2017.08.04
タツノコプロ展は「父子のおでかけ」に最適だ│ヤッターマンを「体感」できる
「タツノコプロ55周年 GO!GO!記念展」は8月8日まで。入場料は、中学生以上が1000円、4歳以上小学生が500円(筆者撮影)
7月27日~8月8日、東武百貨店池袋本店8階催事場において「タツノコプロ55周年Go!Go!記念展」が開催されている。同店のオープン55周年記念として、同じく創立55周年のアニバーサリーイヤーであるタツノコプロとのコラボレーション企画として開催されるものだ。主催は東武百貨店などで、タツノコプロは監修という立場で企画にかかわっている。
展示会では、『科学忍者隊ガッチャマン』『タイムボカンシリーズ』など、同社のアニメ作品のセル画や原画、設定資料など約150点以上を展示。2012年の50周年記念「タツノコプロテン」における出展数300点より数としては少ないが、玩具コレクター・齋藤和典氏のコレクション180点以上や、10月から放映が予定されている3DCGアニメ『Infini-T Force(インフィニティ フォース)』の設定画などが見所となっている。また会場限定グッズを含むキャラクター商品をそろえた物販コーナーも呼び物のひとつだ。
「今回の展示会のいちばんの狙いは、当社が55年歩んできた道、成し遂げてきたことをあらためて紹介し、多くの方に知っていただくことです」(タツノコプロ 桑原勇蔵代表取締役社長)
「アクビちゃん」や「ドロンジョ」を生み出した
深田恭子の着用コスチューム(筆者撮影)
タツノコプロは1962年、漫画家の吉田竜夫・健二・豊治氏の3兄弟により漫画制作工房「竜の子プロダクション」として設立。1965年に初のテレビアニメ作品『宇宙エース』を手掛けて以降、多数の作品を生み出してきた。『科学忍者隊ガッチャマン』『タイムボカンシリーズ』などは幾度も放映されたほか、劇場映画化されたことなどで、世代を超えて知られているものも多数ある。「アクビちゃん」「ドロンジョ」など、インパクトのあるキャラクターを輩出してきたことも特徴だ。「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」「おしおきだべー」といったゴロのよいセリフと相まって、記憶に刻み込まれているという人も多いだろう。タイムボカンシリーズなどは、「キャラクターの認知率はお子さんからお年寄りまでの全世代で、8割を超えているのではないか」(タツノコプロ コンテンツビジネス部 中津聡一郎氏)という。
また長い歴史を持つシリーズはリメイクされて放映されているので、現代の子どもたちにも親しまれている。初放映が1975年の『タイムボカンシリーズ』は2016年10月より『タイムボカン24(トゥエンティーフォー)』として放映。視聴率もよく、2期目の放映が決定しているという。
「タイムボカントゥエンティフォーは親子で見ていらっしゃることも多かったようです。子どもはもちろん新しいアニメとして、親世代は懐かしい気持ちも感じつつ“ここはこう変わっているのか”という設定の違いを楽しみながら……。“親子で楽しんでいただけている”という点で、初代の時代とは変化があるかもしれません」(中津氏)
今回の展示会も、ファミリーや往年のタツノコファンをメインのターゲットとしている。「往年のタツノコファン」とは子どもの頃よりタツノコ作品を見て育った30~50代の世代に当たるという。ガッチャマンやタイムボカンなど、カッコいい乗り物(メカ)が特徴のひとつでもあるので、往年のファンには男性が多いかもしれない。そのことを意識してか、東武百貨店では隣接する会場で7月27日から8月1日の6日間「タミヤモデラーズギャラリー」というプラモデルの展示会を同時開催。相乗効果による集客を狙った。初日当日午後から賑わい始め、週末も親子連れなどで盛況だったという。
展示会では、エントランスをくぐると、まずタツノコプロの年表が紹介され55周年を通して制作された作品数の多さに圧倒される。次に『宇宙エース』から始まる、作品のセル画、原画が年代順に並ぶ。特に登場人物やメカを肉筆で描いた作品には、その丹念な筆致から生まれるリアルさに驚く。また、アニメ用の作画でエアブラシを用いる手法は当時としては新しく、タツノコプロならではのものだという。こうした作品の数々を眺めるだけでも、日本のアニメに影響を与えてきた歴史がうかがえる。
使われなかったスケッチも多数展示
ヤッターワンの準備稿(筆者撮影)
また、展示作品の中には「準備稿」と呼ばれる、実際にはアニメに使われることがなかったスケッチも多数含まれている。
「本来であれば外部に出るものではないので、ファンの方にとっては貴重な機会だと思います」(中津氏)
セル画などと見比べて、当初のアイデアが最終的にどう変わったか、探してみるのも楽しいだろう。
『昆虫物語みなしごハッチ』のコーナーになると一変して、明るいファンシーな色調、キャラクターのかわいらしさに心がなごむ。3男の吉田豊治が九里一平のペンネームで描いた原画は、ボタニカルアートを思わせる繊細な線で構成されている。
