2017.07.04
子どもを褒めない親は「見る目」がなさすぎる|どんな子もやる気になる「目から鱗の褒め方」
どのように褒めればいいのでしょうか(写真:よっし / PIXTA)
あなたは子どもを「褒めて」育てていますか? 「よく言われる話だな」と思った方もいるかもしれませんが、ではどれだけ効果があるのか、具体的にどうやって褒めるのか、ぱっと答えられるでしょうか。言うのは簡単、だけど意外とできないのが「褒めて育てる」なのです。
この記事では長年小学校の教師として多くの子どもたちと向き合ってきた経験などから、その効果と、具体的な「褒め方」について事例を踏まえながらご紹介したいと思います。
子どもを褒めるコツ
田中さん(仮名)は、自宅の習字教室で、自分の娘も含めて、多くの子どもたちに習字を教えています。でも、以前は習いに来る子どもの数も少なく、経済的に厳しい状態が続いていました。あるとき、私の講演を聞いて、子どもを褒めるコツについて開眼したそうです。そのコツとは「まず褒める。部分を褒める」の2つです。
それまでは、子どもたちの作品を見て、すぐに「もっとここはしっかり止めなきゃダメでしょ」などと言っていました。頭ではもっと褒めたほうがいいとわかってはいたのですが、どう褒めていいかわからなくて、ついマイナス面を指摘してしまうことが多かったのです。開眼してからは、「左払いがとてもきれいに書けたね。すごくいい感じ」などと、とにかくよくできた部分をまず先に褒めるようにしました。どうしても指摘したいことがあるときは、褒められる部分をいくつか褒めた後で1つくらい指摘するそうです。
そうするうち、子どもたちとの関係が非常によくなり、やめる子は減り、新たに習いに来る子が増えました。また、自分の娘との関係もよくなったそうです。もちろん、子どもたちは楽しそうに習字を習い、上達もしています。田中さんは、「この褒め方は単純にして効果抜群。これで人生が変わった」とまで言っています。
褒められると子どもは自信がつき、もっと頑張りたいと思うようになります。自分に自信が持てるようになるので、ほかのこともできそうな気がしてきます。認められたうれしさで心がぽかぽか温かくなってくるので、友達や兄弟にも優しくなれます。認めてくれた相手に対して信頼が高まり、心がオープンになって素直な気持ちになることができます。
ですから、私は懇談会や学級通信などで褒めることの大切さを繰り返し伝えてきました。でも、それを聞いて多くの親たちがよく言うのは、「褒めることの大切さはわかっているけど、いざとなると褒められない。褒めるところが見つからない」ということです。そこで、私が提案したのが「部分を褒める」です。
「部分」に注目して、まず褒める
何事でもそうですが、全体を漠然と見ていたのでは褒められません。つねに「部分」に注目すれば褒められる部分が必ず見つかります。
たとえば、子どもの宿題の書き取り帳に乱雑な字が並んでいたとします。そのとき、すぐ「もっとしっかり書かなきゃダメでしょ。書き直しなさい」と言ってしまうと、「イヤだもん」「書き直しなさい」「イヤ」「ご飯抜きだよ」などのバトルに発展してしまいます。ところが、部分に注目して、まず褒めるようにすると、これよりはるかに望ましい展開が可能になります。
というのも、書き取り帳は1ページで80字くらいありますので、中には偶然上手に書けている字が必ずあるからです。「この『朝』という字、きれいに書けたね。『飛ぶ』という字のバランスがいいね」というように褒めます。あるいは、もっと部分に注目して、「この『辻』という字の『しんにょう』がすごく形がいいね。この『校』という字の左払いがすっきりきれいだわ」と褒めることもできます。
このように毎日部分に注目して10個くらい褒めていれば、日ごとにノートの字はしっかりしたものになります。どうしても直させたい字があるときは、たくさん褒めてから、最後に「じゃあ、これとこれだけ直そうか」と言えば、喜んで直してくれます。つまり、順番も大事なわけで、まず最初に褒めることが大切なのです。
算数の宿題を見たときも同じです。「これバツ。これもバツ。もっとちゃんと考えてやらなきゃダメでしょ。ほら、間違ったところをやり直しなさい」などといきなり言ってしまいがちですが、これでは子どもが反発したくなるのも当然です。まずは、しっかりできた部分を見つけて、「これマル。これもマル。これもマル」と褒めます。マルではないところも、褒められる部分を見つけて、「ああ、これ惜しい。式は合ってるよ。計算ミスが惜しかったね」「図を描いて考えたね。いいことだね」と褒めます。そして、最後に「じゃあ、これとこれ、もう一度やってみようか」と言えば喜んでやってくれます。
子どもの作文を読んで「月並みでつまらない作文だ」と思っても、「もっとよく考えて、工夫して書きなさい」などと言ってはいけません。まずは、褒められる部分を見つけて、「カギかっこを使って会話が書けたね」「ここの書き方はいいね。驚いたときの気持ちがよくわかるよ」などと褒めます。それで終わってもいいですが、もう少し指導したいと思ったら「このとき○○君はどんな気持ちだったかな」などと聞いて、子どもが答えたらそれも書かせるようにします。
