつ合計3回の検査を受けた。この結果、51人(3.4%)が検査陽性となった。

意外だったのは、51人すべてが定期検査で感染が確認され、46人は無症状だったことだ。残る5人も症状は軽微で、あらかじめ定められた検査を必要とするレベルには達していなかった。若年者は感染しても、無症状者が多く、有症状者を中心とした検査体制では、ほとんどの感染者を見落とす可能性が高いことを示唆している。

さらに、51人の検査陽性者のうち、35人は初回のPCR検査で陰性だった。多くは入所後に感染したのだろう。この事実は無症状の感染者を介して、集団内で感染が拡大したことを意味する。この研究は、これまでに実施された無症状者スクリーニングの世界最大の研究だ。信頼性は高い。だからこそ、世界最高峰の医学誌である『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』が掲載し、ウォール・ストリート・ジャーナルが紹介した。

日本でも、無症状感染者の存在は確認されている。10月15日、世田谷区は区内の17の介護施設の職員271人にPCR検査を実施したところ、2人(0.74%)が陽性だったと報告している。流行が拡大した現在、無症状感染者の数はさらに増加している可能性が高い。

厚労省は無症状者への検査に消極的

ところが、厚労省は無症状の人に対する検査に消極的だ。7月16日、コロナ感染症対策分科会は「無症状の人を公費で検査しない」と取りまとめている。現在も、この方針を踏襲している。厚労省はさまざまな通知を濫発しているが、対応を抜本的に見直す気配はない。

飲食店やイベントでの感染リスクに対する考え方も変わってきた。コロナ対策の研究が進んだためだ。

特記すべきは、10月30日~11月1日の3日間、横浜スタジアムで実施された実証実験だ。プロ野球の横浜DeNAベイスターズの公式戦の収容人数を、現行の上限である50%から80%以上に段階的に増やしながら、人の流れや場所ごとの混雑状況、さらに感染拡大に与える影響を調べた。

11月12日に公表された速報によると、来場者は初日が1万6594人で収容率51%、2日目は2万4537人で76%、最終日は2万7850人で86%だった。この中には、少なからぬ無症状感染者がいたはずだ。

ところが、本稿を執筆している11月23日現在、クラスター発生は報告されていない。屋外での大規模イベントを安全に実施できたことになる。そもそも屋外で感染リスクが低いことに加え、声を出しての応援の禁止、マスク着用、人混みを回避しソーシャル・ディスタンスを維持するなど、対策がうまくいったのだろう。

感染リスクが高いとされる飲食店についても同様だ。マスコミ報道では「過去最多となる23人の感染が明らかになった愛媛県では、6人が松山市内のスナック2軒の従業員や客だった」「静岡県内でも飲食店関係者7人の感染を確認した沼津市内の接待を伴う飲食店について新たにクラスターとして認定した」(いずれも日本経済新聞2020年11月23日)などの記事が目立つが、第3波でクラスターの中味は変わってきている。

第2波までは飲食店、とくに接待を伴う飲食店が中心を占めたが、第3波では、医療機関、教育機関、介護施設などに多様化している。

この現象は、コロナ感染拡大を予防するための社会の合理的な反応を反映している。11月10日、アメリカ・スタンフォード大学の研究者たちがイギリスの『ネイチャー』誌に発表した研究が興味深い。

彼らは、人々の動きがコロナの拡大にどのように影響したかを調べるために、アメリカのセーフグラフ社が収集した携帯電話の位置データを用いて、第1波の3~4月の間に、アメリカの10の主要都市で、人々がレストラン、教会、ジムなどの施設をどの程度利用したかマッピングした。

そしてこの期間内に、この地域内で発生した感染の位置データ、感染者数のデータなどと照らし合わせたところ、このような施設の利用者が感染拡大に大きな影響を与えていたことが明らかとなった。彼らが作成したモデルは、感染者数の増加を正確に予測したという。

この事実は、8月、イギリスで”Eat Out to Help Out”というイギリス版「Go To Eat」キャンペーンを実施したところ、レストラン利用者が急増し、コロナの感染を最大で17%増やしたこととも一致する。

飲食店でのクラスター発生の報告は少なくなった

ところが最近、状況は変わりつつある。ドイツの接触追跡データの分析によると、レストランは主要な感染源ではなかったし、日本の第3波の状況は前述のとおりだ。第1波で目立った居酒屋、カラオケ、屋形船のような飲食施設でのクラスター発生の報告は少なくなった。

これは飲食店の利用者が減ったからだろう。11月6日に公開された9月の家計調査によれば、2人以上の世帯において一般外食は前年同月比で25.2%減少している。飲食店、とくに接待を伴う飲食店の利用者が激減しているのだろう。

