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2018.12.10

人生100年時代の公的年金保険改革とは何か|2019年年金財政検証のポイントを読み解く


子や孫の世代の年金給付を向上させるためにやるべき改革は多い(写真:xiangtao / PIXTA)

子や孫の世代の年金給付を向上させるためにやるべき改革は多い(写真:xiangtao / PIXTA)

5年に1度、正確に人口を把握するために国勢調査が行われているのはご存じだと思う。そこで調査された人口を基に、長期的な将来の人口推計が行われるのは2年ほど後。そしてこの将来推計人口を用いて、5年に1度、およそ100年先までの財政試算を行っているのが日本の公的年金保険である。

この作業は「財政検証」と呼ばれており、いわば5年に1度の健康診断とも言える。かつて、財政検証がおよそ100年先まで行われる試算であることから、「100年安心」と呼ばれたことがあったが、それは大きな勘違いであり、財政検証は、5年に1度100年先を見通して行われる健康診断にすぎず、5年の間に、社会経済状況に変化が生じて、将来の健康が芳しくないことが見通されるようになったら、健康回復を図る。そのために行われるものである。

実のところ、政府は、100年安心とは、一度も言っていない。この言葉は、日本の年金を批判するための枕言葉にしか使われていなかったという特徴を持つ面白い表現であったりもする。

100年安心という言葉を使う年金論者を私は、「100年安心バカ」と呼んできたのであるが、老婆心ながら、そうした話を見たり聞いたりした場合、さらには、そうした言葉を使ってきた人が身近にいるのであれば、一事が万事その程度とみて、その論者はあまり信用しないほうがいいと思う。

さて、5年に1度行われる財政検証という公的年金保険の健康診断は、来年、2019年に行われる(5年前は2014年6月に発表)。この来年の財政検証を前にして、去る10月26日に日本年金学会は、シンポジウム「2019年財政検証に向けて」を開いた。

13時から17時近くまで、報告・議論・会場との質疑応答が重ねられ、最後には、シンポジウムの議論のとりまとめ「人生100年時代の公的年金保険――Work Longer社会に向けた平成16年フレームの進化のために」が会場で示され、壇上、会場に確認を得ていた。

オプション試算とは何か?

「日本年金学会シンポジウムとりまとめ」は、3つのオプション試算に沿った形になっている。オプション試算とは、2014年財政検証のときに、初めて行われた試算である。

財政検証で、今の制度の健康診断がなされるわけだが、健康診断であるのだから、このままでいくと、将来はこういう病気になる「かもしれない」ということが示されることになる。

もちろん、そういう将来を避けるための処方箋も提示されており、その方向に制度の改正を行う、つまり未来に向けてそういう選択肢(オプション)をとれば、何もやらない未来とは違った将来になるだろうという試算を行ったのが、オプション試算である。オプション試算は3種類あり、ⅠからⅢは、それぞれ次のようなものである。

オプションⅠ マクロ経済スライドの見直し
オプションⅡ 短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大
オプションⅢ 高齢期の就労と年金受給の在り方

日本年金学会シンポジウム「2019年財政検証に向けて」で議論された、オプション試算Ⅰ~Ⅲについて説明しておこう。

オプションⅠについて

日本の公的年金保険は、保険料水準は固定されている。その保険料水準の下で公的年金保険に入ってくる一定の収入に支出を合わせるために、労働力の減少と寿命の伸びの度合いに合わせて給付を調整していく仕組みになっている。この仕組みを「マクロ経済スライド」と言う。

しかし、マクロ経済スライドは、インフレで物価が上がったときだけ行って、デフレの下では行わないというルールが決められている。このルールの下では、もしデフレが続くと今の年金受給者に予定以上の給付を行うことになってしまうので、その分、将来の年金受給者の給付水準が下がってしまう。

そこで、日本年金学会シンポジウムでは、デフレのときも例外なくマクロ経済スライドを適用して、将来世代の給付水準を高める場合の試算も行ってほしいと求めている。それが、「日本年金学会シンポジウムとりまとめ」の中でオプションⅠについて求められた「マクロ経済スライドのフル適用」という意味である(Youtube 慶應商学部権丈ゼミ年金動画2017)。

慶應商学部権丈ゼミ年金動画2017 ※外部サイトに遷移します

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​​オプションⅡについて

厚生年金は、(1)から(5)までの条件が加入義務となっている。

(1)週労働時間20時間以上
(2)月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円以上)
(3)勤務期間1年以上見込み
(4)学生は適用除外
(5)従業員 501人以上の企業等

厚生年金に加入していない人たちは、国民年金にしか加入することができず、老後の年金給付水準は低くなる。国民年金は、本来は、農業や自営業者を対象とする制度で、定年のある被用者(雇われている人)を対象とした制度ではない。

