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2019.04.24

岡村孝子さんが患う急性白血病はどんな病気か│さまざまなタイプがあり治療法も細分化


岡村孝子さんは女性デュオ「あみん」でデビューしたことでも知られる(写真:日刊スポーツ新聞社)

岡村孝子さんは女性デュオ「あみん」でデビューしたことでも知られる(写真:日刊スポーツ新聞社)

歌手の岡村孝子さん(57歳)が自身の公式サイトで急性白血病と診断されたことを公表した。

私は血液内科を専門としてきた。本稿は急性白血病について詳しく解説していくが、岡村さんの病状について直接的に触れたり、今後を予測したりするものではないことを最初にお断りしておきたい。

白血病に早期診断という概念はない

有名人が白血病になると、周囲から質問を受ける。多いのは「早く見つかったから治るかしら?」というものだ。実はこの質問ほど回答しにくいものはない。それは白血病については早期診断という概念がなく、また同じ白血病でもタイプが細分化され、タイプによって治療成績がまったく違うからだ。

同じ白血球の悪性腫瘍であっても、治癒が高率に期待できる早期胃がんと、予後不良な癌の代表的な存在である膵臓がんほど、さまざまなケースがある。

まずは早期発見だ。これは池江璃花子選手が白血病を公表した際にも話題となった。池江さんの白血病発覚について「早期発見」をポイントにして報じたメディアは複数あった。これは医学的には不適切だった。

白血病は血液の病気だ。大きくは急性白血病と慢性白血病に分かれるが、いずれも骨髄に存在する幼弱な血液細胞が無制限に増殖することが原因だ。早い段階から全身を循環する。この状況は胃がんなど固形がんとは対称的だ。

固形がんは1カ所でがん細胞が生じ、進行とともに全身に転移する。がん細胞が原発病巣に留まっていれば、手術で摘出できるが、そうでなければ抗がん剤や放射線治療をするしかない。この場合、予後は不良となる。

国立がん研究センター中央病院の報告によれば、胃がんのステージ1の場合、ほぼ100%が治癒するが、遠隔転移を伴うステージ4の患者の5年生存率は約10%だ。がん検診などで早期に発見し、早期に治療をしようと勧めるのも合理的な判断だ。

ところが、白血病ではこのような概念はない。白血病が進行すると、骨髄が白血病細胞によって占拠されるために、赤血球・白血球・血小板などがつくれなくなる。この結果、息切れや出血、さらに感染症が生じるが、このような合併症があるからといって治癒しにくいわけではない。

白血病治療の予後を規定するのは、骨髄性かリンパ性かという白血球のタイプ、さらにそれぞれにおいて遺伝子や染色体の異常に基づく分類だ。タイプによって治療法は異なる。

急性前骨髄性白血病(APL)というタイプの白血病がある。この白血病は初発時に出血を生じやすく突然死しやすいことが知られている。脳など重要臓器に出血すれば突然死することもある。2000年に亡くなった格闘家のアンディ・フグ選手はAPLだった。

かつてAPLは死の病だった。大野竜三・愛知県がんセンター名誉総長は論文において「APL患者が入院すると病室は血だらけとなり、野戦病院さながらだった」と振り返っている。

状況を変えた治療法

この状況を変えたのは、1988年に中国の上海第二医科大学の医師たちが活性型ビタミンAであるATRAを用いた治療を開発したからだ。ATRA単剤を23人の患者に投与したところ、22人が完全寛解(骨髄中の幼弱な細胞が全細胞の5%以下になること。白血病治療の成功の基準)となった。

その後、抗がん剤治療との併用が研究され、現在はAPLの無再発生存率は60~80%と高率に治癒が期待できるようになった。医学研究が白血病患者の予後を劇的に改善した一例である。

ただ、APLのような白血病は例外的な存在だ。いまでも成人の白血病の治癒率は高くはない。

成人の急性白血病は、8割を占める急性骨髄性白血症と残り2割の急性リンパ性白血病に大別できる。特定非営利活動法人「成人白血病治療共同研究支援機構(JALSG)」によると、急性骨髄性白血病の長期生存率は40%、急性リンパ性白血病は20%程度である。

いずれのタイプも治療では複数の抗がん剤を併用する。副作用は強く、脱毛・嘔気・倦怠感は必発である。池江選手がツイッターで「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどいです」とツイートしたのは、このためだ。

抗がん剤は白血病細胞だけでなく、正常な造血細胞も傷害するため、骨髄抑制を引き起こす。白血球、赤血球、血小板を作ることができず、赤血球や血小板の輸血、および感染症対策としてクリーンルームに入ることになる。閉鎖的な空間に長期間にわたって「拘束」されるため、心理的なストレスとなる。

