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2024.09.05

「もったいない」医療費をしぶった妻が知った真実|診察代や薬代を抑え、適切な治療を受けるコツ


夫の診療費を出し惜しんだ妻が知った意外な事実とは――(写真:Luce/PIXTA)

夫の診療費を出し惜しんだ妻が知った意外な事実とは――(写真:Luce/PIXTA)

お金を理由に、本来受けるべき医療を自己判断でセーブしてしまう――。今、困窮世帯のみならず、一般的な所得の世帯でも、こうした問題が生じている。
これまで1000人を超える患者を在宅で看取り、「最期は家で迎えたい」という患者の希望を在宅医として叶えてきた中村明澄医師(向日葵クリニック院長)の連載。
今回は、お金を理由に適切な医療を受けてこなかった難病患者や、「子どもにお金を残したい」という理由からがん治療を制限する母親のケースを基に、適切な医療につながるためのポイントや考え方を解説する。

パーキンソン病の疑いで、体を思うように動かせなくなっていたAさん(男性、70代)。同居する妻がAさんの介護をしています。筆者の夫婦との出会いは、Aさんのケアマネジャーから筆者に「診てもらいたい患者さんがいる」と、連絡が入ったことがきっかけでした。

国の「指定難病」になっている病

パーキンソン病とは、脳の異常から動作が遅くなる、手足が震える、バランスが取れなくなるといった、主に体の動きに関わる症状などが表れる病気で、国の「指定難病」にもなっています。

医師から指定難病と診断され、かつ重症度分類に照らして病状の程度が一定以上である場合などでは、難病法によって医療費の助成を受けることができます。

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しかし、Aさんはパーキンソン病の疑いで、医師から確定診断のための検査など勧められていたにもかかわらず、確定診断は受けないままに過ごしていました。

妻が確定診断を受けるために必要な検査代を渋っていたのに加え、難病の医療費助成などについての知識があまりなく、「診断を受けても意味がない」と思い込んでいたのが最大の理由だったようです。

聞けば、Aさんの通院が難しくなってからは、妻がAさんの代理で受診し、本人の通院時と同じ薬を継続して処方してもらっていたといいます。

言わずもがな、患者さん本人でなければ薬を処方してもらうことはできません。本人の症状を直接診ないことには、医師も適切な薬の処方ができないはずです。

お金を使うのはもったいない

実際、筆者がAさんと初めて会ったときは、Aさんの状態が通院時とは変わってきており、以前の薬では合わなくなっていました。その結果、血圧が下がり過ぎているなどの問題が表れ、トイレで失神してしまうなどのトラブルも続いていたようです。

正直、本人の診察なしに薬の処方を続けていた外来の医師にも大きな問題があります。それも含め、こうした状況を見かねたケアマネジャーが、筆者に訪問診療を依頼してきたという流れだったのです。

妻は最初、「訪問診療は費用が高いから、入れなくていい」の一点張りでした。動けないAさんが適切な医療を受けるためには、医師が自宅を訪問する訪問診療が必要ですが、ここでも「お金を使うのはもったいない」と考えていたようです。

ご夫婦はお金に困っていたわけでも、生活が困窮していたわけでもありません。ですが、お金に対する価値観はさまざま。本来なら訪問診療に加えて訪問看護も入れて、Aさんのケアやサポートをする必要がありましたが、それも妻は同様の理由で「いらない」と突っぱねようとします。

そこで、筆者が「指定難病と診断されると、医療費の助成が受けられる」と説明すると、妻の目がキラッと光りました。

「なら、検査して診断してもらおうかしら」

そう、考えがガラッと変わったのです。

Aさんは75歳以上で一般的な所得者だったので、通常でも1割の自己負担で医療を受けられますが、指定難病と診断されると、それ以上に自己負担の上限額が下がります。

その後、Aさんは必要な検査を受け、パーキンソン病と確定診断を受けると、医療費の自己負担額がぐっと減りました。妻も渋ることなく訪問診療や訪問看護を入れられるようになりました。

