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2024.04.12

「地位も名誉も失っても」ギャンブル依存症の怖さ|「意志の問題」ではなく「病気」という認識を持つ


ギャンブル依存症であることを打ち明けた水原氏(写真:Javier Rojas/PI via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

ギャンブル依存症であることを打ち明けた水原氏(写真:Javier Rojas/PI via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

アメリカ大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳、水原一平氏が関与したとされる違法ギャンブル問題。

水原氏はチームのメンバーたちに「自分はギャンブル依存症」と打ち明け、謝罪したという。大切な仲間がいて、皆が一目置く地位で活躍し、安定した収入もある――。そんな人間でもかかってしまうギャンブル依存症の怖さについて、取材した。

「意志が弱い」が問題ではない

「ギャンブル依存症というと、意志が弱いとか、だらしがないとか、日々の生活に困っている人が“なけなしのお金でギャンブルをやっている”といったイメージはありませんか」

こう話すのは、自身もギャンブル依存症からの回復者であり、現在は依存症患者やその家族への支援を行っている公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会(以下、考える会)」の田中紀子代表だ。

「でも、ギャンブル依存症に本人の性格は関係ありません。これまでに自分も含めて多くのギャンブル依存症者を見てきましたが、公務員、医師、社長、真面目な人、不真面目な人……と、千差万別です。営業に行くふりをして、パチンコにはまっていたという銀行員の例もあります。このように、ギャンブル依存症は誰もがかかる可能性のある病気なのです」(田中さん)

そもそも依存症とは何か。

依存症の治療を行う「国立病院機構久里浜医療センター」(神奈川県横須賀市)のホームページには、ギャンブル依存症について「その人の人生に大きな損害が生じるにも関わらず、ギャンブルを続けたいという衝動が抑えられない病態」と記載されている。

世界保健機関(WHO)も、ギャンブル依存症(病的賭博)を「精神障害」と認定している。

ギャンブル依存症の5つの特徴

日本のギャンブルには、競馬や競輪、競艇、オートレースの公営ギャンブル、ロト、宝くじ、totoの公営くじ、パチンコやスロットの遊技などがある。株式取引やFX、外国為替証拠金取引も、歯止めがきかなくなり、金銭的な問題を抱えるようになれば、ギャンブル依存症と見なされる。

ギャンブル依存症の特徴は、

▽興奮を求めて掛け金が増えていく

▽やめようとしてもうまくいかない

▽ギャンブルをしないと落ち着かない

▽負けたお金をギャンブルで取り返そうとする

▽ギャンブルのことで嘘をついたり借金したりする

──など。

結果的に借金が膨らんで、窃盗や詐欺、横領行為に手を染めたり、自殺など深刻な事態に陥ったりすることもある。この「犯罪」と「自殺」こそがギャンブル依存症で一番気を付けなければならない部分になる。

「考える会」と国立精神・神経医療研究センターなどが開発した簡易スクリーニングテストでは、1年以内にギャンブルをした経験があり、次のような症状のうち該当するものが2つ以上あれば、ギャンブル依存症の可能性が高い、とされている。

(※外部配信先では表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

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厚生労働省研究班は2017年、日本でギャンブル依存症の疑いがある人は成人の3.6%(推計320万人)と発表した。海外と比べるとかなり高い数字だ。例えば、アメリカ・ルイジアナ州は1.58%(2002年)、フランスは1.24%(2008年)、韓国も0.8%(2006年)にすぎない(2014年の厚労省研究班調べによる)。

依存症は、医学的には脳の機能異常と考えられている。

私たちが通常感じる気持ちよさやワクワク感、多幸感は、脳内の「脳内報酬系」の回路が刺激されて、神経伝達物質「ドーパミン」が大量に分泌されて生まれるが、ギャンブル依存症になると機能異常が起き、この部位が鈍感になる。そこで、より強い刺激を求め、行動をコントロールできなくなってしまうのだ。

こうした脳の機能異常は、ギャンブルをやるほどリスクにはなるが、必ず起こるものではない。

甘いものを食べ続けて糖尿病になる人とならない人がいるように、ギャンブルに浸かっていても依存症になる人もいれば、ならない人もいる。ただ、その違いをわけるものが明らかになっていない今、やはりギャンブルをやり続けること自体、危ないのだ。