白血病の治療が過酷なのは、治療が1回で終わらないことだ。最初に行う抗がん剤治療は、白血病細胞の量を減らし、完全寛解に導入することを目指す。ただ、1回だけでは白血病細胞を撲滅することができないことがわかっているため、強い抗がん剤治療を数回にわたり繰り返す。急性リンパ性白血病の場合は、飲み薬を持続的に服用することもある。この結果、順調にいっても治療が終了するまでには急性骨髄性白血病で半年から1年間、急性リンパ性白血病で1~2年間程度はかかる。

遺伝子や染色体情報を加味して治療は個別化

さらに、近年は遺伝子や染色体情報を加味して、治療は個別化されるようになった。

英国の医師たちが1998年に発表した多施設共同研究の結果では、t(8;21)と表記される染色体異常を有する急性骨髄性白血病患者の5年生存率は69%だったが、5番染色体が欠損しているタイプの急性骨髄性白血病の5年生存率はわずかに4%だった。

急性リンパ性白血病は、一般的に予後が不良だ。特に年齢が高くなるほど、治療成績は悪くなる。前出のJALSGが2002年に報告した研究では、フィラデルフィア染色体という予後不良因子がない急性リンパ性白血病患者の長期生存は30~49歳が32%だったのに、55~64歳は26%にすぎなかった。

近年、チロシンキナーゼ阻害剤という新薬が開発され状況は変わったが、フィラデルフィア染色体が陽性の急性リンパ性白血病は、5番染色体欠損の急性骨髄性白血病と同じく、長期予後は極めて不良だった。

このようなハイリスクタイプの場合には、地固め療法が終了するのを待ち、骨髄移植や末梢血幹細胞移植(本稿では以下、まとめて骨髄移植と記す)を行うことが多い。大量の抗がん剤や放射線を用いて、がん細胞を撲滅し、HLAという白血球の血液型があったドナーから採取した骨髄細胞を移植する治療である。本稿で詳述は避けるが、骨髄移植の方法は多様化した。ドナーソースとして骨髄バンクや臍帯血バンクも整備され、また、前処置に用いる薬剤を工夫し、かつて50歳が上限とされていた骨髄移植が60代でも可能になった。

初回の寛解で、そのまま骨髄移植を行った場合、フィラデルフィア陽性の急性リンパ性白血病でも50%程度の長期生存が報告されている。抗がん剤や放射線の副作用、および移植に伴う免疫反応(移植片対宿主病、GVHD)のため、20~30%程度が合併症で命を落とす治療であるが、骨髄移植は白血病患者にとって切り札ともいえる存在だ。この治療を開発した米国のエドワード・ドナル・トーマス博士は1990年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

さらに、今年3月、25歳以下の再発あるいは難治性のB細胞性急性リンパ性白血病に対して、CAR-T細胞療法という免疫療法も承認された。ノバルティスファーマが販売するキムリア®だ。

その効果は劇的で、同社が実施した国際共同治験では、再発あるいは治療抵抗性の小児・若年成人の急性リンパ性白血病患者50人に投与したところ、41人で白血病細胞が消失した。

さらに、最近の研究でキムリア®の効果は長続きしそうなこともわかってきた。キムリア®投与後3カ月が経過した時点で、ほとんどの患者が寛解を維持していたのだ。キムリア®は投与から20カ月が経過しても、患者体内で検出されたという報告もある。

アメリカで1回5000万円を超える治療費が問題となっているが(日本は未定)、白血病の治療を塗り替える画期的な治療法だ。岡村さんは適応にならないが、池江さんにとっては、これも切り札となりえる。

タイプによって治療法や予後はまったく異なる

以上、急性白血病治療の現状の一部をご紹介した。かつて白血病は死の病だった。1970年に公開された映画『ある愛の詩』では、ヒロインのジェニーは白血病で亡くなる。この映画から約50年が経過し、白血病は治癒が期待できる疾患となった。医学の進歩を象徴する存在といっていい。

この間、白血病は遺伝子・染色体情報に基づき細分化が進んだ。治療法も細分化されつつある。この結果、白血病の解説は実に難しくなった。タイプによって治療法や予後はまったく異なるのに、患者のプライバシーもあり、公表される情報は限られているからだ。メディア報道はどうしても中途半端なものになる。誤解と噂が広まる素地をつくる。白血病についての国民的な認識が深まることを願っている。

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提供元:岡村孝子さんが患う急性白血病はどんな病気か│東洋経済オンライン

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