2019.03.11
「生前贈与」を利用しない人が「大損」するワケ| コツコツやれば大抵の人は相続税がゼロに
多額の資産がなくても、生前贈与はやっておくべき。残された家族にとって恩恵は大きい(写真:kotoru/PIXTA)
例えば、資産家の親が亡くなった際、長男である自分にまとめて資産が相続されるとします。そこで事前に何も対策をしないでいた場合、巨額の相続税を支払わなくてはなりません。少しだいぶ京都内の広大な土地を物納して支払ったといわれています。
そもそも、相続される資産の合計額が3000万円+600万円×法定相続人(法律で定められた相続人に該当する人)を下回る人に関しては、相続税は非課税となります。
しかし、相続財産がこの非課税枠を超えるケースも珍しくありません。先述の田中角栄氏のように土地などの不動産も相続税の課税対象となるため、仮に残された現預金が少なくても、建物と土地の評価額(相続税を計算する際の建物や土地の金額)次第では、多額の相続税を納める必要が出てきます。
そこまで資産家でなくても、普通に実家などを相続する場合、少しでも相続税の負担を軽くするために、知っておくべきことの1つが「生前贈与」です。
基本の生前贈与で多額の金額が非課税になる
生前贈与の最もオーソドックスな方法である「暦年贈与」は、1人に対して年間110万円までの贈与であれば非課税となる制度です。仮に毎年110万円ずつを子ども1人、孫1人に贈与した場合、10年で合計2200万円の資産に対して非課税の適用を受けられます。
ただし、例えば、子どもや孫名義の口座を作り、贈与のつもりで入金したお金を自分で管理していると、相続税の対象となる可能性があります。あくまでも子や孫が利用できる形で、さらに受け取る側が贈与されているという認識がないと、暦年贈与の対象とはなりません。また、財産を相続する日からさかのぼって3年以内の贈与については、暦年贈与の非課税枠の範囲内でも相続税の対象になります。
では実際に、どのぐらい相続税を軽減できるのでしょうか。例として、妻がすでに他界し、夫と娘1人のケースを考えてみます。実家の評価額が3000万円(建物+土地)で、現預金が1100万円ある夫が亡くなった際、法定相続人が娘1人の場合、相続税の基礎控除額は3000万円+600万円×1人=3600万円。つまり、資産総額の4100万円から基礎控除額(3600万円)を引いた、500万円が課税対象となります。
国税庁による相続税の速算表をもとに単純計算すると、500万円にかかる税金は50万円。しかし、暦年贈与を利用して10年間で毎年110万円を贈与していた場合、夫の資産のうち現預金に関しては、非課税で娘の手に渡ったことになります。つまり、課税対象となる資産は土地のみ(3000万円)となり、基礎控除額(3600万円)を下回るため、相続税は0円になるのです(相続開始の3年以上前に暦年贈与が終了する必要あり)。
最近では、金融機関から「暦年贈与信託」という商品も登場しています。これは顧客から預かった資産について、毎年非課税枠の範囲内で、子どもや孫に贈与する際の手続きを金融機関が代行してくれる商品です。贈与があったことを客観的に証明する贈与契約書の作成や、振り込みなどを信託銀行などの金融機関に代行してもらうことで、面倒な手続きを省くことができます。こういった金融機関の商品を活用して生前贈与を行うことも、確実に非課税の適用を受けるために有効な方法の1つです。
学校から習い事まで使える「贈与特例」とは?
暦年贈与以外にも、相続税を軽減する方法はあります。利用目的が限定された贈与を対象に適用される、「一括贈与の特例」などはその1つです。
例えば、まとめて1500万円を渡してしまうと、それは贈与したものとして所定の贈与税がかかります。国税庁が提示する贈与税の速算表(一般税率)をもとに単純計算すると、1500万円にかかる贈与税は500万円。もし教育資金として贈与しても、3分の1の金額を税金として負担しなくてはなりません。
そこで検討したいのが、「教育資金の一括贈与」に関する特例です。この特例は1500万円まで(学習塾やピアノなどの習い事は500万円まで)の教育資金の一括贈与であれば、非課税となります。
ただし、この特例の利用には条件があり、資金については「教育資金贈与専用口座」に預け入れを行うなど、信託銀行などの金融機関を通じて贈与する必要があります。贈与を受けた人は学費などの支払いを行った場合、その領収書を口座開設した金融機関に提出して初めて、非課税の適用が受けられるのです。
また、贈与を受ける人の年齢は30歳未満に限ります。贈与を受けた資金が30歳を過ぎて残っていた場合、その残額は課税対象となるので注意が必要です。節税目的で非課税枠ギリギリの金額を贈与するよりも、子や孫にいくら教育資金が必要なのか逆算したうえで、30歳を超えて資金が残らないように贈与するのが賢いやり方といえそうです。
なお、この教育資金の一括贈与による贈与資金は、暦年贈与と違って相続開始前3年以内の贈与財産であっても、相続財産に加算されない財産となります。
教育資金一括贈与の特例については、当初2019年3月31日までの期間限定でしたが、2018年12月の税制改正により、2年間延長(2021年3月31日まで)されることになりました。ただし、23歳以上30歳未満の趣味の習い事等に利用される資金については、同特例の対象外となるようです。
一括贈与に関する特例は、教育資金だけではありません。結婚や子育て資金、また、住宅取得資金などについても利用できます。「結婚・子育て資金の一括贈与」については、最大1000万円まで(結婚資金については300万円まで)の一括贈与が非課税となります。住宅取得資金については、取得時期や住宅の種類、また消費税率10%で住宅購入の契約をしたかどうかなどによって最大3000万円までが非課税となります。
住宅取得資金に関する生前贈与には収入制限などがある
結婚・子育て資金の一括贈与は教育資金と同様に、金融機関で開設した専用口座に預け入れを行い、支払いに充てたことがわかる領収書等を提出して初めて非課税の適用を受けることができます。対象年齢は20歳から49歳までで、50歳になったときに残額がある場合は課税対象となります。また、同特例も当初は2019年3月31日までの予定でしたが、税制改正により2年間延長されました。
住宅取得資金の贈与に関する特例を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告書を税務署に提出する必要があります。また、1月1日時点で20歳以上であることや贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下など、年齢や収入による制限も存在します。
このように生前贈与をうまく活用することで、相続税を軽減することができます。残された人の税負担を軽減するためにも、利用できる制度がないかどうか、いま一度確認してみてはいかがでしょうか。
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提供元:「生前贈与」を利用しない人が「大損」するワケ|東洋経済オンライン