また会場には、故・吉田竜夫の長女である吉田すずか氏の作品コーナーも設けられている。すずか氏は、タツノコプロにおいてはスーパーバイザーという立場で、2001年、2002年に2期放映された『よばれてとびでて!アクビちゃん』などのキャラクターデザインを手掛ける。ピンクを基調にしたイラストはポップでかわいらしく、10~20代の女性に人気がありそう。ソックスなどのキャラクターグッズも売れているそうだ。手塚治虫の『ブラックジャック』に登場する「ピノコ」は、手塚の娘さんがモデルであることは有名。同様に、アクビちゃんにもすずか氏の幼少時の姿が重ねられている。
吉田すずか氏とアクビちゃん(筆者撮影)
「どうしてもすずかに似ちゃうんだよね、とよく言っていました。自分が描いている今のキャラクターはさらに似てきているかもしれません(笑)。お客様が真剣にタツノコプロの作品を見てくださっているのがうれしい。展示会を通して、若い人や子どもさんにタツノコプロの世界をもっと知ってもらえたらと思います」(コンテンツビジネス部 吉田すずか氏)
ヤッターマン「3人乗り自転車」の実物大模型も
3人乗り自転車の実物大模型(筆者撮影)
会場にはそのほか、『ヤッターマン(タイムボカンシリーズ)』に登場する「ヤッターワン」の巨大模型、悪者3人組ドロンボー一味が逃げるときに乗る3人乗り自転車の実物大模型、実写映画『ヤッターマン』でドロンジョ役の深田恭子氏が実際に着用したコスチュームなども展示。齋藤氏によるおもちゃのコレクションとともに、マニア魂をくすぐる企画となっている。なおコミュニケーションにおいてSNSによる画像発信が欠かせなくなっている世相を反映し、最近の展示会では写真撮影が許可されているものも多い。今回の展示会についても、会場内は全面的に撮影OKとなっており、フォトスポットもいくつか設けられている。
「くしゃみをするとハクション大魔王が出てくる」などのゲームコーナーも設置されている。親子連れはもちろん、カップルや友達など数人で訪れた客にとっては、楽しみながらタツノコ世界を体感できるのではないだろうか。
物販コーナーの中でも、東武百貨店とのコラボならではの目玉が、タツノコ作品をモチーフにした伝統工芸品だ。キーホルダーなど、お土産として気軽に購入できるものもある。また、伊万里・有田焼の「ハクション大魔王の壺」は1万2960円。「蛸唐草(たこからくさ)」という伝統的な文様を用いて職人が1点1点絵付けをしたもので、“目利き”ではないが、この価格はかなりお得なように感じられる。
お土産コーナーは無料で入場できる(筆者撮影)
「品質・価格ともに百貨店の客層とも合致する商品」(中津氏)とのことで、初日午後の時点ですでに1点購入されていた。このように、世代を超えて長く愛されるタツノコプロの世界が楽しめる企画展となっている。
そして今回注目されるのが、この10月から放映される『Infini-T Force』に関する展示だ。これまでのタツノコ作品に比べ、より若者や、海外も含むコアなアニメファンへの訴求を狙っている。
まず『科学忍者隊ガッチャマン』(1972年)、『新造人間キャシャーン』(1973年)、『破裏拳ポリマー』(1974年)、『宇宙の騎士テッカマン』(1975年)という初期タツノコ作品の4人のヒーローを一挙に登場させているところが大きな特徴。アメリカンコミックで映画化もされている『アベンジャーズ』を彷彿とさせるシステムだ。3DCGによるリアルな映像も注目される。
タツノコファンで言えば真ん中の世代に位置するある40代の男性は、「ガッチャマンは必ずハッピーエンドになるわけではなく、あまり好きではなかった。ギャグ要素の強いヤッターマンは好んで見ていた」という。
今でこそアニメファンに年齢は関係ないが、当時はアニメと言えば主に子どもが見るものだった。『ガッチャマン』は設定がシリアスで全体に陰があり、小さな子どもには難しい部分もあったかもしれない。もちろん、メカのかっこよさもあって人気が高く、主題歌を替え歌にして歌っていた子どもも多かった。
創業時からオリジナルアニメにこだわり
新作では、タツノコの初期作品に垣間見える「大人の魅力」を、現代的なキャラクターや美しい映像とともにストレートに味わえるのではという期待が膨らむ。
「創業時からオリジナルアニメにこだわり、多くの作品について単独で著作権を保有しているタツノコプロだからこそ可能になりました。往年のファン層をも満足させつつ、若者に刺さるアニメとして制作しています。今回の展示会も、昔からのファンには懐かしがりながら、新しいファンには新鮮な気持ちで、楽しんでいただきたいと思っています」(桑原氏)
2015年の日本のアニメ市場は1兆8253億円で、前年比12%増。純粋なアニメ制作の売り上げも海外を中心に増加を続けているが、キャラクター商品などの「アニメ産業市場」が大部分を占め、成長も著しい(「アニメ産業レポート2016」日本動画協会)。アニメは子どもの娯楽であった時代から、すべての人を対象としたカルチャーとして育ってきた。
そして日本は世界の中で、そうしたアニメ文化を牽引する存在だ。普遍的な作品は時代を超え、形を変えて幾度でもよみがえる。タツノコプロにおいて長きにわたり蓄積されてきた「種」が、新たな時代にあってどのような花をつけ、実を結ぶか。今回の「タツノコプロ55周年Go!Go!記念展」がどのように受け入れられるかが、今後を占うひとつの指標となるのではないだろうか。
圓岡 志麻 :フリーライター
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提供元:タツノコプロ展は「父子のおでかけ」に最適だ│東洋経済オンライン