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2018.10.19

「定年後も働くと年金は減額される」は本当か|60歳以降「損する働き方」「得する働き方」


年金は60歳以降も働くと場合によっては減らされることがある。定年後の働き方は年金のもらい方と密接に関係する(写真:kikuo/PIXTA)

年金は60歳以降も働くと場合によっては減らされることがある。定年後の働き方は年金のもらい方と密接に関係する(写真:kikuo/PIXTA)

最近は「人生100年時代」と言われるようになり、今後はますます「定年後も働き続ける」ことが当たり前になっていくと予想されています。

「働き続けると減額される年金」がある

しかし、こうした流れを受け、今「ある年金に影響が及ぶ」と言われています。その年金とは、在職老齢年金制度のことです。2018年6月に、この在職老齢年金制度について「見直しを検討する」と報道されました。「働くことで、もらえるはずのものがもらえなくなる」と、働くモチベーションが下がってしまうというのが検討の理由です。

政府は「高齢者の労働意欲をそぐのは経済的な損失」として、「2020年の国会での法改正を目指し制度の廃止も視野に入れる」などとしています。

実際、筆者はファイナンシャルプランナーとして企業研修の講師を担当することが多いのですが、この在職老齢年金については、特に定年前の社員を対象としたライフプランセミナーで「働くことは、損なのか」「どのくらい損をするのか」「損をしない働き方を教えてほしい」などといった質問をよくいただきます。

しかし、「働いて損をするかどうか」は、人によって異なります。また、実際年金が減額されたところで、それが本当に大きな「損失」なのかどうかも、やはり人によるのです。「働くと、損をするらしい」といったあいまいな情報で、早計な判断をしている方も散見するので、今回は「在職老齢年金」について、お伝えしていきたいと思います。

「在職」とは、「会社員」のことで、こうした方の年金を調整する制度です。公的年金には、国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金(老齢厚生年金)がありますが、調整の対象となるのは、会社員のみの上乗せ年金、老齢厚生年金です。「引き続き会社員として働いているのであれば、老齢厚生年金はまだいりませんよね」というのがこの制度の趣旨です。

在職老齢年金という仕組みは、60歳以降の給与の額と老齢厚生年金の額を合算して一定の金額以上となった場合、超過分を老齢厚生年金から調整する、つまり、老齢厚生年金の支給を一部あるいは全部を停止する仕組みです。

調整の基準額は60歳前半と60歳後半では異なり、2018(平成30)年度の、60歳前半の基準額は28万円、60歳後半では46万円です。この額は年金生活をしている人の生活水準や経済状況などを踏まえて毎年改定されています。

さて、読者の中には、「年金って65歳受給開始なのだから、60歳代前半の年金調整ってありえないのでは?」と疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。おっしゃるとおり、そもそも、年金の受給開始年齢は65歳ですから、もらっていないものは減額されようがありません。

自分のケースを「ねんきん定期便」で確認してみよう

しかし、実は、男性は1961(昭和36)年4月1日、女性は1966(昭和41)年4月1日よりも前に生まれている人(公務員女性は男性と同じスケジュール)は、65歳よりも前に厚生年金を受給できるのです。これを「特別支給」の老齢厚生年金と呼んでいます。金額は65歳以降の老齢厚生年金額と同額です。かつて会社員の年金が60歳から開始だったことの名残です。

厚生年金に加入していたことがあって、上記の生年月日に該当する人は、ぜひご自身の「ねんきん定期便」を確認してみましょう。受給対象となる方には、何歳からいくらの特別支給があるのか、具体的な数字が記載されています。

たとえば、1960(昭和35)年生まれの現在58歳のAさんのケースで見てみましょう。Aさんの「ねんきん定期便」には、64歳から特別支給の老齢厚生年金120万円と記載されています。65歳からは老齢基礎年金が75万円、老齢厚生年金120万円、合計195万円が年金見込み額です。現在の平均標準報酬額(ざっくりと言うと年収を12カ月で割ったもの)が60歳まで変わらなければ、64歳から年金を受給できるという意味です。

では、このAさんが60歳の定年後も働くと、在職老齢年金によって、年金はどの程度損をするのでしょうか?

