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2018.09.14

なぜ高学歴者はがんの「民間療法」に挑むのか│がん患者に医者がどうしても伝えたい本音


何らかの代替医療を受けているがん患者さんは多いが、それを主治医には伝えていないことが多い(写真:aerogondo/iStock)

何らかの代替医療を受けているがん患者さんは多いが、それを主治医には伝えていないことが多い(写真:aerogondo/iStock)

若いほど進行が早いといわれる「がん」。日本人の2人に1人が罹るといわれるこの病気のことを私たちは、どれだけわかっているでしょうか? 先日、『ちびまる子ちゃん』で知られる漫画家・さくらももこさんが、乳がんのため亡くなりました。53歳という、あまりにも早すぎる死を惜しむ声が寄せられています。

本寄稿では外科医として、これまで大腸がんなど1000件以上の手術にかかわってきた筆者が、がん治療の「民間療法」について明かします。患者に面と向かっては言えない「医者の本音」とは?

大腸がんの治療中、患者さんに「◯◯療法をやりたい」と言われることがあります。◯◯は実にさまざまで、「免疫」だったり「温熱」だったり、高価な「水」だったり「気功」だったりします。これらの治療法はまとめて「医療」と呼ばれ、ほかにもサプリや健康食品、ビタミン療法などがあります。

これらの治療法にどれくらいの効果があるのでしょうか。そして、患者さんに「◯◯療法をやりたい」と言われたときに、医者はどう感じるのか。その本音をお話ししたいと思います。

はじめに申し上げておきたいこと。それは、多くのがん患者さんが何らかの代替医療を実際にやっているという事実です。

厚生労働省がん研究助成金による研究班が行った調査(2005年発表)によると、「がん患者3100人のうち1382人(約45%)が、1種類以上の代替医療を利用している」。そして「平均して月に5万7000円を出費している」のだそうです。

これを初めて知ったとき、私はかなりの衝撃を受けました。というのも、外来で会うがん患者さんから「代替医療をやってるよ」と聞くことはあまりなかったからです。

科学的根拠がないとはどういうことか?

代替医療のがん治療は、病院のがん治療とはどう違うのでしょうか。

病院で行うがんの治療の多くは、「科学的な根拠」があるものが多いのです。この「科学的な根拠」という言葉が厄介です。その説明をしたいと思います。

たとえば、大腸がんの患者さんに昔から使われているAという抗がん剤があったとします。そこに新薬Bが開発された場合、「BはAよりも優れている」という証明がされないと使えるようになりません。証明とは「臨床試験」といわれる研究のこと。大腸がんの患者さん1000人を集めて、500人には従来のAを、そして残りの500人には新薬Bを使い、5年後に何人の患者さんが生存しているかを調べ、どちらの薬が優れているかを判断します。こういった大規模な研究をやって初めて新薬Bは市販されるのです。

試験は多くの人が監視していて、新薬を売りたい製薬会社がズルをすることはめったにできません(以前、血圧の薬でズルをした「ディオバン事件」が起きましたが)。

手術という治療法でも、かつては偉い外科医が開発した方法でやっていましたが、ここ十数年は、たとえば胃がん手術のリンパ範囲など、科学的に検証された方法が増えてきました。

一方、代替医療の中には科学的に検証されてきたものもなくはありませんが、科学的な検証がない治療がほとんどです。代替医療の多くは、経験的な積み重ねで行われてきました。

なぜ有名人は代替医療を選ぶのか?

この「代替医療」について、先日アメリカの研究者からこんな研究報告がありました。それは、「代替医療のがん治療は、病院の標準治療より生存を延長させない」というもの。簡単に紹介します。注)Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. Skyler B. Johnson, Henry S. Park, Cary P. Gross, James B. YuJ Natl Cancer Inst (2018) 110(1): djx145

http://www.ledevoir.com/documents/pdf/cancer_yale.pdf ※外部サイトに遷移します

対象になったのは乳がん、大腸がん、前立腺がん、肺がんの患者さん。このなかで、「代替医療を受けた280人」と「病院の従来の標準治療を受けた560人」の5年後の生存率を比べると、従来の標準治療を受けた人たちのほうが生存率が高かったという結果が出ました。代替医療を受けた人は、従来の標準治療を受けた人よりも2.5倍もの高い死亡のリスクがあったのです。

