2019.08.14
【特集/変化するホルモンとともに】女の一生と女性ホルモン
40歳以降、女性ホルモンはどう変化する?
女性が自らの健康戦略を考えるとき、女性ホルモンの働きを無視することはできません。女性ホルモンは、一生でスプーン1杯分の分泌しかないと言われますが、その働きはとても大きいのです。
最初に大きく動くのは思春期。女性ホルモンが高まり12〜13歳で初潮が始まると、10代後半から35歳くらいまでは女性ホルモンがもっとも分泌される時期になります。ここを過ぎると、女性ホルモンの分泌はゆっくりと低下し、40歳を過ぎた頃から急激に落ち、それにともなって体調も変化します。そして50〜52歳で閉経をするとその後はほとんど女性ホルモンの分泌がなくなるのが平均的な流れです。
現代の日本は食事事情が西洋化し、女性の平均身長も30〜40年前と比べるとグンと高くなっています。小学生でも発育のいい女の子を見かけますが、初潮の平均年齢に関しては、30〜40年前とそれほど差はなく、だいたい12〜13歳。もちろん個人差はありますが、女性ホルモンの大きな流れとその年齢はそれこそ人類が誕生したおよそ700万年前までさかのぼっても、あまり変わらないのです。
大きく変わったのは平均寿命。戦前には50歳付近だった寿命は今や87歳を超えてさらに伸び続けています。ひと昔前、平均寿命が50代だったころは、閉経後女性ホルモンが出なくなってまもなく寿命を迎えていたのに、現代は閉経後も人生は長く続いていくのです。だからこそ、私たちは健康戦略を改めて考え直す必要があるのです。
女性ホルモンの急上昇と急降下が一気に訪れる妊娠・出産
女性ホルモンには、卵胞ホルモンと言われるエストロゲンと黄体ホルモンのプロゲステロンの2種類があり、男性ホルモンはテストステロンの1種類。これらの性ホルモンは女性の卵巣や男性性器から勝手に出るわけではなく脳の指令によって分泌されますが、分泌のサイクルは男女で大きく異なります。
エストロゲン ※外部サイトに遷移します
プロゲステロン ※外部サイトに遷移します
女性は思春期、更年期ごとに起こるホルモン分泌のカーブが激しいだけでなく、毎月の生理など1か月の間にも大きく変動するのに対して、男性は夕方より朝のほうが分泌がやや多い程度の差で大方は一定です。一生のカーブにおいても、30歳ごろのピークを境に落ちますが、その曲線は女性のように急カーブではなく、とても緩やかに少しずつ下降していきます。ですから、男性の場合は60歳過ぎても父親になれる可能性があるのです。
さて、女性ホルモンが短期間でもっとも大きく変動するのは、妊娠・出産時期です。妊娠時期は、女性ホルモンの分泌が急激にあがりますが、その上昇は一転、出産で胎盤が出た瞬間にドーンと下がります。大きく上がって急激に下がる、まるでジェットコースターのようなホルモンの変動に体調のみならず、心の状態も不安定になり、"産後うつ"に陥ってしまう人もいます。
ただし、産後うつに関してはホルモンの変動だけではなく、環境要因も大きく影響していると思います。核家族化が進み、忙しく働くパートナーとのコミュニケーションもうまくいかない等、赤ちゃんとふたりきりの状態が続く孤独な子育ては、自分だけが取り残された閉塞感からうつ状態になる人もいるのです。ほ乳類は、本来集団で子育てするのが性質ですから、孤独な子育ては母親にとって大きなストレスになります。
現代は出産前に社会人経験を経た女性がほとんど。一度社会に出たあとで、家にこもって育児に専念することに不安や焦りも生まれます。昨今、結婚を境に仕事を辞める女性は減りましたが、出産を機に辞める人の数はまだまだ多く、働きたいのに働けない焦りや寂しさは、ひと世代上の女性とは違う感覚なのだと感じます。女性ホルモンの変動を本人もまたまわりの人もきちんと理解し、孤立しない環境づくり、仕事を続けられるシステムづくりに取り組むことも、まだまだこれからの課題です。
----女性ホルモン値のカーブは昔とほとんど変わらないのにも関わらず、女性の働き方、生き方は今大きな変化をしています。まずは今自分がどの地点にいるのかを正確に把握することが、健康戦略を立てる第一歩なのですね。
吉野一枝
「よしの女性診療所」院長、産婦人科医・臨床心理士
高校卒業後、CM制作の会社勤務を経て、29歳の時、医学部受験を志す。32歳で帝京大学医学部へ合格。卒業後は東京大学医学部産科婦人科学教室に入局。 母子愛育会愛育病院、長野赤十字病院等に勤務後、2003年によしの女性診療所を東京都中野区に開院。『40歳からの女性のからだと気持ちの不安をなくす本 』(永岡書店)『母と娘のホルモンLesson』(メディカルトリビューン)など著書多数。
先生/吉野一枝(「よしの女性診療所」院長)
取材・文/大庭典子
イラスト/はまだなぎさ
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