2017.06.29
「デスクでお昼を食べる人」の仕事が遅いワケ|昼休みの使い方が集中力を左右する
時間がもったいないからといって、デスクでお昼を済ませてしまうと…(写真:Mills / PIXTA)
12時のお昼休み。オフィスではぞろぞろと財布を片手に食事に向かう時間です。「おなかが空いてきた。けれど、まだ仕事が残っている……」。そんなとき、あなたはつい、コンビニに走り、デスクでおにぎりなど食べながら仕事をやり続けたりしていませんか。
お昼も過ぎた午後3時ごろ、「ああ、眠いし気が散ってきたなぁ。この仕事は残業して片付けよう……」と、面倒な仕事をつい後回しにしている人がいる一方、朝と変わらず猛然と仕事を続けて定時に切り上げる人もいます。
どうしてそんな差が生まれるのでしょうか。実は、そのターニングポイントが、まさに「昼休み」なのです。「効率がいい」と思っている、デスクでの「食べながら仕事」は、実は脳科学的には非効率を招くNG行動なのです。
精神科医なのにストレスで病気に
申し遅れました。私、精神科医の樺沢紫苑と申します。今は作家業を中心に月6回の病院診療などもこなし、割と自由な生活を手に入れましたが、昔は勤務医として病院に勤めていました。勤務医時代は毎日が非常に忙しく、ある日、私は耳鳴りがやまなくなってしまいました。なんと、精神科医がストレスによって病気になってしまったのです。
私は一念発起して、仕事中心の生き方をあらためました。「時間の使い方」を見直したのです。勤務医でありながら工夫を重ねて時間を生み出し、自分の論文を書いたり、他の人が書いた論文や書籍を読んだりして「自分の勉強」をこなしました。そうして磨いた私の時間術を、最新の脳科学・心理学研究を取り入れて『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』という本で体系化させました。
一般的に、時間というのは、「線」のように、一直線に流れていると思いがちです。この線のようにながれる時間の中で、「無駄な時間」を減らして「有意義な時間」に転化するというのが、今までの時間術で語られてきたことです。たとえば、時短に励んで30分節約して、その30分を別のことをする時間に「置き換える」。この方法を私は、一次元時間術と呼んでいます。
けれど、1日は平等に24時間しかありません。一次元時間術では、限界があります。発想を変えなくては、時間を「増やす」ことはできません。そこで、私は「時間術」は、「時間×集中力」で考える時間術を勧めています。つまり、時間の進行を、「線」ではなく「面」にするわけです。ですから、二次元時間術と呼ぶことができます。
皆さんも経験があると思いますが、集中力が高いときは、集中力が低いときの2~4倍の仕事をこなすことができます。つまり、集中力の高い時間をうまく使いこなすことで、通常より多くの仕事をこなすことができ、時間的な余裕が生まれるというわけです。
1つの作業にどれだけ没頭できるかは、「クレペリン検査」という1ケタの足し算を計測した研究が有名です。それによると、人間はつねに一定の作業量を続けるわけではなく、「疲れ」や「飽き」などによって作業効率は上がったり下がったりすることが明らかになっています。さらに、作業をはじめた「最初」と終了間際の「終わり」に、作業効率がグッと上がることがわかっています。
「最初」と「終わり」をたくさんつくる
ですから、むやみに仕事の「時間」を増やすのではなく、休憩や締め切りを設定することで仕事の「最初」と「終わり」をたくさんつくるようにするのです。それにより、集中力が高まる時間だけを増やすことができるというわけです。
日本人は、頑張るのは得意なのですが、自主的に「休む」ことは苦手です。「1日中、机に向かって、バリバリ仕事をするぞ!」という人も多いでしょうが、結局、頑張れば頑張るほど、集中力は低下し、疲労も蓄積し、結果として仕事全体の効率は劇的に下がってしまうのです。
ここで、最初の話に戻ります。
朝から集中して仕事をしている人が、午後も効率的に仕事をこなせるかどうかは、いかにこの間に集中力をリセットできるか=休みをとれるか、にかかっています。それが、「午後をダラダラ過ごして残業してしまう人」と、「定時までに仕事を切り上げられる人」かの分かれ道となります。
そのターニングポイントこそが、「昼休み」なのです。
さて、改めて聞きますが、あなたはランチをどこで食べていますか? 忙しいときはついつい、早く帰りたいときはついつい、デスクでサンドイッチやおにぎりを食べながら仕事をするという人も少なくないでしょう。
しかし、これは効率的なようにみえて、脳科学的には逆効果なのです。なぜかというと、ビジネスパーソンにとっては、外食ランチこそが最強の「集中力リセット術」だと言えるからです。ここで集中力をしっかりと回復することによって、午後、集中力が途切れ途切れになったり、ネットサーフィンやSNSのチェックに時間を費やすということが減るのです。
ではここで、外食ランチが、なぜ最強の集中力回復術なのか、3つの理由を説明しましょう。
外に出ることに意味がある
その1 平常心に戻る「セロトニン効果」
セロトニンという脳内物質をご存じでしょうか。これは、「癒やし」「リラックス」「平常心」などに関する脳内物質です。セロトニンが低下してくると、イライラしたり、怒りっぽくなったりします。意欲も低下します。
朝から昼まで仕事をしていると、セロトニンの活性は低下してきます。これを再活性させるには、「日光を浴びる」「リズム運動」「咀嚼(そしゃく)」という3つの方法があります。これは、すべて昼休みに満たすことができます。
