2025.04.08
代謝が落ちる50歳を過ぎても「太らない人」になるための守るべき基本ルール
50代以降のダイエットで注意すべきこととは(写真:masamasa2/PIXTA)
厚生労働省の令和5(2023)年「国民健康・栄養調査」によると、50代肥満者の割合は男性が34.8%、女性が24.3%に上ります。今回は「50代からのダイエット」をテーマに、注意点や具体的な進め方などについて、管理栄養士・料理研究家の麻生れいみ氏に聞きました。
基礎代謝の低下、ホルモンバランスの低下…
50代になると肥満になりやすい理由は、大きく3つ挙げられます。
1つ目は加齢により筋肉量が減少し、基礎代謝が低下するから。筋肉量は40代以降で1年に1%減るといわれますが同じ食習慣を続けた結果、50代に入り筋肉の減少とともに脂肪がついたと気づく人が多いのです。
2つ目はホルモンバランスの変化です。特に女性は更年期を迎えると、エストロゲンの分泌が減少し、脂肪がつきやすくなります。
3つ目は生活習慣の影響です。50代はまだ働き盛りですから、どうしても仕事や家庭の影響で食事のバランスが崩れ、肥満を招いてしまいます。最後は運動不足で、若いころに比べて活動量が減るころでエネルギー消費も減少します。
次の図はエネルギー収支バランスを示した図で、体重とエネルギー収支の関係は、水槽に水がたまったモデルで理解することができます。
出所:厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2020年版)』
エネルギー摂取量と消費量が等しいと体重に変化はなく、BMIも一定に保たれます。一方、摂取量が消費量を上回ると体重は増えて肥満に、その反対だとやせにつながります。
50代で肥満が多いのは、エネルギー消費量が落ちているにもかかわらず、過剰に摂取しているからです。社会活動や体力の低下、病気などによってもエネルギー消費は減ります。
加齢による糖代謝の変化もあります。年齢を重ねると筋肉量が減って脂肪が増えるため、インスリン抵抗性が上昇して血糖値の調整が難しくなり、急激に上昇すると身体に脂肪をためやすくなります。
白米ではなく玄米、野菜から食べるのがよいとされるのは血糖値の乱高下を抑えるからです。加えてインスリンの分泌量も減るので、特に食後の血糖値を下げる働きが低下し、脂肪がつきやすくなります。
極端な食事制限は無理がある
肥満を防ぐにはライフステージに合わせて考えや食生活を変えないといけません。50代からダイエットを始める場合、若いころとは違うので極端な食事制限は無理があります。
基本は「代謝を維持しながら減量する」ことが基本です。その際に意識するのは、栄養素の働きから3つのグループに分けた「三食食品群」をバランスよく摂ることといえます。
・赤(身体をつくるもとになる):肉、魚、卵、牛乳、乳製品、豆など
・黄(エネルギーのもとになる):パン、めん類、いも類、油、砂糖など
・緑(身体の調子を整えるもとになる):野菜、果物、きのこ類など
加えて、「たんぱく質」「食物繊維」「良質な脂質」の偏りもなくすことです。
たんぱく質(筋肉維持に必須):肉、魚、卵、大豆製品など
食物繊維(腸内環境を整え、脂肪の吸収を抑える):野菜、海藻、きのこなど
良質な脂質(適量の脂質は代謝に必要):オリーブオイル、ナッツ、青魚など
たんぱく質は筋肉の維持に欠かせず、しっかり摂らないと筋肉が減り、基礎代謝も落ちてしまいます。脂質はダイエットの大敵と思われがちですが、代謝に必要なものです。
とりわけ、身体のエネルギー源となり、身体の組織を正常に機能させる役割を持つ「オメガ3脂肪酸」は体内で作ることができず、青魚やえごま油などから摂取しないといけません。
これらを踏まえたうえでの食材選びや食べ方のポイントをまとめると、次のようになります。
・低GI食品を選ぶ(血糖値の急上昇を防ぐ):玄米、オートミール、全粒粉パンなど
・発酵食品を取り入れる(腸内環境を改善):納豆、ヨーグルト、キムチなど
・たんぱく質をしっかり摂取(筋肉を減らさない):鶏むね肉、魚、卵、大豆製品など
・汁物を活用(満腹感を得られる):具だくさんの味噌汁やスープなど
・よくかんで食べる(満腹中枢を刺激して食べ過ぎを防止)