難病と確定診断されるまでの医療費の自己負担は、訪問診療の費用と薬代で月1万4000円前後。それ以外にも訪問リハビリの費用が介護保険で発生していました。

しかし確定診断後は、訪問リハビリの費用も公的な医療保険の対象となり、トータルでひと月5000円以内に収まるようになったのです。

加えて、それまで失神して転んでしまうことが多かったAさんでしたが、薬を調整したことで、失神はほとんどなくなり、随分と生活に落ち着きを取り戻したようでした。

必要な医療につながらない問題も

Aさんの妻のように、医療費を理由に本来受けるべき医療をセーブして(させて)しまう人がいます。このケースは医療費の制度についてよく知らなかったこともあり、「お金がかかることはなるべく避けたい」との思い込みが優先し、必要な治療につながっていませんでした。

もしあのまま、本人が診察を受けずに薬をもらい続けていたら、転倒による骨折などで、早期に寝たきりになっていた可能性も十分にあります。

今回は、ケアマネジャーが機転を利かせて動いてくれたことで事態を把握できたわけですが、何とかまだ間に合うタイミングで適切な医療につなげることができてよかったと思います。

なお、診断や治療には、基本的にガイドラインに沿った標準的な医療が行われていますが、医師の経験や考え方によって、見解が異なったり、診断を確定するのに時間がかかったりする場合もあります。

主治医の意見に不安や疑問を感じたら、セカンドオピニオンで別の医師の意見を聞くのもいいでしょう。

セカンドオピニオンを求めるのは、特にがんや進行性の難病など、治療が高度で、長期化する病気ではよく見られることです。患者さんが適切な医療を受けられるように認められている権利ですので、うまく活用してほしいと思います。

お金を理由に医療をセーブする動きは、実は若い人にも見られます。夫と幼い子どもと3人暮らしで、末期の乳がんを患っていたBさん(42)もその1人でした。

がんが進行し、自宅で過ごすには、容体の急変に備えて訪問診療が必要な状況だったのですが、医療費を理由にしばらく渋っていました。

Bさん一家は一般的な所得がある家庭でしたが、Bさんは自分が亡くなったあと、幼い子どもに少しでもお金を残してあげたいとの思いから、抗がん剤治療を継続するかどうかも迷っていました。

お金を理由に、本来、服用しなければならない薬を自己判断で休むことも続いており、彼女を担当していた病院の主治医もお困りのようでした。

子どもにお金を残したいから

若いがん患者さんで、特にお子さんがいる場合に見られるのが、Bさんのように「子どもにお金を残したい」という理由から、医療費をセーブしようとする動きです。

入院すると保険金が下りる民間の医療保険などに加入している場合、本当は家で子どもと一緒に過ごしたいのに、「入院すると保険金が下りるから」という理由で、残された時間を病院で過ごそうとされる方もいます。

「子どものために」という親心を否定するわけではありませんが、治療によって良くなったり、残された時間を延ばすことができる可能性が少しでもあるなら、やはりそれは本末転倒だと筆者は考えています。

もちろん、治療による効果と副作用と照らし合わせて、治療をしないほうがいい時間を持つことができそうだと考える場合は、それでいいと思います。

しかし、治療費を節約して適切な医療を受けるのを諦めたり、本当は家族と過ごしたいのにお金のために入院したりといった行動は、優先順位を見失っていると言わざるを得ません。

70歳までの現役世代は、医療費の自己負担が3割と、高齢者に比べて高くなります。しかし、高額な医療費を支払ったときは、「高額療養費制度」で一定額を超えたぶんは払い戻されます。そのため、「思ったほどはかからなかった」という場合も多いのです。

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それでも経済的な理由から、医療費を支払うのが困難なケースもあります。そのときは「無料低額診療事業」という制度を利用すると、無料または低額な料金で、自治体によって指定されている医療機関の診療を受けることができます。

無料低額診療事業は経済的な理由で、医療を受ける機会を制限されることを防ぐ国の制度で、低所得者などが対象です。

思い込みや目先のお金にとらわないで

無料低額診療事業を行っている施設は、全国に約700カ所あります(2024年8月時点)。各自治体の実施施設は、各都道府県のホームページなどでご確認ください。

健康は、お金には代えられない大切なものです。思い込みや目先のお金にとらわれず、長い目で見て、本当に大切なものは何か、的確に判断してほしいと願います。

そして正しい情報を得たうえで、国や自治体の制度などをうまく活用してほしいと思います。

(構成:ライター・松岡かすみ)

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提供元:「もったいない」医療費をしぶった妻が知った真実|東洋経済オンライン

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