実際、Aさんが在職老齢年金の影響を受けるのは、64歳になって特別支給の老齢厚生年金を受給する際です。このとき(2018年度の基準値ですが)、賃金と老齢厚生年金を合算して28万円を超えた分が調整の対象となります。

Aさんの老齢厚生年金は月10万円ですから、賃金が18万円以上だと基準の28万円を超えますから「損」です。仮に、定年後のAさんの賃金(対象となる月の標準報酬月額と、対象となる月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割って合算した金額)を25万円としましょう。特別支給の老齢厚生年金10万円と賃金25万円を足すと基準の28万円を7万円オーバーすることがわかります。調整される金額はこの7万円の半分、つまり3.5万円です。したがって、本来受け取るはずの10万円のうち6.5万円が実際に受け取れる年金額となります。3.5万円「損」するのです。

では、Aさんが65歳以降も同じ賃金で働き続けたらどうなるのでしょうか?

65歳以降になると、調整の基準となる金額が46万円に引き上げられます。Aさんの賃金は25万円、老齢厚生年金は10万円ですから、合算額35万円なら調整は行われず全額受け取ることができるのです。結論として、Aさんは、64歳の1年間42万円の「損」となります。

では、同い年の奥さんであるBさんの場合はどうでしょうか? 夫婦ともに同じ会社で働き、給与も同じだったと仮定します。給与が同額であれば、支払う保険料も同額、受け取る年金額も同額です。しかし、特別支給の老齢厚生年金のスケジュールは男女で異なり、Bさんは62歳から受給となります。62歳から65歳までの3年間、月3.5万円「年金のもらい損ね」が発生し、その合計は126万円にもなります。

会社員でなければ、調整の対象にならない

もちろん、AさんもBさんも厚生年金に加入していますから、60歳以降の加入期間も将来の年金受給額に反映されます。老齢厚生年金は、平均標準報酬額に1000分の5.481を掛けた額ずつ増額されますから、月25万円の給与で65歳まで働き続けると、約8.2万円年金が増額されます。これは終身保障ですから、Aさんなら約5年で損を取り戻せるところ、Bさんは約15年かかります。もし80歳より長生きすれば、取り戻せることになります。

人の寿命は予測ができませんから、終身で保障される年金を損得で考えること自体ナンセンスです。しかし、それでももらえるはずのものがもらえないのは、多くの方にとってはその額の大小にかかわらずショックなものです。でも、個々によって事情は変わってきます。そのため、自分の場合はどうなのかをしっかり試算してみると、印象はずいぶん変わるのではないでしょうか。

「どうしても、もらえるものはすべてもらいたい!」というのであれば、働き方を変えるのも1つです。なぜかというと、在職老齢年金は「在職」であるから調整されるので、厚生年金加入でなければ、収入がいくらあっても調整の対象にならないからです。たとえば、Bさんは「在職老齢年金の影響が大きい」と考えて「会社員」ではない働き方をすれば、特別支給の老齢厚生年金は1円もカットされることなく受け取れます。

よく年金受給開始年齢を遅らせ、年金額を増額させる「繰り下げ」をすればよいのではないかと考える方もいますが、特別支給の老齢厚生年金については、繰り下げはそもそもできません。

たとえばBさんが定年後に業務を受託しフリーランスのような形態で仕事を続けると、厚生年金への加入義務はなくなります。国民年金は原則60歳までですから、保険料の支払いは終了します。Bさんは年金保険料の負担がない分、手取りは増えますし、62歳以降も月10万円の特別支給の老齢厚生年金がカットされることなく、全額受け取ることができます。

年金の話になると、私たちはなんとなく「もらう」という言葉を使いがちです。「もらう」=「みんなと同じくらいの年金がもらえる」と漠然と思いがちです。しかし年金はもらうものではありません。「若い時からコツコツと作る」ものです。だから、それまで自分が作ってこなければ年金は少ないですし、自らが請求しないと受給できないのです。

特に昨今は、65歳くらいまでは働く方が増えているので、まずは自分の場合、年金はどうなっているのかきちんと情報収集をしたうえで、働き方も含め、これからの生活設計をされることをお勧めします。この記事をぜひご参考にしていただけましたら幸いです。

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