2019.06.06
子どもの「好き嫌い」がなくならない3つの理由│なぜ「うちの子は食べ物を残してしまう」のか
子どもが好き嫌いをする理由について解説します(写真:プラナ/PIXTA)
食べ物の好き嫌い、皆さんもありませんか。大人になってもなぜか避けてしまったり、においを嗅いだりするだけで鼻をつまみたくなる食べ物。例えば、人参やピーマン、ほうれん草やレバーなど……人によってさまざまな好き嫌いがあると思います。
じつは好き嫌いには根本的な原因があるのです。それは幼少期の食経験が大きく関係しています。今回のコラムでは、小さいお子様がいる方にはぜひ知ってもらいたい「好き嫌いがなくならない理由」、そして「好き嫌い予防策」をご紹介したいと思います。
給食は残さず食べるのに…
料理家として私は日々、さまざまなお客様にコース料理やパーティー料理を作ったり、新しい料理を考えたりしています。そのベースにあるのは「給食」です。
私は12年間で計150万食以上の小学校給食を調理してきました。学校給食というのは、文部科学省から出されている「学校給食実施基準」に合わせて、さまざまな食材をバランスよく、さらにおいしく、子どもの成長をサポートするように考えられています。
子どもたちはそんな給食が大好きです。毎日の給食を楽しみに登校する子もいるくらいです。しかし家に帰ると、給食で食べているはずの物を食べなかったり、野菜を残してしまったりということがあるようです。保護者の方からも「給食は残さず食べるのに、家では食べてくれない」といった声をよく聞きます。
好き嫌いが起きる原因はいろいろありますが、じつは学校給食には「なぜか食べられてしまう」ヒントが隠されているのです。子どもの好き嫌いがなくならない理由について3つ順を追って説明します。
理由【1】苦味や酸味を嫌うのは人間の「本能」
まずは好き嫌いの根本的な理由を知ることが大切です。
苦味や酸味を嫌うのには科学的根拠があります。料理の世界で「五味」と呼ばれるように味には5種類あり、舌にある「味蕾(みらい)」という器官で食べ物の味を感知しています。
◎ 甘味 …… エネルギー源
◎ 塩味 …… ミネラル
◎ 酸味 …… 腐ったものや未熟な物
◎ 苦味 …… 毒のシグナル
◎ うま味 …… タンパク質
「五味」のなかで甘味・塩味・うま味は、生きていくために必要不可欠な栄養素なので、自然と好んで食べるようになっています。
逆に、苦味や酸味は本能的に毒物や腐敗物など身体に悪そうなものと判別するため、危険信号を出します。ですから、自然と食べなくなります。つまり、小さい子どもが甘い飲み物や塩味の食べ物を好み、苦みの強い野菜や酸味の強い酢の物を嫌うのは本能的なものだと言えるのです。
学校給食では、苦味や酸味を消すための工夫として、ピーマンなどは繊維に沿ってカットすることで苦みを抑えたり、酸味の強いトマトなどを使った料理はじっくり煮込んで酸味を飛ばし、まろやかにしたりと一つひとつの食材と向き合いながら調理しています。
そのほかにも出し汁の旨味成分の特色を生かし、苦みや酸味を和らげる調理方法を使用しています。給食で出されたピーマンやトマトはパクパク食べるのは、調理法に工夫が隠されているからです。
初めて口にするものに警戒心を持つ
理由【2】 緑色に刻まれたネガティブイメージ
子どもは、初めて口にするものに対して強い警戒心を持つと言われています。たまたま初めて食べたものがおいしくなかったり、刺激的な味だったりすると、その時の記憶が脳に刻まれ、さらに新しいものへの警戒心を強めてしまいます。
例えば、「緑色の野菜は嫌い」というように、視覚から特定の食べ物に苦手意識を持つ人もいます。これは最初に食べた緑色の食材に、脳の中で悪いイメージを描いてしまっているからです。
本能的に避けている苦味や酸味のある食材について、悪いイメージが強く残ると、大人になってからもなかなか消し去ることはできません。イメージが悪いと食材の味も悪くなり、挽回するのに時間がかかります。人も料理も第一印象がとても大事なのです。
例えば、緑の野菜に含まれている苦味成分(ポリフェノールなど)が体にとてもいいのは、みなさんもご存じかと思います。
しかし、子どもの場合、耐性がついていない苦味成分がちょっとでも口に入ると脳が「体に害を及ぼす毒」だと瞬時に判断し、体内から出すようにシグナルを送ります。さらに、子どもの舌にある味蕾は大人の3倍も感度が高いと言われているので、嫌がる理由は十分に理解できます。