「なかでも、依存症はストレス解消と結びつきやすいと言われている。ギャンブルでストレスを解消している人は、特に気を付けたほうがいいと思います」(田中さん)

20代の男性の相談が増えた

「考える会」は2014年に発足し、当事者や家族から年間約1200件の相談を受け付けてきたが、最近の傾向は20代の男性の相談が増えたことだという。それまでは約2割だったが、この5年で4割を占めるようになった。

その背景には「スマートフォンの台頭や、コロナ禍で在宅時間が増え、ネットに触れる機会が多くなったこと、さらに、公営ギャンブルのオンライン化がある」と田中さんは話す。

営業時間が終われば閉まるパチンコ店や競馬場などと違い、オンラインギャンブルは24時間どこでも休みなく延々と賭け続けることができてしまうため、その分、依存症になるまでのスピードも速まっているという。

「学歴も職歴もまだない若いうちに発症すると、たとえ回復してもそこから社会スキルを身に付けることがより困難になる」と、田中さんは懸念している。

違法なオンラインカジノ(オンカジ)も広がっている。

オンカジは海外のカジノが運営している仮想空間カジノをインターネット上で行うものだ。短時間に何度も繰り返せるため、賭ける額が大きくなり、多額の借金をしてしまいがちという特徴がある。

日本では公営ギャンブル以外の賭博は法律で禁止されているが、オンカジの多くは海外で運営されているため、警察は十分に実態を把握できていないのが現状だ。

自分や家族がギャンブル依存症かもしれないと思ったら、地域の精神保健福祉センター、当事者や家族に対する民間団体や自助グループ、依存症治療の外来を持つ精神科病院とつながることを田中さんは勧める。

ただ、「当事者本人が自ら専門家に相談に行くことはほとんどない」ため、家族だけでも早めに相談することが大切だ。

家族が「絶対」やってはいけないこと

対策として絶対やってはいけないのは、家族や周りの者が借金の肩代わりや尻ぬぐいをすること。これを“イネーブラー”といい、お金を渡し続けた結果、依存症がより深刻化してしまう危険性が高い。

「闇金融の取り立てを恐れる家族が多いですが、借金清算の方法はたくさんあるので、相談してくれれば自助グループや家族会が具体的にアドバイスをすることができます。当事者は落ちるところまで落ちないと、『回復したい、治療を受けたい』と思うようにはなりません」(田中さん)

できるだけ早く本人に「底つき体験」をさせることが、真の手助けとなるという。

本人が精神的に追い詰められているような場合は医療機関を受診し、うつ病などほかの病気が併存していないかを調べることも必要だ。

ほかの病気がない場合は、「当事者同士のピアサポートが何といっても有効だと思います」(田中さん)。そのほか、カウンセリングや認知行動療法などによって回復を図っていく。

ギャンブル依存症者の数が多いにもかかわらず、日本では「本人の意志の問題」と片づけられ、病気だという認識がなかなか広がらないのはなぜか。その主な理由は、「国による啓発や予防教育が足りないから」と田中さんは指摘する。

オンカジの場合、アフィリエイト広告や著名ユーチューバーの動画、タレントを起用したCMなどが氾濫し、若者がギャンブルに手を染める入り口となっていることから、そうした広告を取り締まる法整備も必要だという。

2030年に大阪でカジノを含む統合型リゾート(IR)が開業すると、ギャンブル依存になる可能性も増えるため、「考える会」はギャンブル場の運営側に依存症対策を担うことも求めている。

「日本と海外の最も大きな違いは、ギャンブル場運営側が依存症対策をほとんど負担していないことです。依存症者が犯罪に走れば受刑者の収容費用が発生し、犯罪まで及ばなくても、社会復帰ができなければ日本社会の損失になります」と田中さん。

それなのに、国民だけがその負担を担うのはおかしな話だという。ギャンブルをしない人たちも、この問題に関心を持つべきではないだろうか。

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提供元:「地位も名誉も失っても」ギャンブル依存症の怖さ|東洋経済オンライン

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