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2018.04.27

熟年パパが直面する「子育て中の介護」問題|親が倒れたら、おカネはいくらかかるのか


熟年パパたちは、今から10年も経たないうちに親の介護問題に直面する可能性がある(写真:Yagi-Studio/iStock)

熟年パパたちは、今から10年も経たないうちに親の介護問題に直面する可能性がある(写真:Yagi-Studio/iStock)

仕事に子育てに忙しい日々を送る40〜50代の熟年パパたち。けれど、もうひとつ、忘れてはいけないことがあります。それは、「親の介護問題」。2025年には、約800万人の“団塊の世代”が75歳を迎え、後期高齢者となるため、介護・医療施設の受け入れ体制がパンクすることも懸念されています。熟年パパ世代には、“団塊の世代”の子どもたちも多くいることでしょう。
内閣府が発表した「平成29年版高齢社会白書」によれば、介護保険制度における要介護・要支援の認定を受けた人は2014年度末で591万8000人。75歳以上の被保険者のうち、32.5%が認定を受けており、約3人に1人は何らかの介護支援が必要な状況となっています。
つまり、熟年パパたちは、今から10年も経たないうちに親の介護問題に直面する可能性があるのです。介護離職に追い込まれる人も増えている中、「その日」をただ待つより、今から準備できることをしておきたいもの。
今回は、『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)の著者で、介護の悩みを解決するミッションに取り組むNPO法人となりのかいごの代表・川内潤さんに「熟年パパが親の介護と向き合うために必要なこと」についてお伺いしました。

『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社) ※アマゾンのサイトに遷移します

「自分がやらないと親不孝」は間違い

介護職出身であり、親の介護に悩む人々の個別相談や企業の介護セミナーなどを手掛けている川内さんは、「40~50代のうち、8~9割が介護への不安を感じている」と話します。

「まだ介護に直面していない人たちには漠然とした不安があり、『具体的にどうしたらいいのかわからない』という相談が多いですね。特に多いのが、おカネの不安。中高生の子どもがいるケースも多く、今後の教育費に親の介護費用が重なることを恐れているようです。また、介護生活が始まった人の場合は、仕事と介護の両立に苦しんで疲弊しているケースも少なくはありません。毎週末、遠く離れた実家に通い続け、子どもの入学式や運動会に行くこともできないと悩む人もいますね」

「育ててくれた親の面倒は自分が見るべき」と考え、すべてを抱え込もうとしてしまう。川内さんによれば、「そこがいちばんの問題」なのだそう。

「仕事で重要な判断を下したり、部下のタスク管理をしたりする立場にいても、いざ親御さんが倒れると、判断能力を失いがちです。親元に毎週通う人に『タスクとして何をしているのか』と聞くと、その多くは単に買い物や声がけだったりするんですよ。しかし、それが本当に“良いケア”につながるのかといえば、そうではない。『自分が直接何かしなければ、親不孝だ』と考えてしまう気持ちもわかりますが、生活を犠牲にして疲弊し、精神的にも追い込まれるような介護は続きません。プロに頼れるところは頼るべきですし、要介護度が上がれば、プロに任せなくては解決できない領域が増えていくものです」

そう。介護は“精神論”だけでできるものではないのです。そこには、“客観性”と“技術や知識”が必要。たとえば介護をテーマにしたドラマに、認知症のおばあちゃんがはしやスプーンを使わず、手づかみでものを食べるシーンが出てきたりしますよね。

家族が一生懸命に声がけし、スプーンを手に持たせようと何度繰り返しても、やはり手づかみで食べてしまう。「介護とはこういうものか」と暗い気持ちになりますが、しかし、プロが適切な対応をすればよい方向に転じるケースも多いそうです。

「認知症には、“失行”という症状があります。複数の手順や工程を経ることが難しく、ただお皿とスプーンを並べても、『スプーンを取ってから、お皿の中身をすくう』という段取りそのものができなくなるのです。介護の専門知識を持つプロなら、客観性を持って状況判断したうえで、お皿を遠くに置き、スプーンを取ってもらってから、お皿を近づけてすくってもらう流れを作るなど、適切な対応ができます」

営業社員がいきなりITエンジニアになれないのと同じで、いきなり介護士にはなれません。ましてや、相手は自分の親。客観的になる以前に、ショックを受けたり、感情的になったりしてしまうものでしょう。

「元気だった昔の姿とのギャップに苦しみ、ついきつく当たってしまい、そんな自分に落ち込む人もいますね。これが続けば、完全に負のスパイラルに入ってしまい、介護虐待につながるケースもあります。しかし、そうなってしまうのは愛情が深いからこそなのです。愛情がなければ、それこそ人任せにできるわけですから」