そして驚くべきことには、代替医療を選ぶ人は高学歴や経済的に恵まれた人々であったのです。

言われてみれば、最近の報道を思い返すと、がんで亡くなった有名人の多くが代替医療を一度は選んでいました。川島なお美さんが「金の棒でこする」というものでがん治療をしていたという報道を覚えている方もいるでしょう。

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

理由の1つには、「病院で受けられる治療は誰でも同じ額である」という点が挙げられます。いいサービスを受けるためには高いお金を払う──これは当然のことのようですが、日本国内の病院で受ける治療に限っていえば、当てはまりません。

日本では「標準治療」という名前で、日本中ほとんどどこの病院でも、ほぼ同じ治療が受けられるのです。大金持ちの人も、生活保護を受給していて医療費を支払わない人も同じです。負担額は収入に応じて少しずつ変わりますが、治療内容は変わりません。そのことが、判断を誤らせている可能性があります。

「治療の効果は、お金を出せばもっといいものになるに違いない」

そう思った人が、高額ながんの代替医療を選んでいるのかもしれません。しかし、医療は基本的に規制産業です。すべての診断や検査、手術は1回いくらと決められていて、それはどんな熟練医が行っても1年目の研修医でも、また地方でも都会でも変わりません。参入障壁が高く、価格を自由に設定することは不可能で、おまけに医療機関の広告も法律で厳しく規制されているのです。

では、患者さんから「代替医療を受けたい」と言われた場合、医師はどう考えているでしょうか。ここからは私見と、知人の医師にインタビューした内容を交えてお話ししましょう。

私を含む多くの医者は、「がんに効くかどうかわからないので、なんとも言えない」と思っています。代替医療は、その多くが効果の検証をされていませんので、正確に言うと「効くとも効かないとも言えず、効果はわからない」のです。ですから、先ほど引用した研究の結果などとこれまでの医学常識から、「効かないのではないかな……」と思っているという程度です。

さらには、医者たちはその代替医療の名前さえ知らないことが多いのです。以下のグラフは、がんの治療を専門とする医師751人へのアンケート結果です。

出所)『医者の本音』

出所)『医者の本音』

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これを見ると、ほとんどの医師が「知らない」と答えていることがわかります。私もタラソセラピー、菜食療法などは初めて聞きました。医者側は代替医療についてもう少し学ぶ必要がありそうです。

ですから、がんの患者さんへお伝えしたいことがあります。それは、代替医療をやっていることを医師に伝えてほしいのです。サプリから健康食品、漢方、気功など何でも結構です。

教えていただきたい理由は2つあります。1つは「その代替医療が病院で行っている治療に影響がある可能性があるから」です。そしてもう1つは、「あまりに高額なものを使わされて、詐欺のようにお金を吸い上げられていることがあるから」です。

現状では、患者さんはほとんど代替医療をやっていることを医者に伝えていないようです。先ほどのアンケートでは、「補完代替医療を利用している患者の61%は、主治医に相談していない」という結果でした。

「怒られるのではないか」と気にする必要はない

こんなことを言うと、「そんなことを主治医に言って怒られるのではないか」とおっしゃる方がいます。

しかし、もはやそんな時代ではありません。医者が患者さんを怒る、しかる時代は終わりました。患者さんが良くなることが、大事です。ですから、患者さんの健康に関する情報は、把握したいのです。ぜひ、伝えてください。

そして、がん患者さんの診療に携わるすべてのドクターの皆さんへも伝えたいことがあります。それは、患者さんに、「何かサプリなどを使っていますか?」と聞いてみてほしい、ということ。代替医療には思わぬ副作用が隠れていることもありますから。

タイミングについては、まずは初診時がいいでしょう。再発や増悪などのタイミングでも繰り返し聞くようにしてください。そして、くれぐれも「頭ごなしに否定しない」ことが重要です。治療を受けるのは患者さんであり、治療方法を決めるのはガイドラインでも医師でもなく、患者さん本人だからです。ちなみに私は、患者さんにこう言っています。

「サプリなどの代替医療でがんの治療効果が証明されたものはありません。ですから、禁止をするわけではありませんが、あまり高価なものはやめておいてください」

最後に、私は代替医療そのものを全否定する立場ではありません。頻繁に処方する漢方薬がありますし、鍼灸はその効果を自ら体験することで実感しています。そして、場合によっては治療効果のあり・なし以外に価値があるケースも知っています。

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提供元:なぜ高学歴者はがんの「民間療法」に挑むのか│東洋経済オンライン

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