ところが現在、国民年金に加入している人の約4割が被用者であるという状況にある。そこで、日本年金学会シンポジウムでは、厚生年金の適用基準を雇用保険の適用基準である、

(1)週所定労働時間が20時間以上
(2)10日間の雇用契約が成立する人たちすべて

に改めた場合、どのような財政見通しになるのかの試算を、来年の財政検証で行うことを求めている。

「中小企業の負担を考慮」は正しいか

日本年金学会シンポジウムの当日に適用拡大について報告した藤森克彦氏(日本福祉大学教授)は、次のように説いていた。

今後のさらなる適用拡大を踏まえて、「従業員規模による適用対象区分の妥当性」について考えたいと思います。
現行制度では、経過措置ではありますが、「規模501人以上の企業を適用対象」としています。この要件は、「中小事業所の負担を考慮した」ものです。
確かに、重厚長大の製造業を考えると、従業員規模が小さければ生産性が低く、負担への配慮が求められることもあると思います。実際、製造業の「従業員規模別にみた、従業員1人当たりの付加価値額」は、従業員規模が小さければ、低い付加価値額となっています。

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しかし、サービス業の中で、短時間労働者の比率が高い「小売業」や「飲食サービス業」をみると、必ずしも従業員規模の拡大に伴って「1人当たり付加価値額」が上昇しているわけではありません。

重厚長大産業の時代は昔の話で、サービス産業が主体の時代に、企業規模を基準にした、社会保険の適用基準はナンセンスだということなのだろう。

さらには最後に、「厚生年金の適用拡大は、『生産性革命』を促す」という点を申し上げて、私の発表を終わりにしたいと思います。
安倍政権では、「人生100年時代」に対応するため、 性別や年齢に関わらず、1人ひとりの人材の質を高める「人づくり革命」や成長戦略の核となる「生産性革命」などにより、成長率のさらなる引き上げを目指しています。
ところで、高齢期の貧困を予防するには、被用者の雇用形態にかかわらず厚生年金を適用して、将来、充実した年金を受け取れることが必要です。そのために、労働者を雇う事業主には、社会保険料の納付が求められています。
換言すれば、労働者を雇用するのであれば、その事業主には、社会保険料を支払えるだけの付加価値を生み出すことを、社会が要請しているのだと思います。
この点からすれば、厚生年金の適用拡大は、事業主に「より高い付加価値を生み出すビジネスモデルへの転換」を求めており、「生産性革命」を促しているといえるように思います。

お説ごもっとも。私も以前、次のようなことを話したことがある。

労働者に、将来、意味のある年金を準備するために、年金保険料の引き上げを決めることは、それに耐えうる企業に、日本の労働者を雇ってもらいたいということであり、それは同時に、それに耐え切れない企業には、市場から退出してもらうことを覚悟することです。
スウェーデンなどで「同一労働、同一賃金」とよく言われるが、あれは非常に怖いこと、生産性が低い企業は撤退してくださいということも意味します。つまり、低い生産性しか持っていない会社は潰れなさいということになる。
潰れて、そこで職を失った労働者を生産性の高い企業あるいは産業に移すことを積極的に展開していくための標語が「同一労働、同一賃金」です。この政策を展開すればものすごい構造転換を伴っていくことになります。そのときに労働者の生活を保障するために、社会保障を使っていくわけです。
社会というのは、児童労働の禁止をはじめとして、ある条件を満たす企業、社会的に定めた一定水準以上の労務コストを負担することができる企業にしか、その社会での存在意義を認めないという判断をしてきたわけです。
2004年改正時に、年金保険料を2017 年に18.3%にまで上げると決めることは、それに耐えうる企業に日本の労働者を雇ってもらいたい、耐えきれない企業にはご退出願いたい、低賃金労働者に依存したビジネスモデルから生産性の高い新しいビジネスモデルに転換してもらいたいということを意味するわけです 。

なお、2018年9月14日の社会保障審議会年金部会で、私は、「適用拡大は正しい意味での成長戦略であり、生産性革命に寄与する」と話している(議事録)。

議事録 ※外部サイトに遷移します

繰り下げ受給の多様化を模索

オプションⅢについて

今の制度は、65歳を基準として、60歳までの繰り上げ、70歳までの繰り下げ受給の制度がある。そのため、60歳から70歳まで自由に受給開始時期を選ぶことができる(「年金を75歳までもらえなくなるって本当?――日本は受給開始を自由に選択できる制度」参照)。

「年金を75歳までもらえなくなるって本当?――日本は受給開始を自由に選択できる制度 ※外部サイトに遷移します

そこで日本年金学会シンポジウムでは、「繰り下げ受給を選択しやすくするために、2分の1繰り下げの試算を行う」ことを求めている。

さらには、国民年金の加入者は、1961年の制度創設時から、20歳から60歳までの者とされてきた(対して、厚生年金保険の加入者は適用事業所に使用される70歳未満の者とされている。なお、下限年齢は設けられていない)。