「美しい介護」より「プロのチーム作り」を

「自分がすべての面倒を見る『美しい介護』には無理がある」。川内さんは、介護職として多くの現場に携わった経験から、きっぱりと断言します。

「まずは『家族が直接、すべての介護をするべき』という呪縛を解くべきです。家族の役割は、直接介護することや、なるべく一緒にいることではありません。そもそも、これまでと同様に働きながら介護を続けること自体に無理がある。介護に対し、『無償の愛で、ただ尽くすイメージ』を持つ人もいますが、それでは自分の生活が成り立たなくなります。一時の感情や理想論に左右されていては、どこまでやるのか線引きができなくなり、最悪の場合、介護離職に追い込まれる人もいます。人任せにしたくないという気持ちをぐっとこらえ、『やらないことも努力なのだ』と認識しましょう」

介護で疲弊する多くの原因は、「人に委ねたり、託したりすることができないから」。すべてを抱え込もうとすれば、生活が回らなくなるのは当然です。感情に任せているだけでは、雪だるま式に家族の負担が膨れ上がってしまいます。

「多くの親御さんは、自分のために子どもや孫の生活を犠牲にすることは望んでいないはずです。社会人として活躍する姿を喜んでくれていた親御さんを思い出せば、介護のために仕事を辞めるより、キャリアを続けていくべきだと思えるのではないでしょうか。また、妻にすべて任せきりにした揚げ句、介護虐待にまで追い込んでしまうケースもあります。そうならないために、妻の気持ちに寄り添いながら、しっかりと目の前にある状況を把握し、タスクの整理と管理を行う心構えが必要ですね」

大事なのは、直接介護することではなく、これまで仕事で培ったビジネススキルを生かし、「客観性を持って、プロをマッチングすること」です。

「目標は、あくまで『介護を必要とする親に、快適な生活をしてもらうこと』。任せられる介護チームを作り、空いた手で愛情を傾けることのほうが大事なのです。これらをしっかり理解したうえで、介護保険制度の全体像を把握しましょう。プロに頼れることや任せるべき範囲を把握することはもちろん、何にどれくらいおカネがかかるのかを把握すれば、漠然とした不安を解消でき、マネーの心積もりもできますよ」

とはいえ、「親はまだまだ元気なのに、今からやるべき?」と思う人もいるでしょう。その必要性やタイミングを知るために、ここからは介護生活が始まるパターンをご紹介します。

「ある日突然」ではなく、必ず「兆候」がある

多くの人は、「介護生活は、ある日突然始まるもの」だと考えていますが、川内さんによれば「その前に、必ず何らかの兆候がある」そうです。

「大きくは2つのパターンに分かれます。例を挙げると、まず1つ目は、高血圧の父親が倒れ、病院に運ばれたという連絡が入るケース。緊急手術で一命を取り留めるも、右半身にマヒが残ってしまったのに、病院側からは1カ月で退院を迫られてしまいます。母親に任せきりにもできず、しかし、子どももいるのにどうしよう、と。2つ目は、深夜に電話が鳴り、『警察であなたの母親を保護している』と言われるケース。父親が先立ったのち、田舎で1人暮らしをしている母親が認知症になり、徘徊にまで至ってから発覚するわけです」

どちらも「ある日突然」の出来事に見えますが、前者の場合には「高血圧」、後者の場合には「1人暮らし」という文脈がすでにあります。高血圧の場合、生活習慣や薬での改善を怠れば、脳梗塞や心筋梗塞の発症につながる可能性が。一方、女性に多いとされるアルツハイマー型の認知症も、突然発症するわけではなく、それより以前から記憶障害や判断力の低下などが始まっているのです。

「『そうなってから慌てる』のではなく、『そうなる前から状態を把握しておくこと』が必要です。親御さんが抱えている症状や過去の病歴を知れば、それが進行すると何が起きるのかを想定できます。また、アルツハイマー型の認知症の場合は、約束を忘れる、部屋が散らかっている、季節に合わない服装をするなど、初期段階からさまざまな兆候があるものなのです。介護が必要になってからではなく、何もないうちから定期的に様子を見に行くことが大事ですね」

親の病気や異変に不安を感じたなら、まず各地域の地域包括支援センターに相談すること。社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーなどの資格を持つ職員が相談に乗ってくれる、介護全般の相談窓口です。

「親御さんの家の住所と“地域包括支援センター”でネット検索して調べた番号に電話し、現在の症状やおかしいと感じた兆候について相談してみてください。今後の対策や対処法を教えてくれますし、地域によっては、独自の見守りサービスを提供していたり、認知症予防の体操指導に加え、本人を誘う声がけまでしてくれたりするところもあります。利用できるものはどんどん使いましょう。また、『親に許可を取ってから』と考える人も多いですが、それは必要ありません。本人の意思に反する行為に抵抗を感じるのはわかりますが、症状が進行してしまえば、親御さん自身に判断能力がなくなるのです」

