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2018.10.22

「年金分割」熟年離婚は99%やめたほうがいい|「嫌な夫」でも「仮面夫婦」のほうがまだマシだ


年金分割は世間で言われるほど、妻にとっていい制度ではない。特に、専業主婦は要注意だ(写真:amadank/PIXTA)

年金分割は世間で言われるほど、妻にとっていい制度ではない。特に、専業主婦は要注意だ(写真:amadank/PIXTA)

「離婚しても、夫の年金を分けてもらえば生活はなんとかなる……」

数年前にブームになった「熟年離婚」という言葉も、今やだいぶ定着してきました。専業主婦でも年金を分割してもらえば、「嫌な夫とは別れて、ハッピーな老後が送れる」というイメージで語られる場面をよく見聞きします。

このように虎視眈々と離婚を狙っている主婦の方がいたとしたら、それはちょっと危険です。確かに、公的年金は分割が可能ですが、それで将来の生活が成り立つかどうか、かなり微妙だからです。妻に年金を分けることになる夫へのダメージも大きく、熟年離婚で双方ともに貧乏まっしぐらとなりかねないのです。それは、子どもにとっても無関係ではありません。では、年金分割の知られざる側面を見ていきましょう。

年金を分割されても「老後は安泰」とは断言できない

30代の有紀さん(仮名)は、最近、母親から「父さんが退職したら離婚したい」と告白されました。間もなく定年を迎える父親と専業主婦の母親は、現在2人暮らし。母親は、「年金も分けてもらえるらしいので、お金はなんとかなるのでは」と思っているといいます。「はたして、本当に大丈夫なのでしょうか」と有紀さんは心配しています。なぜなら、母親が生活に困るようなことになれば、有紀さんのライフプランにも影響が及びかねないからです。

公的年金には「年金分割」という制度があり、離婚すると、夫婦の年金を夫、妻それぞれが分けて受け取ることができます。年金分割の制度ができた際には、「これで何も迷わずに離婚ができる!」と、制度が始まるのを待ちかまえる「離婚予備軍」がたくさん現れました。

しかし、実際はそんなに甘くはありません。共働きで自身でもたっぷりと資産を蓄えてきたなら別ですが、妻が専業主婦で離婚した場合、妻ばかりでなく、夫でさえも、「離婚貧乏」になる確率が高いのです。

そもそも分割できる年金は、「厚生年金」だけです。仮に、会社員だった夫が将来受け取る年金が毎月20万円だとしても、そこに含まれる国民年金の部分は差し引かれることになります。20万円をそのまま分けるわけではないのです。しかも、分割されるのは、あくまでも「婚姻期間中の記録」に対応する部分のみ。「夫が30歳のときに結婚し、55歳で離婚」というケースでは、30~55歳までの25年の間に納めた保険料から得られる厚生年金だけが対象です。結婚前、離婚後に保険料を納めた分は分割の対象ではないのです。年金の分割とは、「婚姻期間中に納めた厚生年金の保険料の分を夫婦で分ける」のが、正解なのです。

分割する割合は最大2分の1までの範囲で、夫婦の話し合いによって決めていきます(合意できない場合は、家庭裁判所へ審判または調停の申し立てをすることになります)。ただし、妻が専業主婦(第3号被保険者)の場合、2008年4月1日以降の記録分については、合意なく分割でき、割合は一律で2分の1と決められています。夫からみると、問答無用で半分をもっていかれる、ということになります。

ちなみに、自営業者など、国民年金しか加入していない人では、年金分割はありません。また、共働きの場合、婚姻期間中の2人の厚生年金を分けることになり、給料が多かったほうが相手に分ける形になります。性別は関係なく、もし妻のほうが高収入なら「妻の年金の一部」が夫に分けられるのです。

妻に分割されるのは多くても数万円?

このように、夫の年金の半分をもらえると勘違いしている人が多いのですが、実際のところ、期待しているほどの額にはならないのです。たとえば、婚姻期間が25年、その期間の平均標準報酬月額が36万円だった場合、婚姻期間分の厚生年金は年間76万9500円。分割で妻が受け取れる年金は年額約38万円、月額3万円強です。妻自身の年金(国民年金)が約5万円とすると、年金収入は8万円程度で、老後の生活費としてはかなり心もとないといえます。妻自身の資産や、財産分与があったとしても、長生きするほどに不安が増すような金額です。