なかでも強く意識したいのは、たんぱく質の摂取です。筋肉は財産であり、将来寝たきりにならないためにも必須の栄養素です。ダイエット中は野菜から先に食べる人がいますが、それで満腹になってはいけません。先にたんぱく質を摂る「たんぱく質ファースト」を心がけましょう。50代になると食が細くなるので、ことさら意識してほしい点です。
食事量が多くなりがちなら、たんぱく質や野菜をふんだんに使った汁物を食べると満腹感が得られます。よくかんで食べるのは満腹中枢の刺激に加え、血糖値の上昇を抑制する効果も期待することができます。
大事なのは糖質の摂取を抑えること
ミドル世代の人は摂取カロリーを抑える食事制限が正しいダイエットと刷り込まれていますが、間違いです。
むしろ大事なのは糖質の摂取を抑えること。糖質を多く摂ると血糖値が上昇し、インスリンが分泌され血糖値を下げますが、このときインスリンは余った糖を中性脂肪に換えるので、なるべく控える。かつ、たんぱく質、ビタミン・ミネラル・食物繊維は、しっかり食べて運動などでカロリーを燃やすことが、肥満を防ぐ手立てとなります。
ダイエットに向かないのは、かぼちゃやとうもろこし、れんこんといった糖質の高い野菜です。春雨はダイエット食として知られていますが、でんぷんの塊なので避けるべき。ドライフルーツは栄養価が高い一方で糖質が多いので、食べ過ぎは禁物です。
ノンオイルドレッシングは油の代わりに甘味料を使っているので意外と糖質が高く、それならばアマニオイルを使ったドレッシングのほうがダイエットに向いています。カロリーゼロ飲料は人口甘味料が代謝を乱す可能性があり、あまりおすすめできません。
食習慣としては、夜遅い食事は消化が遅くなり、脂肪として蓄積しやすくなります。早食いも血糖値の急上昇を招き、脂肪が蓄積されやすい食べ方です。食べ過ぎの原因になる、ながら食べもよくありません。
1食の目安ですが、グラム数だとわかりづらく、量るのも面倒です。
私がおすすめするのは「手ばかり」で、肉や魚なら手のひら1杯分、生野菜は両手1杯分、蒸し・炒め野菜は片手1杯分以上が目安。ご飯の目安は表面積で1食につき、握りこぶし1個分です。
間違えてほしくないのは、食材の量=栄養素の量ではないということ。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、日本人が1日に摂取すべきたんぱく質の推奨量は、男性18〜64歳で65g、女性が同50gです。ただし、肉や魚で100g中に含まれるたんぱく質は約20%なので、推奨量を満たすには約300gを目安にしないといけません。
また消化吸収率の面では1食につき20〜25gを摂るのがよく、一度にまとめて食べると非効率です。朝から肉や魚をそれだけ食べるのが大変なら、卵料理にする、たんぱく質を多く含むヨーグルトで代用しましょう。
冷蔵庫やパントリーの中を見直す
肥満を防ぎたい、ダイエットを始めるなら、まずは冷蔵庫やパントリーの中を見直すこと。先に挙げた食品や調味料に加えインスタント食品や加工食品を減らし、リアルフードを増やす。乾物や缶詰を常備しておくと、災害時にも役に立ちます。
長期保存が利く高野豆腐はたんぱく質が豊富で、ほうれん草のお浸しに削り節をかけるだけでもよいでしょう。調味料もオリーブオイルやコショウなどシンプルなものにし、糖質を多く含むものはあまり置かないこと。汁物はだしを使うことで塩分や糖分を減らすことができます。
外食・コンビニエンスストアでもたんぱく質を意識し、揚げ物や丼ものは焼き魚+小鉢といった定食スタイルを選ぶことです。調理が面倒なら包丁ではなく簡単に食材がカットできる調理はさみを使う、電子レンジを多用してもよいでしょう。
ダイエットというと過度に頑張る人がいますが、リバウンドの原因になるので短期間でやせることを目標にしてはいけません。体重ではなく体脂肪率・筋肉量をチェックしながら進めることです。成功の秘訣は、筋肉を維持しながら脂肪を落とすよう心がけることです。
食事だけではなく運動も大切なので、ウォーキングやストレッチ、軽い筋肉トレーニングも生活に取り入れるとより効果的です。だからといってジムに通う必要はなく、階段を使う、こまめに家事をすることでもかまいません。睡眠不足は食欲増加につながるので、しっかり寝ることも大切です。無理のない習慣を作りながら、健康的なダイエットに取り組んでください。
(構成:大正谷成晴)
提供元:代謝が落ちる50歳過ぎても「太らない人」になる術|東洋経済オンライン