介護生活には、本人ではなく、家族が判断しなくてはならない場面がたくさんあります。これは、延命治療の可否はもちろん、施設や病院に求める対応にも関連してくることです。たとえば、お酒が大好きな父親の場合、症状の改善が見込めない段階まできたら、「無理やり延命するより、好きなお酒を少しでも飲ませてあげたい」などの要望を出すこともできます。

「親御さんが元気なうちに定期的に顔を合わせることは、状況の把握に役立つだけでなく、本人が『人生において、何を大事にしているのか』を知る機会にもなります。親子の関係も深まりますし、家族が判断しなければならない場面がきても、本人の意思を尊重することができると思います」

また、介護離職に追い込まれる人には、人事担当者などに相談していないケースも多くあるそうです。しかし、企業によっては、使える制度が整備されていたり、イレギュラーな対応をしてくれたりすることも。何事も自己判断でタイミングを逸するより、「まずは相談する」という心構えを持ちましょう。

介護にかかるおカネと、よいサービスの選び方

それでは、「そのとき」がきたら、家族には何が求められるのでしょう。まず、介護にどれくらいのおカネがかかるのか、ざっくりと川内さんに教えてもらいました。

「介護ベッドや住宅の改装などにかかる一時費用の平均は80万円程度ですが、介護保険を申請し、保険適用されるものであれば原則1割程度の負担(年収ラインによっては2~3割程度)で済みます。毎月の介護サービスの利用料金は平均で月額7万9000円です。ただし、在宅介護でヘルパーのみを利用する場合と、日中だけのデイサービスを利用する場合、さらに24時間365日のケアを任せられる老人ホームに入居する場合では、かかる費用が変わってきます。

そして、介護期間の平均は4年11カ月。こちらも現在介護中の方を含むため、介護を終えるまでの平均期間とは言えませんが、それらを前提としたうえで、すべての平均値を基に単純計算すると、1人当たりの介護費用は約550万円となります」(公益財団法人生命保険文化センター「平成27年度生命保険に関する全国実態調査」調べ)

両親ともに介護するなら、その費用は約1100万円。かなりの金額になりますが、家族がすべて負担するわけではないそうです。

「生活苦に陥らないためにも、まずは親御さんの年金で賄う工夫をしましょう。介護保険を活用すれば、ある程度の介護体制は作れます。障害者手帳の交付や自立支援制度の利用などで、医療費の補助を受けたりすることもできますし、自己負担の軽減も可能です。また、毎月の介護費の自己負担額が一定以上になった場合、払いすぎた金額が返ってくる高額介護サービス費用、高額介護合算療養費などの還付制度もありますね。ただし、注意してほしいのは、利用するサービスを増やしたり、高額なサービスを選ぶことが、必ずしもいいわけではないということです」

介護する側・される側、双方にとって快適な環境づくりを

たとえば、「認知症による徘徊を防ぐには、24時間監視してもらう体制が必要」「食事をのみ込めなくなったら、医療機関に入院させねば」などと考えてしまう人もいます。しかし、それでは何の解決にもならないのです。

「徘徊で外出する背景には、外に出たい何らかの動機があります。大事なのは、それを探り、どう解消するか。ただ監視して閉じ込めるだけでは何の解決にもなりません。また、一時的な嚥下障害であれば、適切なリハビリ介助で自立支援を行えば、自分で食事が取れるまで回復することもあります。介護する側の負担を軽減するために、どんどん介護サービスを使っても根本的な解決にはなりませんし、プロの判断による適切な対応をしてこそ、介護する側・される側、双方にとって快適な環境づくりにつながります。サービスの内容も量も、適正なものに近づけていくことが重要ですね」

そのためにも、「いいケアマネジャーを選び、何でも相談すること」がポイントに。ケアプランの相談に乗り、要介護者とその家族の介護生活をサポートしてくれる存在ですが、その良しあしをどう見極めればいいのでしょうか。

「家族の言いなりになってしまうのではなく、気持ちや状況を理解してくれたうえで、プロとして何が必要かを判断できることが重要です。家族の思いも酌み取り、症状の今後を予測した“半歩先を行くような提案”をしてくれるかどうかが見極めポイントになりますね。

介護の専門家だからと任せきりになってしまう人もいますが、ケアマネジャーを代えることはできます。自らどんどん相談し、ダメだと思ったら代えるべきですし、それが介護業界全体のサービス向上にもつながるはずです。国の社会保障費は今後どんどん削減されていくことが予想されていますが、ユーザーが適切なサービスを選ぶことで国庫の負担も軽減できるのではないかと考えています」

しっかり心構えを持ち、全体像を知っておけば、任せきりではなく、意思を持って選択していくことができるのです。「そのとき」がくるまで放置せず、いまから準備を始めておくことが、親にとっても、そして、自分や家族にとっても、穏やかな介護生活につながると言えそうです。

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提供元:熟年パパが直面する「子育て中の介護」問題|親が倒れたら、おカネはいくらかかるのか|東洋経済オンライン

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