夫から見ても、老後資金のベースである年金が数万円減るのはダメージが大きく、夫婦ともに「離婚貧乏」まっしぐら、というのが現実なのです。

一般的に離婚をすると、婚姻期間が30年超でも、妻の年金額は自身の国民年金(基礎年金)の5万円と合わせて、月10万円程度になるケースが多いといえます。

「DV(家庭内暴力)がある」「一緒にいるのが具合悪くなるほど苦痛」など、離婚やむなしのケースもあるでしょう。しかし、離婚したい理由が「価値観が合わない」「一緒にいてもつまらない」といったものであり、理解し合える部分もあるというなら、経済的なことも踏まえて冷静に考えてみてください。離婚ありきではなく、「つかず離れずやり過ごす」「時間差で生活する」など、うまくやっていく選択肢はいくらでもあるはずです。背に腹は代えられないのが、正直なところではないでしょうか。

先ほどのケースでは、離婚による年金分割で妻が受け取れるのは月額3万円強でしたが、もし夫が亡くなるまで形だけでも添い遂げたら、遺族厚生年金を受け取ることができます。標準報酬月額38万円、38年間会社員だった場合、離婚しなければ全加入期間が対象になるなどの理由から、受け取る額は格段に増えます。年金は、年額約93万円(月額8万円弱)になります。離婚したのと、添い遂げたのでは、15年で約825万円(=55万円の差の15年分)もの差が生じるのです。

「夫が亡くなるのを待って」と言っているのではありません。年金分割はいい制度ではありますが、妻にとって(夫にとっても)決して有利とは言えず、現実的に考えれば、「離婚は損が大きい」ことを、ぜひ念頭においてください。

それでも離婚したければ、分割額は必ず確認すること

それでも「とにかく1秒でも早く離婚したい」という人は、ご自身のケースで、年金分割が実際、どの程度の額になるかを確認してみましょう。夫婦であれば、夫の了承がなくても、年金事務所で分割の額を教えてもらうことができます。

離婚したい妻は、具体的な金額を知ることで今後の指針になると思います。「毎月の生活費がどの程度賄えるのか」「年金以外にいくらあれば生活できるのか」を必ず計算してください。

離婚を切望する夫、妻から離婚を切り出されそうな予感がある夫も、どれだけ年金が持っていかれるかを知っておくことをお勧めします。離婚を避けたいなら、「これしか分けられないから、お互い楽ではない。なんとかうまくやっていこう」と口説くのもいいかもしれません(歩み寄る努力が必要です)。有紀さんのように、両親が離婚しそう……という人は、親御さんに現実を伝えて、再度、意思確認をするといいでしょう。

ここからは、夫、妻、それぞれに知っておいてほしいことをご紹介します。

まずは、夫である男性が知っておくべきことについて。前述のとおり、妻が3号(専業主婦)の場合、夫の合意がなくとも、問答無用で該当する期間の厚生年金が半分もっていかれます。「専業主婦=内助の功がある」という前提でそうなっていますが、長らく別居していて生活費を受け取っているケースでも、法的に婚姻関係が続いていれば分割されます。ただし、住民票が同じである必要があります。

分割するのは婚姻期間中の記録分なので、修復の見込みがなければ早く離婚したほうがいいですし、離婚危機を感じたら、妻に働くことを勧めるのが得策です。妻が3号でなくなれば分割には両者の合意が必要になり、話し合いに持ち込むことができます。

離婚後、夫が死亡しても分割された年金は受け取れる

夫から年金分割を受ける妻に知っておいてほしいのは、離婚後、夫が死亡したらどうなるか、です。年金受給開始前に離婚し、年金分割をした場合、夫が死亡しても、予定どおり、分割された分の年金を受け取ることができます(夫が受け取るはずだった年金は、遺族年金として死亡時の遺族が受け取る)。したがって、年金分割をしていれば、夫の生死によって妻の年金額が変わる心配はありません。

その後、妻(専業主婦)が死亡したとしましょう。妻の遺族はその分を遺族年金として受け取ることができます。それは、妻と再婚した夫にも権利があるということです。本人に厚生年金がない場合(自営業者だったなど)は、遺族年金が受け取れます。仮に、未婚の自営業の男性が、不倫の末に、夫から年金分割されているバツイチ女性と再婚したとします。再婚後にその妻が死亡した場合、なんと、その夫は彼女の遺族年金を受け取ることができるのです。

もし、年金分割を視野に離婚を考えているのでしたら、これらのことを十分考慮のうえ、慎重に判断することをお勧めします。

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【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します

夫が死んだら妻は義父母を養う義務はあるか

親が借金を残して死んだら子供はどうするか

離婚したくなったら考える「5つの判断材料」

提供元:「年金分割」熟年離婚は99%やめたほうがいい|東洋経済オンライン

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