2017.06.30
「食べる油」の真実をどれだけ知っていますか|この蘊蓄100章は思わず人に話したくなる
空前のオイルブームに氾濫する情報、自分に必要なオイルはどれ?(写真:Alex9500 / PIXTA)
モノ情報誌のパイオニア『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス社)と東洋経済オンラインのコラボ企画。ちょいと一杯に役立つアレコレソレ。「蘊蓄の箪笥」をお届けしよう。
蘊蓄の箪笥とはひとつのモノとコトのストーリーを100個の引き出しに斬った知識の宝庫。モノ・マガジンで長年続く人気連載だ。今回のテーマは「食用オイル」。あっという間に身に付く、これぞ究極の知的な暇つぶし。引き出しを覗いたキミはすっかり教養人だ。
01. 脂質は、タンパク質、糖質と並ぶ三大栄養素のひとつ
02. 油のエネルギーは1gあたり9kcal
03. 脂質は効率よいエネルギー源として生命を守っている
04. 半面、摂り過ぎると生活習慣病を引き起こす恐れもある
05. 人類が最初に使い始めた油は植物油脂でなく、動物油脂だったと推察されている
06. 最初の油脂の利用目的は照明。後期旧石器時代のクロマニョン人の洞穴で、油脂を燃やした石皿が発見されている
07. 食用の油としては、狩猟によって得た動物から脂肪の層を切り取り、火で溶かして用いたのがはじまりとされる
08. もっとも古くから人類が食用としていたオイルは、オリーブオイルとゴマ油
09. 紀元前3500年頃のオリーブオイル貯蔵用の器がクレタ島で出土している
日本人の油脂の摂取量はこの半世紀で3倍に
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10. 日本では縄文時代にはエゴマや胡麻が栽培されていた
11. 『日本書紀』には、ハシバミ(榛)の実から油を搾ったとの記述がみられる
12. 859年、京都の大山崎離宮八幡宮でテコの原理を利用した搾油機が作られ、日本における製油発祥地となっている
13. 食用の油としては奈良時代、寺院で精進料理に油で揚げた食物を加えるようになったのがはじまりといわれる
14. かつて日本では旧暦11月15日に植物油を用いた料理を神前に供え油の収穫を祝う「油祝い」の風習があった
15. 日本人の油脂の摂取量はこの半世紀で3倍に増えた
16. ラテン語でoliva(オリーブ)から派生したoleumがオリーブオイル=油の一般名称となり、oilの語源となった
17. 「あぶら」の語源は、肉を炙ると出てくることから「あぶる」が転じて「あぶら」となった説が有力
18. 漢字では「油」「脂」「膏」。主に「油」は常温時に液体の植物性・鉱物性、脂は常温時固体で動物性のもの、膏は肉の油を指して書き分けられる
19. 人間の体は約60兆個の細胞から構成され、その細胞膜の主な材料となるのが脂質
20. 植物油にはビタミンEが含まれる。ビタミンEは老化の元凶といわれる活性酸素の働きを抑える効果をもつ
もっとも古くから人類が食用としていたオイルのうちのひとつ、ごま油(撮影:田野 真由佳)
21. ビタミンAやカロテノイドといった脂溶性の栄養素は、油と一緒に食べると体内に吸収されやすくなる
22. 卵や魚類、キノコ類に多く含まれるビタミンDも脂溶性のため、油で調理することで吸収率がアップする
23. 日本人の油脂の摂取量は平均して1日当たり約55g
24. そのうち植物性油脂と動物性油脂の割合はほぼ1:1
25. 日本人が摂取している油脂の内訳は、「見える油」が約1/4、残りの約3/4は「見えない油」
26. 「見える油」とは植物油のほかバター、マーガリンなどの調理に使われる油。「見えない油」とは肉や魚、穀類や豆、乳製品など、加工品も含め、食品そのものに含まれる油
27. 厚労省は、成人の場合1日に摂取する脂質の理想量はカロリー全体の20%としている
28. この指標は「1日の総脂質量」であり、「見えない油」を除くと1日に摂取して問題ない油の量は大さじ1程度
29. 日本でもっとも多く消費される植物油は菜種油
30. 植物油の生産量は世界全体で約1億7839万トン
31. 世界の植物油市場において生産量がもっとも多いのはパーム油、2位大豆油、3位菜種油
「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」
32. パーム油はマーガリンなどの原料のほかに「見えない油」として加工食品や菓子、アイスクリームなどに使われ、日本人1人当たりの年間消費量は約4㎏にも達する
33. 「サラダ油」は、生野菜のサラダ用ドレッシングに使用されることを前提として開発された日本独自の食用油