今は高年齢者雇用安定法が65歳までの雇用義務を企業に課している時代である。そこで、日本年金学会シンポジウムでは現在の40年間から45年間へと国民年金に加入する期間を延ばした財政試算を求めている。

ここで問題になるのが、基礎年金には給付費の2分の1が国庫負担になっているために、40年から45年に加入期間を延ばすと、新たに1兆円を超える税金が必要になることである。この規模の国庫負担は、今すぐに実現できそうにはない。

そこで、日本年金学会シンポジウムでは、「60歳以上の保険料拠出期間に対応する基礎年金給付には国庫負担を交付しないとした場合の財政見通し」を求めているのである。

ただし、附則として、「オプションⅢにおける保険料拠出期間に関しては、60歳以上の期間については国庫負担割合を当面ゼロとする――消費税率が10%を超える引き上げが当面実現しないとの前提であり、将来実現した際には、60歳以上の期間についても国庫負担割合は50%とする」と記している。

オプションⅢの中では、年金と就業所得が一定水準を超えると年金がカットされる在職老齢年金についても報告されていた。これについては、日本年金学会シンポジウムでは、「65歳以上の在職老齢年金の廃止の財政影響を示してほしい」とまとめられている。

私的年金の未来とWork Longer

「年金学会シンポジウムまとめ」の最後には、私的年金の役割がまとめられている。このパートを報告した谷内陽一氏(りそな銀行りそな年金研究所)は次のように話していた。

私的年金の役割として、従来は「つなぎ」という言葉が用いられていましたし、権丈先生も「つなぎ年金としての私的年金、企業年金の準備が必要」と本の中に書かれていました。しかし、先発完投(=終身給付)が至高とされてきた世界では、「つなぎ」は格下、補欠あるいは二線級に見られがちで、企業年金の関係者はあまり使いたがりません(私もそうです)。
しかし、時代は変わりつつあります。今後の私的年金の役割は、野球で例えるなら「中継ぎ」、それも勝ちパターンで抑えの切り札(公的年金)につなげる「セットアップ」としてとらえるのが適切ではないかと考えます。なお、個人的には中継ぎよりもセットアップのほうがしっくり来ますが、どちらの名称がよいかは、会場の皆さまのご決断に委ねます。
「継投型」についてまとめると、まずは働けるうちはなるべく長く働く(Work longer)、そして私的年金(Private pensions)が中継ぎ(セットアップ)の役割を務め、最後は公的年金(Public pensions)が守護神として締めくくる形になります。

記事画像

かつてプロ野球の阪神タイガーズには「JFK」という盤石なリリーフ陣がいましたが、私たちの人生後半を支える強力なリリーフ陣は、W.ork longer、P.rivate pensions、P.ublic pensionsの「WPP」の3本柱による継投で備えることが、年金制度における公私の新たな役割分担の姿になるものと考えております。

WPP、はやることを期待したい。

最後に、ネーミングは大切であるという話をしておく。

1961 年にスタートした国民年金は、「福祉年金」という制度を抱えて誕生していた。福祉年金とは、当時すでに高齢であったことなどを理由に国民年金を受け取ることができない人々を救済するために設けられた経過的な制度であった。

しかし、制度発足後しばらくは国民年金の主な受給者は福祉年金だったわけで、どうもその時期、立法者たちは、これを国民年金保険法と呼ぶのに躊躇したようなのである。

そこでこのパートを報告した玉木伸介氏(大妻女子大学短期大学部教授)の言葉を借りることにしよう。

保険という「原理」から出発した説明を行き渡らせるためにも、この際、「保険」の2文字を加えた、「国民年金保険」という名称の効用を考えてもいいのではないでしょうか。
そうすることで、「世代間の不公平」などという非生産的な議論から脱却し、パイでもようかんでもいいのですが、国民所得を生み出す基盤を息長く着実に拡充していくことに国民の変革のエネルギーを集中していくことが、「老後の生活保障」という大目的の達成に資する道であろうと思います。

そのとおりだと思う。

来年、公的年金保険の財政検証が行われる。それは、再来年2019年に行われる年金改革の方向性を知るいちばんの道標となるものである。ここで紹介した日本年金学会シンポジウムまとめ「人生100年時代の公的年金-Work Longer社会に向けた平成16年フレームの進化のために」を参照しながら財政検証を読めば、理解はいっそう深まるものと思われる(日本年金学会シンポジウム「2019年財政検証に向けて」の様子)。

日本年金学会シンポジウム「2019年財政検証に向けて」の様子 ※外部サイトに遷移します

記事画像

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提供元:人生100年時代の公的年金保険改革とは何か|東洋経済オンライン

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