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2020.04.03

コロナ治療薬「世界の救世主」探る臨床の最前線|有望候補薬は4つ、東大で感染阻止の研究も進む


人類の英知で事態を切り開けるか(写真:Table-K/PIXTA)

人類の英知で事態を切り開けるか(写真:Table-K/PIXTA)

国内での拡大が続く新型コロナウイルス感染症に対し、待ち望まれている治療薬。安倍晋三首相は3月28日の記者会見で、「わが国では4つの薬について、すでに観察研究としての投与を開始している。そのうち新型インフルエンザ治療薬として承認を受け、副作用なども判明しているアビガンについては、これまで数十例で投与が行われている。ウイルスの増殖を防ぐ薬であり、すでに症状の改善に効果が出ているとの報告もある」と述べた。

現在、日本で有望視されている候補薬は、「アビガン」のほか「レムデシビル」「カレトラ」「オルベスコ」という計4種類の薬剤だ。社会不安を解消するためにも、1日でも早く治療薬がほしいところだが、一方で本当に効くかどうかを科学的に証明するためには、実際に人に投与した症例を集めて解析する「臨床試験」が必要となる。たとえ有効性が確認できたとしても、「特効薬」と呼べるものになるかは未知数で、過度な期待は禁物だ。

「レムデシビル」で臨床試験を開始

政府による治療薬開発は、国立国際医療研究センター(東京)を中心に進んでいる。同センターで国際感染症センター長を務める大曲貴夫医師を責任者とする研究班が発足。3月23日、まずは「レムデシビル」で臨床試験を開始すると発表した。米国の国立衛生研究所(NIH)の主導で進めている国際的な臨床試験に日本の医療機関として参加する。

レムデシビルは、アメリカの製薬会社、ギリアド・サイエンシズがエボラ出血熱を対象に開発中で、まだ世界のどの国でも承認されていない候補薬だ。数年前にアフリカ中東部で猛威を振るったエボラ出血熱の治療として投与されたが、別の薬剤より治療効果が劣るとされ、投与中止となり開発は足踏みしていた。

そのレムデシビルが脚光を浴びたのは、米国での新型コロナウイルス感染者への投与で効果がみられたためだ。ギリアド日本法人の広報担当者は「新型コロナウイルスがSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)に似た構造ということで、試験管内で調べたところ高い反応を示した。そこでアメリカ・ワシントン州の患者1人に試験的に投与したところ治療効果が見られ、候補薬に挙がるにようになった」と経緯を説明する。

大曲氏は次のように語る。

「試験管内のデータだが、ウイルス増殖に及ぼす効果を評価した実験で、さまざまな抗ウイルス薬のなかでレムデシビルは最も効果を示した。人間に投与されたときの安全性に関しては、エボラの治療に使ったときの(安全性の)データがある。今回の感染者に対してレムデシビルを投与する妥当性はある。標準薬がなく時間も限られるなかで治験をするには、まずレムデシビルから医師主導治験をするのが筋だろう」

レムデシビルに関しては、中国も中日友好医院(北京)を中心に臨床試験に着手しており、4月にも結果が出る見通しだ。また、ギリアドも2月、企業による臨床試験に乗り出しており、5月にも一定の結果を公表する予定にある。国立国際医療研究センターでの開発はレムデシビルを先行するため、4つの候補薬のなかでは最も期待が集まりそうだ。ただし、効果が認められたとしても、承認手続きや輸入手続きなどで、通常の治療で使われるようになるには時間がかかる。

日本発の「アビガン」は200万人分を備蓄も副作用あり

また、安倍首相が繰り返し候補薬に挙げるのが、日本発の抗インフルエンザ治療薬「アビガン」だ。富士フイルム富山化学の製品で、ウイルスの増殖を防ぐ効果があるため有力候補として注目されている。

ただ、動物実験で胎児への副作用(催奇形性)が報告されており、妊娠中の女性に投与できない。ほかの薬が効かないような感染症が発生し、国がゴーサインを出したときに限り投与されることになっている。国は新型インフルエンザの流行に備え、約200万人分のアビガンを備蓄しており、今回の新型コロナウイルスによる投与もこの備蓄分から提供された。

3月17日には、中国科学技術省がアビガンの後発品で有効性を示す臨床試験の結果が得られたと発表して話題となった。「治療の効果は明らか」(中国科学技術省)とし、中国の製薬大手である浙江海正薬業でアビガンの後発品を量産する方針を示している。

もっとも中国で有効性が示されたからといって、すぐに日本で標準薬として投与されるわけではない。橋本岳・厚生労働副大臣は、中国での結果について「(日本での)研究の結果がどうなるのか、予断を与えるこということも、我われは控えるべきだ」(3月19日・衆院農林水産委員会での答弁)と慎重な姿勢だ。

日本では、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の患者を多く引き受けた藤田医科大学病院(愛知県)で無症状・軽症患者を対象とした臨床試験が始まり、8月にも終了する見通し。群馬大学医学部附属病院でも臨床試験を計画中。富士フイルム側は企業主導で臨床試験を検討している。

