2018.06.12
株価が暴落した時、投資信託はどうなるのか|「売る時」のことを最初から考えておくべき
株が暴落したとき、投資信託はどうなるのだろうか。意外に知らない人が多い(写真:muu/PIXTA)
前回までの記事では、サラリーマンが投資をする意味や考え方についてお話ししてきました。株式や投資信託全般などを上手に積み立てて資産形成していく方法を解説してきましたが、今回はちょっと違う視点でお話しします。
前回の記事「20代社員は地味な積み立て投資が向いている」 ※外部サイトに遷移します
投資信託を「買う」より「売る」ほうが難しい
サラリーマンの資産形成をサポートする仕事をしてきた筆者は、長らく企業型の確定拠出年金関連の業務を通じて「初めて投資信託の話を聞く、選ぶ、売買する」、という方に接する機会を得てきました。
そこで初心者はもちろんのこと、ベテランの方も意外に知らない「あること」に気づきました。それは何かというと、「売る」ということです。
いろいろなコラムや雑誌を見ても、「投資を始めよう」とか「積み立てよう!」といった内容の記事はたくさんあります。つまり“買う”ことを勧めたり説明したりする記事はたくさんあるのです。ところが実は“買う”ことよりももっと重要な“売る”ことについては驚くほど記事が少ないことに気がつきます。
「投資信託を売る」ということについて言えば、強烈な印象が残っているのは、やはり2008年のリーマンショックのときです。同年の9月15日(月)に、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻したというニュースを受け、NYダウも日経平均株価も含め、世界中の株が暴落しました。
こういうときは一方通行のイメージもありますが、先行きの不安や思惑から上げ下げを繰り返しながらも下がっていくことも少なくありません。日経平均が毎日1000円ぐらい乱高下していた当時、確定拠出年金のコールセンターにかかってきた加入者からの電話は通常の3倍あるいはそれ以上、そして内容もいつもとまったく異なるものでした。
言うまでもなく、電話の内容の多くは不安と苦情が入り混じったものでした。ところが自分の資産評価額が目減りしてしまったことへのクレームというのは、ほとんどありませんでした。どんな内容の苦情だったかと言うと、投資信託の売買(約定)の「値段」と「タイミング」に関するものが圧倒的に多かったのです。
「午前中にあんなに下がったのだから今すぐ売りたい!」、あるいは「この値段になったら売りたいので、指値で売りたい!」といった類の問い合わせが多かったのです。個人投資家は、おそらく不安心理から電話してきたのでしょう。ところがそれに対して「そういうことはできません」と言うと、「え! どうしてできないの?」という「お叱りの声、声、声」です。これはひとことで言えば、投資信託の仕組みを理解していないことから起こることなのです。
投資信託と株式では売買の仕組みが異なる
多くの方にとって「投資」といえば「株式」のことが頭に浮かびます。「株式」であれば、今、いくらで「売りたい」、「買いたい」と注文を出せます。そして、売る場合は、安い値段で指定した注文から売れていく(買う場合は逆)という「価格優先」、先に出した注文が優先される「時間優先」のルールによって売買は成立します。
ところが投資信託の場合はその売買のやり方がまったく異なります。そもそも新聞やネットで表示されている投資信託の価格というのは前日(正確には前営業日)の基準価額です。前日の取引終了後、終値に基づいて投資信託の財産が評価され、それを口数で割った1万口当たりの価格が基準価格です。つまり、昨日の値段なのです。
多くの方の売買注文を公正に処理するには、取引をいったんストップして精算する必要があります。投資信託の価格を算出するために証券取引所での株式の取引をストップするわけにはいきませんから、どうしてもその日の取引が終了した後でないと価格は算出されません(ETF=上場投資信託のような例外はあります)。
つまり、注文を出す段階ではいくらの価格で売れるかがまったくわからないのです。さらに海外に投資している場合には、翌営業日の朝の為替レートで資産が評価されるので、値段がつくのも翌日となりますから、売ってから、売った価格を知るまでに1日以上かかるということになります。
投資信託を売却するというのは自らが市場に直接売り注文を出すわけではなく、金融機関に対して自分が持っている投資信託の一部または全部解約を指示するということなのです。
前述のように買う値段、売る値段が決まるのが約定の翌日または翌々日ということですから、それがわからない状態で注文を出すということになります。理解している人には当たり前でも、知らない人には「どうして今日売りたいのに売れないのだ! どうしてくれるんだ!」と怒りたくなるかもしれません。いわんや、リーマンショック時のようなある種パニック的な売りが集中したときであれば、初めて売買する人は、本当にヤキモキしたことでしょう。
電話での注文や発注画面でこのことに気づいて、苦情を言ってこられた方には、その時点で丁寧に説明することで、ある程度納得してもらうことができました。
暴落は突然やってくる
問題は、「とにかく売ってくれ」と言ってきた人です。売ってしまった後にその結果を見て再度びっくりし、「なんで、こんなことに」「こんなつもりじゃなかった」と「不満」をもらしていました。こうしたご連絡をいただいた方々に対しては、淡々と仕組みを説明するほかありませんでした。
確定拠出年金の場合は、会社が退職金制度として導入したので、「よくわからないけどはじめて投資信託を買ってみた」という人たちが大半でしょうから、こういうことが起こったのかもしれません。しかし、最近始まった「NISA」(少額投資非課税制度)やつみたてNISAをやっている人の中にもひょっとしたら、投資信託の売買の根本的な仕組みをよく知らない人が結構いるかもしれません。
すでに企業型確定拠出年金の加入者は650万人(2018年4月末時点)とサラリーマンの6人に1人が利用している制度となり、つみたてNISAで投資信託デビューしている若い人も増えているようです。
この数年はアベノミクスの影響で紆余曲折はあっても、株価は比較的順調に上昇してきました。しかし、いつの時代でも暴落は突然やってくることが多いものです。そんなとき慌てないようにするためにも「投資信託はそれぞれの投資家の持ち分であり、価格の算出は1日1回、売るのも買うのもその価格で1日1回」 ということは、あらかじめぜひ知っておいたほうが良いと思います。
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提供元:株価が暴落した時、投資信託はどうなるのか|東洋経済オンライン