2019.01.17
それでも「現金派」という男女3人が語る理由| キャッシュレスに移行しない人の心理
電子マネーやクレジットカードの管理、きちんとできていますか?(写真:Milkos/iStock)
「平成」も終わりに近づいてきました。この「平成」はいったいどんな時代だったのか、生活者にどんな変化をもたらしたのか。
博報堂生活総合研究所(生活総研)が行っている長期時系列調査「生活定点」などのデータを用いながらご紹介していきます(首都圏・阪神圏の20~69歳男女約3000名に聴取、調査概要詳細は記事末尾で記載)。
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ポイントで年10万円貯める人も
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昨年末、スマホ決済のサービス「PayPay(ペイペイ)」が利用者に100億円ぶん還元するキャンペーンを発表。わずか数日で終了したこともあり、大きな話題になりました。同時期には「LINE Pay」でも還元キャンペーンが行われており、これらの動きを見て、キャッシュレス時代の本格化を感じた人も少なくないのではないでしょうか。
クレジットカード決済、交通系や流通系のICカード、決済機能を搭載した携帯端末・スマホ端末などの登場と、気付けば電子マネーは日常に深く浸透しています。
その魅力のひとつは、ポイントサービスでしょう。国内家電量販店で日本初の電子的なポイントカードが登場したのは、平成元年(1989年)。同年、航空会社でも航行距離に応じたマイルが貯められるサービスを開始。以降、様々な企業陣営が競うようにポイントサービスを導入してきました。
「日常の支払いはほぼキャッシュレス」というある40代男性は、「クレジットカードの使い分けや、ポイントが数倍つく特売期間中にまとめて買い物をすれば、年間10万円近くは貯まる!」と話していました。しっかり取り組めば家計へのインパクトも小さくありません。
それでは、日本人のキャッシュレスへの意識はこれまでどう変化してきたでしょうか。長期時系列調査「生活定点」を見ると、興味深い実態が浮かび上がってきます。
●お金に対する生活者意識・行動の変化
「日常的に電子マネーを使っている」
2006年12.1% → 2018年47.6%(+35.5pt)
「日常的に携帯電話やスマートフォンで支払いをしている」
2006年 2.6% → 2018年 10.7%(+8.1pt)
「日常的に企業が発行するポイントサービスを使っている」
2016年57.2% → 2018年62.7%(+5.5pt)
「クレジットカードを使うことに抵抗はない」
1992年28.0% → 2018年58.7%(+30.7pt)
電子マネーや企業のポイントサービスの利用は、年々日常的になっていることが数値からもわかります。1990年代には「カード破産」の問題が指摘されていたクレジットカードも、今では抵抗のない人が多数派です。
キャッシュレス化は、政府も積極的に進めようとしています。国内の「キャッシュレス決済比率」は現在20%程度ですが、政府としては2025年には40%まで高める方針です。さらに、2019年10月に予定されている消費増税に向けて、景気対策として「キャッシュレス決済なら増税分のポイントを還元する」という方法の議論も進行中。もはや「お金は基本キャッシュレス」というのが時代の趨勢(すうせい)であり、合理的な選択のようにも思えてきます。
とはいえ一方で、気になることもあります。依然として、現金中心で暮らす「現金派」の人たちは、いったいどのように感じているのだろう、ということ。
不便を感じていたりはしないのか? そしてこの先も、「現金派」を貫くのか? 実際のところを聞かせてもらうべく、機縁法(研究者の知人のつながりを介した被験者リクルーティング)で探した「現金派」だという3人の方(以下Aさん・Bさん・Cさん)に面談をし、お話を伺いました。
「現金派」がキャッシュレスに移行しない理由は?
Q. 自分の「現金派」ぶりを簡単に教えてください
Aさん(20代女性、神奈川県出身)
私はクレジットカードを持っていますけど、普段の買い物はなるべく現金です。財布には2万円くらい入れていて、減ってきたら都度ATMで引き出しています。月2~3回くらいかな。通勤定期券として交通系ICカードの電子マネーも持っていますが、チャージを極力したくないので、電車に乗るとき以外はそれほど使わないようにしています。
Bさん(30代男性、東京都出身)
「小銭の管理が便利」というBさんの財布(筆者撮影)
お金を使うのは土日が多く、食品・日用品・雑貨・外食と、基本はすべて現金で支払っています。平日は妻がお弁当をつくってくれることもあり、あまりお金を使いません。現金は小銭が面倒という人もいますが、僕の財布は小銭が999円まで並べて収納できて便利です。クレジットカードも持っていますが、家電量販店で年に数回使うくらいです。
Cさん(20代女性、埼玉県出身)
私はこれまでの人生で1度もクレジットカードを作ったことがないです。周りからは「相当変わってる」って言われています。基本は全部現金なので、多いときは月10回ATMに並ぶこともあります。手数料がかかるときもありますけど、まあ仕方ないかなって。ネット通販もしますが、カードがないので銀行振込ができるサイトだけです。交通系ICカードは持っていますけど、使うとしてもコンビニで数百円くらいです。