前出のスタンフォード大学の研究では、レストランなどの施設の利用者と感染者数は相関していた。彼らはレストランの利用が20%に制限されれば、感染者数は80%以上低下すると議論している。

日本でも、飲食店の利用者が大幅に減ったことで、このような施設を介したクラスターの発生が減った可能性が高い。飲食店の利用者が減ることで、隣の客との距離が広がり、飲食店内のソーシャル・ディスタンスが強化されるため、第3波では、飲食施設でのクラスター発生は抑制されるだろう。

これは、コロナ対策にとっては吉報だが、飲食店経営者にとってはたまらない。ただ、飲食店の利用者の減少は、コロナへの感染を危惧する人たちの自主的な反応だ。「Go Toキャンペーン」などの形で利用を促進しても、その効果は限定的だ。コロナの流行が拡大する北海道では、11月10日に販売を開始したGo To イートプレミアム付き食事券は、11月16日現在で発行済みの100万冊のうち、16万冊しか販売されていない。

飲食店の利用者を増やすには、「安全」であることを示さねばならない。理想的には、コロナの流行を抑制することだが、次善の策としては、検査で陰性の客だけ利用できるように配慮してはどうだろう。精度のいい簡易検査を開発し、入店前にチェックすることも考えられる。その費用を公費で負担すればいい。

医療機関や介護施設の院内感染対策が肝

では、第3波で最重視しなければならない点は何だろうか。私は医療機関や介護施設の院内感染対策と考える。11月16日、虎の門病院(東京都港区)は、職員や患者11人が集団感染したと公表した。血液内科病棟で死亡者も出ている。11月20日には、アメリカのメイヨークリニックで、900人の集団感染があったことが明らかとなった。

いずれも日米を代表する巨大病院だ。最高レベルのスタッフと医療設備を備えている。感染対策も最高レベルだ。それでも院内感染を防げなかった。

私が注目するのは、個人経営のクリニックより、このような大病院で集団感染が発生していることだ。両者の違いは職員数だ。個人クリニックの職員は多くて10人程度だが、大病院の職員は1000人を超える。アメリカ海兵隊の研究で示されたように、この中には少なからぬ無症状感染者がいるはずだ。

このような医療機関では、マスクや防護具は使用しているだろうが、病床はいつも満床だろう。飲食店で利用者が減ることで、はからずも「ソーシャル・ディスタンス」が強化されたようなことは期待できない。無症状感染の職員がいれば、院内感染へと発展するリスクが高い。

コロナ対策でやれるとすれば、感染地域の病院職員に対して、定期的にPCR検査を実施することだ。まさに、アメリカ海兵隊が試みようとしていることだ。

病院職員はコロナが流行するなかでも、働いて社会に貢献しているエッセンシャル・ワーカーだ。PCR検査の費用は公費負担の先進国が多い。このようなエッセンシャル・ワーカーには病院職員だけでなく、介護職員、公務員、警察官、保育士などが含まれることが多い。

ところが、日本では感染症法で公費負担が保障されているのは、感染者と濃厚接触者だけだ。厚労省は通知による拡大解釈で、コロナ流行地域の病院職員のPCR検査を行政検査として、公費を支出するとしているが、はたして、虎の門病院では検査を実施していたのだろうか。私の知る限り、コロナが大流行している都内の医療機関で、無症状の病院職員に対して、公費で定期的にPCR検査をしているところはない。

日本中で院内感染が蔓延する?

厚労省の意向と現場の実情に乖離が存在する。コロナ対策における喫緊の課題だ。解決するには、感染症法を改正し、検査対象を拡充するしかない。ところが、厚労省には、そのつもりはなさそうだ。臨時国会で感染症法改正は議論されず、来年の通常国会でも「県と保健所設置市の情報共有等」について改正されるだけだ。これでは、日本中で院内感染が蔓延するのは避けられそうにない。このまま無策を貫けば、介護施設などでも同様の事態に陥るだろう。

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コロナ第3波対策の肝は、無症状感染者を早期診断し、隔離することだ。

世界各国は試行錯誤を繰り返し、その結果を学術論文として発表している。日本に求められるのは、海外から学び、合理的な対応をとることだ。

非合理的な「我慢」を国民に強いるのは現実的ではない。毎日新聞11月19日朝刊には「密閉防止でやむない寒さ」という55才男性からの寄稿が掲載されたが、これははたして、どの程度科学的な根拠があるのだろうか。理性的で合理的な議論が必要だ。

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提供元:コロナ第3波「日本に決定的に足りてない対策」|東洋経済オンライン

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