2018.12.17
「私だけ損してる」と舌打ちしたい女性たちへ 子育て中の女性ばかり優遇される世の中で
損ばかりしていると嘆く女性に、坂東眞理子さんが伝えたいこととは(写真:metamorworks/iStock)
ベストセラー『女性の品格』から12年。坂東眞理子・昭和女子大学理事長がいま考える、人生100年時代を納得して生きるために必要な「女性の美学」とは? 大人の女性の3大場面、「職場」「家庭」「社会」それぞれの場で女性の直面する問題にどう対応するか、この連載ではつづっていただきます。
不公平感にとらわれている女性は少なくない
働いていて「私ばかり損している」という思いにとらわれる。そんな女性はきっと少なくありません。
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子育てをしている女性は、出産休業、育児休業、子どもが6歳までの時短などと職場で手厚い保護を受けます。その分をカバーするのは、独身の女性や子どものいない同僚の女性だったりします。「同じ女性でも子どもがいないと損だな」。そんな声をたびたび耳にしてきました。
育児休業で休んでいる時は目につかなくても、子育て中の女性は復帰してから後もやれ子どもが風邪を引いた、保育所の保護者会だ、運動会だと休みがちです。しかも会社も社会も子どもを持つ女性に優しく、温かく対応しているように見えます。それに甘えて、ワーキングマザーの中には「自分たちは、すごーく頑張っている。私はエライ」と自己満足し、休みを取るのも当然の「権利」と要求し、幸せをみせびらかす人がいます。その陰で大変な思いをしている自分たちを忘れているのではないか、と神経に触るのです。
子どもを持たない女性だけでなく、子どもが大きくなっている女性も、今子育て中の女性たちに複雑な思いを抱いていたりします。「私たちの時は今ほど制度が整っていなくて大変だった」「職場に迷惑をかけないように肩身の狭い思いをし、必死で頑張ったのに、今の人たちときたら大きい顔してラクしている」という思いを持っている人も少なくありません。
子どもを持って働いている女性に、言いたいこと。それは、どれだけ法律で休業が保証され、時短が社内規則で明文化され、看護休暇があったとしても、職場では当然の権利だという態度を絶対取らず、短い時間の中で成果を上げるように努力する、ということです。また周囲への感謝を「ご迷惑をかけます」「おかげで子育てができてありがとうございます」と言葉でしっかり表現し、態度で示すように私はアドバイスしています。
しかし、そのように振る舞う女性ばかりではありません。子育てと仕事に追いまくられて周囲に気を回す余裕のない女性もたくさんいますし、体力や時間の制約で仕事の成果が出せない人もいます。考え方が未熟で、「権利なんだから子育ての大変さを認めない会社が悪い、周囲が悪い」と考えている女性もいます。いちばん度しがたいのは、悪気がないままかわいい子どもを持った幸せを見せびらかし、周囲の協力を当然としている女性です。
こういう同僚の母親社員に対し、同じ女性でも「しようがないな」と舌打ちしたくなる気持ちになるのは当然です。
しかしそれを言ってしまっちゃあ、おしまいです。そこをぐっと我慢するのが女性の美学です。
この忌々しい気持ちを切り替えるには
相手が未熟だからこっちも思ったことを遠慮なくズケズケ言いましょう、というのでは子どもと子どものけんかになってしまいます。こちらが我慢するだけなんてほんとに損だ、と被害者意識にとらわれてしまわず、どうしたらこの忌々しい気持ちを切り替えることができるでしょうか。
1つの考えは、相手より高みに立って、「かわいそうに、忙しくて余裕がないんだ」と哀れみの気持ちを持つことです。未熟な相手が成長するのを見守る教師か、姉のような気持ちになるのです。
確かにどれだけ制度が整っても子どもが3、4歳になる頃までは親も必死で子育てをしなければ子どもは育ちません。ヒトがこれまで生き残ってきたのは、年長のメスやオスが力を合わせて子育て中の若いメスを支えたからだといわれます。
「だから子どもを産んだ女はさっさと仕事をやめて家庭で子育てをしろ!」と考える人は今でもいますが、それでは個々の家計も経済も回りません。
自分ばかり損していると思わず、子育て支援は日本という社会を存続させるための必要経費のようなものだと、大きな目で物事を見てはどうでしょうか。一人ひとりのワーキングマザーやシワ寄せを受ける自分は、その全体の中の小さな1つの存在としてみる眼を持つのです。
そして自分も大変だけれど相手も大変なんだ、と視点を変えてみるとイライラが少し減ります。なぜ子育て中の女性は大変なのか、夫や男性はなぜ家事育児を分担しなくても免責されているのか、と考えてみましょう。共働きでも夫のほうが自由時間が多いのはなぜか、問題の根はひとつです。
その延長で、“作戦”を考えます。たとえば育児休業を取る同僚がいたら今後どうするか、その間の対応を上司や人事に相談する。それも育休社員の欠員補充をするのが当然でしょ、というのでなく、「これこれの仕事の量はこれこれで、新しい人員がこれだけ必要」といったように、客観的に納得してもらう材料を提供するのです。
ダメもとでも相談をする
どうせ会社は人件費をケチるだろうから要求しても無駄だと思い込んで、初めからあきらめないことです。何も言わないで「損だな~」と思いながら仕事を引き受けていても、感謝されることはありません。今まで余裕があったんだと思われて、評価もされません。ダメもとでも相談してみましょう。
もう1つの対策は、子育て中の女性の負担を軽減するような方法を、一緒に考えてみる、ということです。「お節介」と嫌われるかもしれないので、その人との関係性と内容を見極めたうえで慎重に言わなければなりませんが、あなたが持っている情報が何か役に立つかもしれません。
たとえば、仕事の効率化に関しては、子育て経験の有無にかかわらずアドバイスすることが可能です。
子育て経験のある人であれば、たとえばベビーシッターを派遣する会社のことや、家事援助の家政婦さんの情報をシェアするといったことなどです。
私の子育ての頃はあまりそうしたサービスがなかったので母に頼り、姉に頼り、ご近所に頼りという「総動員体制」でした。今の時代では、夫のサポートも含め、もう少し利用できることが増えています。
大変なことを自分ですべて抱え込まないで助けてもらうように、アドバイスするのは悪くないと思います。相手との間に信頼関係があれば、そうした生活の知恵を先輩から後輩に伝えましょう。
信頼関係の基本は、相手の身になって考えることです。相手の大変さに共感し、応援することから信頼関係は生まれます。
そして損ばかりしているあなたへのアドバイス。「人の世話ができる時が華」です。健康だから、仕事ができるから、会社に勤務しているからこそ、損ができるのです。損しているあなたが、会社と社会を支えていくのです。そして将来、いつかどこかで別の誰かが、あなたをサポートしてくれると思いましょう。
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提供元:「私だけ損してる」と舌打ちしたい女性たちへ|東洋経済オンライン