34. JAS規格(日本農林規格)では0℃の環境で5.5時間放置しても濁ったり固化したりしない事がサラダ油の定義
35. サラダ油は菜種、大豆、とうもろこし、ひまわりの種、ごま、紅花、綿実、米、ぶどうのいずれかを原材料としたもの
36. 菜種のなかでもカナダ産のキャノーラ種から搾られたサラダ油は「キャノーラ油」と呼ばれる
37. 「サラダ油」の名称を最初に用いたのは大正13年に日清オイリオが発売した「日清サラダ油」
38. 油脂の主要な構成成分である脂肪酸は、大きく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられる
39. 飽和脂肪酸は動物性油脂に多く、室温で固体状となる
40. 不飽和脂肪酸は植物性油脂や魚油に多く、室温で液状となる性質をもつ
41. 不飽和脂肪酸は、「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分けられる
42. その構造の違いによって、一価不飽和脂肪酸は「オメガ9脂肪酸」、多価不飽和脂肪酸はさらに「オメガ3脂肪酸」と「オメガ6脂肪酸」に分類される
43. オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は不可欠な栄養素でありながら体内で合成できず外から補わなければならないため「必須脂肪酸」と呼ばれる
44. オメガ9の代表的な脂肪酸は「オレイン酸」。食物から摂取するほか、体内で合成できる脂肪酸でもある
45. オメガ3の代表的な脂肪酸は「α-リノレン酸」や「DHA」「EPA」がある
46. オメガ6の代表的な脂肪酸は「リノール酸」
47. オメガ3系のオイルは、エゴマ油、アマニ油、インカインチオイル、チアシードオイル、カメリナオイルなど
48. オメガ6系のオイルは、コーン油、大豆油、ひまわり油、紅花油、綿実油、グレープシードオイルなど
49. オメガ9系のオイルはオリーブ油、ナタネ油(キャノーラ)、紅花油(ハイオレイン)、コメ油、アルガンオイル、アボカドオイル、アーモンドオイル、ピーナツオイルなど
血中中性脂肪を下げる作用
不足しがちなオメガ3脂肪酸を積極的に取りたい(写真:Maya / PIXTA)
50. α-リノレン酸は血中中性脂肪を下げる作用がある
51. α-リノレン酸は体内に入るとDHAやEPAに変換される性質があり、脳の正常な機能を支える働きをする
52. オレイン酸は悪玉コレステロールだけを下げる効果があるといわれる
53. オレイン酸は酸化しにくい性質があり加熱調理もOK
54. リノール酸は、かつては健康に良いとされていたが、過剰摂取はアレルギー症状や心筋梗塞などの引き金になるとの報告もされている
55. オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の摂取比率は1:4の割合が理想的といわれる
56. 現代日本では食生活の欧米化により、オメガ6脂肪酸は意識しなくても大量に食品に含まれているため過剰摂取する傾向があり、オメガ3脂肪酸は不足がち
57. 厚労省「日本人の食事摂取基準(2015)」ではオメガ3脂肪酸を1日1.6~2.4g摂るよう目安設定されている
58. オメガ3が多くオメガ6が少ない食品はエゴマ、イワシ、サバ、アジ、タイ、アナゴ、ウナギ、サケ、サンマ、シシャモ、ブリ、マグロなど
59. オメガ3脂肪酸を多く含む野菜はナス、枝豆、唐辛子
60. エゴマ油はシソ科の一年草エゴマの種子が原料。エゴマは青じそに似ているため「しそ油」などの別名もある
加熱調理するとα-リノレン酸が変質しオメガ3の効果が失われてしまう(写真:Hungry Works / PIXTA)
61. エゴマ油は、脂肪酸のうちα-リノレン酸が60%以上を占め、その含有量は植物油のなかでもトップクラス
62. アマニ油も、エゴマ油と並んでα-リノレン酸の含有量が多いオイル。どちらも独特の魚のような風味が特長
63. アマニ油は成熟した亜麻の種子を搾った油。フラックスシードオイルとも呼ばれる
64. アマニ油はリグナンというホルモンバランス調整、アンチエイジング効果も期待できるポリフェノールを含む
65. エゴマ油、アマニ油ともに加熱調理するとα-リノレン酸が変質しオメガ3の効果が失われる
66. エゴマ油やアマニ油はドレッシングや野菜ジュース、味噌汁などにひとさじ加えて摂取すると効果的とされる
67. アマニ油はとくに酸化に弱いため開封後は冷蔵庫または冷凍庫で保存し、早めに使い切ること
68. インカインチオイルは、南米アマゾンの熱帯雨林原産の星の形をした木の実インカグリーンナッツ(サチャインチ)から作られる希少なオイル。α-リノレン酸の含有率は約50%