学校給食では、野菜の苦味を抑えるオイルを使ったり、相性のよい小魚などのカルシウム類を合わせたりといった調理方法を採り入れています。私はそれ以外にも、緑の野菜に赤や黄色の野菜を合わせて「本当においしいから、食べてみて」と、毎日少量でも出すことにしています。
最初は食べられなくても出し続けることで、周囲でおいしそうに食べている子につられてパクッと一口食べてみたり、自ら挑戦してみようと食べる子もいたりと、自然に食べられるようになっていく子がほとんどです。これが、苦味に対する耐性が少しずつできていく表れなのです。
ですから、ご家庭でも諦めることなく、いつか箸が伸びるその日まで、少しずつでもテーブルに出してあげてほしいです。
叱られた子どもと残食の関係
理由【3】笑いのない食卓は好き嫌いを増やす
どんなにおいしい食事でも怒られながら食べると、まずく感じたり、食欲がなくなったりします。これは大人も子どもも同じです。「早く食べなさい」「どうしていつも残すの」と言われて食べる食事は、大人でもおいしく感じられないのではないでしょうか。
学校でも、午前中の授業で叱られていた子どもたちのクラスの残食は、少し多めに返ってきます。いつもよく食べるクラスの残食が多いと「あれ、何かあったのかな」と、少し心配になります。
さらに、怒られて食べた経験(視覚、雰囲気、味、香り)が食材と結びついてしまい、嫌いな食べ物に変化してしまうこともあります。なので、苦手な物を食べてくれないからと言って、一方的に怒って無理やり食べさせるのは、逆効果なのです。
保護者の方には、家庭でも食事のときには笑顔で「おいしいね」とか「感謝して食べようね」と声をかけて、雰囲気作りも大事にしてほしいと、つねに伝えています。
科学的には、グルーミング行動(スキンシップ、家族だんらん)が多いほど、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンを増加させるオキシトシンの分泌を促すと言われています。
学校での給食時間では、班になりクラスメイトと向かい合って食べます。おしゃべりせずに集中して食べていても、皆なぜか笑顔です。いつも一緒に過ごしている友だちと一緒に給食を食べるということが楽しくて、こちらまで嬉しくなってしまうほど、いい顔をしてくれるのです。
友だちとの楽しい記憶と食事が結びついて、10年後も「あのとき食べた給食はおいしかったな」とか「あの頃は楽しかったな」といい思い出となり、脳に刻まれていくのです。
今の学校給食は昔とは違い、「残さず食べよう」ではなく、「自分の食べられる量を、自分で判断し、取り分けて食べる」という方向に進んでいます。
もちろん、食べ物を大切にする心は大事ですが、子どもであってもそれぞれですから、全員が同じ量を食べられるとは限りません。逆に無理やり食べさせて、給食を嫌いになるほうが致命的です。
これからは食も「自ら判断し、自ら選ぶ」ことが求められる時代だと、私は思います。その過程で、少しずつ嫌いなものを克服したり、新しい食べ物にチャレンジしたりすることで「好き」を増やしていくことができれば、選択肢の幅も広がり、食事の楽しみが増えると思います。
食に対する思い
好き嫌いがなくならない理由をたくさん述べてきましたが、実は私自身、幼少期は好き嫌いがたくさんありました。野菜全般が大嫌いで、おかずとご飯ばかり食べていたので母は苦労したと思います。
それでも、残した私を責めたりせず、ずっと食卓に出し続けてくれたおかげで、自然と野菜嫌いがなくなっていました。今は野菜が大好きです。好き嫌いもほとんどありません。体も病気もせず、健康です。体格にも恵まれ、今では身長190センチと日本人離れした体になりました。
「食」を通じて、たくさんの人との交流も増えました。何より、私は「食」が心から好きになり、料理家になれたのです。母には感謝しかないです。「好き」が増えれば未来はもっと明るい、そのことを私は身を持って知っています。
子どもの好き嫌いをどう克服すればいいか、毎日の食事に悩んでいる方はたくさんいると思いますが、親御さん自身も料理を「苦行」にしてほしくないです。
食べることも作ることも楽しくて、幸せなことですから、食事は「済ます」ではなく「楽しむ」ことであってほしいのです。そうすれば、お子さんも食べるのは楽しいことだと自然と学んでいくでしょう。これからも料理家として、たくさんの人においしい料理と思いを届けていけたらと思います。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:子どもの「好き嫌い」がなくならない3つの理由|東洋経済オンライン