2018.01.22
「パート妻」は年収150万円稼ぐほうが幸せだ│老後に備え「103万」「130万」の壁を破れ
もし妻がパートタイマーなら、2018年からは年収「103万円」「130万円」の壁を越え「150万円」も。税制が変わり、そのほうが豊かな老後が送れるからだ(写真:Greyscale / PIXTA)
「年収850万円以上のサラリーマンは、原則として増税」。2017年末にはこんな「あまりありがたくない話」が話題になりました。この所得税増税案はこれから国会で審議されますが、実はこの話は決まったとしても、実施されるのは2020年からのことです。むしろ、大半のサラリーマンにとって、2018年の税制改正で特に注目したいのは「配偶者控除の拡大」です。主に「夫がサラリーマンで妻がパートタイムで仕事をしている夫婦」に当てはまる話ですが、結論から言うと、現在パートタイムで仕事をしていて、少しでも働く時間を伸ばせる人は、ぜひこの「拡大枠」を活用して、さらに老後の資産形成に弾みをつけてほしいのです。
配偶者控除が年収150万円まで拡大
まずは、「配偶者控除」の「控除」から説明をします。控除とは、「所得税の計算をする時に経費として計上できる(所得から差し引ける)項目」です。控除は、課税される所得を小さくすることになりますから、控除額が増えればその分、納税額が減ることになります。
控除にはさまざまな種類がありますが、前述のように、今回は配偶者控除に注目します。説明を分かりやすくするために、会社員の夫と専業主婦の妻を例にお話すると、「妻に収入がない、あるいは収入が少ない場合」、一定の額が、扶養する夫の経費として認められる仕組みです。
2017年までは、妻の年収が103万円までであれば、夫は自身の年収から38万円を配偶者控除として差し引けました。これが2018年からは、妻の年収150万円までであれば、38万円の配偶者控除が受けられることになり、控除できる妻の年収の枠が大幅に拡大されたのです。
ただし、夫の年収が1120万円を超えると段階的に配偶者控除が縮小され、1220万円超だとこの配偶者控除は適用されません。したがって、今回の例は、配偶者控除が縮小されない、年収1120万円未満の会社員の夫を想定して、お話をします。
さて「妻の年収103万円まで」、という記述でピンときた方も多いと思いますが、これがいわゆる「103万円の壁」のひとつの要素です。103万円の壁というのは、「妻の年収がこれ以上になると夫が38万円の配偶者控除を使えなくなり、結果、夫の税金負担が増えますよ」という意味があります。
夫の年収が600万円程度の家計の場合
仮に夫の年収が600万円程度の家計で見てみましょう。超過累進課税(課税対象金額をいくつかの段階に分けて課税する)である所得税の上限税率が10%なので、38万円の控除が使えるとその10%は3万8000円。また、住民税の配偶者控除は33万円で税率は10%ですから3万3000円。合わせて7万1000円もの納税額を引き下げることができました。
また妻自身もパート収入103万円までであれば、自身の収入に対し基礎控除38万円、給与所得控除65万円が適用され所得0円となり、その結果、所得税の負担がありません。(ただし住民税については、基礎控除が33万円なので年収103万円は、控除後の課税所得が103万円-65万円-33万円=5万円となり、そのうちの10%である5000円の納税が必要でした)つまり103万円の壁とは、夫にとっても妻にとっても、所得税を抑えるために重要なラインであったのです。
妻の年収には、さらに「130万円」の壁というのがありました。この壁を超えると、妻自身が社会保険に加入することになり、夫の扶養ではいられなくなります。いわゆる扶養の範囲で働きたい場合は、収入130万円を超えないように、パートの時間数を調整するわけです。
一般的には、妻のパート収入が103万円を超えると、たとえ年収130万円未満であったとしても妻には税納付の義務が発生します。この例(約130万円)だと、所得税率は5%ですから、103万円と130万円との差額27万円が課税対象となり、その5%は1万3500円。また、住民税の課税対象32万円に対して10%に相当する額は3万2000円ですから、合計4万5500円の納税となります。これを嫌い、やはり103万円以内で調整する方のほうが多いのです。