勉強以外でも同じです。子どもの描いた絵を見て「下手だなあ」と思っても、そんなことはおくびにも出してはいけません。全体を漠然と見るのではなく、部分に注目すれば「夕焼け空の色がきれいだね」「たくさんの色が使えたね」「小鳥がかわいらしく描けたね」「このライオンは迫力があって今にも動き出しそう」などと褒めることができます。
子どものサッカーの試合の後も、結果はどうあれ、まずはよかった部分を見つけて褒めます。「最後までよく頑張ったね」「すばらしい声が出てたね」「○○君へのスルーパスがドンピシャだった。しびれたよ」「前半終了直前のコーナーキックはプロ並みだったよ」などと褒めてあげましょう。
短所だけ見つけ出してしかってもうまくいかない
子どもの性格や行動についても同じです。たとえば、次のような子がいたとします。だらしがなくて、やるべきことをやらない。やりたいことだけやって、嫌なことは後回し。何度注意しても直らない。勉強は全滅で、運動も音楽も図工も体育も苦手。このような子どもの短所ばかりに注目して、しかって直そうとしてもまずうまくいきません。短所にはあえて目をつむり、褒められる部分を見つけ出して褒めることが大切です。どんな子でも、褒められる部分は必ずあります。その子のすべてが丸ごと全部ダメなどということは、絶対にありません。
たとえば次のような部分があるかもしれません。いつも元気でエネルギーにあふれている。にこにこしていて笑顔がすばらしい。人を笑わせるのがうまい。面白い遊びを思いつく。人と違う発想ができる。好きなことには時間を忘れて没頭できる。周りに影響されることなく自分のペースで行動できる。口笛がうまい。手先が器用、などなど。このような部分を見つけ出して褒めてあげられる親なら、子どもは伸びます。でも、実際は、褒められる部分には目をつむって、短所だけ見つけ出してしかっている親がほとんどです。
ところで、あるとき私はこういう光景を見ました。ある母子が新幹線の駅ビルの書店の前を通りかかったとき、子どもが「本、見たーい。買いたーい」とごねはじめました。普通なら「いま急いでるでしょ。わがまま言わない!」となるのですが、そのお母さんは、まず「あなたは本好きだもんね」と子どもを褒めました。そして、歩きながら「本好きだから、本をたくさん読んで、言葉もたくさん覚えたもんね」と褒め続けました。その後で、「でも、いまは無理だからごめんね、この次にしようね」と言うと、子どもはごねるのをやめて、ニコニコしながら付いていきました。私は実にすばらしいお母さんだと感じ入りました。
この「まず褒める。部分を褒める」方法は、子どもだけでなく、あらゆる相手・状況において効果的です。以前、何かの雑誌で読んだのですが、優秀なデパートの店員は、近くを歩いているお客さんに向かって、「そのバッグ、すてきですね」などと話しかけるそうです。自分のバッグが褒められた客は、店員に対してよい感情を持ち、心がオープンになります。そして、よい雰囲気で会話を続けるうちに、だんだん自分の売りたい商品にいざなっていくそうです。確かに、見ず知らずの客に、いきなり「うちの商品はいいですよ。安いですよ」などと話しかけても売れるはずがありません。まずは、その客の褒められる部分を見つけ出して褒めることで、望ましい展開が可能になるのです。
夫婦の間でも同じです。夕食を目の前にして、夫が「今日の夕食はギョーザしかないのか」などと言えば、奥さんは強く反発するでしょう。でも、「いつもありがとう。今日のギョーザも隠し味のオイスターソースが効いていて、おいしいね」などの言葉が先にあって、その後で「野菜サラダもお願い」と言えば、奥さんも素直に受け入れやすくなります。
職場でも同じです。いきなり「なんだこれは! こんな企画書では具体的な進め方がまったくわからないじゃないか」と言ってしまう上司では、部下のやる気を引き出すことはできません。そうではなく、「いいアイデアだね。これは思いつかなかったよ。あとは関連部署と具体的な進め方を詰めるだけだな」というように、まずは褒めてから言いたいことを言うようにすることが大切です。
「よい部分を見つけ出すぞ」という意識
「この人は何の取り柄もない」と思う相手がいるかもしれません。でも、それはあなたの見る目がないだけなのです。つねに部分に注目して、少しでもよい部分を見つけたら、そこを心の拡大鏡でよく見てください。そして、褒めてあげてください。「よい部分を見つけ出すぞ」という意識さえあれば、必ず見つけられます。そして、だんだんそれが自然にできるようになります。すると、どんな人についても、さらには、どんな物事についても、よいところに目がいくようになります。人や物事の見方自体がプラス思考になってくるのです。
親野 智可等 :教育評論家
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提供元:子どもを褒めない親は「見る目」がなさすぎる|どんな子もやる気になる「目から鱗の褒め方」|東洋経済オンライン