2020.10.20
メガと地銀、口座手数料の導入で異なる思惑|最大の注目は三菱UFJ銀行がどう打ち出すか
通帳や未利用口座に対する手数料にはさまざまな狙いがある(撮影:今井康一)
銀行口座の手数料は無料。そんな常識が変わりつつある。
三井住友銀行は10月7日、新たな手数料の導入を発表した。2021年4月以降に開設される口座が対象で、2種類の手数料がある。
1つ目は紙の通帳を利用する際に年額550円(税込み)の手数料を導入する(18歳未満や75歳以上の顧客は対象外)。銀行にとって紙の通帳を発行する際のコストは重く、印紙税だけでも1口座あたり年間200円がかかっている。今後はWeb通帳をメインとした取引に移行を促す狙いだ。
2つ目は未利用口座に対する手数料だ。普通預金で2年以上入出金がなく、残高が1万円未満の場合、年額1100円(税込み)の手数料を口座から徴収する。この手数料で特徴的なのは、インターネットバンキングの利用設定をしていれば対象外となる点だ。
デジタルチャネルの移行促進
三井住友に口座を持っている顧客は、利用設定さえすれば誰でもインターネットバンキングが使える。こちらもネットバンキングの利用が難しい18歳未満や75歳以上は対象外となっている。加えて、定期預金や外貨預金などを持つ人も対象にはならない。実際に、未利用によって1100円の手数料が発生する顧客はあまりいないだろう。
2021年4月からの手数料導入と併せて、ウェブで新規開設した口座に対する振り込み手数料無料キャンペーンも実施する。今回の三井住友の手数料導入は「デジタル移行を促進する」というメッセージが強く表れている。
三井住友よりも先に2021年1月から新たな口座の手数料を導入するのがみずほ銀行だ。通帳を発行しない「みずほeー口座」の取り扱い開始に併せて、紙の通帳発行に1100円(税込み)の手数料を導入する。三井住友のような年間の手数料ではなく、通帳の発行時に手数料がかかる形だ。最初の通帳が記帳でいっぱいになり、新たな通帳を発行する際も1100円を徴収する。未利用口座の手数料については、現時点では導入されていない。
通帳や未利用口座に対する手数料を導入しているのはメガバンクだけでなく、大手の地方銀行や信用金庫まで幅広く導入が進んでいる。ただ、手数料導入に込めた狙いはメガバンクと異なる。
地銀でも導入が増えている未利用口座の手数料は、新規口座の開設後、2年以上取引がなく、残高が1万円未満の口座から徴収するという点ではメガバンクと概ね同じ。だが、地銀が重視しているのはデジタル移行ではなく預かり資産だ。利用者がその銀行で定期預金を持っていたり、投資信託や保険といった金融資産の取引がある場合には手数料の対象外となる。
融資による収益の向上が見込めない中、地銀が生き残るには手数料収益を伸ばしていくほかない。人材紹介や地元企業の支援を目的とした「地域商社」の創設など、新たな取り組みを始めているものの、収益の柱になるのはまだ先だ。大都市圏に強いメガバンクとは顧客層も違うため、個人向けのデジタル取引を収益に結びつけるのも時間がかかる。
となれば、金融商品の販売を中心にコンサルティングをして、その取引を通じた手数料を得るのが基本路線だ。地銀による未利用口座の手数料導入において、「対象外」としている条件からは、金融資産の取引へ顧客を移行したいという意図が見て取れる。
三菱UFJ銀行は手数料をどう決める?
口座の手数料について、今後、最大の注目は三菱UFJ銀行の動きだ。2019年末、同行が未利用口座に対する手数料導入を検討していると報じられた。現時点で具体的な施策は発表されていないが、最大手がどれくらいの水準でどんな対象に手数料を導入するのかは、今後のほかの銀行の動きにも大きく影響するだろう。
口座に対する手数料というと、すべての利用者にかかる「口座維持手数料」をイメージしがちだ。現時点では、手数料の導入はネットバンクや預かり資産への移行の意味合いが強く、対象も一部の利用者にとどまる。また、新規開設される口座のみが対象のため、手数料を導入しても銀行への収益貢献はそれほど大きくはない。
ただ、一部とはいえ口座の利用者に手数料を徴収し始めることから、すべての利用者に対する口座維持手数料の導入に向けた布石と考えることもできる。銀行関係者からは「今後の経営環境はさらに厳しく、口座利用が無料ではやっていけない」との声も聞かれる。新たな手数料導入の動きはまだ続きそうだ。
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提供元:メガと地銀、口座手数料の導入で異なる思惑|東洋経済オンライン