負担増が敬遠の理由だった
また妻の税金のみならず、夫の税金も38万円の配偶者控除が使えず、「配偶者特別控除16万円」になりますから、先ほどのように10%の所得税率だと所得税は2万2000円。住民税の配偶者特別控除も16万円なので、33万円からの差額である17万円が課税所得分となり、1万7000円の納税額アップ。合計では3万9000円税金が増えます。妻の年収が27万円増えても、夫婦の税金が4万0500円+3万9000円=7万9500円増えるので、やはり敬遠されてしまうのです。
※計算を簡素化するために130万円としていますが、実際は130万円未満が社会保険加入の対象とならない年収です。以下同様にご理解ください。この社会保険加入の線引きである130万円は少し複雑で、パートの勤め先が501人以上の大きな事業所、あるいはそれ以下でも社会保険加入を希望する事業所であれば106万円となりますが、今回はまずはパート先の社会保険加入は130万円ということで進めていきます。
さあ、お待たせしました。ここで、2018年からの配偶者控除の拡大のお話です。
従来なら、夫の税金は、妻の年収が103万円から130万円に増えると3万9000円の増税でした。しかし、これが2018年から妻の年収150万円までに対し、配偶者控除38万円が適用されるのですから、税金負担は妻の年収103万円の時と変わらず税のメリットを最大限受けることができます。
妻の税金負担を軽減するために、iDeCoを活用しよう
でも、前述したとおり、妻自身の税金負担として4万5500円が残ります。これは何とかしたいですね。
そこで活用したいのが国が認める自分年金の仕組みであるiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)です。iDeCoそのものは前からあった制度ですが、2017年からは、会社員の夫の扶養である妻(第3号被保険者)にも、加入が認められるようになりました。
iDeCoの特徴は、掛金が全額、所得控除になることです。妻の年収が増えて課税の対象となってしまう27万円をそっくりそのままiDeCoの掛金とすると、どうなるでしょうか。新たにiDeCoの控除(小規模企業共済等掛金控除)が利用できることになり、その結果、税金を負担することなく、将来のための貯蓄をすることができます。第3号被保険者のiDeCoの掛金上限額は年間27万6000円です。この上限いっぱいまでiDeCoの掛金とすると、住民税の負担も軽減できます。確認してみましょう。
iDeCoは、60歳まで積立を継続し、70歳まで運用が可能な制度です。運用益にかかる税金は全期間において無税ですから、2018年に始まったつみたてNISA(最長20年)よりも、場合によっては非課税期間が長くなります。また受け取りの際も一括で受け取ると、積み立て期間を退職所得控除の勤続年数としてカウントするという特典が受けられます。積み立て期間20年までは1年あたり40万円、20年を超えると1年当たり70万円の控除です。たとえば、30歳の方がiDeCoを60歳まで継続すると30年で800万円+700万円=1500万円の控除が使えます。つまり1500万円までの資産は、無税で引出しが可能となります。
もし、パートタイムの妻が、月々2万3000円(年間27万6000円)の積み立てをすると、年4.5%で運用できれば、およそ30年後に1500万円となります。4.5%で運用できるかどうかはともかく、パートの年収が増えた分をiDeCoで自分年金に回すと、積みて立時から受け取りまで、すべて非課税でおカネを作ることができるのです。この場合、税金がかかっていたらどうなるでしょうか。月々2万3000円を4.5%で運用すると運用益は約700万円ですから、700万円×20%=140万円の税金です。これが無税となるメリットは大きく、相当有利に自分年金を作ることができます。
これが配偶者控除拡大とiDeCoの活用で、お得に自分年金を作る方法です。
子どもが大きくなったら自身も社会保険に加入して働く
これまでは、会社員の夫の扶養の範囲で働くことを重視したケースでお話をしましたが、ぜひ検討していただきたいのが、「妻自身も社会保険に加入して働く」ということです。子どもが大きくなって余力があるという方は、ぜひチャレンジしていただきたいのです。
