2017.08.23
子どもが間違った報道に踊らされないために│出す側の理屈と受け手の注意を絵本で学ぶ
元TBS報道キャスターの下村健一さん
さまざまな社会問題と向き合うNPOやNGOなど、公益事業者の現場に焦点を当てた専門メディア「GARDEN」と「東洋経済オンライン」がコラボ。日々のニュースに埋もれてしまいがちな国内外の多様な問題を掘り起こし、草の根的に支援策を実行し続ける公益事業者たちの活動から、社会を前進させるアイデアを探っていく。
元TBS報道キャスターの下村健一さんによる最新刊『窓を広げて考えよう 体験!メディアリテラシー』が2017年7月18日、発売となりました。下村さんは現在は、白鴎大客員教授として教鞭をとる他、小学5年の国語教科書に執筆するなど、子ども達のメディア教育にも力を入れています。これまで著書を5冊出版してきましたが、今回は初めて「絵本」という形で出版されました。
メディアリテラシーを学べる「しかけ絵本」
本記事はGARDEN Journarism(運営会社:株式会社GARDEN)の提供記事です
くり抜かれたページの穴から見える「メディアのつたえる部分的な情報」と、ページをめくって見た「実際の全体の情報」の印象の違いから、メディアリテラシーを学べる「しかけ絵本」になっています。
「絵本にしたおかげで、情報というのは一部分なんだということ。『インターネットで君が見つけたあるページはこの穴に過ぎないんだよ』ということをすごく直感的にわかってもらえるかなと思いますね。」著書の下村健一さんはこう話します。
「子供のうちに学ばないと遅い」メディアリテラシー
小学5年国語教科書『想像力のスイッチを入れよう』執筆をし、情報の受け取り方の教育にも力を入れている下村さん。
『情報に振り回されないための4つの呪文の言葉』として、情報の受け取り方が分かりやすく書かれた教科書を読んだ子どもたちからは、たくさんの反応が寄せられたと言います。
「『おもしろい』という反応が一番多かったんですよね。これ手応えあるなと思って。要するに、情報が一部分しか与えられなくても、それを4つの言葉でチェックしてみるとパーっと視野が広がる感じ。これがみんな面白かったみたいですね。結局メディアリテラシーって『情報っていうボールのキャッチボール』。キャッチボール上手くなったらおもしろいじゃないですか。だから考えてみると当然の反応だったんですけどね。」
WELQの一件でも記憶に新しい『フェイクニュース』、また、客観的な事実が重視されず感情的な訴えが政治的に影響を与える状況を表す『ポスト・トゥルース』という言葉がニュースでもよく聞かれるようになった昨今。情報に踊らされないよう、子どもの時に情報との付き合い方を学ぶ必要があると下村さんは言います。
「子供のうちに学ばないと遅いですね。フェイクニュースが現れたことで、逆にファクトチェックのページや団体ができてくると、今度は『どこのファクトチェックが正しいんだ』というファクトチェックで、イタチゴッコですよね。結局そうなってくると『メディアなんか信じない』ということになって、逆に自分が気に入ったどこか一箇所に帰依してしまうことになれば、情報の血の巡りが悪い社会になってしまう。たまたま出会った情報だけを信じてしまうっていうことは、どんどん社会の分断が進むばかり。やっぱりそこで『自分が最初に出会った情報はこうだけど、他の情報もあるのか』と受け止めるキャパシティーを残しておかないと。まだ子供の頃から、『情報ってこういう取り方をするんだ』というのを本当に身に染み込ませたいと思います。」
カナダでのメディアリテラシーとの出会い
下村さんがメディアリテラシーと出会ったのは、1990年代にカナダへメディアリテラシーの授業を取材したのがきっかけでした。その授業では、広告の制作実習を行ったり、実際におもちゃ屋さんへ出向き、広告の効果を議論したりと、発信者の立場で考えることに重きを置いていたと言います。
「自分が出す側に回った瞬間、『これはトリックというよりも伝えやすくしようと思ってやる工夫なんだ』と分かる。宣伝の時は『工夫』で済むが、ニュースだと伝えようと思って分かりやすくしようと思った工夫が、あるイメージに縛り付けてしまう恐れがある。そこは受け手の側で注意しましょうねと。」
カナダで見たメディアリテラシーの授業に感化された下村さん。しかし、日本で伝える際には、選ぶ言葉を意識していると言います。
「メディアを批判的に受け止めようという言葉が、英語での『critical(クリティカル)』と『批判的』という日本語では感じが違う。『批判的』と言うとどうしても『相手を嘘つきだと思え、疑え』みたいな感じがする。それはずっとメディアでやってきた人間として『冗談じゃない』という思いがあった。何の悪意もないけれど、それでも人がある情報を伝えるときには全部は伝えようがない、ある切り取りはせざるを得ない。それを、冷凍食品を食べる前に解凍するように、もう一回情報を受け取った人が広げましょうよと。だから『疑え』ではなくて『窓を広げよう』。まさに、今回の絵本のタイトルです。明るい話なんですよ、メディアリテラシーは。」
今回下村さんが出版した『窓を広げて考えよう〜体験!メディアリテラシー』(かもがわ出版)を通じてメディアリテラシー教育の普及を推進しようと、この本を母校などに寄贈するクラウドファンディングを始めた団体があります。『日本中の子どもたちに「メディアリテラシー」を広げる会』です。学生時代に下村さんからメディアについて指導を受けた若手社会人が有志で集まりました。このクラウドファンディングでは、1口3000円で、母校や指定した学校の図書室に寄付者本人の名前でこの絵本が届けられます。
大きな変化のはじめの一歩になるかもしれない
「絵本を送った誰か一人の子供の目が開かれるだけじゃなくて、その学校の図書室を訪れる子供達、代々この後も大勢の子供達が広い景色を見られるようになる。これ本当にあなたのおかげで母校のエリアの子供達が変わる、子供達が変わったらそのエリアが変わる。やがて学級会が変わったら国会が変わる。本当に大きな変化のはじめの一歩になるかもしれません。」と、著者の下村さんは話します。
絵本が届けられた学校の子供たちだけでなく、先生の一助にもなればと期待をしています。
「先生たち、メディアリテラシーを教えろ、あるいはアクティブラーニングやりなさいと言われても、掛け声だけ言われても途方に暮れる。そこには何らかの具体的な道具をシェアしないといけなくて、この絵本がその道具の一つになればいいなと本当に思います。」
「日本中の子どもたちに『メディアリテラシー』を広げる会」については
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提供元:子どもが間違った報道に踊らされないために│東洋経済オンライン