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2024.03.21

がん患者になった医師が教える「余命宣告」の意味|体力が低下しつつ、がんが進行したらどうなるのか


がん患者は体力変化とどう向き合えばいいのでしょうか(写真:buritora/PIXTA)

がん患者は体力変化とどう向き合えばいいのでしょうか(写真:buritora/PIXTA)

2023年5月に甲状腺がんと診断され、現在は経過観察となった緩和ケア医師の廣橋猛氏。これまで医師として患者に正面から向き合ってきましたが、自身ががん患者になってわかったことも少なくなかったといいます。例えば、がん患者にとって大きな問題となる体力の低下。廣橋医師は手術前後で変化した体力に戸惑いながらどのように対処したのか。

著書『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』より、がん患者に知っておいてもらいたい知識をご紹介します。

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手術後や治療などで体力は劇的に低下する

私が甲状腺がんの手術で1週間近く入院することになったとき、仕事への影響はできるだけ最小限にしたいと考えていました。

それには、退院後すぐに仕事へ復帰する必要がありました。外来診察などは座ってできる仕事なので、なんとかなるのではないかと楽観的に考えていたのです。

ただ、いざ復帰してみると、以前の自分とは大違い。長く話しているだけで疲れてきて、歩いての通勤すらつらく感じてしまい、夜はただひたすら寝て過ごすことになりました。明らかに治療を通じて、体力が低下してしまっていたのです。最終的には身体が持たず、お休みをいただく羽目になり、かえって同僚たちに迷惑をかけてしまいました。

がん治療、そしてがんの進行は、身体から体力を奪います。がん治療は正常な細胞にも影響を及ぼしますし、進行してくるとがん細胞が身体のエネルギーを浪費するのです。

どうしても、以前の元気だった自分と比べると、体力が低下することは避けられません。この体力低下について、患者さんたちには常に話していたにもかかわらず、自分のこととなると過信してしまいました。

がん患者の身体には「体力温存療法」が有効

手術後に限らず、がん治療を進めていくなかで体力が低下してしまう人は少なくありません。ですから、私たちは体力低下を見越して、いろいろとゆとりをもって考えておく必要があります。

ここで私が紹介したいのは、体力を温存、配分する「体力温存療法」という考え方です。 赤ちゃんを思い浮かべてみてください。赤ちゃんは昼寝をいっぱいします。

なぜかというと、赤ちゃんは体力がないので、昼寝をしなければ活動していけないからです。

でも、起きているときはすごく元気ですよね。実は、がん患者さんもこの方法を真似すると1日を快適に過ごせるようになります。

1日中フルで元気に活動する体力がないのなら、赤ちゃんの昼寝と同じように意識して休む時間をとるのです。

体力温存療法は次の通り、簡単です。まず時計を見ます。そして、1日のなかでも、午前中は元気に過ごせているなら、午後に少し休む時間をとるようにします。もちろんその逆で午前少し休んで、午後に動く時間をとるという方法もよいでしょう。

次にカレンダーを見ます。1週間のうち、例えば週末にお出かけをする人の場合は、平日は追加の予定を入れずに無理なく過ごします。このようにがんばる時間帯と、無理しないで過ごす時間帯を意識して日々を過ごす。1日中がんばろうとすると、体力が持たず、結果的に本来やりたいこともできず中途半端になってしまいます。

体力温存療法を実践することでゆとりを持って過ごせるようになるはずです。「何事も戦略的に、体力は計画的に」なのです。

がん患者が辿る体力低下の軌跡

さて、進行がんの患者さんが先の過ごし方を考えるときに、どうしても知っておいてほしいことがあります。それは、身体機能の軌跡についてです。
よく、患者さんはこれからどうなっていくのかわからないと心配されます。誰だって初めてのことですから、その不安は当然なことです。この先どうなっていくかという質問をされたとき、私は次のように答えています。

闘病で困ることのポイントは大きく2つです。1つ目は痛みなど病気の部位による身体のつらさです。これは痛み止めなどの治療でしっかり和らげることができるでしょう。

問題は2つ目です。がんは体力が弱っていく病気なので、どこかで歩くのが大変になり、食事を多く摂れなくなってくることがあります。これを回復させる方法はないので、介護など自宅でどう過ごすかという問題が生じます。

2つ目の問題、すなわち体力の落ち方には、がん患者さんならではの特徴があります。

(画像:『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』より)

(画像:『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』より)

図が示すように、がん患者さんはギリギリまで元気に、身の回りのことも自分でできて過ごせることがほとんどです。ただし、最期の1〜2カ月になると、急激に弱ってくるのです。

これはがん患者さん特有の体力の落ち方です。他の病気、例えば心臓肺疾患末期では急性憎悪を繰り返しながら、徐々に身体機能が低下していきますし、認知症の末期や老衰では身体機能低下の状態が長く続き、さらに最期の期間でゆっくりと経過していくという流れがあります。

ギリギリまで自分のやりたいことができる

他の病気と比較しつつ、がん患者さんの体力の落ち方の特徴を踏まえたときに2つの見方ができるでしょう。

1つ目は、がん患者さんはギリギリまで自分のやりたいことをしっかりできるということです。仕事、趣味や旅行など、人生で大切にしていることをやり遂げるチャンスはギリギリまであるのです。

2つ目は、この体力の落ち方の特徴を知らないと、自宅介護や緩和ケア病棟の準備が間に合わない可能性があるということです。まだ元気だから先の準備はいいかなと先送りしておくと、急激に体力が低下してきて、準備が後手後手になってしまい、やりたいこと、やるべきことができなくなってしまいます。

がん患者さん特有の体力の落ち方を知っておくことはとても大切です。
やりたいことをしっかりできる可能性を知る一方、あとで困らないように準備をしておくことの意義を理解できるはずです。

医師の余命予測は当たらないことが多い

あまり考えたくないことではありますが、体力が低下しつつ、がんが進行したらどうなるのか。余命を宣告される未来も今後可能性がないわけではありません。このときの心もちについて、私の経験からお話しさせていただきます。

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まず、余命を宣告されたときに、多くの患者さんは戸惑います。毎日が死へのカウントダウンのように感じてしまう人も少なくありません。

しかし、実は残された時間の予測は医学的にとても難しいものです。がんを専門にしている医師でも、予測は3分の1しか当たらないと言われているほどです。

医師のなかにはこれまでの経験などから平均的な期間をおっしゃる方もいらっしゃいますが、それはあくまで平均です。

予測よりもっと長くなる方もいれば、短くなる方もいます。 実際、「余命半年」と言われても「3年生きる」人も現実にたくさんいらっしゃいます。

ですから、あまり医師から伝えられた数字に振り回されず、長くがんばる、具体的な数字にとらわれずに生きることが大切だと伝えると、がん患者さんの表情はパッと明るくなります。

医師と一緒にいまできることをしていくという姿勢が大切です。最後に、進行の恐怖と向き合っているのはあなただけではありません。 がん患者さんは皆一緒です。あなたは一人ではありません。どうかこのことも、忘れないでください。きっと力になってくれるはずです。

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医師が「がん患者」になってわかった頼れる情報源

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提供元:がん患者になった医師が教える「余命宣告」の意味|東洋経済オンライン

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