69. インカインチオイルはオメガ3系のなかでもビタミンEを豊富に含み抗酸化力が高く、加熱調理に使える
70. インカインチオイルに含まれる各種アミノ酸はWHO世界保健機構が推奨する摂取バランスとほぼ一致している
1リットル抽出するのに必要な木の実は…
71. アルガンオイルは1リットル抽出するのに約100㎏の木の実を必要とする
72. アルガンツリーは、地球上で唯一モロッコ南西部(サハラ砂漠)にのみ生育する低木で、その地は世界遺産「生物圏保護区」に指定されている
73. アルガンオイルはクレオパトラも生薬として食していたと伝えられる
74. エキストラバージンオイルとは、オリーブの実を搾ったバージンオイル(一番搾り)のうち酸度0.8%以下のもの
75. ピュアオリーブオイルは、精製したオリーブオイルとエキストラバージンオリーブオイルをブレンドしたもの
76. 収穫初期に早摘みされた果実を搾り、上澄みだけを瓶詰した「オリーブオイルヌーボー」も季節限定で登場する
77. コメ油は米ぬかに含まれる油分を抽出、精製したもの
78. コメ油に含まれる米特有の成分γ-オリザノールは、成長の促進や更年期にともなう不調を改善する効果についての研究が進められている
79. ごまリグナンはごま特有の微量成分で「セサミン」「セサモリン」などがあり、ごま油には0.5~1%程含まれる
80. 紅花油はかつてリノール酸を多く含むオメガ6系だったが、現在はオレイン酸が多くなるように品種改良された「ハイオレイックタイプ」の紅花油が多く生産されている
81. 2014年には、ミランダ・カーなどセレブたちが火付け役となってココナッツオイルブームが起こる
82. ココナッツオイルはココヤシの実から採れるオイルで飽和脂肪酸のひとつ。約60%の中鎖脂肪酸を含有する
83. 中鎖脂肪酸はヤシ科植物や母乳に含まれる天然成分。摂取後直接肝臓に運ばれ、一般的な油に含まれる長鎖脂肪酸に比べ4~5倍速く分解され短時間でエネルギーになる
84. MCTオイルは100%中鎖脂肪酸でできているオイル。MCTはMedium Chain Triglyceride(=中鎖脂肪酸)の略
85. ココナッツオイルの主成分「ラウリル酸」には抗菌作用、抗酸化作用があるといわれている
86. 新たに注目されているオメガ7のパルミトレイン酸は皮膚などの細胞再生を促す脂肪酸
87. オメガ7系のオイルとして、マカダミアナッツオイル、シーバックソーンオイルなど
88. シーバックソーンオイルはモンゴルなどで採れるスーパーフルーツのオイル。パルミトレイン酸含有率約35%
89. 中国では山茶の実から作られる茶油(ティーオイル)が不老長寿の油として親しまれてきた
90. 不飽和脂肪酸は酸化しやすいため注意が必要
酸化した油脂を摂取すると…
米国では2018年より食品添加が全面禁止となるトランス脂肪酸(撮影:吉野純治)
91. 酸化した油脂には過酸化脂質という有害物質が生じる。過酸化脂質は体内に入ると活性酸素となり、細胞の老化を早め、さまざまな病気の原因になるともいわれる
92. 油脂はできるだけ新しいものを買い求め、開封後は早めに使い切ることが勧められる
93. 油は光や熱により酸化しやすいため日光や蛍光灯などの光を避け、暗くて涼しい場所に保管する
94. 油を流しや下水道に捨てるのは禁物
95. 一部の自治体では使用済オイルを回収し、バイオディーゼル燃料へのリサイクル活動を行っている団体も
96. 揚げ物調理中、油の匂いで気分が悪くなる「油酔い」の現象が生じることがある。これは加熱により「アクロレイン」という物質が発生しているため
97. トランス脂肪酸はマーガリン、ショートニングなどの加工油脂、200℃以上の高温で処理した食用植物油などに含まれる
98. マーガリンは、19世紀後半のフランスでバター不足を補う代用品をナポレオン3世が募集したことで誕生した
99. トランス脂肪酸を摂取し続けると体内で活性酸素が大量に発生し、心筋梗塞などの冠動脈性心疾患の可能も高まる
100. 米国では2018年よりトランス脂肪酸の食品添加が全面禁止となる
(文:森谷美香/モノ・マガジン2017年7月16日号より転載)
参考文献・HP/『知識ゼロからの健康オイル』(幻冬舎)、『あなたを生かす油ダメにする油』(KADOKAWA)、『なぜ「油」をかえると、長生きできるのか』(三笠書房)、ホームページ〈日清オイリオ〉、〈日本植物油協会〉 ほか関連サイト
モノ・マガジン編集部
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提供元:「食べる油」の真実をどれだけ知っていますか|この蘊蓄100章は思わず人に話したくなる|東洋経済オンライン