期待が高まるアビガンだが、日本で有効性を裏付けるデータを得るにはもうしばらくかかりそうだ。

日本で新型コロナウイルスが流行し始めてから最も投与された候補薬が「カレトラ」とされる。大曲氏によると、通常の治療結果を研究に生かす「観察研究」という形で、54人(3月1日時点)に投与されたという。アメリカの製薬会社アッヴィが抗エイズウイルス治療薬として開発した。ウイルスの増殖を抑える効果があり、SARS、MERSへの有効性が示唆されてきた。

中国では流行当初からカレトラを感染者に投与し、中国メディアが新型コロナウイルスに有効と報道してきた。しかし、アッヴィは3月9日時点では「中国の臨床試験に関する情報を入手できる状況になく、報道の正確性について確認できない」とするコメントを発表し、冷静に見ている。

さらに3月に中国での論文が、有力医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された。これによると、カレトラの服用者99人と標準ケア(通常どおりの標準的な治療)の患者100人を比較したところ、症状改善の時間に有意差はなかったとしている。つまり、有効性はないという結論となる。

ただし、この論文だけでカレトラが新型コロナウイルスに効かないと結論づけるのは早計かもしれない。大曲氏は「いろんな議論がある。(論文の)サマリーだけ読むと否定的な書き方だが、よく読み込むとまだまだ検討が必要」と述べる。どのような病態や使用時期なら治療効果があるか見極めるには、さらなる症例の蓄積が必要だろう。

喘息薬の「オルベスコ」がウイルス増殖を抑制か

また、急遽、候補薬に挙がった薬剤に「オルベスコ」がある。帝人ファーマが開発した喘息に使う吸入ステロイド剤で、神奈川県立足柄上病院らのチームが3月初旬にオルベスコを投与した患者3人の症例を報告し、脚光を浴びるようになった。クルーズ船に乗っていた高齢感染者の症例報告で、オルベスコについて「ウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が期待される」と評価している。

大曲氏は、オルベスコは「ウイルスを抑える効果はないと一般的に思われているが、コロナウイルスの増殖を抑えるということが見出された」と語る。国立国際医療研究センターは、肺炎の症状がない感染者にはオルベスコを投与する方針にある。

この4候補薬以外では、古くから使われている抗マラリア薬「クロロキン」が候補薬として検討されている。

クロロキンは、アメリカのトランプ大統領が、「新型コロナウイルス感染症の治療に有効」と発言して注目を集めたものの、その後は服用者の中毒例や体調悪化が報道され混乱気味。日本でも過去、クロロキンによる網膜症が問題で訴訟になった経緯があり、効くとしても扱い方には注意が必要になりそうだ。

また、治療薬の開発には大学、企業も乗り出している。東京大学医科学研究所は3月18日、急性膵炎治療薬「ナファモスタット」が新型コロナウイルスの感染を阻止する可能性を突き止めたと発表した。ナファモスタットは30年近く国内で使われている薬剤で、安全性のデータが十分あるなどメリットは大きい。日本では日医工が「フサン」の製品名で販売しているのをはじめ、各社が後発品を出している。安倍首相は3月28日の会見で、「観察研究として、患者の同意を得て投与を開始する予定」と述べた。

このほかに、C型肝炎治療薬である「リバビリン」や「インターフェロン」も候補薬になると見られている。

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国は早期承認制度の適用も検討

さらに日本の製薬会社も、続々と開発に乗り出している。武田薬品は3月4日に、感染し回復した人の血液成分を使用した新薬(高免疫グロブリン製剤)をつくる。早ければ9カ月程度で実用化するという。また、スイス・ロシュグループ傘下の中外製薬は、関節リウマチ治療薬「アクテムラ」で、新型コロナウイルスを対象とした臨床試験を検討中だ。さらに、塩野義製薬やエーザイも、それぞれ開発を表明している。

ただ、医薬品の開発は通常、人に対する安全性、有効性を確認する検証的な臨床試験だけで3~7年かかる。承認申請に必要な臨床試験がすべて終わるのを待っていては、今回の流行に間に合わない。

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「コロナショック」が波及する経済・社会・政治の動きを多面的にリポートした記事の一覧にジャンプします ※外部サイトに遷移します

このため加藤勝信厚生労働大臣は、製薬会社からの承認申請があれば、新たに導入した「医薬品の条件付き早期承認制度」を適用し、「可及的速やかに審査を行っていきたい」(3月26日・参議院予算員会)と答弁している。この制度を使えば、致死的な疾患で検証的な臨床試験に時間がかかる疾患であっても、一定の有効性、安全性が示されれば承認でき、早く国民に治療薬を届けることが可能となる。

大曲氏は、臨床試験に関しても効果が見えそうなデータが揃った段階で、「(終わるのを)待たずに知見が出る可能性はある」と見る。開発に数年かかると見られる新型コロナウイルスの治療薬だが、臨床試験の状況によっては早期承認もありそうだ。

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提供元:コロナ治療薬「世界の救世主」探る臨床の最前線|東洋経済オンライン

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