会社から外に出て(日光を浴びる)、歩いてお店まで行き(リズム運動)、そこでご飯を食べる(咀嚼)ことで、セロトニンが活性化されるのです。ただ単にデスクの上で咀嚼するだけではなく、「外に出て歩く」というのがポイントです。もし、お弁当を作っているという人でも、重要なのは「日光」「運動」「咀嚼」なので、会社を出て近くの公園まで行って、そこで食べればよいのです。
お昼に食べるものは、「歯ごたえのあるもの」をよくかんで食べることが重要です。なので、立ち食いそばなどで急いで食べたり、コンビニの柔らかいパンや栄養ゼリーでお腹を満たしても、セロトニン回復の効果は大きく得られません。きちんと10分以上はかむようにしましょう。
その2 記憶力アップの「場所ニューロン効果」
外に出る効果は、セロトニンの活性化だけにとどまりません。「場所ニューロン」という、海馬にある「場所を司る細胞」で、自分が今どこにいるのかを忘れないように記憶するための細胞の活性化を期待することができます。
海馬というのは記憶の一時保管庫で、脳に入れられたすべての情報は海馬に一時保存されます。つまり、海馬の活性化は記憶力向上に直結するわけです。記憶力が必要かどうかは仕事の種類にもよると思いますが、ケアレスミスをなくしたり、仕事を進めるうえで段取りを忘れないようにしたりするのに、海馬の活性化は役に立ちます。
「行ったことがない場所」がポイント
また、場所ニューロンは、行ったことのない場所に行くほど、より活性化することがわかっていて、米国企業には、この考えを取り入れているところがあります。私は以前に、米格安航空会社(LCC)のサウスウエスト航空の本社を視察したことがありますが、同社に何十室もある会議室はなんとすべての内装や装飾が違っていたのです。これは見栄えがよくなるというデザイン面だけでなく、場所ニューロンの活性化を考えてのことです。従業員が、内装が違う部屋にいくごとに「いつもと違う場所に来た」と感じるわけです。
外でランチをする人の中には、いつも同じ店を選ぶ「常連派」と、「食べ歩き派」がいると思います。ここまでの説明を読めば、「食べ歩き派」のほうが脳科学的には正解だということがわかりますね。「新しい店ができたから、早速行ってみよう」というフットワークの軽さが、「場所ニューロン効果」を高めるのです。
その3 ひらめき力がアップする「アセチルコリン効果」
先ほどの場所ニューロンの話でも説明しましたが、つねに新しい場所を訪れることは脳の活性化に役立ちます。
これにはもう1つ、「アセチルコリン」の活性化を促すという理由があります。アセチルコリンとは、「創造性」や「ひらめき」に効果がある脳内物質です。アイデア出しや企画を考えるという仕事に深くかかわってくる脳内物質です。
いつもとは異なる刺激を受けるとき、脳内ではアセチルコリンが活性化します。つまり、外食の時に同じところにばかり行く人が同じ刺激を得ているのに対して、食べ歩き派はつねにチャレンジをすることで違う刺激を得ているわけですから、後者のほうが、アセチルコリンが活性化しやすいわけです。
たとえ常連派であっても、「新メニューができているから、食べてみよう」というチャレンジによって、アセチルコリンが活性化します。それによって、企画を考えるといったクリエーティブな仕事がはかどるようになります。なので、昼休みには「いつもの」に逃げることなく、新たなチャレンジを意識し、脳をイキイキとした状態に切り替えましょう。
最後に、昼休みに「最もやってはいけないこと」を紹介したいと思います。
スマホ操作は脳を疲れさせる
『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』(クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)
あなたはお昼の休憩時間に主に何をしているでしょうか。少し思い出してください。ほとんどの人は、スマートフォンを操作しているのではないでしょうか。ランチ時間にお店を見回してみると、SNSをチェックしたり、アプリのゲームをしながら食べている人をよく見かけます。
脳科学的に、「スマホしながら食事」というのは、最もよくない休憩の仕方です。なぜなら、休憩時間に脳を休めているのではなく、むしろ脳を疲れさせているからです。
人間の脳は、視覚情報の処理に脳の90%の容量を使っているといわれています。パソコンに向かって仕事をするデスクワークの人は、仕事による視覚情報の処理で脳が疲れている状態です。そんな状態なので、休憩時間くらいは「見る」「読む」ことから脳を解放すべきです。また、脳は、光るものを見ると興奮する特性を持っています。スマホゲームなどの刺激で、脳は興奮するので、脳を休めるどころか疲れさせてしまうわけです。
それでは、どのような休憩が、脳を休めるのでしょうか。自分が「癒やされるな」と思う瞬間を思い出してほしいのですが、入浴や音楽鑑賞、マッサージ、食事などが挙げられるのではないでしょうか。
これらは、五感の中で「視覚」以外を活性化しているという共通点があります。つまり、脳を休めるには、「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」などを刺激すればよいのです。移動中にイヤフォンで音楽を聴いたり、食後に香りのいいハーブティーを飲んだりするなど、視覚以外を刺激する習慣を意識して取り入れてみてください。
ノー残業デーやプレミアムフライデーなどを取り入れる企業が増えていますが、かといって仕事量が減るわけではないと思います。効率性を求める社会に最適化するためにも、昼休みの使い方を見直してみてはいかがでしょうか。
樺沢 紫苑 :精神科医・作家
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提供元:「デスクでお昼を食べる人」の仕事が遅いワケ|昼休みの使い方が集中力を左右する|東洋経済オンライン