Q. なぜ現金中心で生活しているんですか?
Aさん:財布の現金を見て、1週間でお金をいくら使ったのか、この目で直接確認したいんです。中学生のときからお小遣いをもらうようになったんですけど、お母さんから「お小遣いを4つの袋に4等分して入れて、1週間ごとに袋を1つずつ使っていきなさい」と言われて。そうしたら使いすぎが防げるし、余ったらそのまま貯金できるでしょ、と。そのときからの習慣というか……、自分にはこのやり方が心地よい気がしています。
Bさん:やっぱり目に見えないところでお金が減っている感覚がいやです。お金の管理が雑なほうだと自認しているので、気をつけたいなと。若い頃、20人規模の宴会の幹事をやったときに10万円くらいクレジットカードでまとめて支払ったんですが、みんなから徴収したお金が手元に残ったのを、臨時収入のように錯覚して無意識に使ってしまって……。後日、口座から10万円引き落とされたとき、二重に費用が発生した感覚になったんです。それ以来、極力現金で支払うようになりました。
Cさん:クレジットカードだと支払いをしたタイミングと、実際にお金が減るタイミングにタイムラグがあるじゃないですか。私はどんぶり勘定なところがあるので、そのタイムラグがとにかく不安です。現金で暮らしていれば、そのとき払った以上の請求が後からくることはないですから。あと実家が自営業で、基本現金の売り上げでまた仕入れて生活もして……という形だったんです。それで現金で生活するのが当たり前だと思っている部分があるのかもしれません。
「現金は有効期限がない」
Q. クレジットカードや電子マネーだと、使うたびにポイントがつくものもあります。現金だとそのぶん損をしていると感じることはありませんか?
Aさん:私はポイント自体が、とにかく面倒です。店員さんにポイントカードをつくるか聞かれても、ひたすら断っています。旅行も好きですが、マイルも貯めていません。5ポイント10ポイント貯まったところでそれが何なの?と。いくら貯まっているとか、いつまでに使わないと消滅するとか、そういうことをいちいち考えることが面倒です。現金は有効期限がない。いつまでも現金です。あ、シネコンが発行しているポイントカードは持っています。「6回映画を観ると1回タダ」という仕組み。これだとわかりやすいですから。
Bさん:お得なことに乗りたい気持ちはあります。だから先日、還元キャンペーンをやっていたQRコード決済を利用してみました。でもやっぱり、お金を使った感覚がよくわからないですね。還元される金額も、「ポイントをお得にもらえたな」くらいの気持ちなので、それを使い切ったらもう利用しないと思います。
Cさん:私は正直、「損をしている」「無駄なことやっているな」と感じることも多いです。ポイントやマイルがつかなかったり、現金の引き出しや振り込みで手数料がかかったり……。でも新しいことを始めるのがおっくうというか、今の生活のやりくりリズムを崩すのがいやで、ずっとそのままきている感じですね。
キャッシュレスだからこそ、お金の“見える化”は必要
Q. 世の中はキャッシュレスに向かう動きが強くなっていますが、何か感じることはありますか? この先も「現金派」でいきますか?
Aさん:最終的には自分もそっち側(キャッシュレス)にいくとは思うんですけどね。電子マネーの種類が増えると、お金がどんどん分散するのがいやです。前に友達に「(借りたお金を)送金アプリで払おうか?」って言われて、本気で「やめて!」と。
Bさん:僕は変わらず現金派だと思います。管理のしやすさが大事なので。お金の動きが一元的に把握できて、“見える化”されるようになれば変わるかもしれませんが、消費増税対策で多少ポイントが還元されるくらいでは、あまり動こうという気になりません。
Cさん:実は私、クレジットカードを作ろうかとちょっと思っていて。さすがにもうそろそろ1枚くらいは……(笑)。でも社会がお金をキャッシュレスにしていくのなら、目に見えなくなったお金を誰でもきちんと管理できるようにしていくことも、セットじゃなきゃいけないと思います。使いすぎを警告してくれるとか、支出とお金が減る時期のタイムラグを見やすく示してくれるとか。そういう仕組みが必要な人はいると思います。
……いかがでしょうか。実は、筆者自身が極力キャッシュレス派ということもあり、現金派の人たちがなぜ現金を重視するのか、興味深く伺いました。印象的だったのは、
・目に見えて実感できる状態で
・時間軸は“現在時点”で
お金を扱いたい、という意識が強かったこと。ポイントなどのインセンティブよりも、そのスタンスを守ることが3人にとっては大切なようでした。キャッシュレス推進はややもすると、各陣営の「メリット競争」になってしまいがちですが、社会の隅々にまで浸透させようとするならば、やはり「デメリット意識の解消」を根気強くやっていくことが必要かもしれません。
また、AさんとCさんについては、ご家族の生活スタイルや教えに少なからず影響を受けていることも印象的でした。考えてみれば当たり前ですが、次代の生活者がどうお金と向き合うかは結局、今の、そしてこれから生まれてくる子供たちに対して、私たちがお金をどんなふうに扱い、教えていくかが大きく影響を及ぼすことでしょう。
平成に大きく変わっていったお金のカタチ。「目に見えて減る」ということが実感しにくくなってきたこの道具に、ポスト平成の生活者がどんなふうに向き合っていくのか。引き続き注視していきたいと思います。
【参考情報】
「生活定点」調査概要
調査地域:首都40km圏、阪神30km圏
調査対象:20~69歳の男女3080人(2018年・有効回収数)
調査手法:訪問留置法
調査時期:1992年から偶数年5月に実施(最新調査は2018年5月16日~6月15日)
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