どういうことでしょうか。配偶者控除の拡大によって、妻が、「夫の税金が増えない150万円までパート収入を上げる」としましょう。年収が130万円を超えると、妻は夫の扶養から外れ、自ら社会保険に加入することになります。すると、社会保険料の負担が発生します。負担すべき健康保険料は、協会けんぽなら都道府県ごと、組合健保なら組合ごとに保険料率が異なりますが、今回は健康保険料(40歳未満)と厚生年金保険料を合わせて14%として計算していきます。もし、毎月の給与が12万5000円(年収150万円)なら、月々の保険料は1万7500円、年間だと21万円です。
一方、税金はどうなるかというと、給与所得控除が65万円、基礎控除が38万円、社会保険料控除が21万円(=支払った社会保険料は全額所得控除)となり、課税所得は、150万円-65万円-38万円-21万円=26万円です。これに対する所得税は1万3000円。住民税が3万1000円で、合計4万4000円です。つまり手取りは150万円-21万円-4万4000円=124万6000円となります。
パートタイムで働く妻が社会保険に加入するメリットは、たとえば健康保険なら病気療養のため欠勤が続いたとき、これまでの社会保険未加入のパートであれば単に収入がカットされるだけでしたが、1日当たり約3000円の傷病手当金を受け取れることになります。社会保険給付が増えた分、加入している民間の医療保険の保障を小さくして、保険料を抑えることも可能です。
さらに、大きなメリットがあるのは、厚生年金です。仮に30歳のパートタイムの妻が毎月の給与12万5000円で60歳まで働けば、老齢厚生年金として年間約25万円を、国民年金の上乗せとして終身で受け取ることができます(老齢厚生年金簡易計算式:給与×5.481÷1000×厚生年金加入月数)。老齢年金は終身年金ですから、このように、将来の備えを拡充することができます。
さて、老齢基礎年金は第3号被保険者(会社員の妻)でいる間は保険料が免除となりますが、自身が社会保険に加入すると保険料を負担することになります。仮に20歳から60歳まで専業主婦でいると、保険料を一切自分で負担することなく65歳から約78万円の老齢基礎年金を受給できます。これも専業主婦優遇といわれるゆえんです。
前出のように、妻自身が厚生年金に加入するともちろん保険料は負担することになりますが、老齢基礎年金に約25万円の老齢厚生年金を加算できます。つまり、合わせると78万円+25万円=103万円の老齢年金です。また、国の年金は65歳から5年間、70歳まで受け取りを据え置くと142%になります。つまり103万円の老齢年金が146万円になるのです。妻自身が月10万円超のおカネを終身で確保できるということは、かなり重要だと思います。
iDeCo加入なら、さらにメリットがある
もちろん、iDeCoに加入することもお勧めです。先ほど年収150万円の税金負担は課税所得が26万円に対し所得税、住民税合わせて4万4000円とお伝えしました。もしiDeCoで月2万3000万円の積み立てをすれば、新たに27万6000円の所得控除を作ることができ、この計4万4000円の税金も、3400円と、4万0600円も圧縮できます。税率が変わらないことが前提ではありますが、30歳の妻がこの方法でiDeCoを30年継続すると、税のメリットだけでも約122万円ものおカネを節約しながら、自分年金が作れるのです。
もちろん、働きに出ることだけが老後の資産形成の解ではありません。しかし、もし「もう少しパートの勤務時間を増やすことが可能な人」なら、十分検討に値するはずです。
また見方を変えると、パート従業員を多く抱えている事業主にもメリットがあるはずです。つまり、配偶者控除の拡大におけるメリットやiDeCoの加入のメリットなどを職場で説明して、一人でも多くの有能なパート従業員が働く時間を増やせば、人手不足の昨今、大いに助かるのではないでしょうか?
一見、なにかと難しく感じてしまう国の制度ですが、今年はぜひ、配偶者控除の拡大とiDeCoを組み合わせ、上手に活用したいものです(なお、上記の税計算はあくまで簡易版です。個別のケースについては、税理士などにお問い合わせください)。
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提供元:「パート妻」は年収150万円稼ぐほうが幸せだ│東洋経済オンライン